新型コロナウイルス感染拡大下の

大学教育を考える(2)

問題意識と情報の共有に向けて


非常勤講師の勤務状況の事例


藤田 次にKさんいかがでしょうか。

K まず、大学毎に学習支援システムや、学生への連絡手段などが違うので、やり方をそれぞれ覚えるのが大変でした。授業で使える方法も、コロナの状況が変わる過程で二転三転していたので、それに応じて想定する授業方法を調整するのも大変でした。

  また、授業開始が一ヶ月半ほど後ろ倒しになり、遅いところだと授業開始が5月末までずれ込みました。大学によっては、授業終了も後ろ倒しにして8月半ばまで授業を行う大学もあります。私のような非常勤講師は給与だけで生活するのは難しいので、本来であれば授業のない夏休み期間に、収入の足しになる他の仕事を入れている方々も多いと思います。私の場合、先に決まっていた8月半ばからの仕事は何とか調整できそうですが、困っている非常勤講師の方もいると思います。補講を求められたら、非常勤講師は言われた通りにせざるをえない立場ですので。このような事情をあまり考えずに授業期間が延長されたと感じています。

M M大学では、そのような状況も考えて授業期間を二週分短縮しました。

P P大学では、このような状況なので授業回数は最低限の回数は決めつつも、各教員の判断で柔軟に対応すると話し合いで決まりました。非常勤講師の方々にも担当教員から連絡することになりましたが、担当教員任せなので非常勤講師全員に伝わっているのかは心許ないところです。

K そういう内部の話はなかなか非常勤講師には伝わってきませんね。

J 出講している中に科研費の申請を非常勤講師にも認めている大学が二つあるのですが、どちらも科研費の情報が非常勤講師に届くようになっていなくて、X大学はネットにアクセスすることで情報が得られますが、Y大学はこちらから問い合わせないと情報を得られません。他のことについても、非常勤講師はこちらから動いて初めて情報がもらえることが多く、情報共有に関して専任教員と非常勤講師でかなり差があります。今回の遠隔授業への対応をめぐっても大学ごとの格差を目の当たりにしています。

R R大学では、採用に関わった専任教員が、非常勤講師に直接連絡しているので、学内の連絡ネットワークから非常勤講師の先生方が外れてしまうという、構造的な問題があります。

O 非常勤講師が窓口役の専任教員一人としかつながっていない構造が、今回露呈したと思います。

L 大学からの通知についても、非常勤講師の方々には、どこまで文字通り受け取るべきなのか、どこまで柔軟に対応していいのか、判断つかないという問題もあります。専任教員だと、同僚教員とのコミュニケーションを通じてお互いどのように対応しているのか把握することができるので、柔軟な対応がしやすいという面があります。一方、非常勤講師の方々は、窓口役の専任教員と気軽に連絡を取り合える関係ならまだいいんですけど、場合によっては事務職員に聞くしかないという状況もありえます。横のつながりをつくりにくい非常勤講師は、大学に問い合わせても型通りの答えしかもらえず、柔軟な対応がしにくいと考えられます。

K そうですね。外部向けと内部向けというのは専任教員にはわかるかもしれませんけど、非常勤講師には伝わらないので区別がつきませんね。通知などは文字通り受け取るしかありません。

L 雇い止めの可能性なども考えると、非常勤講師は、無理してでも大学に言われた通りにやらざるをえないと感じますよね。コロナウイルス感染拡大を受けての対応で、どこの大学の教職員も多忙ということで、非常勤講師が問い合わせにくいという状況もあります。

藤田 非常勤講師は、学内教員のネットワークに加わりにくく、連絡が行き届きにくいという点、横のつながりがないと周りの状況を把握しにくいので、遠隔授業の実施に当たっても自分の裁量でどこまで柔軟に対応していいかわからないという点、以上二点の構造問題があることがわかります。