新型コロナウイルス感染拡大下の

大学教育を考える(2)

問題意識と情報の共有に向けて


新型コロナウイルス感染拡大を受けて、大多数の大学が遠隔授業のかたちで学期を開始した。5月下旬に開催された第2回座談会では、歴史学系の大学教員が集い、4月以降の情勢の変化を受けて、各大学、各教員がどのような状況にあるのかを情報共有した。この度の座談会では、常勤教員と非常勤講師が、意見を交換した。そのなかで特に中心となった話題は、非常勤講師に集中しがちな困難な状況、立場をこえた遠隔教育でのトラブル等だった。

非常勤講師の勤務状況の事例1


藤田 前回の座談会から一月あまり経ちました。ほとんどの大学で遠隔授業が開始される中、どのような問題点が浮上しているか、情報共有したいと思っています。今回は、非常勤講師としてこれまでも大学教育に関わってきたJさんとKさん、そしてこの4月に大学の常勤教員として初めて授業を担当することになったNさんをお迎えして、まず現状を話していただきます。

J いろいろな大学で遠隔授業のワークショップに参加してわかったのは、非常勤講師の間にも格差があるということです。まず、今回は急に遠隔授業を行うことになり、皆さん準備が大きな負担になったと思いますが、どれだけ対応できるかという点にも個人差があったように思います。例えば、非常勤講師の中にも、パソコンやインターネットが普及する以前に教育を受けた世代の方もいて、中には遠隔授業に対応するのに大きな困難を抱えている方がいます。また、遠隔授業に必要な機器がどれだけ揃っているのか、どれだけ新たに購入しなければいけないのか、という点についても、かなりの差があると感じています。さらに言えば、一人暮らしなのか家族と暮らしているのか、住居費・光熱費などを自分で支払っているのか、その他の生活条件によって、どれだけ既存の機器や通信のインフラを利用できるのか、新たにどれだけ支出できるのかにも差が出てくると思います。

藤田 なるほど、確かにそうですね。

J 元々からほとんどの非常勤講師は、授業に必要なものをすべて自分で購入しなければいけないわけです。そのような状況で、今回突然、マイクやウェブカメラを購入しなければいけなくなり、当然ながら追加支出できるような経済状況にない非常勤講師もいるわけです。また、自宅でオンライン授業を行うことによって増加した光熱費負担という問題もあります。非常勤講師が授業に必要な機器や教材を揃えるのに用いる一定額の資金を、大学が拠出する必要があるのはないかと感じています。研究についても、科研費を取得できている非常勤講師とそもそも応募できない非常勤講師の間には格差があったわけですが、今回の事態に当たっても従来から存在していた格差によって遠隔授業の対応が困難になっている状況です。元から教材費のようなかたちで非常勤講師に対して支出されていれば、今回の遠隔授業に対しても、もっと対応しやすくなっていたと思います。

L 過去に非常勤講師を勤めていた大学の中には、大学の費用で教材購入が可能だった大学もありますが、極々一部という印象です。今回に関しても、オンライン授業準備のために非常勤講師に対して手当てを出した大学もありますが、大きな動きになっているという話は聞いていません。これからどれだけ多くの大学に広がっていくのでしょうか。

(この発言は座談会を行った当時の状況を受けたもので、5月末から6月にかけて遠隔授業の手当を出す大学が増えつつあります。)

J 遠隔授業になって交通費が支給されていないので、それを原資にすることで非常勤講師にオンライン授業手当を支出できないのでしょうか。目的が違うので難しいかもしれませんが、元から非常勤講師は自宅で授業準備などの仕事をしていて、研究室があれば大学に負担してもらえる光熱費なども、自分で支払っているわけですから。

M 遠隔授業が始まってから多くの専任教員も、大学で仕事ができない状況におかれています。テレワークをしている民間企業の従業員なども同じで、組織が個人にフリーライドしています。つまり、個人用のエネルギーやネットインフラを大学や会社が対価もなく使っている状況です。光熱費や通信費などの費用負担の問題は、社会に訴えるべきです。労働者が費用を負担している電気やネット回線を使って利益を得ているので、雇用者が費用負担すべきです。もちろん機材についても同じです。

O 私は教学関係の委員をしているので、他大学や非常勤講師の状況はとても参考になります。O大学は規模が小さいので余裕さえあれば物事を変えていけます。ただ、今は対応に追われて手が回らないというのが、どこの大学でも現状だと思います。私の所属部局では領収証さえあれば、非常勤講師の先生方にも、オンライン授業にかかった費用を後から支弁可能にしました。中間的な組織が強い大学だと、即応的に独自の取り組みができるかもしれません。非常勤講師用の印刷費は浮いているはずですが、他大学はどうなんでしょうね。