商品価格設定の話
2025/8/14 担当:小松
前回は集客コストと顧客生涯価値(LTV)の話をしました。広告費は年々上昇傾向にあり、顧客獲得単価(CPA)を回収するには高額商品やリピート率の高い商品でもってLTVを上げる必要があります。商品価格は集客コストを考慮に入れたうえで設定する必要があり、それには広告費の相場や広告費と売値の関係などを知る必要があります。今回は商品価格設定のやり方について、私の経験の範囲内でお話しできることを書いてみたいと思います。今回の話も決して正解がこうであるという事ではありません。あくまで一つの考え方として捉えていただければと思います。
まず初めに、なぜそこまで集客コストを意識する必要があるのかという前提のお話しからさせて頂きたいと思います。
ここ最近のCPAの上昇というのはなにもWeb広告を使った集客に限った話ではありません。広告を使わず、自らWeb上で何らかの発信を行って集客をする場合でも、発信者が年々増える中で、熾烈な広告枠獲得競争を勝ち抜くためには相当の労力が必要になります。これも顧客獲得のためのコストが上がっているという事を意味します。また、スマホやテレビの画面外においても、人通りの多い場所では必ず広告が目に入りますよね。そして、このような人通りの多い場所に実店舗を構えるとなると高額の家賃を払わねばなりませんし、加えて接客スタッフの人件費も必要です。
モノにあふれる現代は、みんなが誰かにモノを売りたがっていて、あらゆる機会を購入につなげようと必死に競争をしています。
ECショップ、Amazon、楽天、SNS、ハンドメイド販売サイト、クラウドファンディング、イベント出展、実店舗販売、例えどんな売り方をするにしても集客のコストは無視できません。どれも一長一短、特定の集客方法が劇的に安いという事はあり得ません。競争なので、そんな方法があれば皆使いますよね。
とは言え、いろいろな集客方法の中でもWeb広告は最も手軽に導入できて、しかもどんな商品にも適用できる汎用性の高い集客手段です。ですので、まずはWeb広告での集客を前提に自分の商品やサービスの価格を設定してみるのが良いと思います。商品やサービスの設計ができてから、より自分に合った集客方法を探していけば良いでしょう。
顧客獲得単価(CPA)は業界によって異なるようですが、だいたい1万円前後となることが多いようです。(一度「顧客獲得単価 相場」などで調べてみてください。安くても数千円はすると思います)
これはWeb広告のクリック単価の相場があるためです。例えばクリック単価200円の広告で集客を行い、成約率が2%であった場合、顧客獲得単価は200円×50人で10,000円となります。(私の経験の範囲では成約率が2%というのはそこそこ良い数値です。広告の種類にもよりますが実際にはもっと低くなることも多いと思います。)
CPAが1万円でも成り立つような商品が最初から作れればそれに越したことはないのですが、初めからその設定では売値が数万円になってしまいますので、現実的にあり得る範囲で、もう少し条件を甘くしてみましょう。
安い広告枠を探したり、広告の表示回数を制限したりすることでクリック単価は下げることが可能です。 例えばクリック単価60円の広告で、成約率が2%なら顧客獲得単価は3,000円になります。まずは顧客獲得単価を3,000円と仮定して考えてみます。
Web広告で用いられる指標にROAS(Return On Advertising Spend)というものがあります。この指標は「かけた広告費に対してどれだけの売上があったか」を示す指標で(売上÷広告費)×100%で表されます。(例えば1万円の広告費をかけて得られた売上が2万円であった場合、ROASは200%となります。)
ROASは200%以上を目指すべきとされていて、だいたい300%程度あれば健全とされています。(私も現在ROAS300%前後で広告運用しています。)
顧客獲得単価3,000円でROAS300%を目標とした場合、目指す商品価格は9,000円となります。(現在私が販売しているメイン商品もだいたい同じぐらいの価格です。)
安い広告枠を理想的に運用できたと仮定した場合でも商品価格は9,000円という計算になりました。ですが皆さん、9,000円の商品と聞いてどのような印象を持つでしょうか。おそらく「高い」と感じる方がほとんどではないかと思います。
確かに、9,000円ってとても高いですよね。ハンドメイド販売サイトなどで自分の作品を売ってみるとよく分かるのですが、9,000円どころか3,000円の作品ですら、よっぽどのことが無い限り買ってもらえないです。
しかし、顧客獲得単価とROASの相場から考えると、これぐらいの価格でなければ計算が合わないのです。仮にROASを200%まで下げたとしても売値は6,000円です。リピート購入が期待できない商品の場合、この価格を下回ると利益を残すのはかなり難しいということです。
私たちは普段、大企業の作る大量生産品に囲まれて生活しているため、ついつい自分の商品価格設定にもその感覚を適用してしまいがちです。しかし、実店舗販売はそのお店を生活圏内に持つお客さんがリピート購入してくれることを前提に設計されていますし、商品の種類も膨大な数だけあるわけです。大量生産によって製造コストも下げられますし、人件費の安い海外工場で作られた製品も多いです。スモールビジネスとして一からオリジナル商品を開発する場合とは前提が大きく異なるので、このような大企業の作る商品の価格を基準に自分の商品価格を設定するのはとても危険です。
今回は広告費に着目した場合の商品価格設定の考え方についてお話させていただきました。スモールビジネスでかつ「モノづくり」という分野でビジネスを始めるのはなかなか難しいことも多いのですが、モノの生産を通じて社会とつながる感覚は、モノづくり特有の良さだと思います。今回の記事では利益を残すために条件を付けましたが、例え利益が出なくても、自分の商品を世に出してみたいと思う方はとりあえず安値でも良いので作って売ってみるということで私は良いと思います。今では様々なWebサービスがありますので、とにかく売ってみるというだけならいろいろな方法があります。(minne、Creema、iichiなどのハンドメイド販売サイトが敷居が低くておすすめです。)まずは作って売ることに慣れてから、より利益を残すにはどうすればよいかということを改めて考えていけば良いのではないでしょうか。
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