ゼミのやり方についてまとまった記事、動画などを紹介しつつ自分なりのゼミの準備の仕方・ゼミのやり方についてまとめいていこうと思います。
まず参考になるものをいくつか紹介しましょう。
・河東先生『セミナーの準備のしかたについて』
かなり厳しいような書き方をしていますが、十分な時間をかけてしっかり準備していれば教科書やノートとにらめっこしながらゼミをするようなことにはならないはずです(完全に見ないでとはいかずとも)。
・ヨビノリたくみ『オンラインでもできる!自主ゼミのやり方』
河東先生は数学の先生なのでこちらの方がより物理の会で主に行われるゼミに近いものになると思います(たくみさん自身の体験、読んできた本の紹介などもあり面白いです)。とはいえ基本的なことは変わりません。動画内で語られているようにゼミの発表者はその範囲に関しては誰よりも詳しくなっていなくてはなりません。一番重要なことですが、一冊の本の自分の担当範囲を理解するために読むべき本はそのゼミで使われている本だけではありません。大学生は無限といって差し支えないリソースが使える大変に恵まれた環境にいます(大学の先生や図書館、先輩など!)。有効活用していきましょう。
さて、ここからはゼミのやり方、その準備について自分なりの方法を具体的に書いていきます。
・ゼミの始め方
1 読む本を決める
本でないこともあると思います。研究室に所属したり大学院に行った場合には論文など本にまだなっていないようなものをゼミで扱うこともあります。ほかにも有用なサイトの記事などをたたき台にしてゼミをすることもあると思います。とにかく何をしたいのかというのを決めることから始まります。
(1として読む本を決めると上げましたが、メンバーが決まってから読む本を決めるという場合もあります。とにかくやりたいことを決めるというような意味合いでとらえてもらって構いません)
2 メンバー、日程などを決める
あまり多すぎても発表が回ってこないですし日程調整も大変になります。逆に少なすぎても発表がすぐ回ってくると十分な準備をすることが難しくなります。だいたい3~5名の発表者が集まるといいぐらいの人数になると思います(聴講者がいる場合もありますがその場合は聴講者の人数は気にする必要はないですが予定は発表者を優先して決めるといったことが大事になると思います)。日程調整はどのような形式でもいいですが、例えば1週間に1回(2週間に1回、1カ月に1回など)と決めたときには用事などが入った場合でも1週間に1回は何かをした方がダレなくていいと思います。集まって今までの振り返りをしてみるでもいいですし、疑問点を洗い出してみてもいいです。とにかくやると決めたら休まないでやった方がダレる確率は確実に下がります。
・ゼミの準備の仕方について
1 本文をまずしっかり読む
当たり前のことを書いていると思ったかもしれませんがこれが一番難しいです。目を滑らせないこと!これは意識しなければ存外できることではありません。例えば
”またI×Iがコンパクト距離空間であるから、δ>0が存在して、半径δの各球体はあるw∊K^0に対してF^-1(St(w))に含まれるようにできる” トポロジーと幾何学入門 P.27
上のような文章が出てきたときには何を考えれば良いでしょう。コンパクト距離空間についてあるδが一様に取れてそれ以下の半径の開球が開被覆のある元に含むようにできるというのはルベーグの被覆補題の結果ですが、この本では特に言及されていません。であればこの主張は証明するか、あるいは少なくともここで使ったという事実は気づいておかなければなりません。
とにかく本文を一字一句飛ばすことなく読むことは大前提としてどういった論理で結論が導かれているのかといったことに注目します。基本的に○○なので××と書かれている場合には何らかの定理や補題、命題、定義から従っていることです。これらはすべて確認するべき事項です。何が言えているから導かれているのかということを意識してしっかり読みます。読んでいる本で分からないところが読んでいる本で解決できるとは限りません。異なる本ではどのように証明が行われているかを見てみるとわかる場合もあります。ネットで調べる、図書館に行く、人に聞く。割けるリソースを存分に利用しましょう。
(参考になる本の探し方として、とりあえず同じようなタイトルの本を探す、読んでいる本の参考文献リストに載っている本に当たる、同じ著者で同じテーマの本がある場合があるのでより初学者向けの方があればそちらを参照してみるなどがあります)
2 本文を見ながらでもいいので話のながれを書き出してみる
細かい照明はこの時気にしなくてもいいです。とにかく大きな流れを書いてみましょう。まず何が定義されたか、そしてどのような命題が証明されたか。世界史の年代表のようなものを書いてみましょう。そして〇〇という命題が証明されたという部分はより細かい年代表を書きましょう。ここで証明の年代表はSketchとも呼ばれるもので証明での論理の流れを書き出していきます。例としてコンパクト集合からハウスドルフ空間への連続全単射な写像は同相写像であるという命題でどのようにsketchすれば良いかを書いてみましょう。
連続全単射であることはわかっている。あとは閉写像であれば同相写像なので閉写像であることを示す(連続全単射かつ閉写像ならば同相ももしわかっていないのであれば確認しなければなりません)
任意の閉集合を取ってきてこの像が閉集合であることを確かめる
Sketchであればこれくらいのことが書けていれば十分だと思います(例とする命題にしては書き出すポイントが少ないので微妙だったかもしれません)。
3 今書いた年代表をもとに全体の再現ができるかを確かめてみる
まずは定義がちゃんと書けるかといったことから始まると思います(ここが出来なければ話になりません)。できればこの定義のモチベーションは何か、具体例は何かといったものを本文に書いてあるもの以外にも上げられると良いと思います。たくさん近い本の同じ部分を見比べてみると良いと思います。大学生であることの喜びをかみしめながら大学の図書館に通いましょう。次に上で作ったSketchから証明が再現できるかを確かめましょう。上の例でいえば
任意の閉集合を取る。コンパクト集合中の閉集合はコンパクト*。コンパクト集合の連続像はコンパクト*であり、ハウスドルフ空間のコンパクト集合は閉集合*なので命題の条件下で任意の閉集合の像は閉集合となることが分かった。
というようになります(上の文章中で*がついている部分はすべて確かめなくてはなりません。おそらくこの命題が証明される前に確認していることだと思いますが、どんな事実から言えているのかを意識しましょう)。こんな感じのことを全ての命題で行います。もちろんすべてできるとは限りません。ですので何が分かっていないのかもう一度読むことになります。
4 原稿を作る
以上の1、2、3を繰り返して(時間は有限なので多少不完全になってしまうかもしれませんが)自分で発表できるという段階になったら最後に原稿を作ります。本文の流れが頭に入っているはずなので自分なりに分かりやすいように構成を変えたり、例を増やしたりいろいろできることはあると思いますが、自分で教科書を書くくらいのつもりで準備しましょう。これは紙でもなんでもいいですがPDFなどにしてゼミ前に共有しておくといいと思います。
ゼミの準備の段階で完全に理解できることは稀ですし、どんなに完璧に準備しても質問されたことが考えてもみなかったことだったりすることもあると思います。でもそれがゼミの良いところです。自分では疑問にも思わなかったことに気づく、読み飛ばしてしまっていた行間に気づく。もちろんそのためにゼミの聞き手もある程度本文を読んできて質問事項を準備しておいたり、+αで役に立つような文献での記述などをゼミ中に紹介すればより身になるゼミになると思います。
僕自身これが全部が全部できているとは思いませんが、心構えとしてはこのつもりでやっています。楽しく、そして有意義なゼミにするためにも発表者は責任をもってしっかりと準備しなければゼミをやる意味はなくなります。