サービスを提供する学生に、「高齢者」とは一般的にどういう方々なのか、高齢になるとはどういうことか学問的に知ってもらう。
「高齢者」と一口に言っても各個人で違いがあり、ここでは便宜上主な傾向や特徴を表しているが、ここでの内容が利用者様全員に当てはまるわけではない。
生理機能の衰え
40歳代後半から素早い体の動きができなくなり、目のレンズの調節力が低下して老眼となり、皮膚のしわやシミ、白髪や薄毛など老化現象が見られるようになる。身体の予備能力や調節力の低下により、バランスの乱れやストレスによって病気になりやすくなる。
免疫機能の低下
免疫機能も加齢とともに低下するため、高齢者は感染症にかかりやすく、また治りにくい。
加齢と生活習慣病
高血圧、糖尿病、脳血管障害、狭心症などの循環器疾患、胃・十二指腸潰瘍、悪性腫瘍など、いわゆる生活習慣病が40歳頃からよく見られるようになり、年齢とともに病気にかかる人の割合は増えていく。
精神機能の変化
記銘力(新しいことを覚える力)は20代がピークだが、総合的な判断や理解は、老年期の方が深まる。
また、精神的環境も加齢によって大きく変化し、高齢者の行動や心理に影響を及ぼす。
例:喪失感・不安感が強くなる。気が短くなる。自己主張が激しくなる など
高齢者が精神障害にかかる確立は、若者よりも3~4倍も高いと言われており、原因は脳の加齢性変化、心理、社会的要因、身体疾患、薬物の影響、環境の変化などがあげられる。
*「老い」と「老化」の違いについて
「老い」:老いること・年をとること
「老化」:年を取るにつれて生理機能が衰えること(広辞苑)
生理的機能の低下などが老化からなのか病気からなのかを見極めが必要になる。
①人権、尊厳を守る
人権とは、すべての人が生まれながらに持っている人間らしく生きる権利のことである。
また人は心身に障害があっても侵されてはない誇り、「尊厳」を持っている。
人権を尊重することは人間の尊厳を守ることになる。
②自立の意味を考える
たとえ日常生活に支障をきたしている人であっても自分でできることは自分ですること、また、介助を受けて自分でできるように支援することも自立に含まれる。出来る範囲で高齢者の方が自分で行えるよう支援することが大切である。
③自己決定(自律)を尊重する
④コンプライアンスを徹底する
サービス提供者は、組織の一員としてのコンプライアンスを徹底しなければならない。個人の判断で支援しないように気を付ける。とくに、プライバシーの尊重、個人情報の保護、守秘義務は守る。
アメリカの社会福祉学者のバイスティックが定義した対人援助技術の基本
個別化の原則
高齢者の抱える困難は問題は人それぞれのものであり、同じ問題は存在しないことを理解する。ラベリングやカテゴライジングは厳禁となる。
*目の前にいる人は世界に一人しかいない。援助がパターン化していないか、偏見や先入観にとらわれていないか、自分のペースで話を進めていないか、などに注意する。
意図的な感情表現の原則
高齢者の感情表現の自由を認める。高齢者自身が自らを取り巻く外的・内心的状況を俯瞰しやすくするためにも、特にネガティブな感情を表出させる。
*話しやすい雰囲気を意識する。座る位置はそこで良いのか、利用者の方がリラックスできているか気を配る。
統制された情緒関係の原則
自分が高齢者の感情に呑まれないよう、自分の感情を統制して接する。
*共感の及ぼす過度な感情移入や安易な情緒的関与をせず、自分の感情を自覚する。平常心を保ち、目的を意識しながら反応する。
受容の原則
高齢者の考えは、その方の人生経験や必死の思考から来るものであり、それぞれの高齢者自身の『個性』であるため決して頭から否定せず、どうしてその考えにいたるのかを理解する。
*クライエントの人となりを吟味する。今起きている現実をありのまま受け止める。(ただし、同意する必要はない。あくまでも中立の立場で傾聴する。)
非審判的態度の原則
高齢者の行動や思考に対して善悪を判じない。
*常識の枠にとらわれすぎず、多面的に状況をとらえる
自己決定の原則
あくまでも自らの行動を決定するのは高齢者自身である。高齢者への命令的指示は否定される。
*利用者様が本来持っている生きる力や強さはどのくらいあるのか。本人の意思をしっかり確認してサポートする。援助が行き過ぎていないか、働きかけによって解決できる力が発揮できる可能性があるか注意する。
秘密保持の原則
高齢者の個人情報・プライバシーは絶対に他方に漏らしてはならない。
*個人情報の使用にあたって利用者様に不安をあたえてはいけない。個人情報の管理はしっかりできているか確認する。
睡眠の変化
歳をとるにつれ、なかなか眠れない、真夜中や明け方に目が覚めてしまうといった訴えが多くなる。高齢者は、夜早く寝て、朝早く起き、午前・午後に短い仮眠をとるといったパターン[g]に変化していく。高齢になると一般に眠りが浅くなるが、睡眠は特に個人によってかなり違いがある。
栄養状態の変化
一般に、高齢者は、ものを噛む力が弱くなったり[h]、味覚、嗅覚、視覚などの感覚機能の低下、運動量の低下などにより食欲不振を招きがちである。また、一人暮らしや閉じこもりがちなどの生活状況が食生活に影響することも多く、食事が単調・貧弱になりがちで、低栄養状態[i]にあることが心配される。低栄養状態になると脱水や便秘になる可能性がある。また、口腔内の清潔が保てず口腔内汚染から味覚異常や嚥下機能の低下が出現する。
歩行の変化
高齢になると歩きづらくなる。原因は老化による筋力や感覚機能、バランス感覚の低下のほか、関節に問題が生じたり、病気などでしばらく寝ていたために全身状態が低下し、筋力が急激に落ちたりすることにもある。
転びやすくなる
高齢になると日常生活の中のちょっとした段差で転びやすくなる。例えば、カーペットのヘリ、ドアの敷居、座布団などで転ぶことがある。また、何もない場所で転んでしまうこともある。転倒による骨折は、高齢者が寝たきりになるきっかけとなるため、転倒予防には十分な配慮が必要である。認知症を有する人には特に注意しなければならない。また、慌てて振り返ろうとしてバランスを崩し、転んでしまうことがある為、極力後ろから声を掛けないように配慮する。
*フレイル
フレイルは、「虚弱 (frailty)」を意味する言葉であり、2014年日本老年医学会によって提唱された概念である。
診断基準は、①、一年で4.5㎏以上の体重減少、②、自己評価による疲労感、③、一週間の生活活動量から評価される活動量の低下、④、歩行速度の低下、⑤、握力などで評価した筋力低下 の5項目。このうち③項目以上に該当する場合を「フレイル」と定義している。
これらの診断基準のなかでとくに⑤の筋力を重視している点で、フレイルの考え方は従来の脳や骨を重視してきたものと異なる。フレイル状態にある高齢者は要介護状態や死亡などの結果になりやすいため近年重要視されている。
脳・神経系
・認知、判断のスピードが落ちる
・物忘れが激しくなる[l](認知症によるもの・よらないもの)
・眼球運動の異常、複視、頭痛
・ろれつが回らない
・反応が遅くなる
・転びやすくなる←小脳の働き低下によるバランス感覚に問題が現れる
高齢者の方の多様な症状に戸惑うことも多いが、本人が安心できるように穏やかに対応する
感覚器
・視覚、聴覚、嗅覚が鈍くなる
・平衡感覚が鈍化する(めまいの原因にも)
音は聞こえていても言葉として認識できないことがある。耳のそばで大きな声を出すよりも、正面で目を合わせ、ゆっくり話す方が効果的。音は聞こえていても言葉として認識できないことがある。耳のそばで大きな声を出すよりも、正面で目を合わせ、ゆっくり話す[m]方が効果的。(耳元で話すと声が共鳴してますます聞き取れないこともある。)特に今はマスクをしているが多いためさらにはっきりと話すことを意識する。笑顔も大切。
*特に子音が聞き取りにくくなることを頭に入れておく。
・感覚受容器が十分働かず傷ついても自覚しずらい
老化により体温調節が上手に出来なくなるため、気温をこまめにチェックするように気を付ける。高齢者は少しの気温の差や室温・換気の風などちょっとしたことで寒がり、厚着になる。例えば、真夏に厚着をして脱水になることもある。夏は冷房の設定温度に注意、冬は特に腰や下半身を暖かく保つようにする。これは排尿障害を防ぐことにもつながる。
目
・視力の低下
・老眼(近距離で焦点を合わせるのが難しくなる)
老化によって特に暗いところが見えずらくなるので、早めに電灯をつけるようにする。
口
・唾液の分泌の低下、味覚低下、味覚消失、特に塩味に鈍感になる
・声が出しずらくなる
利用者の誤嚥に気を付ける。積極的に口を動かしてもらうことが予防になる。歯は食べるだけではなく、力を入れるときにも重要な役割をになうため歯を大切にすることは転倒予防にも繋がると考えられている。
また、ゆっくり食べることは血糖値の急上昇も防ぐ。
薬を服用する必要がある場合、服用されたか目配りする。手に乗せたつもりが落としてしまう場合や間違った飲み方をしてしまう場合がある。まとめ飲みや自己判断による薬の取捨選択をしている場合も少なくない。
皮膚
・薄く粗くなり、ウイルスなど微生物や有害物質が侵入しやすくなり、感染などを起こしやすくなる
・腹部や大腿部では皮下脂肪が増えるが、背中や手などでは減少し、減ったところは体内の保護機能や体温を保つ機能が減退する。ぶつけただけで皮下出血を起こす場合もある
・皮膚神経が減少し、気温や刺激への反応が鈍くなる
高齢者が苦手な体温調節に気を配るだけでなく、刺激や傷などにもよく注意する。
精神、心理
・記銘力の低下によって「新しいこと」を覚えることが困難になる
・短期記憶の機能が低下し、直近の出来事を思い出せない、覚えていない場合がある
・想起力が低下し、過去のことを覚えてはいるものの思い出すのに時間がかかるようになる
・注意力や集中力の保持が難しくなる
・知的作業の能力が低下する
・頑固、保守的になる傾向がある
・喪失感、不安感が強くなる場合がある
若者の精神機能の低下は原因が明確であることが多い一方で、高齢者の精神機能の低下は、様々な要因が複雑に絡み合っていることが多い。また、この精神機能の低下がうつ病を誘発する可能性も指摘されている。精神疾患の低下を防ぐためには積極的な他者との交流が必要となる。生きがい、家庭での役割、社会での役割を見出すことで精神機能低下を防ぐことができる。
コミュニケーションは、一方的な情報伝達ではなく、主体的な意思の交流で、互いの信頼関係のうえに成り立つ。そのため、まずは信頼関係を築くことが大切である。また、高齢になるとコミュニケーションに支障をきたすことが多くなるので、利用者のコミュニケーションにおける特徴を理解することも必要になる。
色々なコミュニケーション
①挨拶
コミュニケーションの第一歩は挨拶であり、挨拶はより良い関係づくりに欠かせないものである。きちんと視線を合わせて自分から、笑顔で元気にあいさつをする。
②会話
聴き手にまわるように気を付ける。合図地を打つ、表情を動かす、うなずくなどといったサインで話を聞いていることを伝えるようにする。また。相手の様子をうかがいながら、返事を促すのではなく、待つことも大切である。
認知症
:意識は保たれているが病気やけがなどによって脳が損傷され、知的機能が低下し、日常生活に困難をきたした状態。
認知症高齢者の増加は問題になっており、全国の65歳以上の高齢者では認知症有病率は15%と推定されている(厚生労働省、2012)。認知症はいくつかに分類され、最も多いアルツハイマー型認知症は全体の60%を占める。そのほか、脳血管性認知症やレビー小体型認知症などがある。
・認知症の症状
1)中核症状(知的機能の低下)
記憶障害、失認、失行、判断力の低下、見当障害(時間や場所の認識の障害) など
2)BPSD(行動・心理症状)
不眠、徘徊、せん妄、妄想、抑うつ、幻覚、攻撃的行動、収集癖、不潔行動、異食、過食、多動、不穏、不安 など
高血圧
:血圧が収縮期血圧140㎜Hg以上、または拡張期血圧90mmHg以上の状態。
代表的な生活習慣病。塩分の取りすぎ、肥満、ストレスなどの影響によるもの、高齢になって起こる大動脈壁の硬化が主な原因のものなどがある。
糖尿病
:血糖値が高くなる病気。1型と2型に分けられる。
膵臓から出ている血糖値を下げる役割を持つホルモンであるインスリンの分泌も、加齢とともに減少していく。また筋肉量の低下や内臓脂肪の増加、活動量の低下などから、インスリンの効果が得られにくくなり、結果として糖尿病を持つ方の割合が増加する。進行し症状が重くなると、視力、神経、腎臓などに障害が起こり合併症を引き起こす。