20回 月の光に寄せて

 この夏の猛暑と水害、そして世界各地の山火事被害は歴史的な事態であったとされる。さらに戦争は続いており、抜き差しならない地球規模の課題に対して、私達も当事者としてこれまで以上に取り組みを強化しなくてはならない。日本では9月も暑さが続くと予想されているが、せめて「秋の豊かさ」の中で秋学期を迎えたいと願う。中秋の名月は旧暦の8月15日に当たる秋の真ん中の満月をさすが、人々は昔からこの満月を親しい人と祝い、またある時は一人静かにその美しさを愛でてきた。イギリスのバーミンガム界隈で18世紀に生まれたとされるルナー・ソサエティ(月光協会とも訳される)は特に有名なサロンとされる。あの、ジェームズ・ワットやウエッジウッドの創立者、ダーウィンの祖父なども参加し、科学や哲学を語り合い、月明かりの夜道を帰ったらしい。月夜は人々に未来に向けた希望を抱かせてくれることを、井上円了先生も記しておられる。大正7年、伊豆にて静養していた先生は、旅館の窓から月を見ながら、「晴れた空に一道の光があふれている」と詠んだ。月の光に快復への希望を見いだしていたのかもしれない。月の光に託された静謐で平和な世界、ドビュッシーの音楽も、その世界を願っているように心に染み込んでくる。私はお団子を頂きながら、学問の秋の平穏を願うことにしよう。

                            (参考:井上円了『南船北馬集』第16編)


\この記事を書いた人/

学長 矢口悦子

公開日:2023年9月1日