第19回 東京大停電を起こさないために

 2003814日、ニューヨークを含む北米東北部で29時間に亘る大停電が発生しました。5,000万人が被害を受け、被害額は7,000億円と見積もられています。実はアメリカでは大都市を含む広範囲の大停電が時々発生しています。なぜ、そのようなことが起こるのでしょうか。根源的な理由として『電気は貯められない』ことが挙げられます。電気は貯められないので、生産と消費の間で常にバランスが取れていないとシステムダウンが起こります。そこで、電力会社は消費電力を予測して生産(発電所の出力)を調整しているのです。実は単に生産量の調整をするだけではダメで、消費が偏ると今度は電力網(送電網)システムがダウンします。これら『量』と『面』の制御のいずれかが破綻すると大停電が発生してしまうのです。長時間停電したら、情報インフラ・交通システム・医療機器等が停止し、社会機能が止まるため、事故や事件が多発し死傷者が出てしまいます。

昨今の酷暑は体温を超えることが当たり前になってしまったため、『適切な冷房を使って熱中症予防を』と言わなければなりません。そのため、夏場のピーク電力を賄える発電設備を維持する必要があります。しかし、通年では設備過大となるため莫大なロスとなり、電気料金に跳ね返ってきます。そこで毎夏、政府・自治体や電力会社が『省エネのお願い』を出し、ピーク電力の低減に躍起になるのです。この課題に対する技術的解答の一つに、IT技術を駆使して電力を効率的に配分する『スマートグリッド(賢い電力網)』の構築があります。現在、研究も実装も進んでいますが、まだ全面的に切り替わったわけではありません。

実は、このスマートグリッドはローカルな自然エネルギー発電を電力網に組み込むことを容易にします。電力の個別消費だけでなく個別生産もリアルタイムに把握できるため、全体の効率的な運用を図ることが可能となるためです(太陽光や風力等の自然エネルギー発電は常に変動するので、リアルタイム性が重要です)。今後のカーボンニュートラル化にも資する技術です。大停電を起こさないために、このような国家レベルの施策が進められていることをご理解いただければ幸いです。


\この記事を書いた人/

副学長 川口英夫

公開日:2023年8月1日