「椋の木のおはなし」は牧の原宝保育園長による保育エッセイです。(ほぼ)月に一度発行いたします!
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令和7年3月26日号
Aちゃんは悩んだ末に、最後のカードを「ドキドキ」の方に置きました。
保育園生活もあと10日程となった、ゆり組でのことです。小学校に向けて「楽しみなワクワクの気持ちと心配なドキドキの気持ちがどれ位あるか」を担任が子ども達に聞いていました。子どもの前には6枚のカードがあり、右側に「ドキドキ」、左側に「ワクワク」のゾーンがあります。カードを何枚置くかで自分の気持ちの度合いを表出できるようになっています。
このやり方の良い所はいくつかあります。
①ワクワクもあるけど心配なドキドキもある微妙な気持ちを子どもが表現しやすいこと。
②言葉では言いにくい子も取り組みやすいこと。
③見える化することで友だちの気持ちがわかり易く伝わること。
④自分だけが「ドキドキ」ではなくみんな多少の不安を抱えていることを共有できること。
実は1ヶ月前にも同じことをしました。全員が「ワクワク」の方に枚数の違いこそあれ、カードを置いていました。幼保小の連携にも力を入れていたので、その成果もあってみんな就学は大丈夫なんだ、と安心しつつ、意外な感じを担任と共有したのを覚えています。
その後、卒園式も終わり、子ども達主体のピクニックやピザ作りといったお楽しみも終わりました。そしてもう一度子ども達の気持ちを聞いてみたのです。
Aちゃんは前回は全部「ワクワク」でした。ところが今回はカードを行ったり来たりさせながら最終的に「ドキドキ」に1枚置いたのです。普段のAちゃんは活発で聡明、しっかりしていて就学に不安は無いように見えていたので意外でした。
理由を聞いたところ「テストが心配」とのこと。「テスト」は1つの尺度に過ぎないことを大人は理解していますが、子どもはそれが学校生活のすべてのように感じているようです。クラスの半分の子が前回より「ドキドキ」が増えていました。理由を聞くと「ともだちにいじわるされたらどうしよう」「テストが心配」「トイレに行けるかな」「勉強できるかな」と少し先の未来への不安を口にしていました。
担任はどの不安にも丁寧に応え、ぎゅっと子ども達を抱きしめていました。
就学が純粋に楽しみではなく、ちょっとした不安を想像し、それを口に出せるようになったことに成長を感じます。
赤ちゃんは言葉が出ず、泣いたり笑ったりすることで感情を表出しています。それを見て「ミルクかな?」「ねんねかな」と大人が推察を繰り返すことで信頼関係が育まれます。1,2歳では上手く言葉で伝えられなくても、選択肢を伝えれば自分の意志を伝えられるようになります。
3,4歳は自分の気持ちを「嫌だ」「悲しい」「好き」「嬉しい」と言葉で表せるようになり、5歳になると気持ちの表出と共に理由も伝えられる様になってきます。自分の不安や心配を出せるこの子たちは、きちんと小学校生活をおくれると感じます。ちょうど新しい環境に巣立つ時なのでしょう。
あと数日すると全園児が進級・進学を迎えます。3月31日と4月1日のあいだにあるのはたった1日。その1日の違いが分かるのは4、5歳になってからでしょう。年齢が小さい子ほど、今までの園生活と変わらない環境や玩具を用意します。先生の手立てもしっかりと引き継がれます。そして、徐々に新しい玩具や活動をいれ、環境に馴染んでいくのです。
「〇〇組になったから、△△は自分でしてね」は厳禁です。新しい環境になった時こそ少し手をかけてあげる方が良い気がしています。(園長 足立園恵)
令和7年2月27日号
「私たちは『子どもの遊びを深める保育』をしてるということを担任で話し合ったんです。だから今日はA君を別の遊びに誘ってみました。」
園庭で1歳児の担任に声をかけられました。
A君はとにかく三輪車が大好き。「園庭で遊ぼう!」という先生の声を聞くと、防寒用のスモックに腕を通している時からお気に入りの三輪車が気になって仕方がありません。パッと身支度を済ませ、一目散に乗り込みます。園庭のどこへでも乗ったまま行ける運転技術をもっています。他の子の遊びに興味を示しても降りることはありません。
先に年上の子が乗っていると、ついて周り交代してくれるまで待ちます。友だちに「かーしーてー」とお願いされ、先生からも促されると一旦は交代しますが、少しするとその三輪車を返してもらい、乗りまわしています。そんな姿が半月近く続きました。
1歳児の担任4人でA君の遊びについて話し合う機会を持ちました。2人の担任は「遊びの体験の幅を広げるためにも三輪車以外の遊びをした方が良い!」という意見。残りの2人は、「三輪車が好きなのだからとことん三輪車を楽しめば良い!」という意見で考えが分かれました。どちらもA君のことを考えてのことです。
しかし先生によって関わりの考え方が違うと、戸惑うのはA君です。何回か話し合うなかで、「大人が環境作りや援助を行い、子どもの主体的に遊び込む力を育む」という当園の保育方針に立ち返りました。
そこから三輪車以外の体験も、三輪車遊びを深めることもどちらも必要だという結論になりました。
翌日から担任は園庭に出る前にA君に他の遊びの提案をしてみます。B先生が「園庭に出たら先生とかけっこしよう」と誘いました。その場は「うん」と返事をしたものの、園庭に出ると三輪車を選んだA君。
そこでB先生は別の三輪車で並走し友だちも巻き込みながら三輪車競争を試みました。三輪車から離れることはありませんでしたが、今までのような独走遊びではなく、他者と遊ぶ経験が持てました。次の日、C先生は「お砂場で大きい山を作ろうよ」と誘ってみました。三輪車に目は行きつつも、砂場で遊んでいると畑のブロッコリーにも関心を持ちその日は三輪車に乗ることはありませんでした。
担任のアプローチはその後も続きます。違う遊びの提案はするけど、選ぶのはA君です。今後どんな展開になるのか、園庭遊びを見るのがより楽しみになりました。
A君は遊べずに先生に抱っこを求めるタイプでもなく、ケガをし易いから目が離せないというタイプでもありません。三輪車があれば遊ぶ力を持っている子だからこそ、時には先生の手がかからない子になり、ただ園で時間を過ごしていたかもしれません。でも担任は遊び方が気になり、4人で頭を悩ませ、話し合い、手立てを講じました。どの子に対してもですが、気になる様子を感じた時は担任間で共有し、話し合い、遊びから学びに繋がる手立てを考えるようにしています。それが子どもの中に自分の思いが大切にされた記憶として残り、自己肯定感の向上や挑戦する気持ちに繋がるからです。
子どもの遊び方は無限です。1つの遊びに一人で集中して取り組むのも良し、友だちと遊び込むのも良しです。今後も丁寧に子どもの遊びを見ていきたいと思います。(園長 足立園恵)
令和7年1月23日号
2024年12月25日
ゆり、ひまわりで合同保育をする。ひまわり組の部屋が空いたため、かねてから考えていた遊びを仕掛けてみた。それは園中の積み木を1部屋に集め心ゆくまで積み木遊びができる場を子どもたちに提供することだった。大小合わせて600個ばかりの積み木を見た子ども達。最初は歓喜して、それぞれ高く積み上げたり、家を作ったりしていた。
しかし1つ作品を作ると園庭へ出たり、他の遊びに移っていく。大量の積み木は魅力的でなかったのか?明日、子ども達と積み木でどんな物を作りたいか話してみたり、他の手立てを考えたい。今日の作品はそのまま残しておく。
12月26日
昨日に引き続き、ひまわり組を積み木コーナーにして遊ぶ。子どもたちを誘うと喜んでひまわり組に移動するものの、関心は薄く遊びが続かない。昨日の作品が残っているから壊さないようにと思い遊ばないのか?と考え、壊してみるが、積み木以外のもので遊び始める。イメージが湧くようにパソコンで作品例を見てみるがそれも子どもたちにはヒットしない。次第に園庭遊びへと移動していく。
その時点で部屋に居たのは4歳児が3人。一緒にドミノのように積み木を並べ、道を作っていく。A子が「お城を作る!」と言ってソフト積み木を積み上げ始めた。保育教諭が「お城の間に道をつなげたら?」と遊びが発展していくよう誘導すると、3人は集中して作り始めた。城を取り巻く長い街道やトンネル、丘を登り降りするようにして続く積み木の道。(写真参照)保育教諭の助けも有り遊びを広げる形となったが、明日この作品を見て他の子どもたちがどんな興味関心を持つのだろう。
12月27日
昨日作り上がった作品を見て、子ども達の興味が一気に湧いた。「つみきらんど」と看板を作り、壊れないように回遊して見れるような通路も作られた。状態を維持できるか不安もあったがそのまま年を越してみることにした。
2025年1月6日
新年を迎える。なんと「つみきらんど」は壊れることなく建っていた。ほとんどを作り上げた3人でドミノを倒していく。途中で止まるも、3人が順番に再スタートさせ、ゴールまで2分。3歳児や5歳児も見守る中、大成功を収めた。
1月7日
昨日の「つみきらんど」のドミノを見た3歳児が天井まで届くほど積み木を積んでいた。それを見た4歳児。「こっちも天井に届くくらいのタワーを作ろう」と黙々とソフト積み木を重ねていく。試行錯誤を重ね無事に天井までのタワーが完成すると、側で見ていた子ども達が周りにドミノを作りだす。年末の「つみきらんど」に続き「タワーの街」作りが始まった。ドミノは途中で崩れてしまうことが多く、悔し泣きが常だったB男。今回は「明日はもっとすごいのを作る」と意気込んで気持ちを切り替えていた。どんなものが完成するのか楽しみである。
1月8日
朝から昨日のドミノの続きが盛り上がる。小さな積み木は軽く倒れやすいため、何度も倒れては直しての繰り返しであった。以前までであれば倒した子のことを責めるような言葉を掛けていた子どもたちであったが、今回は違う。「もう一回やろう!」「大丈夫だよ」と慰めたり、ポジティブな声を掛けている。完成に近づいた!と思えば、大崩れし、中々完成に向かって進まずにいた。しかし諦めずに何度も直し続けることができ、集中力、忍耐力、継続力がついたことに驚く。
保育教諭が「階段を登る所って上手く倒れないんだよね〜」と言うとC男が「じゃあ2個重ねて置いたらいいんじゃない?」と案を出す。試しにやってみるとうまく倒れることができ、C男のアイディア、経験(ピタゴラのテレビ)を活かす力に感心した。
1月10日
「タワーの街」を「倒してみたい」「違うのも作ってみたい」との声があがる。しかし誰が最初に倒すかで問題が発生する。「僕が倒す!」「私が倒したい!」という子がほとんどの中、何人かは「じゃあ譲ってあげる」「我慢するよ」とやりたい気持ちを抑える姿があった。「みんなで作って、みんなが倒したいのに、我慢している子もいるよ。どうする?」と問うと、いくつか意見が出た後に「途中で止めて、順番に倒せばいいんじゃない?」とD男。「つみきらんど」を倒した際に1回では倒れきれないことを覚えていたのか、D男の意見に賛成する子が多くいた。そこで3人ずつで倒していく。やはり途中で倒れ止まってしまう。結果全員が積み木に触れて倒すことができた。以前失敗した階段登りもC男が出したアイディアで大成功。2箇所あったが、どちらも成功した。「つみきらんど」の反省を活かして作った今回の「タワーの街」。今度はどのようにしたら止まらずにゴールまでいけるのかという目標が子ども達にできたようだ。
1つの遊びの中で「創造性」「社会性」「協調性」「継続性」「折り合いをつける力」・・・本当にたくさんの事を学んでいる子どもです。(園長 足立園恵)
令和6年12月25日号
「アイスコーヒーどうぞ。」
こんな寒い日にアイスコーヒーはちょっと遠慮したいなと思い、3歳児が差し出したバケツを見ると、泥付きの霜柱が入っていました。確かに夏なら美味しそうなアイスコーヒーです。
その朝は急激に冷え込み、園庭のあちこちに霜柱ができました。
経験値の高いゆり組の子は足で踏んで、その感触と音を楽しんでいます。育てているブロッコリーに霜がついていないか心配する姿もありました。
少し時間がたち、溶け始めた霜柱で築山にどろどろ地帯が発生しました。
果敢にその山に立ち向かう、わかば組の子ども達。A君は足元が不安定なことを確認し、自ら回避しました。自分はここを歩いたら転ぶだろう、手も服も靴も汚れてしまう、それは嫌だなあ、と想像する力がついたようです。
Bちゃんは持ち前の運動神経の良さを発揮しました。両手でバランスを取り転ばずに歩ききりました。見守っていた担任は経験から学び、判断する姿に頼もしさを感じていました。
すずらん組は逆にツルツル滑る土壌で楽しみます。転びそうになる感覚が面白いようで、うっかり転んでも再チャレンジしています。遊びの中で体幹が付き、それと共に挑戦する力も付いたのでしょう。小さな頃から汚れるのを嫌がり、感触遊びも苦手だったC君。友達のツルツル滑る様子を見て興味が湧いたのか、最終的には汚れも克服して「最高!楽しい!」とツルツル滑りを繰り返していました。
陽も出てきて、氷鬼に興じる子は防寒着を脱ぎ始めます。ゆり組では、大掃除が始まりました。椅子や机、サッシのレールまで掃除してくれます。
ロッカーは各自で拭くことになっていました。自分のロッカーを拭き終わったD君。おもむろに、その日お休みのEちゃんのロッカーも拭き始めました。D君はどちらかと言うと、はにかみやさんで大人しい男の子です。そんな彼のことが気になり一緒に遊ぶことが多かったのがEちゃんです。指示されることなく黙々と掃除をするD君の姿からはEちゃんへの友情と感謝の気持ちが溢れているようでした。心もほっこりする大掃除になりました。
おやつ後に冷え込んでくると、すみれ組では、柚子を入れた足湯が用意されました。前回のみかんやバナナの皮を入れた足湯と違い、今回は柚子そのものです。自分で剥いて、実をつぶし柚子を丸ごと楽しみます。おしまいの声がかかると、足湯の桶から「出る」ではなく「あがる」という言葉を自然に使う子ども達に思わず笑う担任でした。
子どもはいつだって前向きで、一生懸命。たった一日でも沢山の成長が見られます。年末は何かと気忙しいですが、ぜひご家庭でもお子さんに、「歩けるようになったね」「苦手なニンジンも食べれたね」「逆上がりができたね」等々、具体的に成長振りを伝えてみて下さい。その声掛けは親子共にほんわかと暖かい時間をもたらしてくれるはずです。
どうぞ、よいお年をお迎えください。(園長 足立園恵)
令和6年11月26日号
「えんちょうせんせいのめ きらきらしてる」
最近、子どもから言われた言葉でとても嬉しかったフレーズです。
それはゆり組でのことでした。
紙や箱での製作に親しみ、多様な教材で自分の表現したいものを形作る姿が随分見られるようになりました。
ハサミやダンボールカッターを使って思い通りに形を作ります。色鉛筆や絵の具で色を付け、ボンドやテープなど素材に合ったもので組み立ても確実に出来るようになりました。
そこで、担任と相談して、新しい素材として木材を導入してみました。直方体、三角柱、平板と厚さや大きさも様々な木材です。「釘」と「金づち」が欲しいと子どもが言ってくるのでは・・・というのが我々の目論見でした。釘や金づちは一歩間違えば怪我に繋がります。けれども経験していく中で、物を繋げる加減と言うものを学び、制作活動が広がると考えたのです。
ところが、見に行ってみると沢山の木材を駆使して作られていたのは空母の様な大きな乗り物でした。一番上は平板を並べて置き、滑走路のようです。ボンドもテープも使われず、もちろん釘のリクエストも無く、でも多種類の木材を複雑に組み合わせて作り上げられていました。見ただけでワクワクする、すぐにでも遊びたくなるような作品でした。「わあ、すごい」そんな単純な言葉しか言えず、見とれる私にA君が「えんちょうせんせいのめ きらきらしてる」と言ってくれたのです。
釘や金づちの使用はこちらの勝手な思い込みで期待でした。ほとんどの場合、子どもの反応
は私たちが思っていたようにはいかないものです。木材は釘で繋げるという大人の思いをはるかに上回る作品を見て、私の目はきらきらしたのでしょう。そして何だか嬉しくなってしまったのです。子どもから大人がもらうプレゼントは本当に些細なこんな想定外のやり取りな気がしています。
言葉もまだ出ない赤ちゃんの泣き声で、ミルクかな、おむつかな、だっこかなと想像して一致した時の喜び、手を繋いで歩き目が合った時の喜び。
我が子じゃなくても子どもが遊ぶ姿を見て微笑む大人の姿は「保育園で過ごそう」でもよく見かけます。そんな時の大人の目はA君が言ったようにきらきらしています。
目の前には見なきゃいけない書類、返信が必要なメール、根回しが必要な企画、さらに家事とやること山積みです。気が付かないうちに死んだ魚の目のようになっています。でも、子どもだって、きらきらした目の大人の方が好きでしょう。ずっときらきらした目の園長先生でいたいなと思います。
さて後日、子ども達にどうやって木材をくっつけるか聞いてみました。釘を知っていたのは一人でした。ドリルやハンマーという言葉は出てきたものの、木材をくっつけるのはボンドが圧倒的多数でした。釘にこだわらず、きらきらした目で木材制作を楽しみたいと思います。(園長 足立園恵)
令和6年10月29日号
ブランコ、お砂場、ままごと、鉄棒。宝保育園には様々な遊具があります。
そのなかに、形や大きさは違えど同じ遊び方ができる遊具が6つあります。さて、それはどんな遊具でしょう。
正解は、「すべり台」です。
1台目:0歳児の部屋
滑るためには高低差のあるマットを全身を使って登らなければなりません。段差があれば登りたくなるのは本能のようで果敢に挑んでいきます。0歳児は自然と筋力も鍛えられます。
2台目:1歳児の部屋
職員手作りのダンボール製のすべり台。10年ものです。下から登ってくる子と鉢合わせをし両者にらみ合いのトラブルになることもあります。何回かすると一方通行のルールを覚えたり、譲り合いが出来るようになります。
3台目:園庭のパーゴラ下
すべり出す前に園庭を一望するのが乳児のお気に入りです。階段を登ってたどり着く「てっぺん」は子どもにとって特別な場所であり達成感も味わっているのでしょう。
4台目:この春できた乳児用複合遊具の「ワンパク島」
ネットやミニボルダリングを登りきるとピンクのすべり台が滑れます。
5台目:ケヤキの木の下にある高さ1.5メートルほどのもの
階段を登ると思っていた以上の急こう配に気が付き、滑ることを辞退する子も。その判断力が大切です。階段で戻る子を「よく判断したね」と笑顔で担任が迎えます。遊びを繰り返す中で今の自分ができることを学んでいます。こういう子は怪我が少ないです。
このすべり台はすべり出す前に階段の上で長いこと止まってしまう子がいます。1つの理由は急こう配故に滑るかどうか迷っているため。そしてもう1つは、ダンゴムシは転がり落ちるのに、アリはすべり落ちないさまをまじまじと観察しているからです。どうしてアリは滑らないのか?それに気づくと砂は滑るけど、土は滑らない。スコップは滑るけど縄跳びは滑らない、と色々なものをすべり台から転がし出します。滑る材質やスピードに関する小さな探究心が芽生えます。
6台目:「たから島」から降りるための1番高くて長いもの
これは2メートルほどのボルダリングか縄梯子を自力で登れた子だけが滑れる特別なすべり台。たまに先生の目を盗み下から登る3歳児も居ますが、いつかボルダリングを自力で登り、上からの景色を堪能したい気持ちの表れだと思っています。
これを滑れる子たちは連結すべりや、「カンカン」と踏切を入れるすべり止め、ボルダリングと合わせた鬼ごっこ等すべり台を入れた様々な遊びを発明しています。
改めてみると、同じ造りでも発達過程に応じて関わり方は様々です。単純な遊具ですがどの年齢の子どもにとっても体の発達を促す、すごい遊具です。スピードをちょっとしたスリルと共に感じることで脳の発達も促されるようです。だから6台あっても良い・・と言うか必要なのでしょう。
子どもの頃、学校の近くのマンションに住んでいました。遅刻常習犯の私は12階の部屋のベランダから学校まですべり台が繋がっていたらいいのにと毎日思っていました。長いすべり台は今でもワクワクします。(園長 足立園恵)
令和6年9月30日号
園庭倉庫に赤と白の大玉が入っています。
園庭を探索していた1歳のA君がめざとく見つけ、私にとってくれと、指差しでせがみました。A君にはちょっと大きすぎるかな、と思いつつ倉庫から出すと自分で動かそうと小さな体で一生懸命押し出しました。A君の1.5倍はありそうな大玉はなかなか動きません。その姿を見た同じクラスのBちゃんが手伝いに入ります。動きはスムーズになりましたが、どこへ行くのやら、1歳の2人では大玉が右往左往です。それでも2人は実に楽しそうに全力で大玉を転がしていました。
しばらくすると、4歳児で綱引きが始まりました。
最初は4歳児同士の対決でしたが、自然と園庭に居た3歳児や5歳児も「入れて」と入ってきます。4歳児対3歳・5歳児対決となりました。するといつもは乗り気でない4歳児の数名も俄然やる気になり全員参加で綱引きに興じます。勝ち負けよりも全員で力を合わせる楽しさを感じているようでした。
東京家政大学に長いこと勤務された井桁容子先生は次のように語っていました。
「普段大人が子ども達の理性や状況判断力を育てようとするときに「大声を出さない」「走ってはいけない」などセーブする力を育てようとすることが多いものです。
しかし、たとえば力加減に限って言えば「そっと」とか「優しく触れる」という加減が分かるのは思い切り力を出す経験があってこそです。まずは100%を知り、そこから徐々に50%、30%、0%(今は我慢)の力という具合に、感覚的につかめて、本当の意味で加減が出来るようになっていくのです。
育て急ぐ子育ての中では最初からセーブすることや正解を教えてしまいがちです。しかしルソーは著書「エミール」の中で「理性や知性を学ぶ最初の先生は、自分の手や足や目だ」と表現しています。このことからも、手足で(実体験で)感じることから学ぶ理性や知性の重要性が分かります。」と。
子どもを見ていると本当にその通りだなと感じます。園には子どもが思い切り力を出して遊ぶ機会が沢山あります。
冒頭の大玉や綱引きもそうですが、思い切り紙を破る、思い切り声を出す、思い切り水しぶきをあげる、思い切り走る等々。子どもは思い切り力を出す体験があってこそ「加減」を学んで行きます。
この世の終わりのように泣いていた子も年長児位になると悲しみに合わせて静かに泣くことを覚えます。虫を見つけては握りつぶしていた子も、そっと持つことが出来るようになります。友だちを叩いていた手は優しくなでることもできるようになります。
園では、最初から力の出し加減を教えるのではなく、体験して自分で学んでいくことをできるだけ保障したいと考えています。
大玉を全力で楽しんだA君。今度は玉入れに興味がわいてきました。年上の子達の真似をして球を投げます。それこそ全ての力を使って投げてはいるものの、カゴには到底届きません。最後は私に抱っこを求め、カゴに無事に入れることが出来、満足気な表情です。
きっと彼も毎年経験を重ね、いつか、どのくらいの加減で球を投げればカゴに入るかという事を学ぶのでしょう。そんなことを思いながら、何回も抱っこの要望に応じました。(園長 足立園恵)参考文献:『保育のまなざし』井桁容子著 チャイルド本社発行
令和6年8月28日号
土曜日の夕方でした。スーパーで買い物をしていると、テニス部の練習に行った次男から電話がありました。「迎えに来て欲しい。がんばり過ぎた。もどしそう・・・。」画面の表示は次男でしたが電話の声は途切れ途切れ、今にも死んでしまいそうなか細い声でした。「えっ?今から?40分はかかるよ。電車の方が早く帰れるんじゃない?」「電車に乗ったらもたない。」「そう、わかった。とにかく行くから涼しい所に居て!」
買い物を切り上げ、急いで家に帰ります。着替えや保冷剤を準備して、何かあったらと思い、夫にも「一緒に来て」と声を掛けました。ところが「高2の息子の熱中症に夫婦で迎えに行く必要はないだろう」と冷静な返事。夫婦間の価値観の違いを感じながら一人で車に乗り込みました。子どもの具合が悪くなり自分のスケジュールが狂うと、昔から夫婦間に波紋が生じます。お互いの価値観を受け入れる余裕を持ちたいものだと思いつつ運転に集中することにしました。
学校の近くの駅に着き、連絡をするとコンビニから息子が出てきました。朝とは違い、顔色が悪く、頬がこけて目だけギョロっとしています。映画で見たゾンビの様な顔つきです。「ごめんなさい」と一言だけ言うと後部座席に横たわりました。その夜、どれだけ嘔吐したのか、翌日も具合が悪そうで息苦しいと言い出しました。日曜日です。休日診療の病院に4軒電話をしましたが、どこも受け入れてくれません。熱中症警報が出され、運動や不要な外出は避ける様に世の中で注意喚起されています。それにも関わらず、屋外の部活に参加した息子を診て欲しいと市外の救急にまで連絡する気持ちにはなれませんでした。久しぶりの友人とのランチをキャンセルし、息子の看病にあたりました。
翌日、予定を調整して病院へ連れていき、熱中症からと思われる呼吸器の損傷が見つかりました。1週間の自宅安静となりましたが、原因も分かりすっかり元気そうです。
この3日間で私は不安に悩まされ、様々な調整作業や電話でぐったりです。子どもは怪我や病気をして成長するものなのに、どうしてこんなに億劫に感じたり動揺してしまうのだろう。そんなことを考えていたら、先日受講した講師の言葉を思い出しました。
世の中は便利になっていて分からないことや知りたいことは指1本ですぐに調べられる時代。仕事や家事もボタン1つで随分短縮され、あーでもない、こーでもないと試行錯誤することはかなり減っている。そんな世の中で、想定外の事が起きたり、指南書通りいかないのは子育てだけ。親が寝て欲しい時間に寝てくれるタイマーは無いし、手をかけたご飯を用意しても口をあけない。精一杯取り組んでもお給料が出るわけでも、褒められるわけでもない。それなのに、他人からの目は厳しい。子育ては世界一難しい営みなのかもしれない。だから子どもって面倒!と感じる人が増えている、と言うのです。聞いたときは世も末だなと感じたものですが、いざ自分の身に起こると一理あると納得です。
けれども、自宅安静の間に洗濯物を畳んだり、夕飯のおかずを作る息子の姿がありました。彼なりのお詫びのようです。そして死にそうな目にあったにもかかわらず、「あー早くテニスしてぇ-」と言い出す始末。思わず笑ってしまいました。そこまで打ち込むものがあり、嬉々としてテニスに励む息子。ボタンで検索しても出てこない、想定外の言動で私を幸せな気持ちにさせる彼。これが指先1つで動かせる息子だったら、ここまで可愛さや面白さを感じることは無いでしょう。色々あっても子育てに取り組める原動力を再認識した騒動でした。
さて、日々子育てに取り組むみなさん、あなたの子育ての原動力は何ですか?(園長 足立園恵)
令和6年7月31日号
「うわぁ!」背中に何かが乗ってきて思わず大声をあげました。ひまわり組に招待されたお化け屋敷でのことです。お化けや気味の悪いものが飾られ、途中にはガイコツを模した絵も置かれていました。ダンボールや机を使い、トンネルのような造りになっていたので、前方にばかり気を取られていました。やっと出口、と安心したところを背後からA君が乗ってきたのです。驚く私にA君は大喜び。「怖かった?」と目をキラキラさせて聞いてきました。
1週間ほど前にA君の「お化け屋敷やりたい!」の一言から、ひまわり組にお化けブームがきました。一つ目小僧やゾンビのようなお化けを作り、壁に貼ったり、天井からぶら下げます。担任も遊び込んだスライムをビニール手袋に入れたものや、怖そうな音楽を用意して盛り上げます。
あらかた出来上がると誰かを呼んで怖がらせたくなります。そこで看板、チケット作成が始まります。先生が指示する訳でも無く、「〇〇があるといいんじゃないの」と思いついた子の一言で、他の子が動き出します。チケットを配布する係を巡ってケンカも起きましたが、子ども同士で作り上げていく力は随分ついたようです。
ひまわり組に感化され、すみれ組でもお化け作りが始まります。お化けに詳しいBちゃんが多種類のお化けを描きだし、友だちも真似し始めます。沢山のちょうちんお化けが完成し、子どもの意見で壁から飛び出ているようにも展示されました。普段は控えめなBちゃんですが、お化け作りでは自信にあふれる姿が見られました。
同じ頃すずらん組の担任が私の所にやってきました。妖怪博士とろくろっ首がしりとり対決をする「ようかいしりとり」の絵本をもう1冊買って欲しいという相談です。話を聞くと、すずらん組は今「ようかいしりとり」の絵本が大ブーム。子どもの「読んで」のリクエストに応え、担任が読み始めます。「ろくろっくび」「びんぼうがみ」「みつめこぞう」「うみぼうず」と続き、最後は「ぬらりひょん」で「ん」を言ったろくろっ首が負けてしまいます。不思議な妖怪に心惹かれ、しりとりのルールも何となく覚えたようです。「朝も夕方もせがまれます」と聞き新たに2冊購入しました。
夏が盛りを迎えるこの時期。何故かお化けものが、毎年子ども達の遊びに現れます。寒く日暮れが早い冬の方が雰囲気も出るし怖いと思うのですが、冬場にお化け遊びは見られません。その理由を私なりに考えてみました。暑くなるので涼感を求める。テレビやYouTubeでお化け特集が組まれる。お墓参りで姿が見えない祖先に思いを馳せる。そんな理由もあると思います。ただ園生活を見ていると、4月に入園、進級して約半年。新しい保育室、友だち、遊びにも慣れ、何か新しいもの、自分が知らないものに興味が湧いてきたからではと感じるのです。
子どもは人を含む新しい環境に慣れ、自分が安心できる安全基地だと感じると、そこから出て探索行動を始めます。その探索行動中に怖くなったり元気がなくなると安全基地に戻り充電します。そしてまた未知なる世界へ探索行動に出かけます。これを繰り返すことで自分の世界を広げていくのです。
この時期に未知なる存在であるお化けが盛り上がるのは、先生や友達が安心できる存在になったことも一因なのではないでしょうか。
冒頭のA君を驚かせたいとチャンスを伺っています。きっと彼は喜びながら安心できる担任のもとへ走っていくでしょう。 (園長 足立園恵)
令和6年6月25日号
宝保育園では年に1回だけ出る紫色のスープがあります。
その名も「あじさいスープ」。梅雨時期の紫陽花に見立てたスープです。目をつぶって飲んでしまえば、子ども好みの味なので完食すると思います。ところが、見た目が紫なのが原因なのでしょう。最初の1口が進みません。
先生たちもクラスに紫陽花を飾り、乳児組では花びらを入れた感触マットを作ってみました。今年こそは、と栄養士も力を入れ食育に臨みます。
5歳児クラスでは主な材料である紫キャベツと紫玉ねぎを見せてみます。初めて見る子も多く、匂いを嗅いで「玉ねぎのにおいだ」と確認します。それを刻んで透明の鍋に入れます。煮込み始めると水がだんだんと紫色に変わっていきます。「実験みたい」と集中して見入る子が「あっ、紫の玉ねぎが段々薄くなってピンクになるね」と色が抜けることに気づきます。調味料を加え完成です。どうして紫色になるのかが分かったからでしょうか、今年のあじさいスープは完食でした。
3歳児クラスでは「紫陽花がスープになるの?」と真剣に聞く子どもに、担任が「紫色のキャベツの色が紫陽花みたいだから、あじさいスープっていうのよ」と説明していました。その場は納得したようでしたが、翌日、園庭の紫陽花を容器に入れ「あじさいスープ作るんだ」と張り切っているA君の姿がありました。朝顔やタンポポで色水遊びを体験してきたので、紫陽花でも色が出るはず・・そう信じていた彼が先生に訴えました。「むらさきいろにならない!」。
そこで、担任は栄養士と同じように3歳児の前で紫キャベツを煮出してみました。すると透明だった水が紫色に変化します。紫陽花ではなく、紫キャベツだから色が出る事、しかも熱を加えることで色が出る事を3歳児なりに学んだかと思えました。ところが次に出てきた言葉は「この水にジャガイモやバナナやお米を入れたら紫になるんじゃない?」と、白いものを染めてみたいという探究の声でした。あくまでも子どもは色水遊びの延長なのです。
担任は早速、ジャガイモとバナナを用意します。煮だした紫色のお湯に漬けてみました。子どもが手で揉んでみましたが、ジャガイモもバナナも白いままです。「なんでかなあ。ナスを入れてみよう」と自分たちで栽培したナスをリクエストします。濃い紫色のナスを入れたら色素が強くなると思ったのでしょう。担任がリクエストに応じナスを入れましたが、ジャガイモもバナナも白いままです。
意気消沈する子どもたちに「じゃあ、このお水で米を炊いてみようか?」と担任が提案します。私もどうなることかと、心配でしたが子ども達の探究心をくじきたくありません。まずはやってみよう!と紫キャベツで煮出した水でお米を炊いてみました。お鍋で炊くこと15分。うっすらときれいな紫色のお米が炊き上がったのです。「あじさいごはんだね」と子ども以上に喜び、ホッとした顔の先生たち。少しキャベツの匂いがする紫ご飯をみんなで完食しました。「ほうれん草を煮ると緑になるよ」「ニラもだよ」と次なる色水作りに思いを馳せる声が上がっていました。
色々な食材を子どものうちに体験することで、味覚はもちろん、嗅覚や触覚も磨かれます。また食材への関心は学習意欲の喚起や、好き嫌いの減少、食に関するコミュニケーション力の向上にも繋がります。そんな姿が垣間見れた今年の「あじさいスープ」でした。
余談になりますが、私が幼いころ、近所の和菓子屋さんでは紫陽花の葉っぱの上に水ようかんを乗せ店頭に並べていました。紫陽花を見るとその和菓子を思い出します。きっと当園の子どもたちは「あじさいスープ」とそれにまつわる実験を思い出すことでしょう。(園長 足立園恵)
令和6年5月21日号
「あっ、デンマークの旗だ!」
A君の第一声に、他のゆり組の子ども達も「あっ、あそこにもあるよ。」と歓声の声をあげます。五月晴れの中、ゆり組の遠足でアンデルセン公園に行きました。
今回のアンデルセン公園への遠足はひまわり組から年度を超えての計画でした。発端はひまわり組の時のマラソンごっこです。ただ走るだけでは子ども達のやる気も継続しにくいと考え、走る距離に応じたマラソンマップを作りました。園庭10周でビッグホップに到着、と言う感じです。経由地としてイオンやアンデルセン公園があり最終的にはディズニーランドまでのマップになっていました。
これには職員の想定以上に子ども達のやる気に火がつきました。数日でイオンに着きその後アンデルセン公園にも到達。そこで子ども達から「アンデルセン公園に行けるの?行きたい!」と言う声が上がりました。気持ちは痛いほど分かります。連れていってあげたい気持ちは山々でしたが時は2月。即座にバスの手配や下見等を行い、園外保育を実施するには無理がありました。そんな経緯があり、実現したのが今回のアンデルセン公園への遠足でした。
遠足が決まり下見を終えた担任は公園内の地図を見せて当日のルートを話したり、風車や童話館があったことを伝えました。すると数人の子どもがゆり組専用パソコンでアンデルセン公園を調べ始めました。
アンデルセンが童話を書く人でありデンマークで産まれたことが分かりました。さらにデンマークの旗のデザインやデンマークの食事についても興味が広がっていきました。国旗に興味を持った子はデンマークに限らず世界の国々の国旗を調べ描いていきます。食事に興味を持った子は先生に印刷してもらい、ままごとに使ったり、どうやったら保育園で作れるかと頭を悩ましていました。そんな子どもの様子を見て担任はすかさず「みにくいアヒルの子」や「人魚姫」といったアンデルセン作の絵本を読み聞かせしました。ゆり組の部屋には国旗が飾られデンマークという国に関心を持っている様子が見られました。
迎えた当日。子ども達がデンマークの国旗や風車、人魚姫や白鳥の像を見て興奮したのは当然なのかもしれません。お弁当を食べる広場への道中も「次は橋を渡るんだよね」と自分が学んだことと答え合わせをしているようなわくわく感が伝わってきました。
当日は宝保育園以外に沢山の園児が居ました。遊び場も園庭の何倍も広く、魅力的な複合遊具がいくつも有りました。ですが迷子になったり怪我をした子は一人もいませんでした。それはマラソンごっこを通してこの公園に行きたいと思い、事前にどんな公園なのかを調べ、主体的にこの遠足に関わってきたことに1つの要因があると私は考えています。
もちろん、大人の方が知識も経験もあります。だからこそいつもは子どもに相談することなく遠足の行き先や内容を職員で考え実行してきました。初めて行く場所は期待値も大きいですが子どもによっては不安だったり、期待外れだとそれを誰かのせいにして困る行動に出てしまうことも有ります。
自分が興味を持ち、当事者意識をもって活動に取り組むことは子どもにとって安心感や次への学びに繋がります。これからも個々の興味関心をひくものに自分事として関わる子どもを育みたいと感じた1日でした。(園長 足立園恵)
令和6年4月22日号
開園して13回目の4月を迎えました。
毎年4月は園全体に慌ただしい雰囲気があります。新入園児が入り、担任が変わり、保育室も変わります。入園・進級の喜びもありますが小さい子ほど不安の方が大きいようです。大好きなお父さんやお母さんも気忙しい様子です。我が子に目を向け、手をかけたい気持ちはあるものの、新しい部署、新しい仕事、育休明けの復帰などでなかなか心の余裕も持てないですよね。
今年の入園式で次のような話しをしました。
「宝保育園ではそれぞれの子がいつ、何に、興味関心をもつのかに注目して保育にあたっています。特に4月は、興味を持つものを見つけられるように出来るだけ多くの選択肢を用意しています。絵本やブロック等の室内玩具。砂場や滑り台等の園庭遊具。また、草花や春の風、そしてダンゴムシやアリと言った自然物もあります。
気になるものを見つけ遊びだす子もいれば、じっと見ている子もいます。先生に抱っこされたり、側にいることで遊べる子もいます。そうして徐々に一定時間、園で過ごせるようになっていきます。初めての環境は大人でも疲れます。口には出さないかもしれませんが、子どもも相当疲れているはずです。
だから、お迎えに来たり、お家に帰ったら「今日はどんな遊びをしたの?」「たのしかった?」「手を洗ってね」「給食は食べられた?」等々、聞きたい気持ちや家事に向かいたい気持ちをぐっと抑えて「がんばったね」と7秒ハグをしてみてください。その7秒は子どもにとっても親にとってもほっとする時間です。特に子どもとっては大好きなお父さんやお母さんが自分だけに向いていることが分かり、明日の登園への期待や自己肯定感に繋がります。
1分や2分のハグと言うと意外に長くて、こなさなければならない家事や仕事に向かいたくなります。でも7秒ならどうでしょう?人のぬくもりはだいたい7〜8秒で相手に伝わるそうです。その間にオキシトシンという幸せホルモンも出ます。このホルモンは心を安定させ幸福感を増幅させる働きがあると言われています。帰宅後に忘れてしまったら、寝る前や翌日に14秒でも良いと思います。
ちょっと叱りすぎてしまった時にも効果があると思います。ぜひ、実践してみて下さい。私は下の息子も高校生になり、もうハグはさせてくれないので今のうちに!」
1歳児のわかば組では新入園の子ども達を沢山抱っこします。するとそれまで抱っこを求めず遊べていた在園のAちゃんがぐずり出しました。担任はすかさず、「Aちゃんも抱っこしようね」としっかり抱きしめました。気持ちに寄り添ってもらえたAちゃんはしばらくすると自ら降りて遊びだしました。園で1番のお姉さんになったゆり組のBちゃんも朝のお母さんとのハグは欠かしません。
園では新しい環境に不安を感じ涙する子、「せんせー見て!」と自ら話してくる子、何も言うことなく目で訴える子、全ての園児の気持ちを受け止めることを心がけています。
保育園は子どものための環境が考えられており、専門の先生が揃った場所です。だからお父さん・お母さんも親として自分が選んだ「子どものために用意された子ども中心の場所」に安心感を持ってもらえたらと考えています。その安心感も、子どもが保育園を好きになる1つの要素になります。
今年度も子ども一人ひとりの良さを見出しながら全職員で保育にあたっていきます。どうぞよろしくお願いいたします。(園長 足立園恵)