椋の木のおはなし

「椋の木のおはなし」は布佐宝保育園長による保育エッセイです。(ほぼ)月に一度発行いたします!

過去のお話は、画面上部のメニューバーからどうぞ!

令和3年度のおはなし

令和4年3月1日

「山の中で」

休日の朝はとても静かです。鳥のさえずりが心地よく響いています。

明るい日差しに誘われて、宮の森公園まで歩いてみました。

宮の森公園は竹内神社に連なる丘陵と湿地を生かした自然豊かな公園です。布佐小学校に隣接していて、成田線が走る様子がよく見えます。


久しぶりに来てみると、池には鴨の群れがいました。きりん組のMちゃんが「カモがいたよー」と教えてくれたのを半信半疑で聞いていましたが本当でした。数えてみると20羽以上いるようで驚きました。

山の中に入ると空気が変わります。ひんやりした薄暗い森に水仙の花が咲いていました。ほどよく整備された丘陵を落ち葉を踏みしめて登っていくと、長い木の枝が何本も組み合わさり、まるで誰かの住処のようなものがありました。辺りには短い枝も散らばっています。きりん組の子ども達が「焚き火ごっこ」を楽しんだ跡のようです。もちろん本物の火を使ったわけではありません。


数日前にきりん組がここへ遊びに来ました。

「木をね、こすると火が着くんだよ」と言って、D君が枝を2本持ってこすり始めたそうです。それを聞いたA君が「そうだよ、摩擦で火が起きるんだよ」と得意げに言うと、「だったら火をおこして焚き火をしよう」と誰かが言い出し、みんなでひたすら木をこすっていたそうです。「残念ながら火は付きませんでしたが…」と担任の先生が楽しそうに報告してくれました。

新しく設置された大型遊具を目当てに公園へ遊びに行ったのですが、子ども達は数回やると満足したのか、すぐに「山に行って遊びたい」と言い始めたそうです。私は「たからっ子らしいな」と嬉しく思いました。

新しい木製遊具には滑り台やクライミング、ネットの橋などが付いています。園にはない魅力的な遊具です。それに比べ、山にはベンチくらいしかありません。あるのは、草木、落ち葉、木の実、枝、虫、坂道、崖などです。ですから、子ども達は自分でやりたい遊びを考え、何度も試行錯誤しながら遊びを楽しみます。遊び方が決まっているわけではないので、遊びは無限に広がります。

広い斜面では、転びそうになるスリルを味わいながら駆け下ります。転んでも落ち葉がいいクッションになってくれるので大した怪我もしません。

崖登りにも挑戦します。木の根っこをつかみ、足場を考えながら登るのです。滑り落ちることもありますが、友達と助け合いながら登ると、なぜか大きなミッションを達成した気分になります。

木の枝は無数にあるので、自分の気に入った形のものを探し出す楽しみがあります。家や焚き火にもなりますが、魔法の杖や釣り道具にもなる万能アイテムです。遊び疲れたら山の上に座って成田線を眺めるのも楽しい時間です。

自然の中で五感をフルに使って遊ぶ体験は、乳幼児期にたくさん経験させたいものです。

少しずつ暖かくなってきましたので、これから「山」へ出掛ける機会が増えそうです。


宮の森公園の桜の蕾はまだ硬く小さいですが、よく見ると先端がピンクに色づいていました。春は遠くなさそうですね。

お休みの日に、お子さんと一緒に自然の中へ出掛けてみてはいかがでしょうか。花粉症の方は辛いかもしれませんが、マスクを外して深呼吸することをお勧めしますよ。

(園長 番場朋子)

令和4年2月1日

「アイスクリーム大作戦」

「ぞう組のみんな!どうかアイスクリームを作って下さい」

怪盗エックスのアイスクリーム工場が火事になってしまったそうです。世界中の子ども達が悲しむから助けてほしいと言うのです。


怪盗エックスは、理事長が創作したお話の主人公です。夜の間に宝保育園に来て「いたずら」を仕掛け、保育園のみんなを困らせているのです。噂で北極にアイスクリーム工場を持っていると聞きました。理事長が聞かせてくれる怪盗エックスの素話は、ぞう組の子ども達に大人気です。理事長を見かけると「お話の続きを教えて」と催促する姿がみられます。理事長の周りで話を聞いているうちに、すーっと遠い目になる子がいます。お話の世界にすっかり入り込んでいるのでしょう。

秋が深まってきた頃、旅に出た怪盗エックスからぞう組に手紙が届くようになりました。東京や大阪など日本各地を巡っていたようです。ぞう組に貼ってある日本地図には怪盗エックスが行った場所が書き込まれていました。「次に向かうのはこの前噴火があった山だよ」と予告があるので、場所を探し当てるのも楽しみでした。「お父さんが阿蘇山だって言ってたよ」と家庭でも話題になっていたようです。「子どもが話すことが、本当なのかお話の中のことか分からなくなることがあります」と苦笑しながら教えてくれるお母さんもいました。


「アイスクリームなんて作ったことないよ」「でもさ、助けてあげなくちゃ…」

困った子ども達は担任の先生に相談しました。「じゃあ、作り方を調べてみようよ」先生の提案に子ども達も大賛成。アイスクリーム大作戦が始まりました。

「まりあ先生のスマホで調べればいい」という声もありましたが、「本に書いてあるかも」という声が多かったので、図書室で本を探してみることにしました。虫や鳥のことを調べた経験から本に載っているだろうと推測したようです。

ところが、図書室にはアイスクリームの作り方が載っている本は見当たりません。そこで、図書館に行くことにしました。布佐分館に電話をして本を取り置きしてもらえることになりました。当日はS君のおじいちゃんも付き添ってくれました。

図書館から借りた本で調べたら、冷凍庫がなくても出来ることが分かりました。空き缶と氷と塩を使うようです。これなら子どもでも作れます。


怪盗エックスが北海道から送ってくれた牛乳をたっぷり使い、アイスクリーム作りは大成功でした。子ども達は本当にアイスクリームが出来たことに驚き、「こんなにおいしいアイス、食べたことないよ」と目を丸くして喜んでいました。「怪盗エックスが喜んでくれるといいね」クリスマス前に届けることが出来て、子ども達もほっとしたようです。

年が明け、怪盗エックスから数冊の図鑑が届きました。

無事に工場も再開し、ぞう組の子ども達のアイスクリームは世界中の子ども達に喜ばれたそうです。約束を果たした子ども達と怪盗エックスの絆はさらに強くなったことでしょう。


現実と空想の世界を行ったり来たりできるのは子どもの特権です。

大人になるにつれ、この素敵な感性が少しずつ消えてしまうのが本当に残念でなりません。

子ども達と一緒に生活していると、かつて経験した不思議を楽しむ感覚がよみがえってきます。空想の人物が生き生きと目の前に現れ、空を飛んだり、遊んだり、現実世界と混ざりあった楽しい出来事にワクワクドキドキします。

ぞう組の子ども達がいつか大人になった時、黒いマントの怪盗と甘いミルク味のアイスクリームを懐かしく思い出すことがあるのかしら・・・そんなことを考えると、一緒に空想の世界を楽しめる今がとても愛おしく感じられるのです。(園長 番場朋子)

令和4年1月4日

「新しい門」

保育園の門が新しくなりました。

新年に間に合うように、地元の石屋さんが設置してくれました。

立派過ぎるくらい頑丈な門ですが、園庭がゆるやかな坂になっているので、坂下の門はよく三輪車が(わざと)衝突します。頑丈でないとすぐに変形してしまうのです。


工事は12月中旬から始まりました。手際よく働く3人の職人さんの顔を見ると、なんと全員が卒園児のお父さんでした。

「何しているの?」「頑張ってね!」興味津々の子ども達からは、色々な声がかかります。そのうちに、「ねえ、縄跳びやるから見てて」などと自分の得意技を披露する子まで現れました。「ご迷惑ではないですか?」と聞くと、「全然、構いません。楽しいですよ」と笑って答えてくれました。「なんていう名前なの?」という子どもの質問に「まだ名前がないから考えてくれる?」なんて楽しく返せるのは、さすが先輩パパです。


右の石柱には以前の園の表札がつけられました。歴史を感じるその表札に合う石を探してくれたそうです。左の石柱には穴が開いています。「ここから覗くと園庭のどんぐりの木が見えますよ」と楽しそうに教えてくれました。「遊び心」で覗き穴をあけたそうです。


門扉が付いた日、難しい顔で何度も開閉を確かめる姿がありました。気になり声を掛けると「重くないですか?」と聞かれました。子どもを抱いたお母さんが開けるのは大変でしょう…と。2枚扉なので、構造上、どうしても開ける方の扉に2枚分の重さがかかってしまうそうです。一旦開けてしまえばスムーズなのですが、開け始めが重く、これはなかなか大変です。保育園の送り迎えをしていたからこそ、子どもを連れて門を開閉する大変さが分かるのでしょう。

そこで、重さを軽減するためゴムのストッパーを付けることにしました。扉が全開できないかわりに、ずいぶん軽くなりました。開けられる幅は人が通れるくらいでないとバランスが取れないと聞いていましたが、翌日には「これならカートが通れます」と開け幅を広げたことを教えてくれました。ひよこ組やことり組の「おさんぽカート」が通る時、いちいち門を広げるのは大変だからと調整してくれたのです。

せっかくの石柱の覗き穴に門の支柱が被り、景観が悪くなってしまいましたが、それよりも利便性を第一に考えてくれました。

ドアホンも付きました。「これなら土曜日も保育室に持ち運べますよ」と卓上型のモニター付き親機を持ってきてくれました。私からは何も伝えていないのに保育園の事情を考えてくれたことには、本当に驚きました。


元日の朝、寺へお参りに来たお檀家さんから「保育園の門が立派になりましたね。しっかり守られている感じがしますよ」と声を掛けられました。

お父さん達の思いやりが込められた門は、これから長く保育園の子ども達を守ってくれることでしょう。 

(園長 番場朋子)

令和3年12月1日

「ジャンプ!」

ツンとした冷たい空気に冬の訪れを感じる朝でした。

園門の前でりす組のA君とお母さんに会いました。

すでに登園を済ませ、出勤するお母さんを見送りに来たようです。

お母さんが行ってしまうのが寂しいのでしょう。泣いてはいませんでしたが繋いだ手をなかなか離せずにいました。

A君はことり組から入園しましたが、お母さんと離れる時はどうしても涙が出てしまいます。お母さん代わりのタオルを握りしめ、先生にしばらく抱っこされてから遊び始めるのが毎朝の日課でした。いつまで続くのかとお母さんも大変心配されていました。

今朝もなかなか離れられないようです。お母さんがタッチを促すと、やっと手を離しました。私はA君がお母さんを追いかけるかもしれないと思い、足を止めて少し様子を見ることにしました。

ところが、今朝のA君は違いました。タッチをすると、門を出たお母さんを追いかけることも泣くこともありませんでした。それどころか、「ママ、バイバイ!お仕事頑張ってね」大きな声で、はっきりそう言ったのです。

お母さんもほっとしたようで、「行ってくるね、Aも頑張ってね」と笑顔で返していました。A君はぴょんと飛び跳ねると、くるっと向きを変えてお母さんを振り返ることもなく戻って行きます。お母さんの方が心配そうに何度も振り返りながら駐車場へ向かっていきました。

あっけにとられてその光景を見ていたら、以前、ばあば先生(元副園長)から聞いた話を思い出しました。

「高くジャンプする時には一度腰をぐっとかがめるでしょう。子どもの成長も同じよ。大きく伸びる前にはぐっと力をためるものよ」

なかなか成長が見られず大人がやきもきするそんな時期こそ、子どもは内側に成長の元となる力をたくさんためているのかもしれません。なかなか飛び出さないからといって無理に引っ張っり出してしまうと、「ばね」が伸びきって大きくジャンプすることは難しいでしょう。

子どもの持つ力を信じ、高く跳びあがるその瞬間を「待つ」ことは、子育ての難しさでもありますが、何よりも大切な大人の役目だと感じます。A君の見事なジャンプを見て、改めてそう思いました。


園舎に向かったA君をりす組の前で先生が待っていました。

A君とお母さんの様子をずっと見守っていたようです。

手を振る先生に駆け寄るA君の後ろ姿が、一回り大きくたくましく見えた朝でした。(園長 番場朋子)

令和3年11月1日

「ダチョウのたまご」

さわやかな秋空が広がる中、ぞう組はバスで「我孫子市鳥の博物館」に行ってきました。

きっかけはAちゃんが家で作ってきた紙の鳥でした。

「先生、見て!私が作ったのよ」と嬉しそうに見せてくれました。

聞けば、休日に鳥の博物館(とりはく)へ行き、野鳥のペーパークラフトを買ったのだそうです。それをお家で組み立てたとのことでした。たちまち友達に囲まれ、「すごい!」「とりはくってなに?」と質問攻めのAちゃんは得意げです。「とりはくにはね、鳥がたくさんいるの。動かないけどね。」


早速、子ども達は図書室から鳥の図鑑を持ち出し、Aちゃんの鳥の名前を調べ始めます。

「シジュウカラだって!」羽の模様を頼りに探し当てました。

その日から、ぞう組にちょっとした鳥ブームが起こりました。

それに呼応するように担任の先生達も動きます。鳥に関連する絵本や図鑑を揃えたり、鳥のクイズを掲示したり、子ども達が調べたり作ったり出来るような環境を作りました。「フラミンゴの身体はなぜ赤いのか?」「ダチョウの大きさは?」担任のクイズを見て、友達と考えたり、図鑑で調べたりと楽しみながら鳥に親しんでいきました。普段の遊びにも浸透していき、廃材の卵パックには粘土で作ったたくさんの卵がつめられました。マクドナルド屋さんごっこにはなぜか折り鶴の店員さんも加わりました。絵本に出てきた鳥を探しに宮の森公園へも出掛けました。

「僕たちもとりはくに行ってみたい」という声はすぐにあがりました。

そんなわけで、バスを手配し「鳥の博物館」に行ってきたのです。(当日の様子は10月14日付の園だよりに掲載しています)


休み明けに「とりはくに行ってきたよ」という声が聞かれるようになりました。

先週の土曜日には、3家族が偶然にも鳥の博物館で出会い、大喜びしたそうです。子ども達の興味関心が家庭にも広がり、ご家族で出掛けてくれたことを大変うれしく思います。

思いがけない申し出もありました。Yちゃんのお母さんからダチョウの卵を寄付したいと相談されたのです。Yちゃんは鳥の博物館がとても楽しかったそうです。卵(レプリカ)もあったとお母さんに話したそうです。そこで、お母さんは保育園の子ども達に本物のダチョウの卵を見せてあげたいと思い、知り合いのダチョウ牧場の方に掛け合ってくれたのです。もちろん、食べることもできます。


「ダチョウの卵がもらえるんだよ」と子ども達に話すと、「ダチョウってね、まりあ先生二人分なんだよ」と教えてくれました。重さは鶏卵24個分だそうです。殻が堅いのでアイスピックで割るそうです。どうやって食べるか悩みましたが、大きさが実感できるように目玉焼きを作ることにしました。

初めて見る本物のダチョウの卵に、子ども達はどんな顔をするでしょう。


紙の小鳥から始まった鳥への興味は博物館への遠足に発展し、家庭にも広がり、とうとう本物のダチョウの卵になりました。

子ども達の好奇心のパワーにはつくづく驚かされます。 (園長 番場朋子)

令和3年10月1日

「やさしい心」

「先生、手伝ってあげようか」

境内で遊んでいたT君から声を掛けられました。休み中に届いた荷物を子育て支援センターに運んでいるところでした。

「ありがとう。じゃあ、お願いしようかな」ひとりでは持ち切れずに困っていたのでT君の助けを借りることにしました。


お盆を過ぎた頃から、ぞう組の子ども達がぐっと頼もしくなったように感じます。

ちょっとしたトラブルは、子どもたち同士で「〜がいけなかった」「こうしたらよかったんだよ」などと自分達で解決する姿が多くなりました。子ども達だけでドッジボールやケイドロなどのゲームを進めることもあります。きりん組やうさぎ組の子が混ざっている時は、ルールを簡単にしたり、大目にみてあげたりしているようです。

「お祭りごっこ」や「おばけ屋敷ごっこ」では自分達が楽しむだけではありませんでした。年下の子に衣装を貸し、やり方を分かりやすく教える姿がありました。年下といっても4歳の子もいれば1歳の子もいます。年齢に合わせて対応する様子は大人顔負けです。

掃除を頼むと自分たちの部屋だけでなく廊下や階段まで雑巾できれいに拭いてくれました。怪我した友達の手を引いて事務室まで連れて来てくれることもあります。

誰かに指示されなくても自分で考えて行動できる、そんな子ども達の姿がとても頼もしく見えます。何よりも人を思いやる「やさしい心」が育っていることを本当にうれしく思います。

保護者の方から「どうしたら優しい子に育つのですか」と聞かれることがあります。

難しいことではありません。たくさん愛してあげればいいのです。たくさん抱きしめてあげて下さい。抱っこしたりおんぶしたり、手をつないだり、子どもにたくさん触れてあげてください。温かい言葉をかけ、話をよく聞いてあげてください。大好きなお父さんやお母さんとの触れ合いが心を満たし、やさしい心を育てるのだと思います。愛された経験が心の根となり、自分のことも人のことも大切にできるようになるのです。


荷物を運んでいる途中で、T君が聞いてきました。

「ねえ、先生。どうしてぼくが手伝うって言ったかわかる?」

「どうしてかな?」そう返すと、T君からまっすぐでやさしい言葉が返ってきました。

「園長先生が大変そうだから、助けなくちゃって思ったんだ」


私の心が温かくなるのと同時に、T君のお父さんとお母さんの笑顔が目に浮かびました。(園長 番場朋子)

令和3年9月1日

「遊びも食事も楽しく!」

「どうしたら野菜を食べてくれますか?」、「決まったものしか食べないんです」

子育ての悩みでもベスト3に入るのが、食事についてではないでしょうか。とりわけ、偏食や好き嫌いについてはお困りのご家庭が多いようです。


子どもに偏食や好き嫌いがあるのは、実は「味蕾」が発達しているからです。味蕾というのは舌についている味を感じるセンサーのようなものです。子どもはそれが敏感なので、大人が感じない苦みや酸味を強く感じてしまうのです。幼児の半数は好き嫌いがあるという研究データもあります。


だからといって、お菓子やジュースばかりでは困ってしまいますよね。ある程度は大人の手立てが必要です。たぶん皆さんも、お子さんが苦手な食材を細かくしてみたり、味付けを変えてみたりと色々な工夫をされていると思います。うまくいけばいいのですが、せっかく手間暇かけて作ったのに食べてくれないと、がっかりしてしまいますね。

つい子どもをきつく叱ってしまう…なんてこともあるでしょう。自信を失くしてしまうお母さんも少なくありません。どうしても食べないなら、「こんな時期もあるよね」とちょっと諦めてみるのもいいと思います。


少し前のことです。白いご飯しか食べない子がいました。お母さんも大変心配していましたが、ふりかけご飯は2杯食べられたので、園でも元気に過ごせていました。

入園当初は一人で遊ぶことが多く、砂遊びも水遊びも参加しませんでした。手や足に砂がつくのが嫌だったようです。園に通ううちに裸足になって遊ぶ姿が見られるようになりました。そのうち、誰よりもダイナミックに全身泥だらけになり、友達と笑い合って遊ぶようになっていきました。

遊びの変化が見られるようになった頃、食事にも変化がありました。野菜や肉もちょっとずつ口に入れられるようになったのです。友達が美味しそうに食べる姿を見て、目をつむり苦手な野菜を口に入れることもありました。そして、卒園する頃には半分以上のおかずを食べられるようになりました。


不思議に思われるかもしれませんが、「遊びの数が増えると、食べられるものも増える」と言います。様々な感覚を経験することで、新しい味覚も「大丈夫なもの、安全なもの」と受け入れることができるようになるからです。

偏食や好き嫌いが多い子には「食べられないこと」に注目するよりも、まずは、お腹がすくまでたっぷり楽しく遊ぶ経験をさせてあげるのがいいでしょう。

「おいしいね」と共感しながら楽しい雰囲気で食べることも大切です。怒られながらイヤイヤ食べてもきちんと栄養にならないからです。自律神経が乱れて胃腸の働きが悪くなり、消化吸収がうまくできないのです。大人だって、目の前に苦手な食べ物を出され、怒った顔で「食べないとダメ」と言われ続けたら嫌ですよね。子どもも大人も同じです。

「楽しく遊んで、楽しく食べる」。そのような経験の積み重ねが、少しずつ食の幅を広げてくれます。焦らずに楽しみながら、成長を待ちましょう。


コロナ禍で食事の制約が多くなった今だからこそ、食事の意義を考えるいい機会にしたいと思っています。「何でも食べられる子がいい子」、「好き嫌いはわがまま」という昭和から変わらない価値観からはもう卒業しなければなりません。「好き嫌いは当たり前。まずは楽しく遊び、楽しく食べることから」始めたいと思います。

人間にとって、食べることは「生きる喜び」なのですから。 (園長 番場朋子)

令和3年8月1日

「ぐるんぱクラブ」

寺の玄関にベビーカーが数台並びました。本堂からは、お母さん達の楽しそうな笑い声が聞こえます。

7月の「ぐるんぱクラブ」には10組の親子が遊びに来てくれました。

月に1回開催している、地域の未就園児と保護者を対象にした遊びの広場です。コロナ禍のため昨年から予約制にしましたが、毎回すぐに満席になります。


「ぐるんぱクラブ」は、30年程前に当時の副園長だった私の母(富子先生)が始めました。

ある時、保育園の前の道をベビーカーを押しながら行ったり来たりするお母さんがいたそうです。気になって声を掛けたところ、「夜泣きはどうしたらいいのでしょう」と不安気な顔で聞いてきたそうです。

その後も、「公園に行っても友達が出来ない」「おむつがはずれない」など、園に在籍していない子どものお母さんから、子育ての相談を受けることが増えてきました。そこで、継続的に関われるようにと、主任保母のK先生と一緒に遊びの広場を始めたそうです。まだ、地域の子育て支援センターなどなかった頃の話です。

名称は、絵本の『ぐるんぱのようちえん※』からとりました。ひとりぼっちだったぞうが、最後には幼稚園を開くお話です。子育て中のお母さんが「孤独にならず、笑顔で子育てできるように」との願いを込めたそうです。

時の流れの中で、内容や場所が少しずつ変わりました。はじめの頃は2,3歳児が多かったので、保育園のホールでリズム遊びや工作などを楽しんでいました。栄養士が作ったおやつを提供していたこともあります。レシピを持ち帰った方から「苦手な野菜を食べてくれました」と嬉しい報告を聞くこともありました。数年前からは、1歳前の赤ちゃんが多くなったので、畳のある寺に移り、スタッフに助産師が加わりました。

とりわけお母さん達の支持を得たのが「富子先生のおはなし」です。20年以上続いたコーナーです。富子先生の周りに座り、子育てで大切なことを教えてもらいました。

「もう2歳、だけどまだ2歳なのよ」「今は十分甘えさせることが大切。しつけはその後ね」「お母さんの笑顔が子どもの心の栄養になるの」

子育ては頑張りすぎないでいいという富子先生のメッセージは、慣れない育児に戸惑うお母さん達の気持ちを楽にしてくれました。肩の力がすっと抜け、「これでいいんですね」と涙を流す方も少なくありませんでした。

穏やかな空気が流れる不思議な時間でした。


9月から「ぐるんぱクラブ」は子育て支援センターに変わります。

新築の寺の会館に場所を移し、週3日開きます。

これまでの「ぐるんぱクラブ」と同様に、「いつ来てもホッとする」温かいお家になるといいなと思っています。明るく世話好きなお母さん、頼りになる助産師のおばちゃん、子育てのことなら何でも知っているおばあちゃん、保育士の優しいお姉ちゃん、そんなスタッフ達が待っています。

「お帰りなさい」の気持ちで迎え、帰るときは「またおいで」と元気に送り出してあげたいと思っています。


お近くに、子育てで悩んでいる方がいたなら、ちょっと声を掛けてくれませんか。 (園長 番場朋子)

 ※「ぐるんぱのようちえん」(作:西村ミナミ 絵:堀内誠一/福音館書店)

令和3年7月1日

「おまつりごっこの舞台裏」

「園長先生、今日の給食は焼きそばとチョコバナナなんだよ」

朝の園庭で、ぞう組のAちゃんがこっそり教えてくれました。そう組だけなので、きりん組さんには内緒だそうです。


ぞう組では、先月から「おまつりごっこ」が盛り上がっています。

割りばしと輪ゴムで作った射的遊びがきっかけです。割りばし鉄砲で遊んでいるうちに、お店の人とお客さんという役割を決めて遊ぶようになり、しばらくすると、おまつりの屋台をやってみたいとの声があがったそうです。


コロナ禍で地域のお祭りがほとんど中止になってしまいました。せめて保育園でお祭りや屋台を体験をさせてあげたいと思っていたところです。子ども達の願いを叶えようと、早速先生たちが準備を始めました。

「倉庫に法被があるから出してみようか」

「BGMも用意するといいね」

先生たちも楽しみながら色々な「仕掛け」を考えます。

くじの箱や輪投げ、景品のおもちゃなども作ってみることにしました。休憩の合間をぬってさまざまな先生が手伝ってくれました。良いアイデアが浮かばない時は先輩や同僚の知恵が大きな助けになります。

黒画用紙で作った焼きそばの鉄板は、うさぎ組のM先生のアイデアです。ただ品物を売るだけでなく料理をするという工程が加わり、一層楽しくなりました。

子ども達が染めた紙で作った提灯が飾られましたが、これはフリーのK先生のアイデアです。おかげで、遊びと遊びをつなげることが出来ました。

子ども達から「やってみたいお店」がどんどんあがり、輪投げ、わたあめ、かき氷、焼きそば、金魚すくいなどのお店が増えていきました。

以前の「おまつりごっこ」は、たいてい一日だけのイベントで終わってしまいました。今年は、内容や形を変え、何度も開かれています。これも数年来取り組んでいる「保育改革」の成果でしょう。

6月の土曜展覧会では、ホールに「おまつりごっこ」をそのまま展示しておいたので、来てくれたご家族もお客さんになって楽しめたのではないでしょうか。子どもが遊び方を説明したり、盆踊りを見せたりしたようです。ぞう組の土曜展覧会は副園長のK先生の発案です。子ども達の遊びを保護者に知ってもらうために、月1回開催しています。見に来てくれた保護者の方からは、「友達と関わって遊んでいる様子が見えました」と、うれしい感想を沢山いただきました。


お昼になり、ぞう組をのぞきに行きました。

部屋では、子ども達がパックの焼きそば、チョコバナナという特別の給食を食べています。屋台風の食事は給食先生の協力です。「本物を食べたい」という子ども達の願いを叶えてくれました。

焼きそばを頬張るT君に「おいしい?」と聞いてみました。

「おいしいに決まってるじゃん!」T君のおどけた返答に、周りの子ども達からどっと笑い声があがりました。


子ども主体で行われる「遊び中心」の保育は、職員のチーム力が鍵となります。

これからも、宝保育園は全職員で子ども達の「やってみたい」を応援していきたいと思います。

(園長 番場朋子)

※おまつりごっこの様子は以下のリンクからご覧いただけます。

令和3年6月1日

「ブラブラ期」

廊下から小さな足音が近づいてきます。

事務室の前で止まると、ガラス戸に張り付いた顔がこちらを覗いています。りす組のA君です。「A君、おはよう!」事務のW先生が声を掛けると、「ニッ」と嬉しそうな顔をしました。その後、金魚の水槽を見に行き、泳ぐ様子をじっと観察しています。W先生と一緒に餌をあげると、今度は事務室の中を通って図書室へ向かいます。

毎朝、部屋を抜け出して保育園内を散歩するのがA君の日課です。


数年前に朝日新聞で目にした記事を思い出しました。

北海道大学で発達心理を研究している川田先生が、2歳前後の「イヤイヤ期」を「ブラブラ期」に変えてはどうだろうと提唱した記事です。

「ブラブラ期」という言葉は、チベットの留学生の話から着想を得たそうです。彼女に「第一次反抗期」について説明しても、「そういう子どもは見たことがない」と言って腑に落ちないようでした。彼女の実家がある村では、乳児は親と一緒に畑や街の仕事場にが行き、4、5歳になると、農耕や牧畜を手伝うこともあるそうです。「では、2、3歳は?」と聞くと、「ブラブラしています」と笑って答えました。2歳児の躍動的な姿とこの自由な語感がピタッと合うなと川田先生は思ったそうです。

その村では、2歳前後の子は排泄したくなったら道ばたでして通りかかった大人にお尻を拭いてもらい、お腹がすいたら近くの家を「コンコン」して「ごはんください」というのが日常だというのです。 


保育園での様子を見ていても、この年齢の子ども達は、「実に子どもらしい子どもだな」と感じます。好奇心旺盛でじっとなどしていません。階段の上り下りを何度も繰り返したり、水たまりに足を入れてみたり、ひたすらダンゴムシを集めたり、砂の感触が楽しくてまき散らしてみたり、ブロックで遊んでいたかと思うと、友だちが持っている恐竜がほしくなったり…。楽しいときは大笑いし、思い通りにならないと泣いて怒り、寂しくなったら抱っこをせがむ。ありのままで、ユーモラスで、なんといっても自由人です。


2歳前後はちょうど自我が芽生える頃です。何でも自分でやりたがったり、親の言うことに「いやだ」と反発したりするので、子育てに悩む方も多いでしょう。私自身も息子の「イヤイヤ期」には悩まされたものです。靴が気に入らないと投げ飛ばす、出掛ける前なのになかなか遊びをやめない、お風呂に入れるのもひと苦労でした。


「イヤイヤ期」というと、どうやってイヤイヤを封じ込めるかに注力してしまいますが、「ブラブラ期」といえば、どうやって子どもをブラブラさせるかを考えます。つまり、子どもがやりたいと思うことをできるだけやらせてあげる方法を考えればいいのです。こちらの方がずっと楽しそうです。

大人はつい、世間から見て好ましい行動や能力を早く身につけて欲しいと願うあまり、「ブラブラ」をわがまま等と否定的に見てしまうのかもしれません。

でも、子どもに「どっちがいいか」を選択させてあげたり、「長靴は雨の時だけ」、「パジャマで保育園へ行ってはいけない」等といった、大して危険のない価値を一方的に押し付けなければ、子どもも大人もずいぶんラクになる気がします。

そのうちに、今度は友達と遊ぶことが楽しくなり、自制心や協調性などが育ってきます。そして、少しずつルールやきまりも理解して守れるようになるでしょう。


さて、図書室に向かったA君は、本棚から大好きな電車の絵本を見つけて引っ張り出しました。お目当ての電車を探しています。そばではW先生が掃除をしながら見守っています。

そこへ、りす組の先生が迎えにきました。ひとしきり園内散歩を楽しみ、満足したのでしょう。先生と一緒に絵本を棚に戻すと、手をつないで自分の部屋へ戻って行きました。

(園長 番場朋子)

令和3年5月6日

「赤ちゃん卒業」

「今日は、きりん組(4歳児)のSちゃんが、ことり組(1歳児)のH君とよく遊んでくれました」と、N先生の報告が始まりました。今日の保育で一番心に残った出来事です。

「Sちゃんが使っているおもちゃをH君が欲しがった時も、”いいよ・使いな”と譲ってくれました。お礼を言うと、”あたし、もう赤ちゃんやめたんだ。だから全然いいよ”」と言ってくれたので、とても嬉しい気持ちになりました」


宝保育園では、0歳から6歳まで90名近くの子ども達が生活しています。

子ども達の様子を見ていると、同じ年齢の子だけでなく異なる年齢の子ともよく遊んでいることが分かります。1歳児が乗る三輪車を年長児が押してあげたり、鬼ごっこや虫探しのグループに年下の子が混じって遊ぶ姿は、毎日のように見られます。泣いている赤ちゃんがいると「ママに会いたいのかな」と心配し、子守唄を歌ってくれる子もいます。まるで、大家族の兄弟姉妹のようです。

そのような様子を見ていると、子ども同士の関わりは、大人が指導する以上に豊かな「学び」があることを感じます。ケンカやトラブルも日常茶飯事ですが、日々の遊びを通して、人との関わり方やルールを覚え、相手を思いやる気持ちが育つのでしょう。

3人きょうだいの末っ子で甘えん坊のSちゃんは、今まで譲ってもらうことが多かったのかもしれません。きりん組に進級し、小さい友だちと関わる中でお姉さんの意識が芽生えたのでしょう。「赤ちゃん」をやめる決意をしたSちゃんに、心の中で拍手を送りました。


さて、N先生の報告には続きがありました。

「新入園児のH君は、先週までお母さんを追って泣いていたのが嘘のようです。すっかり保育園に慣れてきて、笑顔もみられるようになりました。これからも、子ども達が居心地がいいと思える、安心できる環境をつくっていきたいなと思います」

嬉しそうにほほえむN先生もまた新人先生です。この1か月は慣れない仕事に緊張の連続だったと思います。Sちゃんの優しさとH君の笑顔に救われたのは、誰よりもN先生なのでしょう。


保育園は子どもも大人も成長する場です。人との関わりをたくさん経験しながら、みんなで少しずつ成長していきたいと思います。(園長 番場朋子)

令和3年4月1日

「宝保育園へようこそ」

入園・進級おめでとうございます。

境内の桜が満開を迎え、いよいよ新年度がスタートしました。

今朝出勤すると、早く登園していた子が、「今日からぞう組だよ」とこっそり教えてくれました。進級を楽しみにしていたのでしょう。誇らし気な顔が印象的でした。


0歳、1歳児のクラスからは、泣き声の大合唱が聞こえてきます。

しばらくすると、先生たちがおぶいながら園庭に出て来ました。「いっぱい泣いていいのよ」、「来てくれてうれしいな」子ども達に優しく声をかけています。

いつの間にか、泣き止んだ子が先生の背中から子ども達が遊んでいる様子をじっと見ています。ベビーカーで揺られていた子は、眠ってしまったようです。

真新しい黄色の帽子をかぶったAちゃんが、おんぶされた子の顔をのぞきこんで、あやしている様子もみらます。ついこの前まで自分が抱っこされていたのに、すっかり頼もしいお姉さんの顔です。

心地よい春風が、子ども達の頭をそっと撫でていきました。

「すぐに慣れるから大丈夫よ」やさしくささやいているようです。


この春、新しいお友達を16名迎え、新しい先生も2名加わりました。宝保育園に新しい風が吹く予感に、子どもだけでなく私もワクワクしています。

半面、新しい環境に戸惑い、緊張した表情を見せるお子さんもみられます。環境の変化が大きいこの時期は、保育園で楽しく過ごせるよう、子ども達ひとりひとりの気持ちに寄り添いい、全職員で温かく迎え入れたいと考えています。どうぞ安心してお子さんをお任せ下さい。そして、ご心配なことがありましたらどんなことでもご相談ください。


宝保育園では、日常保育を大切にした「子ども主体」、「遊び中心」の保育を進めるともに、子育てのパートナーとして、保護者の皆さんの思いに心を寄せながら、共に子どもの成長を喜び合いたいと考えています。

今年度もどうぞよろしくお願いいたします。(園長 番場朋子)