椋の木のおはなし

令和2年度のおはなし

令和3年3月1日号

「ののさまへ」

「これ、届けてください」

郵便係の子ども達が手紙を持ってきました。四つ折りに畳まれた紙には「ののさまへ」と書いてあります。差出人はどうやらぞう組のR君のようです。開けてみると、たどたどしい字でこう書かれていました。

「ののさまへ いつもありがとう」


年明けから、ぞう組を中心に「お手紙ごっこ」が流行っています。友達や先生に書いた手紙を部屋のポストに入れると、当番の子ども達が宛名を見て配達する仕組みです。ポストの脇に書き方が表示されていて、先生お手製の切手もあります。

今朝はぞう組のE君がおじいちゃんに宛てた手紙と、うさぎ組のMちゃんがママに宛てた手紙がポストに投函されていました

それにしても、「ののさま」宛ての手紙は初めてです。配達係さんはどこに届けたらいいか分からず、困った挙句に私のところに持ってきたのでしょう。


「ののさま」というのは仏様の幼児語です。宝保育園は真言宗豊山派の延命寺が母体です。園では、本堂に安置されている虚空蔵菩薩(こくぞうぼさつ)を親しみを込めて「ののさま」とお呼びしています。


昨年の春から夏にかけて3か月程、ぞう組は本堂で生活をしました。園舎内での「密」を避けるためです。

畳と線香の香りが漂い、見慣れない仏具がある非日常的な空間で、新生活が始まりました。保育室とは勝手が違い、最初は担任も子ども達も戸惑っていましたが、慣れてくると、案外居心地がいいという事が分かりました。畳に寝そべって絵本を見たり、正座でご飯を食べたりと、本堂ならではの体験も出来ました。入口の階段に腰掛けて、雨を眺めるのも楽しい時間でした。

いつからか、「ののさま おはようごさいます」と皆で手を合わせることが朝の日課になりました。ケンカの仲裁に入った子が「ののさまが見てるよ」と声を掛けることもありました。7月には、中止になった「みたままつり」の代わりに、ぞう組だけで式典を行いました。境内で摘んだ花を「ののさま」にお供えし、お焼香の仕方を教わりました。

カナヘビの赤ちゃんが生まれたのも、うさぎのムックのお葬式も、みんな本堂での体験です。


例年以上に「ののさま」を身近に感じて過ごしてきたぞう組の子ども達にとって、「ののさま」に手紙を書くというのは、ごく自然なことなのかもしれません。

子ども達の心の中に「ののさま」がいることを、私は大変うれしく思いました。


目には見えない何か大きな存在に「見守られている」という感覚は、生きていく上できっと心の支えになると思います。人生には良いことも悪いこともあります。良いことがあれば、見守られていることに感謝し、反対に、嫌なことがあっても、心折れることなく踏ん張る力となるでしょう。


ぞう組さんは、もうすぐ卒園です。保育園を離れ、小学校での生活が始まります。

新しい生活に戸惑うこともあるかもしれません。

でも、大丈夫ですよ。焦らず、少しずつ慣れていけばいいのです。

「ののさま」は、これからもずっと見守ってくれるのですから…。(園長 番場朋子)

令和3年2月2日号

「本物の豆」

「園長先生、たすけてください」

きりん組のH先生が困った顔をしてやってきました。

話を聞いてみると、子ども達が節分の豆まきにどうしても本物の豆を使いたいと言って聞かないので、園長からも話してほしいということのようです。

当園の節分では毎年大豆の煎り豆で豆まきを行っていました。ところが昨年、島根県で幼児が豆を気管につまらせて亡くなる事故がありました。厚生労働省からも注意喚起の通知がきたばかりで、園では安全のために他のもので代用しようと決めたところだったのです。


きりん組では不満そうな表情の子ども達が私を待ち構えていました。

「どうして本物の豆じゃダメなんですか?」

K君が真剣な目で質問してきます。

「それはね・・・」きりん組の子ども達に分かりやすく説明したつもりでしたが、次々に手が上がります。

「境内でやればいいと思う」

「食べないように気を付けるよ」

「段ボールで壁を作って赤ちゃんが入れないようにするといいんじゃない?」

解決方法を考えて教えてくれます。

困ったなぁ・・・。子ども達を納得させる回答が見つからず、どうやってこの場を切り抜けようかと考えていると、Aちゃんがおもむろに口を開きました。

「お豆はね、ロピアで買えるよ」

どうやら園長が豆を使わせてくれないのは、豆を売っている場所を知らないからだと思ったようです。「ナリタヤでも売ってたから、ぼくたち買ってくるよ」T君の提案に他の子どもたちも盛り上がります。

ここで私は一計を案じました

「じゃあ、こうしよう。保育園では、本物のお豆は使いません。その代わり、みんなで今度お買い物に行っていいですよ」

子ども達がこの提案に賛成してくれたので、私はほっとしながら部屋を後にしました。


5歳頃になると、子ども達は物事をよく考えるようになります。大人の言うことに「なぜ?」「どうして?」と聞いてくることが増えてきます。納得がいかないと反発することもあります。「イヤイヤ期が収まったと思ったのに、また反抗期?」とため息をつく方もいるかもしれませんね。でも、それは成長の証なのです。

実は、このような成長の土壌となるのが、「たっぷりとした自由に遊ぶ時間」です。やってみたいことを自分で考え、納得いくまで挑戦する。友達とケンカをしながら相手の思いを知り、分かち合うことを覚える。そのような経験は大人が管理したスケジュールの中だけではまず出来ないでしょう。


数年前に他市の小学校に勤務していた保護者から聞いた話を思い出しました。

昼休みに「先生、何して遊べばいいですか?」と聞いてきた1年生がいたそうです。「何がしたいの?」と返したら、「わからないから先生決めて」と言われ大変驚いたそうです。そんな子が増えているとも…。

就学前に「大人主導」の教育・保育を受け、さらに習い事が多い生活では、自由に遊ぶ時間はどれほどあるのでしょうか。与えられた課題をこなして大人の評価を受けることに慣れてしまえば、自分が本当にやりたいことすらわからなくなってしまうのは当然でしょう。

私たちが従来の保育を見直し始めた大きな理由がそこにあります。


さて、きりん組では、「本物の豆」の代わりにチラシを丸めて作ることにしたようです。折り紙や牛乳パックで箱を作り、鬼との対戦を待ちわびています。

子ども達の元気な声で、鬼もコロナもびっくりして退散するかもしれませんね。

コロナがいなくなったら、みんなでナリタヤにお買い物に行きましょう。

(園長 番場朋子))

令和3年1月4日号

「家庭とつながる保育」

明けましておめでとうございます。

年末年始はご家族でゆっくり過ごされたでしょうか。

休み中に、買い物先などで何組かのご家庭と出会いました。家族に囲まれ、嬉しそうな子ども達の笑顔が印象的でした。

暮れには、きりん組(年中児)のT君一家に会いました。お父さん、お母さん、それにお兄ちゃんと一緒でした。お休みはどうしてるのと尋ねると、お母さんからこのようなお話を聞くことが出来ました。


休みに入ってすぐに、T君が「庭でキャンプがしたい!」と言い出したそうです。

お母さんは、ぞう組(年長児)がやっていた「キャンプごっこ」の事だとすぐにわかりました。

ぞう組では、11月に「キャンプごっこ」を行いました。境内に段ボールで家を作り、担任が持ってきた本物のテントも張りました。火を起こして飯盒でご飯も炊き、夕方まで一日中そこで過ごしたのです。園庭には、その様子を羨ましそうに見つめるきりん組の子ども達の姿がありました。

T君は、そのことをよく覚えていたのでしょう。お母さんも、送迎時にその様子を見ていました。また、最近のT君の様子から、ぞう組さんに憧れを抱いていることを感じていました。ドッジボールやリレーを一緒にやったこと、ぞう組の男の子から「おい、T!」と声を掛けられていることを、得意気に話していたそうです。


T君の希望を叶えるため、お父さんとお母さんは段ボールをたくさん集めました。小学生のお兄ちゃんも手伝い、その日は夢中になって段ボールの家を作ったそうです。

「この寒空の中、朝食も昼食も段ボールの中で食べたのですよ!」お母さんが苦笑しながら教えてくれました。「それは楽しかったでしょう」と聞くと、T君は嬉しそうにうなずきました。


別れ際に、お父さんから「年明けに会社の大きなカレンダーを持っていきますよ」と申し出がありました。飾るのではなく、子ども達の遊びに使って欲しいとのことです。「大きい紙は、絵を描いたり、工作したり、使い道が多いでしょう」と。何よりの「お年玉」です。


昨年は、多くの行事を中止や変更し、保護者参加の行事はぞう組のみでした。園での様子は、送迎時やクラスだよりでお伝えしていましたが、直接見て頂く機会が少なく、果たしてどのくらい伝わっているのだろうかと心配でした。

けれど、T君のお父さん、お母さんのお話から、家庭と保育園が確かにつながっていることを感じ、大変うれしく思いました。


新しい年は、「遊び中心」の保育をさらに進めるとともに、家庭との「つながり」を大切にしていきたいと考えています。

今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

(園長 番場朋子)

令和2年12月1日号

「保育園のカレーライス」

給食室からカレーの美味しそうな匂いが漂ってきました。

「今日は肉じゃがのはずだけど…」と不思議に思っていると、栄養士のK先生が小皿を乗せたお盆を持ってやってきました。小皿には試食のカレーライスが盛られています。


「カレールーを手作りしたい」と相談されたのは1週間ほど前でした。体に良くて美味しい給食を誰よりも熱心に考えているK先生です。ただ、ルーから作るとなると、手順などが大

きく変わります。調理スタッフの意見も聞かなくてはなりません。それぞれの立場から意見を交換し、最終的に「子ども達のために」と給食室一丸で取り組むことになりました。

調理師のOさんが布佐小学校のレシピを持っていたので、それをもとに幼児用にアレンジすることに決まりました。(※我孫子市の小中学校ではカレールーを手作りしています)


保育の質の向上への取り組みは給食も例外ではありません。保育の見直しと連動して、給食室でもメニューや食材、調理法を見直しています。

月1回の給食会議には、給食室のスタッフ全員と保育のリーダーが参加します。

「子どもの好き嫌いは当たり前。まずは楽しく食べることを大切にしよう」という保育の思いと、「安全で質の良い食材を使い、出来るだけ手作りの給食を提供したい」という給食室の思いが、時にはぶつかることもありますが、素敵なコラボレーションを起こす大切な時間です。

先月の会議では、絵本に描いてある食べ物が子ども達の憧れになると保育士から提案があり、『ぐりとぐら』に登場する「カステラ」をおやつで提供することになりました。給食室でもその絵本を読み、忠実に再現するために大きなフライパンでクラスごとに焼きました。「ぐりとぐら」に扮した栄養士が目の前で切り分けると、「同じだね!」と子ども達は目を丸くして大喜びでした。(※園だより参照)


さて、何度も試作を重ねて登場した「カレーライス」は、子どもには少し辛かったようです。保育室を巡回すると「辛い」との声が多く、K先生も少し落ち込んでしまいましたが、ぞう組のH君が「辛いけど、美味しいよ!」と言ってくれた言葉が励みになったようです。早速、給食室に戻り原因を探ります。その後、りんごジャムの量を見直すとの報告を受けました。次回はきっとうまくいくでしょう。


10月に育児休業を終えて復帰したK先生は、2人の子どもを別々の保育園に預けながらの勤務です。大変さが想像できます。それでも保育園給食への熱い思いは変わりません。そして、K先生の思いに賛同し、手間をかけて美味しい給食に仕上げるベテランの調理スタッフもまた、子どもがいるお母さん達です。先輩ママとしておおらかに見守り、応援してくれています。

宝保育園の給食は、プロフェッショナルな給食先生たちの愛情とチームワークで作られています。


コロナが落ち着いたら、保護者の皆さんにも、自慢の「カレーライス」を試食してもらいたいなと考えています。楽しみに待っていて下さい。

(園長 番場朋子)

令和2年11月2日号

「ハロウィン」

「仮装して散歩に行っていいですか?」

きりん組のA先生から相談されました。


ポリ袋や画用紙で衣装を作ったそうです。先週から、きりん組(4歳児)ではハロウィンの衣装作りが盛り上がっています。部屋に行ってみると、棚の上には色とりどりの帽子が並んでいました。マントには花や星の模様がつけられています。自分で切りぬいたのでしょうか、仮面の目の部分がいびつな丸や三角にくり抜かれています。試行錯誤しながら作った様子がうかがえます。

こんなに素敵な衣装で出掛けたらどんなに楽しいでしょう。どうせ行くなら…と思い、散歩の途中にあるSさんとEさんの家に電話をかけてみました。訪問してもいいですかと聞くと、「いいですよ」とこころよく引き受けてくれました。 


「目印は、折り紙のかぼちゃのお家だよ」

出発前に先生が教えてくれました。玄関に貼っておいてもらう約束です。子ども達は「かぼちゃ」を手がかりにお家を探します。

誘導ベストを着たHちゃんのお母さんもいます。前日に付き添いをお願いしました。子ども達の安全を見守ってくれる心強い助っ人です。

「あそこに、みかんがたくさんあるよ」一軒一軒、目を凝らして見ると、いつもの散歩では気付かなかった新しい発見もありました。


「かっこいいね~」工事中のオジサンが声を掛けてくれました。事務所の窓からのぞく事務員さんも、みんな笑顔で見守ってくれています。なんだかいつも以上に注目されてちょっとくすぐったい気持ちです。


「あった!このお家だよ」先頭を歩いていたI君の興奮した声が聞こえました。

「ほんとだ、かぼちゃあるね」子ども達が駆け寄ります。玄関には折り紙のかぼちゃが貼ってありました。

子ども達が注目する中、A先生がインターホンを押しました。

ドアが開き、籠を抱えたSさんが出てきました。マスクをしていても優しそうな笑顔が分かります。

「トリック オア トリート!※」

せーので魔法の呪文を唱えました。練習してきたのでバッチリです。

「はい、どうぞ」 Sさんが差し出した籠にお菓子が入っているのが見えます。

「ありがとう!ハッピーハロウィーン!」子ども達のにぎやかな声が響きました。


「このお菓子、今日はここで食べようか」

お菓子をもらって公園に到着したところでA先生が提案しました。今日はいろいろと特別です。

小さなおせんべいとラムネ1個。「内緒だよね」と言いながら、大事そうに食べる子ども達。いつもより美味しく感じます。お菓子の袋には、「こうもり」と「かぼちゃ」の折り紙も入っていました。事務室の先生達がこっそり入れておいてくれたのです。


「こういうのいいですね、地域の方とも触れ合えて。子ども達も楽しそうですね」

Hちゃんのお母さんが声をかけてくれました。新しい住宅街では難しいだろうと感じたそうです。宝保育園をよく知っている地域だからなのでしょうと話してくれました。


お菓子を食べ終えた子ども達は、それぞれに好きな遊具で遊び始めました。

子ども達が脱いだ衣装の上に、赤く色づいた葉がハラハラと舞い落ちてきました。


今年は大きな行事はなくなってしまいましたが、かわりに、子ども達の遊びから発展した小さなイベントが日常保育を彩っています。


※「トリックオアトリート」は「お菓子をくれなきゃ、いたずらするぞ!」という意味。

(園長 番場朋子)

令和2年10月1日号

「子どもに合った生活リズムを」


心地よい秋風が、カーテンを揺らしています。

昼下がりの園舎内はとても静かです。午睡(昼寝)をしている子ども達の寝息が聞こえます。

園庭では、年長の子ども達が先生と鬼ごっこをしています。滑り台に寝そべったり、砂場のふちに泥だんごを並べたりしている子もいます。好きな遊びを思い思いに楽しんでいます。

ぞう組は昨年の秋で午睡を終了しました。午後は園庭やホールで2時間ほど遊んで過ごしています。ここ最近、きりん組の姿も見られます。午睡を終了した子ども達です。きりん組同士で遊んでいる姿も見られますが、ぞう組に混じってドッチボールや虫捕りをしている子もいます。憧れのお兄さん、お姉さんから色々な遊びやルールを伝授されているのでしょう。

 

先日、午睡の時間などを見直すため、きりん組とうさぎ組を対象に「生活アンケート調査」を行いました。

これまでの午睡は、クラスごとに一斉に寝かせ、一斉に起こしていましたが、4歳頃になると脳が成長して必要がない子が増えてきます。無理に続けていると、夜寝るのか遅くなる傾向が見られます。そこで、ご家庭と相談しながら時間を短くしたり、終了したりすることにしたのです。中には午睡が必要な子もいます。その子たちが静かな空間でゆっくり休めるような配慮も大切にします。


長年子どもの様子を見ていますと、幼児期は「生活リズム」がとても大切だと感じます。寝不足や朝食抜きで登園する子は、不機嫌なことが多く、保育園で楽しく過ごすことができません。感情コントロールがうまく働かず、我慢ができなかったり、キレやすくなるような傾向もみられます。年齢に合った睡眠をとらないと、脳も体もうまく育たないのです。

「早寝・早起き・朝ごはん」 聞きなれすぎたフレーズですが、幼児期に適切な生活リズムを身に付けることは、習い事をするよりもはるかに重要です。

 

最近、保護者の方から「夜9時前に寝るようになりました」「機嫌よく起きて、朝ごはんもよく食べてくれます」「早く寝てくれるから、自分の時間ができました」とうれしい声が聞かれるようになりました。 

午睡を終了した直後は、夕食前に寝てしまうこともあるかもしれませんが、2週間もすれば、リズムが整ってくるでしょう。

子どもに合わせた生活が難しいご家庭もあると思います。夕食を簡単にしたり、帰宅の遅いお父さんとの触れ合いは朝や週末にするなど、出来ることから工夫して取り組んでみてください。


さて、園庭ではお片付けの時間になりました。給食室からおいしそうな匂いがします。おやつはマドレーヌのようです。

今日も一日、身体を動かしてよく遊びました。

夜はぐっすり眠れるでしょう。

早めの夕食とお風呂を、お願いしますね。

(園長 番場朋子)

令和2年9月1日号

「子どもがやってみたいこと」


「一日一個ずつやってみよう!」

先週の話し合いで決まりました。


ぞう組では話し合いが盛り上がっています。「やってみたいこと」を出し合い、「どうしたらみんなで出来るか」を話し合っているのです。


「虫とりぼうけん」(冒険しながら虫採りをする)

「木のぼり」(一番先に登った人が勝ち)


楽しそうな意見がたくさん集まりました。

1か月が経った頃、とうとうホワイトボードに書ききれなくなり、担任が子ども達に相談しました。

「やりたいことがいっぱいになったけど、どうする?」

「じゃあさ、一日一個ずつやってみたら?」K君の発言に、他の子ども達も大賛成です。


記念すべき第1回は「かくれんぼ」に決まりました。暑さで園庭に出られないため、ホールで行います。鬼は担任のT先生。後ろを向いて数えている間、T先生はとても心配でした。

「こんなに見通しのいいホールに、20人の子どもが隠れられる場所があるのだろうか?」ところが、振り向いてみると誰も見当たりません。テーブルの下や体育用具のすきまに、実にうまく隠れていたのです。

子どもは与えられた環境を最大限に生かして遊ぶのが本当に上手です。


今日の「やってみたいこと」は、H君が提案した「青鬼オンライン」というゲームです。

鬼は3人、宝箱を見つける、アイテムはガスマスク…。スマホゲームを知っている子が教えてくれました。

他の子ども達も鬼のイメージをふくらませ話し合いに積極的に参加します。「鬼は雲の上にいるよ」「豆が伸びて高い所にも行かれる」色々なアイデアを取り入れ、ぞう組オリジナルゲームが出来ました。

もちろん鬼は担任の先生。鬼ごっこは逃げるのが楽しいのです。「鬼につかまったら死なないけど気絶する」「でも誰かに助けてもらうことができる」

遊びながらルールもどんどん変化します。大人から見ると訳が分からない遊びに見えますが、子ども達は生き生きと楽しそうに遊んでいます。

かくれんぼはこういうもの。鬼ごっこはこういうもの。固定概念でカチカチになった頭の自分が恥ずかしくなります。子どもはその豊かな想像力で、大人がつけたケチなハードルを

軽々と超えていくのですね。


 運動会と発表会を中止して、新しい行事を保育の中で行うことをお知らせしました。コロナ禍でのやむを得ない変更ではありますが、一方で、私達はこの取り組みを「行事の見直し」の一環として捉えています。「子ども主体の活動であること」「日常保育から切り離さないこと」を念頭に、子ども達のやりたいことを取り入れた楽しい行事にしたいと考えています。


かくれんぼが上手なぞう組さんから挑戦状です。

この中に子どもが4人隠れています。あなたは見つけらますか?


(園長 番場朋子)

「ムックのお葬式」

うさぎのムックが死んでしまいました。先週の金曜日のことです。小屋の隙間から入った野良猫にかまれてしまったのです。

突然のお別れに、大人も子どもも悲しくて涙がとまりません。それでも気持ちを奮い立たせ、お葬式をおこなうことにしました。ムックの死を受け止め、みんなで「ありがとう」を伝えたいと思ったのです。


ムックは、3年前に市内の小学校で生まれました。ピーターラビットのような茶毛のかわいらしい子うさぎでした。縁あって宝保育園でゆずり受け、子ども達と一緒に大切に育ててきました。ムックという名前は、当時の年長さんが園のシンボルツリーの椋の木にちなんで付けてくれました。給食室でもらった新鮮な野菜が大好きで、モグモグと食べる姿が愛らしく、いつも子ども達に囲まれていました。


本堂で行われたお葬式には、ぞう組さんが参列しました。手の空いている先生や給食先生も駆けつけてくれました。祭壇には園庭に咲いているお花とラビットフードをお供えしました。ぞう組のKちゃんが描いたムックの絵も飾りました。

理事長先生がお経をあげ、順番にお焼香をしました。いつもの「おつとめ」とは違う雰囲気に、子ども達も神妙な表情で手を合わせます。


きりん組の子ども達は思い思いの絵を描いて持ってきました。

「遊んでくれてありがとう」そうつぶやく声が聞こえました。火葬場から戻ったばかりの小さな骨壺に、静かに手を合わせてムックの冥福を祈りました。


保育園での生活の中で、子ども達はたくさんの生き物と出会います。うさぎだけでなく、ダンゴ虫やカブトムシなどの小さな生き物との触れ合いは、子ども達に様々なことを教えてくれます。いのちに始まりと終わりがあることも…。

ぞう組では、飼育していたカナヘビが卵を産み、先月、その卵が孵化して赤ちゃんカナヘビが誕生したばかりです。「先生、生まれたよ!」と目を輝かして報告してくれた子ども達は、動かなくなったムックを見つめ、何を感じたでしょうか。

リセットで簡単に「生き返る」ゲームの世界では体験できないことです。


最後まで、たくさんのことを教えてくれたムック。

これからは、空から私たちを見守ってくれることでしょう。

時々、子ども達と一緒にムックを思い出し、空を見上げたいと思います。


ムック、ありがとう。

どうぞ安らかに眠ってください。

(園長 番場朋子 令和2年8月3日)

「せんせい、きたよ!」

6月の終わりのことです。

午睡中の会議を終えて廊下に出ると、玄関ドアの向こうにランドセルが見えました。「先生、来たよ!」元気な声とともに3月に卒園したR君が飛び込んできました。周りには、K君、Yちゃん、Aちゃんの姿もあります。4人の背中にはピカピカのランドセルが揺れています。にぎやかな声に先生達も集まってきました。「よく来たね」「ランドセル見て!」

久しぶりの再会に会話も盛り上がります。

ところがです。周りを見渡しましたが、誰のお母さんも見当たりません。

念のため聞いてみました。「学校から帰る途中かな?」「そうだよ!」誇らしげに答えてくれましたが、子ども達を囲んでいた先生達の顔がはっとなりました。

「寄り道をしてはいけないよ。今度はお母さんと一緒に来てね」と話し、すぐに帰るよう促しました。担任だったA先生が信号を渡るのを見届け、その後は仕事を終えた調理員のOさんが彼らに付き添ってくれることになりました。

お家の方が心配しているといけないので、小学校にも連絡を入れました。

 帰宅した子ども達は、お家の人や担任の先生からよくよく注意を受けたでしょう。彼らも「やってはいけないこと」を学び、「なぜいけないのか」「どうしたらいいのか」を考える機会になったと思います。


 今回の件は私にも責任がありました。

実はこの少し前にR君に会い、保育園に遊びにおいでと声をかけたのです。R君はそれを覚えていたのでしょう。そして、たまたま保育園の友達と帰ることになり、きっとみんなで行けば先生が喜ぶに違いないと思ったのでしょう。

伝え方には十分気を付けなければいけないですね。私も反省です。


 コロナのせいで、「一年生あるある」ハプニングも2か月遅れでやってきましたが、保育園も7月からようやく全員集合です。これから色々なトラブルやハプニングがあるでしょう。「失敗から学ぶ」ことを大切にしながら、それと同時に、大きな怪我や事故にはつながないよう気を引き締めていきたいと思います。(園長 番場朋子 令和2年7月1日)

「ICT化でもっと楽しい方向へ」


 「園だより」は今号で紙面の配信が最後になりました。

「紙で見られないのは寂しい」「パソコンが苦手だから困るわ」という戸惑いの声も聞こえます。実は、私も得意な方ではありません。ですからご不安な気持ちはよく分かります。とはいえ、スマホを見ない日はないし、実際のところ無いと困ります。皆さんもそうではないでしょうか?

 ここ数年で宝保育園ではICT化がずいぶん進みました。導入前は、会議などの資料が紙でなくなることに不安を感じていましたが、始めてみると意外に問題はありませんでした。むしろ、伝達がより確実になり、効率的でより深い話し合いが出来ることがわかりました。なによりも、職員の事務仕事の効率化によって、今まで事務作業で取られていた時間を、子どものために使うことが出来ました。

ですから、今回の改革も、保護者の皆さんに園の様子を今まで以上に分かりやすく、タイムリーにお伝えできると確信しております。

 また、配布したアカウントとパスワードがあれば、どの端末でも見ることが出来ます。お母さんだけでなくお父さんも、おじいちゃんやおばあちゃんも、ご自身のスマホで見ることが出来ますので、ぜひ登録をおすすめして下さい。もし、お困りのことがありましたら、お気軽に事務室へお立ち寄り下さい。得意な先生が操作方法を分かりやすく教えますよ。私も一緒に習おうと思っています。 (園長 番場朋子 令和2年5月)


令和2年5月22日号

「お返事、ありがとうございます」

たくさんの葉書が届きました。

「お家の様子をお知らせ下さい」と手紙を付けて、登園自粛をしてくれているご家庭に葉書をお届けしました。毎日、数枚ずつ届く葉書が楽しみで「今日は誰からくるかな」とワクワクしながら待っています。その中からいくつか抜粋してご紹介します。


どんな遊びをしているのかな?

近くの公園で電車を見ています」「プランターに砂を入れて小さな砂場にしました」「サイクリングをしました」「公園でかけっこやマラソン」「小学生のお兄ちゃんのお勉強タイムで一緒にお絵描き」「お父さんが作ったブランコで遊んでいます」「DVDやYouTubeを観てみんなで踊っています」 お家の方も一緒に楽しんでいるようですね。


なにを食べているのかな?

「クレープ屋さんになって野菜やおかずを生春巻きの皮で巻き巻きして楽しんでいます」「朝昼夜問わず庭でご飯を食べています」「おじいちゃんの畑でイチゴ摘みしました」

うらやましい!


困っています

「トイレトレーニングが上手くいきません」「レパートリー切れ…皆さんがどう乗り越えているか知りたいです」 長い自粛生活ですから大変なこともありますよね…、あせらずいきましょう。レパートリー、参考になりましたか?


先生達へ

先生の似顔絵やひらがなでメッセージを書いてくれた子もいました。先生達、何度も読み返していましたよ。

「動画、楽しく観ています」「早く保育園に行きたいです」「先生方も頑張って下さいね!」温かいメッセージに、職員一同、励まされています。「給食おいしかったよ」の言葉には給食先生が感激していました。


頂いたハガキを見ていて、うれしくなりました。子ども達が元気でいることはもちろんですが、お父さんやお母さんが、お子さんと心を通わせながら頑張っておられること、大変な状況の中でも保育園を忘れずにいて下さっていることなど、温かい心に触れたからです。

新型コロナウイルスの収束はまだ先になりそうです。登園自粛も延長され、今後も感染に気を付けながら制約のある生活は続くでしょう。でも、身近な幸せに目を向けて日々を大切に送れば、きっと未来は明るい…。届いたハガキを見ていたら、そんな力強いメッセージが聞こえてくるような気がしました。

「ほいくえんであそぶのがたのしみです」

まだ一度も登園していない4月入園のA君からの手紙です。先生達も、君が来る日を楽しみに待っていますよ。

「のびのびと自分らしく」

入園・進級おめでとうございます

4月より、布佐宝保育園長のバトンを受け取りました。

これまで同様、「遊び中心」の保育方針の下、子どもの主体性を大切にした温かい保育を展開してまいります。大切なお子さん安心して預けて頂けるよう、職員一丸となって頑張ってまいります。どうぞよろしくお願いいたします。

 新年度が始まりました。担任の先生が変わり、お部屋も変わりました。新入園のお子さんにとっては、まったく新しい環境での生活が始まります。ちょっぴり緊張している子、お母さんと離れたくない子、様々な顔が見られます。

でも大丈夫ですよ、どの子も安心して楽しく過ごせるよう職員みんなで迎える準備はできています。安心してお任せください。

 ところで、私自身の保育園デビューは決して順調ではありませんでした。

 大勢の子どもやにぎやかな音楽がとても怖かったのです。忘れたタオルを「取りに行く」と言って、自宅に逃げ帰ったこともあります。何度も逃げ出すので、とうとう保育室に鍵を掛けられてしまいました。そして、たった1ヶ月で退園することになりました。私は喜びましたが、母はどんなに困惑したでしょう。 退園から数ヵ月後に再入園した私は、今度は少しずつ保育園が好きになりました。友達ができたのです。ブランコや鉄棒で一緒に遊ぶうちに仲良くなり、友達と一緒に過ごす時間がとても楽しく感じられるようになったのです。

先生とも仲良くなりました。苦手なおかずを食べさせてもらっている子を見て、私も「食べさせて」と言ってみました。先生は笑って食べさせてくれました。 先生に甘えてもいいのだとわかったら保育園が安心できる場所になりました。大好きな友達や先生、楽しい遊びを見つけた私は、もう保育園が怖いところではなくなりました。

 子どもによって、好きなことや苦手なことは違います。保育園にすぐになじめる子もいれば、時間がかかる子もいます。給食が好きな子もいれば、苦手な子もいます。友達と遊ぶのが好きな子もいれば、一人で遊ぶ方が好きな子もいます。子どもそれぞれです。

 保育園は子どもが集団で生活するところです。でも、「集団行動」を強制的に学ばせるところではありません。年齢に応じたルールや決まりごとはありま

すが、まずは、信頼できる大人に甘えを受け止めてもらいながら、のびのびと自分らしく過ごしてほしいと思っています。

 あせらずにいきましょう。新しい環境に少し戸惑っている私自身にも言い聞かせています。(園長 番場朋子 令和2年4月)