椋の木のおはなし

「椋の木のおはなし」は布佐宝保育園長による保育エッセイです。(ほぼ)月に一度発行いたします!

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令和6年度のおはなし

令和6年7月1日

「地域に支えられて」

敬愛短期大学のF先生から1冊の本が届きました。

昨年の夏に、F先生から突然連絡があり、園に訪ねて来られました。ホームページに掲載した職員の論文を読み、当園の保育に興味を持たれたそうです。研究のお役に立てればと、当園の取り組みや子ども達の様子をお伝えしました。

後日、F先生から「宝保育園の地域との関わりを教科書に紹介させてほしい」と連絡がありました。教科書の完成は5月頃と聞いていましたので、完成を楽しみに待っていたところでした。


当園は、創立以来ずっと地域に支えられています。

ここ数年は、さつま芋畑の整備、散歩の付き添いなど、保育に密接に関わっていただき、自治会や地域の方の協力がなくては成り立たない程です。他の園からも「地域と仲が良くてうらやましい」とよく言われます。

以前は、地域の交流というと、イベントや高齢者施設でダンスや歌を披露したりするものが大半でした。特に敬老の日がある9月は、複数の高齢者施設への訪問があり、子ども達の遊びがたびたび中断されていました。地域交流に課題を感じていたところにコロナが流行し、関わりが一切なくなる年もありました。無くなってみると、あらためて、地域の中で子どもを育む大切さを感じ、また、近隣の方から「保育園の様子が全くわからない」との声をいただきました。そこで、「どんなことなら出来るか」と職員で話し合い、紙面の園だよりを配布したり、保護者向けの講習会にお招きしたりと、園の様子を知ってもらうための取り組みを始めました。近隣の方々と直接お話をする機会が少しずつ増え、人形の布団が足りないことを知った手芸グループの方が布団を作ってくれたり、ハロウィンの衣装を着た子ども達が近所のお宅を訪問をさせてもらったりと、新しい交流が生まれてきました。ここ数年は、近隣の方々が作った「ひな人形」を展示して、「ひなまつり」を開催しています。子どもだけでなく保護者の方にも好評です。


届いた本の表紙には『新しい時代の保育者』と書かれていました。保育士の養成校などで使用されるそうです。その中で、F先生は「地域との連携」について当園の取り組みを紹介し、「地域の人々との良い関係があるからこそ成り立つこと」と評価してくれました。そして、「地域の人々と保育者がそれぞれの強みを生かして、子どもを取り巻く大人が無理なく楽しく「子ども」を育む姿勢でいることが、長続きする秘訣」と書かれていました。


今朝は、自治会長さんが竹を切って運んで来てくれました。お願いしていた七夕飾りの竹です。よく見ると、子ども達が飾りやすいように下の枝を落として整えてありました。心遣いに頭が下がります。

これからも地域の皆様に支えて頂きながら、子どもも大人も無理のない楽しい交流を続けていきたいと思います。(園長 番場朋子)   

令和6年6月1日

「きょうはいい日だね」

うさぎ組の部屋では、Rちゃんが粘土遊びをしていました。お父さん、お母さんと一緒に作ったおだんごが粘土板に並んでいます。「何だか楽しいね」とRちゃんの嬉しそうな声が明るく響き、周りの先生や親子もみんな笑顔になりました。

5月の土曜日に、うさぎ組ときりん組で「親子レク」を行いました。普段の子ども達の遊びを一緒に楽しみ、保育園の様子を知ってもらおうと計画しました。どちらの日も気候に恵まれ、部屋だけでなく園庭や境内でも遊ぶ姿が見られました。Mちゃんはお母さんと鬼ごっこを楽しんでいました。昨晩から鬼ごっこで遊ぼうと約束していたそうです。Tちゃんはお父さんと滑り台で遊んでいます。初めて滑ったお父さんは「思ったより早いね」と驚いていました。他にも、虫探し、砂場遊び、ダンス、工作遊びなどを楽しんでいる様子が見られます。保育園が穏やかな空気に包まれ、子ども達の表情はとても満足そうに見えました。

その様子を見て、幼い頃の楽しかった事を思い出しました。

家族でドライブに出掛けた帰り道。立ち寄った小川で、母がクマ笹で舟の作り方を教えてくれました。父や兄妹と作った笹舟を小川に浮かべ、流れていく舟を夢中で追いかけたことを覚えています。父と母も楽しそうに笑っていたその光景を思い出すと、今でも温かく幸せな気持ちになります。

母から聞いた話では、その日はわざわざ遠くの大きな遊園地に出掛けたそうです。観覧車やジェットコースターなどたくさんの乗り物に乗り、アイスクリームやお土産も買って、お財布がすっからかんになったと聞きました。それなのに、子ども達が「楽しかった」と口を揃えて言うのは、帰りがけに寄った小川でのひととき。「何だか複雑だったわ」と母が不満気に言うので、今でも我が家の笑い話になっています。

子どもが本当に望んでいることは、実にささやかなものです。遊園地や新しいオモチャも嬉しいけれど、それよりも、お父さんやお母さんが遊んでくれることが一番嬉しいのです。自分に向き合ってくれることが嬉しくて心が満たされるのでしょう。鉄棒をするところを見ててもらったり、話を聞いてもらったり。大人にしたら取るに足らないことかもしれませんが、その積み重ねが子どもの心を育てるのだと思います。

「きょうはいいひだね」きりん組のMちゃんがお母さんに言ったそうです。Mちゃんはお母さんとふたりで参加しました。妹はお留守番のようです。お母さんと遊ぶMちゃんの笑顔がいつもよりも輝いて見えました。

子ども達の毎日が「いいひ」になるよう、保育園でも子ども達のささやかな「望み」に耳を傾け、心を寄せて応えてあげたいとあらためて思いました。(園長 番場朋子)

令和6年5月1日

「小さな科学者たち」

「園長先生、ちょっと来て!」 事務室で仕事をしていると、きりん組のRちゃんが興奮気味に私を呼びに来ました。園庭の紅葉の木の周りに、子ども達が集まっています。「生まれたんだよ」「鳴き声が聞こえる」「しーっ、静かに!」子ども達が口々に教えてくれます。

先月から、紅葉の木の洞(穴)にシジュウカラのような小鳥が出入りしていました。一週間ほど前にM先生が洞の中に卵があることに気付き、みんなで見守っていたようです。「ほら、赤ちゃんが見えるよ」と言われ覗き込みましたが、老眼のせいでしょうか、何も見えません。別の子に「ここに耳を当ててみて」と促され、紅葉の木にそっと耳を当てると、「ピーッ、ピーッ」とかすかに鳴き声が聞こえてきました。小さな小さな声ですが、命の輝きを感じ、胸が熱くなりました。それにしても、にぎやかな園庭でよく気付くものです。子ども達の観察力にはいつも驚かされます。


鳥だけではありません。ダンゴムシやアリなどの身近な生き物は子ども達の恰好の観察対象です。ぞう組ではダンゴムシを飼い始めました。給食室でもらった野菜クズを与えて、ダンゴムシが食べる様子を観察しています。前日あげた野菜が翌朝にはすっかりなくなってしまうほど食欲旺盛なことが分かりました。色々な野菜を与えるうちに、「かたい野菜よりも葉っぱの方をよく食べるね」「レタスにたくさん集まるから、レタスが一番好きなんじゃない?」と観察しながら推察をしています。

うさぎ組の子ども達はアリに夢中のようです。「アリは甘いものが好き」と自分達が持っている知識をもとに砂糖やはちみつを与えていましたが、最近ではカツオ節も食べることが分かったそうです。新たな発見で興味関心もさらに広がるでしょう。

ところで、ダンゴムシも食べきれない野菜くずは、2階のテラスにあるコンポストに入れているそうです。栄養士お手製の生ごみ処理機です。プランターに黒土を入れただけですが、黒土は微生物が多いため給食の残菜や野菜くずなどを早く分解してくれるのです。まるで生物学の研究所のようです。


小さな科学者たちのおかげで、私自身も身近な生き物にあらためて興味を持つようになりました。特にここ数年は、子ども達の興味から「鳥の博物館」に見学に行くことが多くなり、保育園周辺には鳥が多いことに気がつきました。利根川や手賀沼があるからでしょう。実は、宮の森公園でカワセミも見られるのですよ。

気持ちの良い季節です。お休みの日は、ぜひお子さんと一緒に身近な自然に目を向けてみて下さい。きっと、楽しい発見がたくさんありますよ。(園長 番場朋子)

令和6年4月1日

「成長を楽しみに待つ」

入園、進級おめでとうございます。

子ども達をお祝いするかのように、春の草花が生き生きと咲きほこり、本格的な春の訪れを感じます。境内や保育園にも、パンジーや菜の花など色とりどりの花が目を楽しませてくれています。チューリップや桜はまだのようですが、これから順番に咲き始めるでしょう。

ところで、花は種類によって咲く時期が違いますね。色だけでなく大きさや形も違い、それぞれ個性があり素敵だなと思います。

子どもも同じです。同じクラスの出来ている子を見ると、なぜか我が子が出来ていないことばかりに目がいきがちです。「なかなか保育園になれない」「言葉が出ない」「好き嫌いが多い」「お友達と遊べない」「ひらがなが書けない」…。つい心配になり、「出来るようにさせよう」と焦ってしまうかもしれません。でも、大丈夫ですよ。子どもはそれぞれ自分のペースで育っています。乳幼児期に周りの大人がやることは、無理に何かをやらせることではなく、しっかりと心の根を張れるように、温かい言葉と笑顔で子どもに接し、スキンシップをたくさんとることです。そうすれば、ちょっとやそっとの嵐でも折れないしなやかで強い心が育ち、おのずと出来ることが増えていくでしょう。ぜひ、おおらかな気持ちでお子さんの成長を待ち、お子さんの好きなこと、やってみたいことを一緒に楽しんでください。

今日から新年度が始まりました。新しいお友達10名を迎え、新しい職員も2名入りました。初めての保育園生活に緊張しながらお子さんと一緒に門を入った方もいるでしょう。進級してひとつ上のクラスになり、新しい環境に不安を感じる子もいるかもしれません。私たちは、どの子にとっても保育園が居心地のよい場所になるよう、一緒に楽しい遊びをたくさん探し、保護者の皆さんと共に、お子さんの成長を楽しみに待ちたいと思います。どうぞ安心してお子さんをお任せください。(園長 番場朋子)