令和2年度のひとりごと

「椋の木のひとりごと」は牧の原宝保育園長による保育エッセイです。(ほぼ)月に一度発行いたします!

過去のお話は、画面上部のメニューバーからどうぞ!(準備中)

令和2年度のひとりごと

令和3年3月25日号

「遊びの天才」                               

3月13日にゆり組23名による卒園式を挙行しました。卒園児には、以下のようなお祝いの言葉を贈りました。

「ゆりぐみさん。先生はずっと、みんなと宝保育園で遊んでいたいけど、みんなは「遊びの天才に」なったから次の「小学校」というステージに進みます。

どんなことが「遊びの天才」なのかを伝えますね。遊びを続けるのは簡単そうで、でも実はとっても難しいのです。

遊びの天才になるには、ハサミの使い方を覚えたり、ゲームのルールをマスターしたり、走ったり、転んだり、隠れたり、飛んだり、ともだちと一緒に玩具を使ったり、折り紙のやり方を教えてあげたり、嫌なことをいったら「ごめんなさい」って謝ったり、自分と同じ考えだったら「いいね!」って伝えたり・・・本当に沢山のことができないと「遊びの天才」にはなれません。

それから、小さなお友達におもちゃを貸してあげたり、泣いていたら「大丈夫?」って慰めてあげたりしないといけません。天才って大変ですね。

でもみんなは宝保育園でたくさん遊ぶうちに、こんなに沢山のことが出来るようになりました。だから、ゆりぐみさん、保育園は卒園です」と。

 話す私の目をじっと見つめる子、僕はそんなことできてるかなあいう顔をする子・・・話を聞く表情は様々でしたがその子なりに私の話を飲み込んでいるようでした。

「遊びの天才」はすぐにはなれません。本当に多くの体験を経て、嬉しい思いも、悔しくて悲しい思いもしてなれるのだと思います。私たちは日々子どもの姿を受け止め、出来る限り応援していきます。

 最近、ふたば組ではこんな姿がありました。

「今日、みんなが夢中になって楽しんだ遊びは、マンホールに少し溜まっている雨水を叩く遊びだ。水を叩いたり、石や葉を浸してみたり、水の上で足踏みをしてみたりとみんなでマンホールを囲み、賑やかだった。」(3月23日の保育日誌より)

興味を持ったマンホールの水に触れることで、水の感触、物が浮かんだり沈んだりすること、友だちも同じ楽しさを感じていること・・・沢山の事を学んでいます。順調に「遊びの天才」が育っているようです。

小さな体験をたくさん積み重ねながら、これからも多くの「遊びの天才」を育んでいきたいと思います。

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 コロナ禍での新しい生活様式に対応した1年も終わろうとしています。

今年度も本当に沢山のご理解とご協力をありがとうございました。

令和3年2月25日号 

「いいひと?わるいひと?」                     

♬ピンポンピンポーン♬

園内に緊急を知らせるチャイムが響きました。

子ども達が先生の近くに集まってきます。スピーカーから園長の声が聞こえてきました。

「お天気が悪くなりそうです先生たちは〇〇番にお願いします。子ども達を園内へ入れてください。」

晴れているのにどうして?という顔をしながらも、子供たちは先生の指示に従い保育室へ入りました。園内は水を打ったように静かです。担任から子どもの安否と人数の連絡が続々と事務室に入ってきます。全員無事です。この間3分弱。再度放送を入れました。

「お天気は大丈夫そうです。また、お庭やお部屋で遊んで良いですよ。」

種明かしをすると、じつはこれ、不審者訓練なのです。「〇〇番」は職員だけが知っている暗号です。番号に合わせて、不審者に気が付かれないよう子ども達を避難させます。

定期的に実施している防災訓練の成果でしょう。放送がかかると、子どもたちは遊びを中断して先生の話を聞きます。年度初めはスコップや三輪車などの玩具を手放せず駄々をこねる子もいましたが、今は随分速やかに避難できるようになりました。

その後、3歳以上の子ども達に2つの話をしました。1つは「みんな遊んでいたのにイヤダーって言わずに集まれてえらかったね。」ということです。遊びを急に中断させられるのはいやなものです。それでもいざという時にはその遊びを止めて、やるべきことができるようになったことをまず褒めました。

 2つめに下のイラストを見せて「いいひと」か「わるいひと」かの質問をしました。ほぼ全員が左側の男性は「わるいひと」。右側の男の子は「いいひと」と答えました。正解はどちらも「いいひと」にもなるし、「わるいひと」にもなるということです。そして、子ども達には、知らない人が声をかけてきたり、じっと見ていたら、それを先生やお父さんお母さんに知らせることがみんなのお仕事だからね、という話をしました。今は「いいひとか、わるいひとか」の判断が出来るかではなく、自分が不安に感じた人や物事を、信頼できる大人に伝えられるかが大切です。

その日の午後、園庭からA先生が不安そうな顔で私に報告に来ました。「遊歩道から見かけない男性がこっちを見ています。」えっ?早速?と思い遊歩道を見てみると、公園を管理している造園業者の方でした。不審者ではないものの確かに知らない人です。先生にも訓練の成果が早々に出ました。(園長 足立園恵)                             

令和3年1月28日号 

「葛藤」                       

すずらん組のA君が「ごめんね」とB君の頭を撫でています。A君がそんな風にお友達に謝る姿が気になり、担任に訳を聞いてみました。

室内遊びは「密」を避けるために、いくつかコーナーを設けて分かれて遊ぶように環境設定をしています。この日はプラレール、粘土、お絵かきの3コーナーでした。A君はプラレ-ルが大好き。自分なりの世界観でレールを繋げ、電車を走らせて遊んでいます。その世界に他の子が入ってくると、ついつい叩いたり、怒ったりしてトラブルになることが常でした。今日はB君がその世界に魅力を感じて入ってきました。A君はB君のことを叩いて追い出そうとし、B君は驚いて泣きだしました。

いつもは、そこで担任が入ります。ところが、この日は泣くB君を見てA君が「ごめんね。」と謝り、B君の頭をやさしく撫でたのです。

今までトラブルがあるたびに、A君に口で伝えることを話してきましたが、気持ちの折り合いがつかず、なかなかお友達に謝ることが出来ませんでした。担任が繰り返し伝えてきたことが実ったのか、自分の中での葛藤を乗り越えたのか。きっとA君の心のうちはこんなだったでしょう。

「自分だけでプラレ-ルで遊びたい」

「でも、みんなの玩具だし・・・」

「B君とは仲良しだし・・」「大好きな先生は、いつも仲よく遊ぼうね、って言ってるし・・・」

「B君が泣いてる。やっぱり・・・ごめんねしよう」

そんな葛藤を乗り越えての「ごめんね」だったのでしょう。


「葛藤」は「心の中で同時に相反するふたつの欲求が存在し、どちらにしてよいか決めかねている状態」を言います。「葛藤」という漢字は「葛(かずら)」や「藤(ふじ)」の枝がもつれてからむところからきているそうです。

最近の研究では生後7か月前後で現れる「人見知り」が葛藤の始まりだと考えられています。自分でどうしたら良いか決めかねている中で、ぐちゃぐちゃな気持ちになり、子どもはその不快感からイライラして癇癪を起こしたり「わあー」と泣き叫ぶ時もあります。

この時に愛着関係のある大人がそのままの子どもを受け止めることで子どもは安心して、自分でどうするか決めることが出来ます。こうして「自己決定力」が育まれていくといわれています。。イヤイヤ期や反抗期でみなさんも落ちこんだり、イライラすることがあると思います。大変ですが、我が子が自己決定力を育んでいると思ってそのままを受け止めてあげましょう。


 今回のコロナウィルスによる登園自粛や休園措置を通じて、お父さんやお母さんの「葛藤」を沢山感じました。

「自分ではどうやって子どもを感染から防げるのか分からない」

「ちょっと鼻水が出てるけど登園しても大丈夫かな」

「習い事は行っても良いのかな」

「出勤はいつできるのかな」

保育園に聞いてもしょうがない、でも園に聞かずにはいられない、伝えずにはいられない。

正直に申し上げれば、私自身も大きな「葛藤」に悩まされた一週間でした。つながらない保健所の電話と早く対応を決めなければならない焦り、皆さんからの情報の要望と守秘義務、保育提供の責務と感染拡大阻止の責務。

A君が乗り越えたように、私も皆さんの「葛藤」を受け止めながら一歩ずつ進み、「自己決定力」を身に付けていかなければならないのでしょう。

心配ならお問い合わせください。みんなで1歩ずつ「自己決定力」をつけていきましょう。

そして、一番大変だった感染した園児とそのご親族の一日も早い回復を心よりお祈りしています。

(園長 足立園恵)                             

令和2年12月24日号 

「わが子への片思い」                       

今回も見事に私の期待を息子が裏切ってくれました。毎日、毎日伝え、昨夜も夕飯後に言っておいたのに・・・・。「お弁当箱を流しに出しておいてね」と。

そんなことか、と思われるかもしれませんが、夕飯の食器と共に弁当箱も洗っておけば、翌朝、すぐにお弁当作りが始められます。弁当箱を洗うところから始まる朝とは、気持ちもかかる時間も大違いです。

その日の朝は怒り心頭で寝ている息子を叩き起こし、部屋の電気を付け、窓を全開にして怒鳴りつけました。「どーしてお弁当箱を出すくらい出来ないの?もう、すぐ出して!!」

寝起きで機嫌の悪い息子に私の怒鳴り声。見兼ねた主人が私をなだめ、「まあまあ、朝から怒っても、アイツだって余計やらないだろ。俺がやるから・・・。」と私をなだめにかかります。「私は息子にやって欲しいの!あなたからも言ってよ!」とヒステリックな私に「両親2人で叱ったら、アイツも行き場がないじゃん。ママの気持ちもわかるけど・・・。」とまともな回答。普段なら聞く耳を持つところですが、この日は怒り収まらず結局、主人が洗ったお弁当箱にむしゃくしゃした気持ちで、おかずを詰めました。息子とはもちろん一言も会話は交わしません。「学校に行く前に仲直りしておけば?」と主人。そんなことは分かってます。彼も学校や部活で彼なりに頑張り、家でホッとくつろぐ。外の世界で頑張っているのだから、家でだらけてもいいじゃない。それを受け止めてあげなよ・・・私の理性がささやきます。

登校の時間がせまってきました。気持ちの整理がつかないまま、彼に言いました。「ママはあなたが好きだから・・・。色々言うのは、片思いかもしれないけど。」そう伝えてそっと握手をしました。力強い握手が返ってきました。「分かった・・・。行ってきます。」と息子は学校へ向かいました。

その日、帰宅すると台所にお弁当箱が出ていました。

でも、次の日はありません。その次の日もです。彼の帰宅後の習慣にはならず、私の思いも届かなかったようです・・・。

ちなみに彼は中学1年。子どもを育てる営みは続きます。親はきっと永遠に我が子に片思いなのでしょうね。今日くらい思いが叶うように、サンタさんに願いを託します。

(園長 足立園恵)                                     

令和2年11月27日号 

オーディション

ゆり組のAちゃんが静かに担任にもたれて泣いていました。

5分ほど前に今年の発表会の劇の配役が決まりました。演じたい役に立候補した子ども達1人ずつにその役の「セリフ」をみんなの前で言ってもらいます。その後多数決で配役が決まりました。

多数決はしっかりと数字で結果が出るので分かり易いですが、その分大差が明らかになったり酷な所もあります。今までもゆり組は、運動会のリレーの走順、共同画の分担、やりたい遊び等様々な場面で大人が決めるのではなく、子ども達で話し合って決めてきました。今回の多数決のやり方も子ども達が考案しました。先生の助言も入り、セリフを言ったあとは個々にその発表の良かったところを友だち同士で探してからの多数決でした。みんなの前でセリフを言うのが苦手で恥ずかしいBちゃん。先生が手助けをしようとした時、C君が小さな声で「がんばれ」と声援を送りました。すると周りにいた子もつられたように応援をはじめBちゃんは一人でセリフを言うことができました。そんな温かな雰囲気で進んだオーディションでした。冒頭のAちゃんも選ばれなかった時は、見ているこちらの心配を他所に泣くわけでもなく飄々としていたのです。

Aちゃんは担任の元で3分ほど静かに泣くと、次の遊びに入り始めました。今では決まった役にオリジナリティを加えて楽しそうに演じています。


オーディションで選ばれなかったことは悔しい経験だったことでしょう。でも、自分たちでやり方を考え、自分の力を出した結果だったからこそ、嫌がったり大声で泣くことなく、自分の心の中で折り合いを着けられたのだと思います。この先、自分の思い通りに行かないことは沢山あります。大人が介入するのではなく、子ども自ら解決する力をつける手立てをしていきたいと考えています。

(園長 足立園恵)                         

令和2年10月29日号 

「まねる」=「まねぶ」=「まなぶ」

秋も深まってきました。子ども達の遊びも深まりを感じます。

入園・進級から2か月の休園期間を経て、新しい環境、先生、友だちに慣れ、安心して自分の好きな遊びに没頭できるようになったからでしょう。

特に成長を感じるのは、先生が教えていないのに年上の子や友だちの様子を観察して真似をしながら遊びをより深めていることです。

1歳児のわかば組の「保育日誌」、初めて楽器あそびをした時のことが記されていたので抜粋してみましょう。


今日は楽器遊びを行う。順番に楽器を見せ、まず音を聞いてどんなふうに使うかを見せてみる。次にタンバリンを担任が持って、子どもに叩いてもらうと、自分が出す音に嬉しそうな様子。その音を聞いて他の子も叩きだした。

それから、一人ずつに渡すと両手で持ち叩き出す子や机において音を出す子もいた。それを真似をして音をだす子もいる。トライアングルもまず、担任が持ち手のヒモを持ち、子供が叩いて音を出す。直接トライアングルを持つと音が響かないことに気がついた子もいた。

そのうちAちゃんが叩きたくなり、隣りにいるBちゃんにトライアングルを持ってもらっていた。二人で演奏する形になっていてそれはそれで楽しそうだった。自発的に合理的にできるやり方を見つけるのはすごい。それを見ていた男児のペアも教諭のちょっとした手立てでやってみると出来ていた。この年令で友だちと協力して楽器遊びが成り立ったことに驚いた。


「まね」という行為は、実はヒト特有の、発達に欠かせないものだといわれています。(よく、「サルまね」と言いますが、本当はサルはまねできないそうです。)京都大学教育学科教授 明和政子氏はこのように説明しています。(ジャクエツ「デザインブック」より)


「ヒトの遊びの特徴は、言語を使い始めるはるか前から相手の行為を積極的に模倣することにあります。この「まね遊び」こそがヒトをヒトたらしめる重要な学習の機会になっていて、たとえば、模倣することでヒトは相手から様々な知識や技能を効率よく学ぶことができます。また、もう1つ「まね遊び」が果たしている重要な役割があります。それは相手の心を理解する能力を発達させることです。ヒトは「まね遊び」をしながら相手の行為を自分自身で追体験します。つまり、相手の行為に自分の行為を重ね合わせ、そのような身体体験の中で実は目には見えない相手の心の状態を理解することまでをも可能にしているのです。」


ありふれたものだと思っていた「まね」という行為の奥深さに驚かされます。


園で沢山の関わりをもつなかで様々な「まね遊び」がこれからも展開されることでしょう。

ゆり組のCちゃんの声が聞こえます。

「あなた、しっかりしてね!」

あれ、だれのまね遊びでしょうか?

(園長 足立園恵)                   

令和2年9月24日号

「不思議に思う気持ち」

「せんせい、みて!」

ゆり組の女の子がビニール袋を手に持ってやってきました。なんだろうと思って見てみると色水です。中には園庭に咲いている琉球朝顔の花びらと適量の水。よく揉んだようで青みがかった色がついています。でも、よく見ると個々に青色が微妙に違います。

「なんでみんな、あおいろがすこしずつちがうの?」と聞くと誇らしげにAちゃんが答えました。「あのね、みずをいっぱい入れるといろがうすくなるの。濃くしたかったらみずをすくなくするんだよ。」

この子たちは遊びの中でちゃんと、色の濃淡の理由を学んでいることに感心しました。この答えに至るまではたくさんのビニール袋と朝顔、それに試行錯誤の時間が費やされたことでしょう。


園内を見て回ると、大人にとっては当たり前、でも子どもにしてみれば「ふしぎ」な遊びが、たくさん見つかります。

ひまわり組ではお誕生会で担任の先生が濁った色水のコップに魔法の粉を入れています。その粉薬を入れた途端に、濁っていた色水はきれいなパステルの色水に変身。子どもたちは不思議でたまりません。

壁面にはクレヨンのひっかき絵。クレヨンでカラフルに描いた絵の上を黒のクレヨンで真っ黒に塗りつぶします。その上から針や竹串など先のとがったもので線を描くときれいな色が浮かび上がってきます。黒の下から出てくるカラフルな模様。子どもたちは興奮して長い時間、夢中で竹串を動かしていました。

すずらん組の壁面にはコーヒーフィルターを使ったにじみ絵の「きのこ」が飾られ、秋を演出しています。サインペンで描いた絵の上に水を垂らすと、色がじわじわと広がっていきます。子どもたちは、その様子を息をひそめて見入っています。面白くて何回も水を垂らす子もいれば、少量の水でじっくり楽しむ子もいます。

最後はわかば組。芸術家が描いたような見事な作品です。F先生が子どもでも持ちやすい特別なフェルトペンを作ってくれました。先端を紙に押すと色が着くようにできています。ただ、ずっとやっていると、だんだん色がかすれて出なくなります。でもなぜかF先生はずっと色がペン先から出ています。「なんで、せんせいのだけ?」描くことが好きなB君は首をかしげます。何回かやっているうちに「握っているところを押すともっと色が出る」ということに気づいたようです。それからは色を出すことが楽しくて、1枚の模造紙では足りず、2枚目を使って十分に遊ぶことができました。


子どもたちは日々の遊びの中で沢山の「ふしぎ」に出会います。

これを1つ1つ理由を説明していたら、その「ふしぎ」に対する興味も集中力も行動力も萎えてしまいます。いつかは理科の授業で濃度や水の分子のことを学んだり、美術で描き方の技法を学ぶでしょう。幼児期に必要なのは自分で「ふしぎ」と感じる体験です。そしてその「ふしぎ」に心ゆくまで浸ることのできる環境でしょう。保育園にいる間にたくさんの「ふしぎ」を見つけ、その謎を考える力をつけて欲しいと思っています。

(園長 足立園恵)

令和2年9月24日号

「不思議に思う気持ち」

「せんせい、みて!」

ゆり組の女の子がビニール袋を手に持ってやってきました。なんだろうと思って見てみると色水です。中には園庭に咲いている琉球朝顔の花びらと適量の水。よく揉んだようで青みがかった色がついています。でも、よく見ると個々に青色が微妙に違います。

「なんでみんな、あおいろがすこしずつちがうの?」と聞くと誇らしげにAちゃんが答えました。「あのね、みずをいっぱい入れるといろがうすくなるの。濃くしたかったらみずをすくなくするんだよ。」

この子たちは遊びの中でちゃんと、色の濃淡の理由を学んでいることに感心しました。この答えに至るまではたくさんのビニール袋と朝顔、それに試行錯誤の時間が費やされたことでしょう。


園内を見て回ると、大人にとっては当たり前、でも子どもにしてみれば「ふしぎ」な遊びが、たくさん見つかります。

ひまわり組ではお誕生会で担任の先生が濁った色水のコップに魔法の粉を入れています。その粉薬を入れた途端に、濁っていた色水はきれいなパステルの色水に変身。子どもたちは不思議でたまりません。

壁面にはクレヨンのひっかき絵。クレヨンでカラフルに描いた絵の上を黒のクレヨンで真っ黒に塗りつぶします。その上から針や竹串など先のとがったもので線を描くときれいな色が浮かび上がってきます。黒の下から出てくるカラフルな模様。子どもたちは興奮して長い時間、夢中で竹串を動かしていました。

すずらん組の壁面にはコーヒーフィルターを使ったにじみ絵の「きのこ」が飾られ、秋を演出しています。サインペンで描いた絵の上に水を垂らすと、色がじわじわと広がっていきます。子どもたちは、その様子を息をひそめて見入っています。面白くて何回も水を垂らす子もいれば、少量の水でじっくり楽しむ子もいます。

最後はわかば組。芸術家が描いたような見事な作品です。F先生が子どもでも持ちやすい特別なフェルトペンを作ってくれました。先端を紙に押すと色が着くようにできています。ただ、ずっとやっていると、だんだん色がかすれて出なくなります。でもなぜかF先生はずっと色がペン先から出ています。「なんで、せんせいのだけ?」描くことが好きなB君は首をかしげます。何回かやっているうちに「握っているところを押すともっと色が出る」ということに気づいたようです。それからは色を出すことが楽しくて、1枚の模造紙では足りず、2枚目を使って十分に遊ぶことができました。


子どもたちは日々の遊びの中で沢山の「ふしぎ」に出会います。

これを1つ1つ理由を説明していたら、その「ふしぎ」に対する興味も集中力も行動力も萎えてしまいます。いつかは理科の授業で濃度や水の分子のことを学んだり、美術で描き方の技法を学ぶでしょう。幼児期に必要なのは自分で「ふしぎ」と感じる体験です。そしてその「ふしぎ」に心ゆくまで浸ることのできる環境でしょう。保育園にいる間にたくさんの「ふしぎ」を見つけ、その謎を考える力をつけて欲しいと思っています。

(園長 足立園恵)