成長のあかし

真新しい青い色の名札を付けたA君が登園してきました。すれ違いざま、私に名札を見せびらかすように胸を突き出しました。

「あれ、その名札どうしたの?」

わざとらしく尋ねてみます。

「だって、オレもう、ぞう組さんだもん!」

嬉しさと誇らしさで、鼻の穴まで広がっています。

名札だけではありません。1階から2階へ変わった保育室、自分のお道具箱、紅白帽子、朝のお手伝いで使う出席確認表。「もう大きくなったんだから」という言葉よりも、ささやかな「もの」の方が、成長を自覚できる確かな証しになることもあるようです。

かくいう私も20数年前、新社会人として初めて社章を胸に付けた時の新鮮な気持ちを覚えています。パリッとした制服。自分専用の机、会社と自分の名前が印刷された名刺。ほんの些細なものに、新たな気持ちを抱いた経験、あなたにもあるのではないでしょうか。

Bちゃんは、年中に進級してきりんの部屋に移ったことが嬉しいようです。

「えーと、Bちゃんは何組だっけ。」

またもや、わざとらしい園長先生の質問です。

「きりんだからこっちだよ。だけどね…」Bちゃんの表情が一瞬曇ります。

「C先生はね、あげてもらえなかったんだよね。」

寂しいというより、気の毒がるようなその言い方に、私は思わず吹き出しそうになりました。担任が変わったことへの不安より、「あげてもらえなかった」可哀そうな担任を思いやる。これも成長の証しでしょう。

年少に進級して2階へ引っ越したことが自慢のDちゃんが、元気良く階段を昇っていきます。

「Dちゃんは下じゃなかったっけ?」

意地悪な問いかけにひるむ様子もありません。あどけない顔を精一杯お兄さん風にして言い放ちます。

「僕はうさぎだから上! 下は赤ちゃんの部屋でしょ!」