「椋の木のおはなし」は牧の原宝保育園長による保育エッセイです。(ほぼ)月に一度発行いたします!
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令和7年9月1日号
猛暑で外に出ない日が続きました。
7月下旬から日中の気温は30度を超え、園庭のWBGT(注1)は毎日、厳重警戒レベルです。とても、子ども達を外には出せません。必然的にエアコンが効いた室内で汗もあまりかくことなく1日を過ごしていました。
でも、それは間違いでした。私もずっと事務室にいると外に出たくなります。それは子どもも同じで、ましてこの時期に汗をかかないなんて体温調節機能もおかしくなります。そこである日を境に先生たちに伝えました。個々の体調確認をしたうえで1日10分~20分は外気に触れる遊びを展開して欲しいと。「園長先生に言われてホッとしました。外遊びが少しでも出来て嬉しいです。」職員に言われました。1秒でも外遊びは危険である、という意識を職員にもたせていたようで反省しました。
1歳児が日よけを張ったパーゴラに出ます。担任が作ってきたミニカー入りの氷に興味津々です。大好きな車を取り出すために、まずは手で叩き壊そうとします。取れないことが分かると、今度は水につけて溶かそうとします。教えてもいないのに、水で氷が溶けるということを遊びの中で発見したようです。普段は移り気なA君が集中して遊び込んでいました。
ベランダでは2歳児が遊んでいます。日よけシート上にホースを置き滝の様な水の流れの中で色水遊びを堪能します。色のリクエストでは「あか」「きいろ」と怒鳴る様に言うので、「あかください」「まぜてください」と丁寧な言い方をしてもらえるように担任がお願いしてみました。もちろん望む色の欲しさはありますが、すぐに言い換えることが出来ていました。耳から聞いて、判断して、模倣がすぐにできる力が身についていると感じた担任は、自分たちも前向きな言葉がけをしようと再認識したようです。
5歳児は園庭で泥んこ遊びを展開しています。砂場では友だちと試行錯誤しながら雨樋で水路を作ります。誰かが担任に水を浴びせかけました。そこからは担任も全力で子どもと水の掛け合いを始めます。全身ずぶ濡れの先生と子ども達は本当に楽しそうでした。たまたま、園の視察に来ていた他園の園長先生に言われました。「この子たちは土に裸足で触れ、外で水遊びが出来るなんて本当に幸せですね!」
人間は自然と外を恋しがるようにできていると感じています。園庭で走る子どもの顔は輝き、持っている力を出し切っています。少しでも外に出ることで、汗をかき、シャワーを浴び、給食をよく食べ、よく眠れます。表情も柔らかくなり、遊びにも集中しています。9月も残暑は厳しそうです。気温、風速、WBGT、感染症傾向と確かな数値は把握しながら外遊びの手立てを続けていきます。(園長 足立園恵)
注1)熱中症予防としての暑さ指数。WBGTは、気温だけでなく、湿度、輻射熱(地面や建物からの熱)、気流の3つの要素を取り入れた指標であり、熱中症の危険度をより正確に判断できる。28以上は厳重警戒、31以上は危険。運動禁止とされている。
令和7年7月29日号
大人から見れば不思議なできごとでした。
1歳児のわかば組でA君とB君がままごとを楽しんでいました。お皿にフルーツを載せて微笑みあっています。
次の瞬間、A君がB君の腕を噛みました。
「なんで?」たまたま居合わせた私もびっくりです。
「A君はお皿を一人で持ちたくなったんだと思います」と担任がB君の腕を冷やしながら解説してくれました。A君もなんとなくバツの悪そうな顔をしています。
別のコーナーでは、CちゃんがD君の遊んでいた玩具を引っぱっています。D君は「やめて、やめて」と何度も言ってますが、Cちゃんは、しつこく引っぱり続けます。
担任が「D君が嫌がってるね。」とCちゃんの手を外そうとした途端、D君がCちゃんの腕をひっかきました。D君は「僕は悪くないよ」と言いたげな顔でしたが、それでも泣きだしたCちゃんの頭をなでに来ました。
乳児の集団生活では、噛む、ひっかく、押すということは、ときどき起こります。たとえば、歯が生え始めると歯茎がむずかゆいため、無意識に何かを噛んでしまうこともあります。また、噛んだりひっかくことが「悪いこと」とは認識できていないとも考えられています。
言葉の発達もまだ未熟なので、うまく気持ちを伝え合えません。「あのおもちゃで遊びたい」「そこからどいて欲しい」と思っても、言葉で伝えることが難しいと、ひっかいたり、押したりという行動につながってしまうのです。
歩けるようになると行動範囲が広がり、様々なことに興味もわいてきます。目の前に人の手があったり、ふっくらとしたほっぺたがあると、「これはなんだろう?」と興味が湧いたり、じゃれたい気持ちになり噛んで確認することもあります。
このように考えると、乳児が噛んだりする行動にはそれなりに理由があるようです。
とはいえ、噛まれた子は突然のことに驚き、痛い思いをします。しばらく青あざが残ることもあります。園としても、なるべくそうしたことが避けられるような配慮を心がけています。
たとえば、遊びのコーナーを部屋の離れた場所に複数設定するというのもその一つです。密集してしまうと、そばにある腕を何となく噛んでしまったり、邪魔だと思った子を押すこともあるからです。絵本、型はめ、パズル、描画など集中できる玩具を用意することもあります。他のことに気が散らないし、気持ちも安定するようです。
子どもは成長するにつれ、次第に友だちと一緒に遊ぶことが楽しくなってきます。だからこそ、噛みつき防止のために関わりを遮断するだけではなく、先生が一緒に遊びに入り、子どもの気持ちを代弁することも繰り返し行います。
噛みついた子が叱られるだけでは、自分の気持ちを理解してもらえず、悲しい気持ちのまま過ごすことになります。「一緒に遊びたかったんだね」「クレヨンを取られるのが嫌だったんだね」と気持ちを汲み取ってもらえることで、適切なかかわり方を学んでいくのです。まだ言葉は出なくても、「かして」や「ちょうだい」のジェスチャーも覚えていきます。
安心してください。2歳児クラスになると、噛む子はほとんどいなくなります。これからも、子どもの気持ちを汲み取る姿勢を常に持ちながら、毎日の保育にあたっていきたいと思います。(園長 足立園恵)
令和7年6月30日号
「この段差なら上手く流れるんじゃない?」
「いや、ここにもう1段入れたほうが良いかも。」
「この雨樋はくっつけたほうが、スムーズにいきそう。」
職員が園庭でああだこうだと言いながら雨樋を組んでいます。
今日は初めて「流し春雨遊び」をします。しかも同じ素材で全学年の子が遊ぶ計画です。前日から、春雨を煮て、赤・青・黄色・紫・緑と色を付け、見るからに涼しげな春雨がたっぷりと用意されていました。茶色の雨樋の中には、牛乳パックを開いた白紙が敷かれていて色とりどりの春雨が映えそうです。
早速1、2歳児が遊びに来ました。フォークやトングといった食具と器を渡されると、一生懸命、流れてくる春雨をすくおうとします。あっという間に目の前を通り過ぎる春雨を手ですくうかな?と思いきや、あくまで食具を使おうとします。食具に春雨が引っかかる感覚を楽しんでいるのでしょうか。遊びながら下手持ちも身に付きそうです。
隣の空間ではザルにたまった春雨をテーブルに広げ、器に入れたり出したり、スプーンで混ぜて遊ぶ子がいます。流れてくる春雨をすくう事より、春雨そのものの感触を堪能しているようです。
「日陰」という言葉は知らなくても、目で見て地面が黒い所は涼しいと学んでいるようで日陰で遊び続ける姿にも感心です。
時間をおいて、幼児クラスが出てきました。乳児が穏やかに流し春雨を楽しんでいたのとは対照的に幼児は食具はそっちのけで、流れてくる傍から手づかみで自分の器に溜めていきます。そして、自分で流そうとしたり、水路にダムを作ろうとします。春雨が足りなくなり、水路が崩壊して混沌とした状態になりました。
せっかくの「流し春雨遊び」が・・・と声をかけようと思ったものの少し静観してみました。大人の設定を超えた遊びを展開していました。春雨が無くなれば自分の春雨を供出したり、年下の子に分ける姿も見られます。自分で春雨を染めてみたいとやり方を先生に聞きに行く姿もありました。
考えてみれば、この世界は常に突拍子もない思いつきによって発展してきたのかもしれません。混沌としていても危険はなさそうです。だから、子どもの遊び方に任せてみました。
今年度は新しく"遊びのコーディネーター"という職務を設けています。例えば感触遊びも今まではクラスごとに行い、その年齢以上に遊びが発展することが有りませんでした。担任もつい、自分が持っているクラスの範囲内で手立てを講じてしまいます。
そこで同じ遊びでも全学年が取り組め、異年齢で遊ぶことで子どもの経験値を高めたり、遊びを発展させることをもくろんだのです。その取っ掛かりを担うのが"遊びのコーディネーター"です。シャボン玉や今回の春雨流しでは、年下の子が自然と年上の子の遊びを見て、憧れ、真似をする姿がありました。年上の子もどうすれば上手く伝わるのか、言葉や身振りを交えて試行錯誤をします。1人1人の子が自分のタイミングでその遊びに加わるので集中して取り組んでいます。その中で私たちが想像した以上の遊び方が見出されます。
そして、先生たちもクラスを超えて遊びの手立てを講じたり、準備をします。いつもとはまた違う楽しそうな様子です。職員も刺激を受けたりコミュニケーションが深まっていくように感じます。
園には40人程の大人と110人程の子どもがいます。その関わりの中で自分と異なる発想に憧れたり、尊重しあったりする経験をこれからも大切にしていきたいと思います。(園長 足立園恵)
令和7年5月28日号
「パンダ保育園では今日も動物の子どもたちが元気に遊んでいます。」
ゆり組の担任がペープサート(※)を使って話しだしました。
4匹の動物が2対2で戦いごっこを始めました。「えいっ」「とおっー」「わあ」と遊びは盛り上がります。しばらくして、1匹が「ぼく、こっちのチームに入る」と移動した結果、サル君は1人になってしまいました。
サル君は果敢に戦い続けました。でも、だんだん形勢不利になり、気がついたら3匹に追いかけられていました。サル君の顔には涙が浮かんでいます。それに気づいた1匹は「あれ?だいじょうぶかなあ?」と思ったものの「まあ、みんなもやっているからいいかあ・・・。」と3対1で遊びが続きました。
「このお話どう思う?」
ペープサートを終えた担任が子ども達に聞きます。
「戦いごっこの中で3対1にならないように、すればよかったのに。」
「サル君が泣いてるのに気が付いた動物がいたよね。」
「みんなで追いかけるのは怖いしダメだよ。」
「サル君はやめてって言えばよかったのに。」
「私も追いかけられたらいやだなあ。」
5歳児なりに話を理解して自分の考えを話す子もいれば、聞く方に専念する子もいます。担任は子どもの様子をみて話を進めていましたが、「やめてって言えばよかったのに」という意見が出たことで、子ども達に「やめて」が言えるかどうか聞いてみました。ほとんどの子が「言える」と挙手する中、「言えない」という方に一人の子が手を挙げました。
友だちとやり取りする中で、自分の意見を言葉で伝えられない子はどの年齢でも少なからずいます。
「やめてって言えない子にはどうしたら良いのかな?」担任が尋ねました。
「相手の気持ちを考える。」子どもが答えます。
「そうだね。考えられると良いよね。でも、気持ちって見えないじゃない?どうする?」
しばらく間が空きました。担任は2,3人の子を輪の中心に呼び、周りの子ども達に嬉しい表情と嫌な表情をしてもらいました。
「どっちの顔が一緒に遊びたい顔かな?」子どもなりに理解したようです。
「相手の気持ちを考えるのに、友だちの表情を見たらいいよね。」と担任が言語化して伝えました。
パンダ園の話は前日にゆり組を中心に園で起きたことです。担任は当事者だけではなく、クラス全員の子に、言葉で表現しなくても嫌な思いをしている子がいること、に気が付いて欲しかったようです。もちろん一度の話で気付けるようになるわけではないので、友だち関係の話は折に触れて続けていきます。
園では子ども達の関わりの中で、毎日何かしら揉め事が起こります。小さいうちは突然噛みつかれたり、叩かれたりすることもあります。その子なりに理由はあるのですが、相手の子を驚かせたり、泣かせたりしたことに対し、ごめんねの「いい子いい子」を覚えていきます。痛い思いをしたのに、いい子いい子されるとお互い微笑んでいるのは不思議です。
言葉が出せると「わたしが使ってたのに、とったー」だの「なかまに入れてって言ったのに入れてくれない」「○○ちゃん、だいきらい」と手や足ではなく言葉で応戦します。
ケンカをした後に「ごめんね」が言えずにいたAちゃん。ケンカ相手のBちゃんに「あたしはね、Bちゃんがだいすきだから!」と伝えました。するとBちゃんが「私だってAちゃんのことがだいすき。朝も昼も夜もずっと好きだから。土曜日も日曜日もお休みの日もずっーと好きだからね。」と返しました。
日々の関わりの中で学んだのでしょうか。こんな仲直りの仕方もあるのだと、気持ちが暖かくなりました。(園長 足立園恵)
※紙人形劇のこと。2枚の紙に人形画(登場人物)を描いて、中心に棒をはさみ、貼り合わせてあります。棒を持ち、表裏二面をクルクルッと返すことで、人物の表情が変わります。
令和7年4月23日号
開園して14回目の4月を迎えました。園全体に新年度の華やいだ雰囲気と慌ただしさが入り混じっています。新しいクラスの帽子を被った在園児からは、ワクワク感が伝わってきます。新入園児は保護者にギュッとつかまりながらも目をきょろきょろさせています。初めての環境に興味が湧いているようです。
この時期は何となく大人も気持ちが急いたり、子どももふわふわする姿があります。出来るだけ穏やかに新年度を迎え、どの子も安心して新しい環境に馴染むようにと思っています。
一昨年からは「わくわく進級委員会」なるものを立ち上げ職員間で話し合ってきました。
・担任を全員持ち上がりにしたら子ども達は安心なのではないか?
・新学年の保育室を3月から使用したらどうか?
・4月は家庭も慌ただしいから9月から新しい環境にしてはどうか?
・担任発表を早くして次に担当するクラスの子どもや保護者と信頼関係を築いていったらどうか?等々。
園内で出来そうな様々な案が出ました。妙案のようでいて、実行にはデメリットもあり、話し合いは続きました。検討の末、早めの担任発表と数人の担任持ちあがりは叶えることが出来ました。
「この玩具は○○ちゃんが好きだから新クラスにも用意しよう」
「この時間はバタバタするからフリーの先生にヘルプをお願いしたいね」
「お絵かきコーナーは動線を考えてこの辺にしよう」
全職員が新年度に思いを馳せ、子どもの様子を考えて話し合いました。
すずらん組は1階から2階に保育室が変わりました。担任が用意した新しい玩具に早速とびつきます。座って一人ずつ遊べるので初日から落ち着いています。
0、1歳児の新入園児はお昼寝も途中で起きてきます。担任間で連携し片方の部屋は開けておいたので、遊んで過ごせます。無理に午睡を続けたり、担任の背中にずっといる必要もなくなりました。
3歳児の給食では在園児のAちゃんの隣に担任が意図して新入園児のBちゃんを座らせていました。Bちゃんが「このサラダ美味しい!」と頬張る姿を見て、なんと野菜が苦手なAちゃんも「Aもお野菜だーい好き」とサラダを完食する姿がありました。
5歳児では「赤ちゃんもいる園庭でどうしたらみんな楽しく遊べると思う?」と担任がなげかけます。「赤ちゃん組が部屋に入ってから、ドッジボールをする」「お互い目が付いているんだから、よければいいんじゃない」「赤ちゃんはそんなすぐに動けないでしょ」などのやり取りが聞かれました。子ども同士で自分たちの事を話し合う姿が早々に見られ、嬉しく感じました。
保育園は子どものための環境が考えられており、専門の先生が揃った場所です。だからお父さん・お母さんも親として自分が選んだ「子どものために用意された子ども中心の場所」に安心感を持ってもらえたらと考えています。その安心感も、子どもが保育園を好きになる1つの要素になります。
入園式では「よく遊び、よく食べ、よく笑い、大きくなっていきましょう」と書かれた「入園証書」を渡しました。このメッセージは子どもだけではなく、保護者にも向けています。入園しても進級しても、お子さんと遊び、一緒にご飯を食べ、笑いあってみてください。特に笑う事はおすすめします。免疫力が向上しストレスを緩和させます。記憶力も向上するそうです。子どもは笑っているお父さん・お母さんが大好きです。
今年度も子ども一人ひとりの良さを見出しながら全職員で保育にあたっていきます。どうぞよろしくお願いいたします。(園長 足立園恵)