椋の木のひとりごと

「椋の木のおはなし」は牧の原宝保育園長による保育エッセイです。(ほぼ)月に一度発行いたします!

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令和6年度のひとりごと

令和6年6月25日号

「あじさいスープ」

宝保育園では年に1回だけ出る紫色のスープがあります。

その名も「あじさいスープ」。梅雨時期の紫陽花に見立てたスープです。目をつぶって飲んでしまえば、子ども好みの味なので完食すると思います。ところが、見た目が紫なのが原因なのでしょう。最初の1口が進みません。

 先生たちもクラスに紫陽花を飾り、乳児組では花びらを入れた感触マットを作ってみました。今年こそは、と栄養士も力を入れ食育に臨みます。


5歳児クラスでは主な材料である紫キャベツと紫玉ねぎを見せてみます。初めて見る子も多く、匂いを嗅いで「玉ねぎのにおいだ」と確認します。それを刻んで透明の鍋に入れます。煮込み始めると水がだんだんと紫色に変わっていきます。「実験みたい」と集中して見入る子が「あっ、紫の玉ねぎが段々薄くなってピンクになるね」と色が抜けることに気づきます。調味料を加え完成です。どうして紫色になるのかが分かったからでしょうか、今年のあじさいスープは完食でした。

 

3歳児クラスでは「紫陽花がスープになるの?」と真剣に聞く子どもに、担任が「紫色のキャベツの色が紫陽花みたいだから、あじさいスープっていうのよ」と説明していました。その場は納得したようでしたが、翌日、園庭の紫陽花を容器に入れ「あじさいスープ作るんだ」と張り切っているA君の姿がありました。朝顔やタンポポで色水遊びを体験してきたので、紫陽花でも色が出るはず・・そう信じていた彼が先生に訴えました。「むらさきいろにならない!」。

 

そこで、担任は栄養士と同じように3歳児の前で紫キャベツを煮出してみました。すると透明だった水が紫色に変化します。紫陽花ではなく、紫キャベツだから色が出る事、しかも熱を加えることで色が出る事を3歳児なりに学んだかと思えました。ところが次に出てきた言葉は「この水にジャガイモやバナナやお米を入れたら紫になるんじゃない?」と、白いものを染めてみたいという探究の声でした。あくまでも子どもは色水遊びの延長なのです。 

 

担任は早速、ジャガイモとバナナを用意します。煮だした紫色のお湯に漬けてみました。子どもが手で揉んでみましたが、ジャガイモもバナナも白いままです。「なんでかなあ。ナスを入れてみよう」と自分たちで栽培したナスをリクエストします。濃い紫色のナスを入れたら色素が強くなると思ったのでしょう。担任がリクエストに応じナスを入れましたが、ジャガイモもバナナも白いままです。


意気消沈する子どもたちに「じゃあ、このお水で米を炊いてみようか?」と担任が提案します。私もどうなることかと、心配でしたが子ども達の探究心をくじきたくありません。まずはやってみよう!と紫キャベツで煮出した水でお米を炊いてみました。お鍋で炊くこと15分。うっすらときれいな紫色のお米が炊き上がったのです。「あじさいごはんだね」と子ども以上に喜び、ホッとした顔の先生たち。少しキャベツの匂いがする紫ご飯をみんなで完食しました。「ほうれん草を煮ると緑になるよ」「ニラもだよ」と次なる色水作りに思いを馳せる声が上がっていました。


色々な食材を子どものうちに体験することで、味覚はもちろん、嗅覚や触覚も磨かれます。また食材への関心は学習意欲の喚起や、好き嫌いの減少、食に関するコミュニケーション力の向上にも繋がります。そんな姿が垣間見れた今年の「あじさいスープ」でした。

 

余談になりますが、私が幼いころ、近所の和菓子屋さんでは紫陽花の葉っぱの上に水ようかんを乗せ店頭に並べていました。紫陽花を見るとその和菓子を思い出します。きっと当園の子どもたちは「あじさいスープ」とそれにまつわる実験を思い出すことでしょう。(園長 足立園恵)

令和6年5月21日号

「自ら関わること」

「あっ、デンマークの旗だ!」

A君の第一声に、他のゆり組の子ども達も「あっ、あそこにもあるよ。」と歓声の声をあげます。五月晴れの中、ゆり組の遠足でアンデルセン公園に行きました。

今回のアンデルセン公園への遠足はひまわり組から年度を超えての計画でした。発端はひまわり組の時のマラソンごっこです。ただ走るだけでは子ども達のやる気も継続しにくいと考え、走る距離に応じたマラソンマップを作りました。園庭10周でビッグホップに到着、と言う感じです。経由地としてイオンやアンデルセン公園があり最終的にはディズニーランドまでのマップになっていました。


これには職員の想定以上に子ども達のやる気に火がつきました。数日でイオンに着きその後アンデルセン公園にも到達。そこで子ども達から「アンデルセン公園に行けるの?行きたい!」と言う声が上がりました。気持ちは痛いほど分かります。連れていってあげたい気持ちは山々でしたが時は2月。即座にバスの手配や下見等を行い、園外保育を実施するには無理がありました。そんな経緯があり、実現したのが今回のアンデルセン公園への遠足でした。


遠足が決まり下見を終えた担任は公園内の地図を見せて当日のルートを話したり、風車や童話館があったことを伝えました。すると数人の子どもがゆり組専用パソコンでアンデルセン公園を調べ始めました。

アンデルセンが童話を書く人でありデンマークで産まれたことが分かりました。さらにデンマークの旗のデザインやデンマークの食事についても興味が広がっていきました。国旗に興味を持った子はデンマークに限らず世界の国々の国旗を調べ描いていきます。食事に興味を持った子は先生に印刷してもらい、ままごとに使ったり、どうやったら保育園で作れるかと頭を悩ましていました。そんな子どもの様子を見て担任はすかさず「みにくいアヒルの子」や「人魚姫」といったアンデルセン作の絵本を読み聞かせしました。ゆり組の部屋には国旗が飾られデンマークという国に関心を持っている様子が見られました。


迎えた当日。子ども達がデンマークの国旗や風車、人魚姫や白鳥の像を見て興奮したのは当然なのかもしれません。お弁当を食べる広場への道中も「次は橋を渡るんだよね」と自分が学んだことと答え合わせをしているようなわくわく感が伝わってきました。


当日は宝保育園以外に沢山の園児が居ました。遊び場も園庭の何倍も広く、魅力的な複合遊具がいくつも有りました。ですが迷子になったり怪我をした子は一人もいませんでした。それはマラソンごっこを通してこの公園に行きたいと思い、事前にどんな公園なのかを調べ、主体的にこの遠足に関わってきたことに1つの要因があると私は考えています。


もちろん、大人の方が知識も経験もあります。だからこそいつもは子どもに相談することなく遠足の行き先や内容を職員で考え実行してきました。初めて行く場所は期待値も大きいですが子どもによっては不安だったり、期待外れだとそれを誰かのせいにして困る行動に出てしまうことも有ります。

自分が興味を持ち、当事者意識をもって活動に取り組むことは子どもにとって安心感や次への学びに繋がります。これからも個々の興味関心をひくものに自分事として関わる子どもを育みたいと感じた1日でした。(園長 足立園恵)

令和6年4月22日号

「7秒ハグ」

開園して13回目の4月を迎えました。

毎年4月は園全体に慌ただしい雰囲気があります。新入園児が入り、担任が変わり、保育室も変わります。入園・進級の喜びもありますが小さい子ほど不安の方が大きいようです。大好きなお父さんやお母さんも気忙しい様子です。我が子に目を向け、手をかけたい気持ちはあるものの、新しい部署、新しい仕事、育休明けの復帰などでなかなか心の余裕も持てないですよね。


今年の入園式で次のような話しをしました。

「宝保育園ではそれぞれの子がいつ、何に、興味関心をもつのかに注目して保育にあたっています。特に4月は、興味を持つものを見つけられるように出来るだけ多くの選択肢を用意しています。絵本やブロック等の室内玩具。砂場や滑り台等の園庭遊具。また、草花や春の風、そしてダンゴムシやアリと言った自然物もあります。

気になるものを見つけ遊びだす子もいれば、じっと見ている子もいます。先生に抱っこされたり、側にいることで遊べる子もいます。そうして徐々に一定時間、園で過ごせるようになっていきます。初めての環境は大人でも疲れます。口には出さないかもしれませんが、子どもも相当疲れているはずです。


だから、お迎えに来たり、お家に帰ったら「今日はどんな遊びをしたの?」「たのしかった?」「手を洗ってね」「給食は食べられた?」等々、聞きたい気持ちや家事に向かいたい気持ちをぐっと抑えて「がんばったね」と7秒ハグをしてみてください。その7秒は子どもにとっても親にとってもほっとする時間です。特に子どもとっては大好きなお父さんやお母さんが自分だけに向いていることが分かり、明日の登園への期待や自己肯定感に繋がります。


1分や2分のハグと言うと意外に長くて、こなさなければならない家事や仕事に向かいたくなります。でも7秒ならどうでしょう?人のぬくもりはだいたい7〜8秒で相手に伝わるそうです。その間にオキシトシンという幸せホルモンも出ます。このホルモンは心を安定させ幸福感を増幅させる働きがあると言われています。帰宅後に忘れてしまったら、寝る前や翌日に14秒でも良いと思います。

ちょっと叱りすぎてしまった時にも効果があると思います。ぜひ、実践してみて下さい。私は下の息子も高校生になり、もうハグはさせてくれないので今のうちに!」


1歳児のわかば組では新入園の子ども達を沢山抱っこします。するとそれまで抱っこを求めず遊べていた在園のAちゃんがぐずり出しました。担任はすかさず、「Aちゃんも抱っこしようね」としっかり抱きしめました。気持ちに寄り添ってもらえたAちゃんはしばらくすると自ら降りて遊びだしました。園で1番のお姉さんになったゆり組のBちゃんも朝のお母さんとのハグは欠かしません。

園では新しい環境に不安を感じ涙する子、「せんせー見て!」と自ら話してくる子、何も言うことなく目で訴える子、全ての園児の気持ちを受け止めることを心がけています。

 

保育園は子どものための環境が考えられており、専門の先生が揃った場所です。だからお父さん・お母さんも親として自分が選んだ「子どものために用意された子ども中心の場所」に安心感を持ってもらえたらと考えています。その安心感も、子どもが保育園を好きになる1つの要素になります。

今年度も子ども一人ひとりの良さを見出しながら全職員で保育にあたっていきます。どうぞよろしくお願いいたします。(園長 足立園恵)