令和7年3月3日
「ドッジボールしよう」
きりん組(年中)から手紙がとどきました。今年のきりん組はドッジボールが強いともっぱらの評判です。
約束の日。境内に行くと、子ども達がドッジボールのコートで待っていました。「来てくれたんだね」と歓迎してくれるので、こちらもうれしくなります。
きりん組対職員5名の試合が始まると、周りで見ていた子が「入れて」と入ってきましたが、しばらくすると、出て行ってしまいました。入りたいときに入り、飽きると出ていっていいようです。
Rちゃんなど、「あたしはこっち」と言って、勝手に職員チームに入りますが、だれも文句をいいません。ゆるいルールなんだなと思っていたら、転がったボールを追いかけた子が、境界線を超えたことに気付き、「せんせいのボールだよ」と声を掛けてくれました。友達には寛容ですが、自分はしっかりルールを守るという姿勢に感心します。
うわさ通り、きりん組の子ども達はボールの扱い方が上手で、こちらも気が抜けません。
担任のM先生もきりん組チームに入っていますが、特に指示することもなく、さりげなく、ボールが回ってこない子にパスしています。リーダーはR君のようです。友達に声をかけ、立ち位置などを教えています。R君のボールはスピードがあり、まるで小学生のようです。Kちゃんのボールもよく命中します。K君はボールが顔に当たっても泣きません。Hちゃんもコートの中で生き生きと楽しそうです。子ども達ひとりひとりの成長を知るいい機会となりました。
ふと、あたたかい空気を感じました。それは子ども達の声でした。当たってしまった友達に「ドンマイ!」、迷っている子に「こっちになげていいよ」と相手を思いやる言葉が多く飛び交っていたのです。きりん組の強さのひけつはこの辺りにあるのでしょう。
いい勝負でしたが、結局、2試合とも職員チームが勝ちました。
大げさに喜ぶ私たちの前に、きりん組の子ども達が整列します。少し悔しそうな表情をしていますが、「試合をしてくれて、ありがとうございました」とさわやかに挨拶する子ども達に、勝ち負けよりも大切なことを教わった気がします。
実をいうと、私はドッジボールが苦手な子どもでした。昔のボールは今よりもずっと硬く、当たるととても痛かったのです。男子から「なんで取れないんだよ」と強く言われて涙がでてしまったこともありました。
子どもの頃に、きりん組のようなドッジボールを経験したら、もっと好きになれたかもしれないなと思いながら、幼少期には、勝ち負け以上に「楽しい」という体験が大切だとあらためて感じました。それが、子ども達の「やる気」を育てる一番の近道なのでしょう。
ところで、保育園には「ドッジボールをやるため」に来ているR君。
以前は朝食をとらずに登園することが多かったのですが、もっと上手になりたくて、みずから進んで、朝ごはんを食べるようになったそうですよ。(園長 番場朋子)
令和7年2月3日
「あの木の上に何かあるね」
K先生の指差す方を見上げると、大きなイチョウの木の上に鳥の巣のようなものが見えました。すっかり葉を落とした枝の間から、気持ちのよい青空が広がっています。
ひよこ・ことり組(0,1歳児)の日誌を読んでいると、時々散歩にでかけた記述があります。先週は、歩きたい子がじゅうぶんに楽しめるようにと、2グループに分けてご近所めぐりをしたそうです。楽しそうな様子に「私も行ってみたいわ」と言うと、さっそくお誘いがかかり、一緒に行くことになりました。
上空に大きな鳥が飛んでいくのが見えました。「アッ、とり!」「おーい、どこいくの」とみんなで鳥がみえなくなるまで見送りました。赤い屋根の家が近づくと「ネコ、いないね」と誰かがつぶやきました。いつもは窓辺や外に猫が寝ているそうです。「今日はどこで寝ているのかな~」と探しているうちに、いつの間にか、♪まいごのまいごのこねこちゃん~♪と歌が始まりました。途中、ドングリや猫じゃらしを拾ったり、上町会館の「チコちゃん」に挨拶したりして、ブラブラと30分ほどかけて散歩をしました。大人の足なら10分もかからない距離ですが、子どもの目線でゆっくり歩くと、園内では体験できないものに出会えるのが楽しいですね。子ども達の目が生き生きと輝いているのを感じました。
ところで、このようなちょっとした散歩にも、実は学びの視点が散りばめられています。
横断歩道や交差点では「車が来ないかな?」と左右を見て安全確認し、近所の方とすれ違う時は、必ず「こんにちは!」と挨拶を交わします。
曲がり角では、「どっちに行こうか?」と子どもに聞きます。なんでも自分でやりたがる年頃の子ども達です。たとえ、ルートが決まっていても、「どっちがいい?」と聞き、子ども達が自分の意思を示す機会を大切にしています。
雲が流れる様子、鳥が木の実をついばむ姿、季節の草花など、出会った生き物や自然の事象に関心を持てるような声かけも大事です。きんかんと夏みかんをみつけ、「いっしょ!」という子ども達に共感しながら、「どっちが大きいかな?」と問いかけるのは、観察したり考えたりする力を育てます。
見えにくいかもしれませんが、0~2歳児であっても、遊びや生活の中で色々なことを学んでいるのです。
保育園では、どの年齢の子もそうですが、特に3歳未満の子ども達は、保育者とのあたたかい関わりから生まれる安心感を土台にして、少しずつ世界を広げ、様々なことを楽しんだり、感じたりしてほしいと考えています。
昼下がりのテラスで、ひよこ組のMちゃんが先生の背中でまどろんでいます。
「お散歩が楽しかったようです。いつもより機嫌がいいし、給食もよく食べました」と先生が教えてくれました。やさしく揺れる背中が心地いいのでしょう。きっといい夢がみられますね。(園長 番場朋子)
令和7年1月6日
「よいしょー!よいしょー!」
小雨まじりの師走の空に、子ども達の元気な掛け声が響きます。
久しぶりに「もちつき」を行いました。以前は園児の祖父母の方に手伝ってもらい、盛大にもちつき会を行っていました。臼と杵でついた餅を雑煮にしてみんなで食べたものです。ところが、胃腸炎の流行などで中止することが多くなり、数年前からは取りやめていました。地域でも「もちつき」をする光景を目にすることが少なくなりました。残念に思っていたところ、職員から「鏡もちにしてはどうでしょう」と提案があり、久々についてみることにしたのです。
とはいえ、もちをつける職員はいません。そこで、YoTubeなどで予習し本番に臨みました。予想以上に重い杵に苦戦しましたが、職員が輪番につき、どうにか餅らしく仕上がりました。やればできるものです。
子ども達は、蒸したもち米を味見したり、つきあがった餅を触ってみたりしました。初めて体験する子が多かったようです。「あまいね」「手にくっつくよ!」いう声が聞こえてきました。杵を持たせてもらい、その重さに驚く子もいました。
もち米から立ちのぼる湯気、甘い香り、つきたての餅のなめらかさ…、五感で感じた体験はきっと心に残るでしょう。
さて、数日後、丸めて乾燥させたもちを重ね、紅白の折り紙などで飾りつけると、それなりに立派な鏡もちになりました。大きいものは本堂と虚空蔵堂へ、小さいものは虚空蔵堂の手前の小さな祠にお供えすることにしました。
さっそく、子ども達と一緒に本堂の祭壇にお供えしました。「いつも見守ってくれているのの様に感謝を込めてお供えするのよ」と主幹のM先生が鏡もちの由来などを教えてくれます。そして、「一年間ありがとうございました」とみんなで手を合わせました。
鏡もちの2段の丸もちは太陽と月を表し、「福が重なる」「円満に年を重ねる」という意味があるそうです。
日本の伝統行事を体験すると、古来から日本に根付く信仰心や和を重んじる考え方などに触れ、あらためて歴史ある素晴らしい国だなと感じます。
手作りの鏡もちと神妙な面持ちの子ども達を前に、のの様のお顔がほほえんでいらっしゃるように見えたのは気のせいでしょうか。
1月30日に「護摩」という仏教行事を行います。虚空蔵堂の中に入り、護摩焚きを間近に見ることができます。ぞう組は、一人ひとりの名前が読み上げられ、今年一年の無病息災を祈願してもらいます。
ご興味がありましたら、ぜひお越しください。(園長 番場朋子)
令令和6年12月1日
「いってらっしゃーい!」
スタッフの声に見送られ、足早にお母さんが出ていきました。
保育園では毎朝見られる光景ですが、ここは子育て支援センター「ぐるんぱクラブ」です。
11月から、短時間の一時預かり(託児)を始めました。といっても、月に1回、午前か午後の2時間程度のお預かりです。70代のボランティアさん達がお手伝いしてくれます。保育士経験はありませんが、責任を持って関わりたいと、我孫子市の「子育てサポーター養成講座」を受講してくれました。
夏の初めの会議で、スタッフからこんな提案がありました。
「ぐるんぱクラブで一時預かりができないでしょうか?」
子育ては24時間、休みなしです。実家が遠かったり、お父さんが単身赴任だったりと、ワンオペで頑張っているお母さんも少なくありません。寝不足や腰痛で辛そうな方も見かけます。「安心できるところに子どもを預けて、少しの時間でもホッとできたら…」と、お母さん達の様子を間近で見ているスタッフだからこその提案でした。
「商業施設も近くにないし、短時間でどこに行けるのかしら…」と心配しましたが、「近くのスーパーで買い物したり、家の掃除をしたり、ちょっとしたことでも一人でできると気分転換になります」とスタッフの熱意に押されてスタートしました。「ほっとHotハート」という名前に「お母さん達にほっとできる時間を」との願いを込めて…。
今日は、3人のお子さんを預かりました。ぐるんぱクラブによく遊びに来ているので、お母さんと離れても泣くことなく遊び始めました。初めて会うボランティアさんともすぐに仲良くなり、楽しく過ごしている様子を見かけました。
ボランティアのKさんは、かつて看護師として働いていました。産休明けすぐに仕事に復帰し、子育てはお姑さんにずいぶん助けられたそうです。「この年になって再び子育てに関われることに感謝です」と話してくれました。娘さんがプレゼントしてくれたエプロンがよく似合っています。「頑張ってね」と背中を押してくれたそうです。
お母さん支援のために始めた一時預かりですが、大人も子どももみんなの心が温かく満たされていることを感じ、嬉しく思いました。
子育ては親だけで行うものではありません。地域や社会全体で支援することが大切だと感じています。子どもを守るお母さんやお父さんを真ん中にして、キャベツの葉のようにみんなでやさしく包んであげれば、子育てはもっと楽しくなるでしょう。子ども達も地域を信頼し、多世代と関わりながら心豊かに育つことができると思うのです。
玄関に予定よりも早く迎えにきたお母さんの姿がみえました。ウォーキングしながら買い物をしてきたそうです。「楽しかった?」と子どもを抱きしめるお母さんの笑顔が、朝よりも晴れ晴れとしているように見えました。(園長 番場朋子)
令和6年10月1日
注文した絵本や図鑑が届きました。
各クラスの担任からリクエストされた本です。子ども達の興味の広がりを感じ、本屋やインターネットで探したそうです。
届いた本は、おはなし絵本の他、妖怪の図鑑、カナヘビの飼い方、友達の気持ちを理解するための本などバラエティーに富んでいて、「これなら子ども達も喜んで見るだろうなぁ」と担任の観察眼に感心しながら眺めていました。
本がきっかけで遊びが広がることもよく見られます。
先月は、きりん組で結婚式ごっこが流行りました。きっかけは、移動図書館で「子どもの手作り衣装」の本を借りたことです。このような大人向けの本と出会えるのも移動図書館の楽しみのひとつです。
本の中のドレスに夢中になっている子ども達を見て、担任がブライダル雑誌を持ってきたそうです。子ども達はウェディングドレスをまねて、布やカラーポリ袋でドレスを作り始めました。アルミホイルで指輪などのアクセサリーも作りました。レースのカーテンはベールにぴったりでした。
そして、結婚式ごっこが始まりました。そのうちに、他のクラスの子ども達や先生を招き、たくさんの参列者の前で結婚式を行いました。うわさを聞きつけた給食室の先生たちが、披露宴の食事のようにおしゃれに盛り付けてくれました。いつもと同じ給食なのにお皿や盛り付け方を変えるだけでずいぶん印象が変わるものです。子ども達はちょっとかしこまりながらも、ウキウキとした表情を見せていました。雑誌に載っていた華やかな披露宴の雰囲気を感じられたのではないでしょうか。
ぞう組では、怪盗エックスからクイズが出され、イギリスのお菓子の名前を探すことになりました。怪盗エックスは、本堂での「おつとめ」で理事長が話す創作話の主人公です。いつもいたずらばかりしているのですが、子ども達にとても人気があります。
さっそく、怪盗エックスからもらったヒントを頼りに、図書室で探したり先生達に聞きまわったりしましたが、どうしても分かりません。そこで、市民図書館の布佐分館に探しに行くことにしました。事前に司書さんに目的をお伝えしていたところ、外国のお菓子が掲載されている本を何冊か探して用意しておいてくれました。
おかげで、「クランペット」という名前のイギリスの伝統菓子だということが分かりました。本には、名前だけでなく作り方まで掲載されていましたので、今度は「自分たちで作ってみたい」と材料を調べ始めました。給食室にも材料があるか聞きに行きましたが、足りないことがわかったので、近いうちにナリタヤに買いにいくことになったようです。どんな味のお菓子が出来るのか楽しみです。
当園は創立以来、「絵本やおはなしに親しむ」ことを大切にしています。絵本や紙芝居の読み聞かせはどのクラスでも毎日行っていますが、近年は、子どもの興味関心に合わせて、さまざまなジャンルの図鑑や今まで保育の中で取り入れてなかったような内容の本も増えました。
今はどんなこともインターネットで探せばすぐに見つかり、購入できる時代です。もちろん保育に取り入れることで遊びや学びが広がる効果もあります。一方で、子ども達には、あえて本で探し、友達と一緒に考えたり工夫することを大切にしたいと考えています。
寄り道をしながら探し当てることで、さらに学びが深まり、好奇心や探求心が育まれていくでしょう。本はその道標になってくれると思うのです。(園長 番場朋子)
令和6年10月1日
りす組(2歳児)前の廊下を歩いていると、トイレから出てきたMちゃんと目が合いました。
Mちゃんはパンツとズボンを抱え、急いで駆け寄ってきて、「やって」と嬉しそうに私を見上げます。「いいですよ、どうぞ」とパンツを広げると、得意げに足を入れてきました。ほんの短い時間でしたが、Mちゃんは新しいパンツを買ってもらったことを私に教えてくれました。そして、履き終わると、あっという間に遊びに行ってしまいました。
Mちゃんの名誉のために言いますが、Mちゃんはパンツもズボンも自分で履けるお姉さんです。トイレも行けるし、ごはんだって一人で食べられます。
こんなに出来るようになったのに、なぜ、わざわざ「やって」というのかしら?と不思議に思いますよね。実は、これが「甘え」と「自立」の関係です。私は、お風呂に例えてお話するようにしています。
お風呂に入ってよく温まると、「あ~、いい湯だった!あつい、あつい」と言って、出たくなりますね。そして、外の風に当たって冷えると、またお風呂に戻りたくなります。それと同じように、子どもは、「やって」と「自分でできるもん」を繰り返しながら自立していきます。
ですから、出来るようになったのに、なぜ「やって」というのかと言うと、ちょっと冷えてしまったからお風呂に入りにきたようなものです。温まれば、言われなくても勝手に出ていくので心配ありません。でも、じゅうぶん温まっていないのに、「もう出なさい!」と無理に出されてしまうとどうでしょう。寒くて、遊ぶどころか何かに挑戦する気にもなりません。すぐにお風呂に戻りたくなってしまいます。子どもが「もういいよ」と自分から出るのを待つことが大切です。自立は「させる」ものではなく、「する」ものなのです。
お風呂は、お母さんやお父さんの懐です。子どもが安心して過ごぜる家庭で、スキンシップをたくさんとりながら、子どもの話を聞いたり、思いに共感してあげるようにしてください。心がしっかり温まると、保育園や学校で頑張れるようになります。
大きな声では言えませんが、うちの息子は、小学校に上がるまで朝ごはんは必ず私の膝に座って食べていました。年長になっても、食べさせてあげることが多かったです。保育園では自分で食べていると担任の先生から聞いていたので、「外では頑張っているんだな」と思い、安心して甘えを受け入れることができました。そして、気が付くといつの間にか自分の椅子に座り、自分で食べるようになっていました。
精神科医の明橋大二先生も、著書『子育てハッピーアドバイス』の中でこのように言っています。
「じゅうぶんな安心感をもらうと、子どもは「自分でやる」と言い出します。自分でやっていると、また不安になって、こちらに帰ってきます。そういうことを繰り返して、自立に向かっていくのです。もし、子どもが不安になって後ろを振り返ったら、そこには、ちゃんと親がいて、「大丈夫だよ」とうなずいてくれる。そういう関係を築いていきましょう」
時には、「お風呂に入りたいよー!」という子どものサインがわがままに見えてしまい、「保育園でちゃんとやれるのかしら」と心配になってしまうこともあるかもしれませんね。そんな時は、担任の先生に園での様子を聞いてみてください。「保育園ではやっていますよ」と言われたら、それはきっと、お家でしっかり温まっている証拠です。安心してあたたかいお風呂を用意してあげて下さいね。(園長 番場朋子)
令和6年9月1日
『いいから いいから』(長谷川義史作/絵本館)という絵本を知っていますか?
とってもおおらかなおじいちゃんのおはなしです。突然やってきたかみなりの親子を「いいからいいから」と招き入れてもてなし、おへそをとられても「いいからいいから」と受け入れてしまうユーモア溢れる人気絵本です。
ぞう組の子ども達もこの絵本が大好きで、先日も大笑いしながら読み聞かせを楽しんだそうです。
そして、給食の時間のことです。
A君がうっかり味噌汁をこぼしてしまいました。「やってしまった」というような表情を浮かべるA君。すると、周りの子ども達が「いいからいいから」と口をそろえて言い、空気がふわっと和んだそうです。A君はほっとした表情を見せていました。
帰りの会で、A君に「いいからいいから」と言われた時、どんな気持ちだったかと聞いてみました。A君は「こぼしちゃってドキドキしたけど、うれしかった」とみんなの前で話してくれたそうです。
担任から話を聞き、私もうれしく思いました。周りの子ども達もきっと温かい気持ちになったでしょう。
こぼしたって拭けばいいし、汚れたら着替えればいい。まだまだ発達途上の子ども達です。いちいち目くじら立てて叱らなくても、そのうち出来るようになりますから。
「いいからいいから」のおじいちゃんのように、おおらかに子ども達と向き合っていきたいとあらためて思いました。
ところで、私事ですが、春にホームセンターでスイカの苗を購入しました。庭に植えてせっせとお世話をしていたら、スイカではなく、ユウガオというウリの仲間が実ってしまいました。スイカを食べるのを楽しみにしていたのに、泣きたいくらいがっかりです。店に文句のひとつも言いに行こうかと息巻いていました。ぞう組の話を聞いたのはそんな時でした。
心がせまい自分にはっとし、「いいからいいから、ユウガオでもいいじゃないか」とつぶやいてみました。そして、せめて子ども達に見せようと保育園に持って行きました。すると、「おばけのバーバパパに似てるね」と言って、色を塗り、目や口をつけてくれたのです。子ども達のおかげで、持て余していたユウガオが楽しいおばけに変身し、スイカじゃなくてユウガオでよかったとさえ思えてきました。
子どもと生活していると、想定外のアクシデントや思ったようにいかないことも多いですよね。反面、子どもから予想以上の喜びや楽しみをたくさんもらっていることに気付かされます。
「いいからいいから」のおかげで、肩の力を抜いて「ま、いいか」と楽に生きることの大切さを学んだ夏でした。(園長 番場朋子)
令和6年8月1日
図書室前の廊下に、「ヘルプボード」と書かれた紙が貼られました。
手伝ってほしいことや集めたい物を記入するための職員用の掲示板です。担任を持たないフリーの先生達が考えました。業務用のchatアプリで全職員に知らせることもできますが、ちょっとしたお願いをボールペンでパッと書けるので、この掲示板は先生達に好評です。
「ガチャガチャの入れ物を集めています」、「ほつれてしまったドレスを縫ってください」、「おまつりの看板を支える脚を作ってほしい」などヘルプの内容は様々です。
お願いごとの下に、「〇〇がやります」「終わりました」「ありがとう!」など先生達の楽しいやり取りが書き込まれていて、私もボードを眺めるのが日課となりました。
先週末には、屋台ごっこが流行っていることを知った栄養士が「月曜日は焼きそばです。パックに詰めたいクラスはありますか?」と書き込んでいました。給食室でも保育の様子が見えて協力しやすいのでしょう。
子ども達の「やってみたい」という声を聞きながら遊びを展開する保育は、下準備が大切です。子ども達の興味や展開する方向を予測しながら色々なものを準備します。担任だけでは間に合わないことが多いので、リーダー職やフリーの先生達、給食職員、事務員、看護師など、全職員で全クラスの保育を支えています。
「週末に近隣でお祭りがあるから、来週はお祭りごっこが盛り上がるかもね」、「のぼりや提灯を出しておこうか」、「焼き網もあるといいね」とアイデアを出し合い、手の空いた職員がすぐに準備に取り掛かります。子どもの遊びは移ろいやすく、鮮度が命なのです。
梅雨明け前からの猛暑で、最近は室内で過ごすことが多くなりましたが、職員の連携プレーで、お祭りごっこ、お化け屋敷、牧場ごっこ、海ごっこ、花火大会など、数えきれないほど豊かな遊びが展開されています。保育日誌をお見せできないのが本当に残念です!
遊びだけではありません。「〇〇ちゃんは、最近、お母さんと離れるのが難しいね」、「〇〇君は好きな遊びが見つからないみたい」 子ども達の小さな変化も共有し、一人ひとりに合った手立てを相談しています。
時には、思いがぶつかることもありますが、それぞれが「子ども」を思ってのこと。話し合いの場では「子どもをまんなか」に置いて考えることを大事にしています。意見が違うからこそ、色々な遊びが広がり、多角的に子どもを理解することが出来ます。目的が一緒なら、かならず良い解決策が見つかるものです。
お昼過ぎに、午後から勤務のS先生が出勤してきました。手には大きな袋を持っています。中身は廃材工作のための空き容器や紙箱です。ご主人に「そんなゴミを持っていってどうするの?」と言われたそうです。「子ども達の発想力を知らないのよね!」と明るく笑い、ヘルプをしていた先生にそっと手渡していました。(園長 番場朋子)
令和6年7月1日
敬愛短期大学のF先生から1冊の本が届きました。
昨年の夏に、F先生から突然連絡があり、園に訪ねて来られました。ホームページに掲載した職員の論文を読み、当園の保育に興味を持たれたそうです。研究のお役に立てればと、当園の取り組みや子ども達の様子をお伝えしました。
後日、F先生から「宝保育園の地域との関わりを教科書に紹介させてほしい」と連絡がありました。教科書の完成は5月頃と聞いていましたので、完成を楽しみに待っていたところでした。
当園は、創立以来ずっと地域に支えられています。
ここ数年は、さつま芋畑の整備、散歩の付き添いなど、保育に密接に関わっていただき、自治会や地域の方の協力がなくては成り立たない程です。他の園からも「地域と仲が良くてうらやましい」とよく言われます。
以前は、地域の交流というと、イベントや高齢者施設でダンスや歌を披露したりするものが大半でした。特に敬老の日がある9月は、複数の高齢者施設への訪問があり、子ども達の遊びがたびたび中断されていました。地域交流に課題を感じていたところにコロナが流行し、関わりが一切なくなる年もありました。無くなってみると、あらためて、地域の中で子どもを育む大切さを感じ、また、近隣の方から「保育園の様子が全くわからない」との声をいただきました。そこで、「どんなことなら出来るか」と職員で話し合い、紙面の園だよりを配布したり、保護者向けの講習会にお招きしたりと、園の様子を知ってもらうための取り組みを始めました。近隣の方々と直接お話をする機会が少しずつ増え、人形の布団が足りないことを知った手芸グループの方が布団を作ってくれたり、ハロウィンの衣装を着た子ども達が近所のお宅を訪問をさせてもらったりと、新しい交流が生まれてきました。ここ数年は、近隣の方々が作った「ひな人形」を展示して、「ひなまつり」を開催しています。子どもだけでなく保護者の方にも好評です。
届いた本の表紙には『新しい時代の保育者』と書かれていました。保育士の養成校などで使用されるそうです。その中で、F先生は「地域との連携」について当園の取り組みを紹介し、「地域の人々との良い関係があるからこそ成り立つこと」と評価してくれました。そして、「地域の人々と保育者がそれぞれの強みを生かして、子どもを取り巻く大人が無理なく楽しく「子ども」を育む姿勢でいることが、長続きする秘訣」と書かれていました。
今朝は、自治会長さんが竹を切って運んで来てくれました。お願いしていた七夕飾りの竹です。よく見ると、子ども達が飾りやすいように下の枝を落として整えてありました。心遣いに頭が下がります。
これからも地域の皆様に支えて頂きながら、子どもも大人も無理のない楽しい交流を続けていきたいと思います。(園長 番場朋子)
令和6年6月1日
うさぎ組の部屋では、Rちゃんが粘土遊びをしていました。お父さん、お母さんと一緒に作ったおだんごが粘土板に並んでいます。「何だか楽しいね」とRちゃんの嬉しそうな声が明るく響き、周りの先生や親子もみんな笑顔になりました。
5月の土曜日に、うさぎ組ときりん組で「親子レク」を行いました。普段の子ども達の遊びを一緒に楽しみ、保育園の様子を知ってもらおうと計画しました。どちらの日も気候に恵まれ、部屋だけでなく園庭や境内でも遊ぶ姿が見られました。Mちゃんはお母さんと鬼ごっこを楽しんでいました。昨晩から鬼ごっこで遊ぼうと約束していたそうです。Tちゃんはお父さんと滑り台で遊んでいます。初めて滑ったお父さんは「思ったより早いね」と驚いていました。他にも、虫探し、砂場遊び、ダンス、工作遊びなどを楽しんでいる様子が見られます。保育園が穏やかな空気に包まれ、子ども達の表情はとても満足そうに見えました。
その様子を見て、幼い頃の楽しかった事を思い出しました。
家族でドライブに出掛けた帰り道。立ち寄った小川で、母がクマ笹で舟の作り方を教えてくれました。父や兄妹と作った笹舟を小川に浮かべ、流れていく舟を夢中で追いかけたことを覚えています。父と母も楽しそうに笑っていたその光景を思い出すと、今でも温かく幸せな気持ちになります。
母から聞いた話では、その日はわざわざ遠くの大きな遊園地に出掛けたそうです。観覧車やジェットコースターなどたくさんの乗り物に乗り、アイスクリームやお土産も買って、お財布がすっからかんになったと聞きました。それなのに、子ども達が「楽しかった」と口を揃えて言うのは、帰りがけに寄った小川でのひととき。「何だか複雑だったわ」と母が不満気に言うので、今でも我が家の笑い話になっています。
子どもが本当に望んでいることは、実にささやかなものです。遊園地や新しいオモチャも嬉しいけれど、それよりも、お父さんやお母さんが遊んでくれることが一番嬉しいのです。自分に向き合ってくれることが嬉しくて心が満たされるのでしょう。鉄棒をするところを見ててもらったり、話を聞いてもらったり。大人にしたら取るに足らないことかもしれませんが、その積み重ねが子どもの心を育てるのだと思います。
「きょうはいいひだね」きりん組のMちゃんがお母さんに言ったそうです。Mちゃんはお母さんとふたりで参加しました。妹はお留守番のようです。お母さんと遊ぶMちゃんの笑顔がいつもよりも輝いて見えました。
子ども達の毎日が「いいひ」になるよう、保育園でも子ども達のささやかな「望み」に耳を傾け、心を寄せて応えてあげたいとあらためて思いました。(園長 番場朋子)
令和6年5月1日
「園長先生、ちょっと来て!」 事務室で仕事をしていると、きりん組のRちゃんが興奮気味に私を呼びに来ました。園庭の紅葉の木の周りに、子ども達が集まっています。「生まれたんだよ」「鳴き声が聞こえる」「しーっ、静かに!」子ども達が口々に教えてくれます。
先月から、紅葉の木の洞(穴)にシジュウカラのような小鳥が出入りしていました。一週間ほど前にM先生が洞の中に卵があることに気付き、みんなで見守っていたようです。「ほら、赤ちゃんが見えるよ」と言われ覗き込みましたが、老眼のせいでしょうか、何も見えません。別の子に「ここに耳を当ててみて」と促され、紅葉の木にそっと耳を当てると、「ピーッ、ピーッ」とかすかに鳴き声が聞こえてきました。小さな小さな声ですが、命の輝きを感じ、胸が熱くなりました。それにしても、にぎやかな園庭でよく気付くものです。子ども達の観察力にはいつも驚かされます。
鳥だけではありません。ダンゴムシやアリなどの身近な生き物は子ども達の恰好の観察対象です。ぞう組ではダンゴムシを飼い始めました。給食室でもらった野菜クズを与えて、ダンゴムシが食べる様子を観察しています。前日あげた野菜が翌朝にはすっかりなくなってしまうほど食欲旺盛なことが分かりました。色々な野菜を与えるうちに、「かたい野菜よりも葉っぱの方をよく食べるね」「レタスにたくさん集まるから、レタスが一番好きなんじゃない?」と観察しながら推察をしています。
うさぎ組の子ども達はアリに夢中のようです。「アリは甘いものが好き」と自分達が持っている知識をもとに砂糖やはちみつを与えていましたが、最近ではカツオ節も食べることが分かったそうです。新たな発見で興味関心もさらに広がるでしょう。
ところで、ダンゴムシも食べきれない野菜くずは、2階のテラスにあるコンポストに入れているそうです。栄養士お手製の生ごみ処理機です。プランターに黒土を入れただけですが、黒土は微生物が多いため給食の残菜や野菜くずなどを早く分解してくれるのです。まるで生物学の研究所のようです。
小さな科学者たちのおかげで、私自身も身近な生き物にあらためて興味を持つようになりました。特にここ数年は、子ども達の興味から「鳥の博物館」に見学に行くことが多くなり、保育園周辺には鳥が多いことに気がつきました。利根川や手賀沼があるからでしょう。実は、宮の森公園でカワセミも見られるのですよ。
気持ちの良い季節です。お休みの日は、ぜひお子さんと一緒に身近な自然に目を向けてみて下さい。きっと、楽しい発見がたくさんありますよ。(園長 番場朋子)
令和6年4月1日
入園、進級おめでとうございます。
子ども達をお祝いするかのように、春の草花が生き生きと咲きほこり、本格的な春の訪れを感じます。境内や保育園にも、パンジーや菜の花など色とりどりの花が目を楽しませてくれています。チューリップや桜はまだのようですが、これから順番に咲き始めるでしょう。
ところで、花は種類によって咲く時期が違いますね。色だけでなく大きさや形も違い、それぞれ個性があり素敵だなと思います。
子どもも同じです。同じクラスの出来ている子を見ると、なぜか我が子が出来ていないことばかりに目がいきがちです。「なかなか保育園になれない」「言葉が出ない」「好き嫌いが多い」「お友達と遊べない」「ひらがなが書けない」…。つい心配になり、「出来るようにさせよう」と焦ってしまうかもしれません。でも、大丈夫ですよ。子どもはそれぞれ自分のペースで育っています。乳幼児期に周りの大人がやることは、無理に何かをやらせることではなく、しっかりと心の根を張れるように、温かい言葉と笑顔で子どもに接し、スキンシップをたくさんとることです。そうすれば、ちょっとやそっとの嵐でも折れないしなやかで強い心が育ち、おのずと出来ることが増えていくでしょう。ぜひ、おおらかな気持ちでお子さんの成長を待ち、お子さんの好きなこと、やってみたいことを一緒に楽しんでください。
今日から新年度が始まりました。新しいお友達10名を迎え、新しい職員も2名入りました。初めての保育園生活に緊張しながらお子さんと一緒に門を入った方もいるでしょう。進級してひとつ上のクラスになり、新しい環境に不安を感じる子もいるかもしれません。私たちは、どの子にとっても保育園が居心地のよい場所になるよう、一緒に楽しい遊びをたくさん探し、保護者の皆さんと共に、お子さんの成長を楽しみに待ちたいと思います。どうぞ安心してお子さんをお任せください。(園長 番場朋子)