「椋の木のおはなし」は布佐宝保育園長による保育エッセイです。(ほぼ)月に一度発行いたします!
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令和7年10月1日
「かたつむりは何を食べるでしょうか?」
卒園児のHちゃんが、ぞう組の子どもたちに問いかけました。Hちゃんの前には大小さまざまな「かたつむり」が入った飼育ケースが置かれ、子ども達は興味津々で話を聞いています。
2年生になったHちゃんは、夏休みの自由研究で科学論文を書いたそうです。市内の小中学校科学作品展を観に行った当園の職員から、「Hちゃんの論文がありましたよ」とうれしい報告がありました。
さっそく、弟のお迎えに来たお母さんに聞いてみると、Hちゃんは1年生の時に宮の森公園で見つけた「かたつむり」を飼い始め、9ヶ月もの間、産卵から成長を観察し、作文に書き続けていたことを教えてくれました。
ぜひ論文を見せてほしいと伝えたところ、お母さんはHちゃんと相談し、保育園で発表してくれることになりました。ぞう組の子ども達の前で、「かたつむり」について生き生きと発表するHちゃんの姿は、まるで小さな博士のようでした。
Hちゃんは、観察したり調べたりする中で「かたつむりにも食べ物の好き嫌いがある」ことや、「赤ちゃんは大人よりも足が早い」ことなど色々なことが分かったそうです。一方で、「スイカは好きなのに、どうしてメロンは誰も食べないのだろう?」、「雨が降っていることがわからない室内で飼っているのに、雨の日には水をあげなくても全員が顔を出すのはなぜだろう?」と、いくつかの「なぞ」ができたので、これからも調べたいと思っているそうです。なにより、「かたつむり」のことをたくさん調べて、もっともっと大好きになったと言います。
「好き」なものや「夢中」になることがあるのは本当に素敵だなと思います。
幼児期に好きな遊びに没頭する経験は、就学以降の学びの土台となります。夢中で遊ぶ中で、思考力や探求心、集中力など学びに向かう力が育まれるからです。
でも、それだけではありません。好きなものに夢中になるワクワクした気持ちは、人生をより豊かにしてくれると思うのです。
これからますます多様な時代になります。子ども達には、世間や誰かの評価に揺らぐことなく、自分の「好き」を大切にして、自分らしく幸せで豊かな人生を生きてほしいなと思います。
保育園には、現在78人の博士のたまごが育っています。毎日熱心に、生きもの、どろんこ、電車、折り紙、ダンス、廃材制作など多種多様な研究にいそしんでいます。キラキラした目でその魅力を教えてくれる子ども達のおかげで、私の「好き」なものも年々増えているような気がします。(園長 番場朋子)
令和7年9月1日
うさぎ組(3歳児)の部屋でお酢を使った実験が始まりました。
栄養士のK先生が10円硬貨を子ども達に見せています。それをお酢の中に入れてゴシゴシこすると、汚れた10円玉がきれいになって出てきました。「すごーい!」「きれいになったね」と子ども達は魔法のような変化に目を丸くして見つめていました。
「これはお酢というのよ。これを食べると元気が出て、お腹の中もきれいになるのよ」と酢の働きについて教えています。
乳幼児は「苦い」「すっぱい」が苦手です。これは発達上の特性だそうです。なぜなら、苦さもすっぱさも生き物にとっては「毒」を検知するための味覚だからです。食物の安全を判断できない子どもにとっては、必須のメカニズムなのです。(*)
ひと昔前は、何でも食べる子が良い子とされ、出されたものはすべて食べるように強要されたり、好き嫌いは「わがまま」と言われていた時代もありました。今は、保育園でも学校でも無理に食べさせることはありません。
とはいえ、何もしていないわけではなく、保育園では、廊下に食育コーナーを作ったり、野菜の栽培や皮むきなどを取り入れ、食材や食事に興味をもってもらおうと様々な手立てを行っています。実験もその一つで、うさぎ組の先生から子ども達が酢の物に苦戦していることを聞き、酢の働きがわかる実験をしたそうです。
給食の時間になりました。今日の副菜は「きゅうりの酢の物」です。
配膳されたタイミングで、「これにお酢が入っているみたいよ」と先生が子ども達に声をかけました。いつもは手をつけたがらない子も興味を持ったようで、においを嗅いだり、フォークでつついたりしています。
さらに先生が、「もしかして…、これを食べると元気が出て、みんなのお腹もピカピカになるかもしれないね」とつぶやきました。
子ども達の目がキラリと光り、そーっと口に運びます。そして、食べた子たちが「なんか元気出てきた!」、「おなかピカピカになった?」と口々に言い始めました。「見て!」と服をまくり上げておなかを見せてくれる子もいます。
「すごい!ピカピカになったね」とほめられ、もう一口食べようとする姿も見られました。
給食が終わり、お昼寝前の紙芝居がはじまった頃、給食室からこんな会話が聞こえてきました。
「あら!今日はうさぎ組の残菜が少ないわよ」「よかったわね」
給食先生たちは、子どもが食べやすいように味付けや切り方を工夫し、心を込めて調理しています。無理して食べる必要はありませんが、やはり食べてくれると嬉しいものですね。(園長 番場朋子)
(注)参考文献:『21世紀の証拠に基づく「子ども育て」の本』/掛札逸美
令和7年8月1日
20時を過ぎても保育園の明かりが消えず、ホールからは笑い声が聞こえてきました。
職員の園内研修を行いました。ふだんの研修は午睡の時間に行うことが多いのですが、保育中は参加できる人数が限られてしまうため、今回の研修は多数決で平日の夜に決まりました。
初夏の頃から、研修の企画担当の3人の先生が話し合っていました。協働作業をしながら親睦を深め、さらに子ども達にも還元できるようにと考え、グループごとにダンスを考えて発表するという研修になりました。夏はどうしても室内遊びが多くなってしまうので、ダンスのレパートリーが多いと、子ども達も十分に身体を動かして楽しめそうです。
当日は20人以上の職員が集まりました。一度家に帰り、夕飯を作ったり、子どもを塾に送ったりしてから来た人も多かったようです。中には、自分の子どもを保育園に迎えに行き、そのまま子連れで戻ってきた先生もいました。仕事が終わっても家事、育児、介護とそれぞれに忙しい中、もっと保育を学び、保育園をより良くしたいという先生達の意欲に頭がさがります。
子どもが全員降園した後、担当者が用意したハンバーガーで軽くお腹を満たし、いよいよ始まりました。練習時間はたったの30分です。時間内で完成するのかと心配しましたが、そこは保育者です。子どもが好きそうな曲を探し出し、あっという間に振り付けを完成させました。踊るだけでは物足りず、残り10分で衣装や小道具を作るグループもありました。先生の顔はいつもより生き生きと楽しそうです。給食や時間外の先生達も、日頃なかなか話せない同僚と笑い合い、楽しそうに踊る姿がみられました。
発表の時間は笑いと感動で大いに盛り上がりました。隠れた才能や意外な一面を見せてくれた職員もいました。お見せできないのが本当に残念です。
発表のあと、4月に入職した新人の先生達の名前が呼ばれました。
驚くふたりに、全職員からのメッセージを綴ったカードが贈られました。これも担当の先生達のはからいです。2週間前にこっそりとカードが配られていました。新人の先生にとって、この4ヶ月は楽しいことよりも戸惑うことの方が多かったかもしれません。「大丈夫だよ」「応援しているよ」と書かれた言葉は、きっとふたりの心に響いたことでしょう。仕掛け上手の先生達のおかげで、「チームたから」のきずなは、ますます深まったように感じます。
研修で生まれたダンスは、さらに磨きをかけて子ども達に披露する予定です。いつも以上に盛り上がる夏になりそうです。(園長 番場朋子)
令和7年7月1日
ぞう組ときりん組の子ども達の間で、びゅんびゅんごまが流行っています。
理事長先生が特製のコマを作ってくれたのです。子どもの手にちょうどよいサイズで、コツをつかめばよく回るように出来ています。
ビュンビュンと音を鳴らして回せるようになった子は、手だけでなく、足の指にもかけて二つ回しや三つ回しに挑戦しています。そのうちに、技に挑戦する子たちが出てきました。
ぞう組のH君は、フラフープを腰でまわしながらビュンビュンごまをまわすという独自の技を考案し、友達や先生達から絶賛されました。
きりん組のA君は、頭の後ろでまわす技を考えました。後ろ手で回すのは、思ったよりも難しいものです。
H君もA君も、何度も失敗を重ねながら習得したのでしょう。それはそれは真剣な表情で披露してくれました。
子どもが夢中になって遊ぶ集中力には、いつも驚かされます。
ぞう組のR君は、移動図書館で借りた本をきっかけに、編み物に興味を持ちました。「くさり編み」を覚え、指でコツコツと編み続けているうちに、とうとう毛糸をひと玉編み切ってしまいました。長さを測ったら5メートルをゆうに超えていたそうです。
積み木を天井近くまで積み上げたり、泥だんごをピカピカに光るまで磨きあげたりする子もいます。うさぎ組やりす組でも、ダンゴムシや小さな椋の実をお椀いっぱいに集めて見せてくれる子がいます。よくもまあ、こんなに根気よく続けられるものだと感心します。
子どもが夢中になる遊びは、一見すると、何をしているのか分かりにくいものも多いのですが、実は、夢中になって遊んでいる時こそ、頭の中はものすごく活発に働いています。自分なりに仮説を立て、微調整をしながら何度も試しているのです。友達と一緒に遊ぶ場合は、さらにコミュニケーション力も必要となります。
一斉指導でひらがなや算数などの早期教育に取り組んでいるほうが学びになっていると思うかもしれませんが、実はそうではないのです。これは近年の幼児教育の研究ですでに明らかになっている事実です。幼児期の子どもは、夢中になって遊ぶ中でこそ、多くのことを学び、さまざまな能力を身につけているのです。
園では、どの子も自分の好きな遊びをみつけ、夢中になって遊ぶ体験をたくさんできる環境をつくっていきたいと考えています。
幼少期に好きな遊びを夢中で楽しんだ記憶は、おとなになっても忘れないものです。
その時に感じたワクワクした気持ちは、これから先、さまざまな場面で何かに挑戦しようとする原動力になるでしょう。
ところで、みなさんは、小さい頃にどのような遊びに夢中になっていましたか?(園長 番場朋子)
令和7年6月1日
園庭から泣き声が聞こえてきました。
Bくんが大きな声で泣いています。AくんがBくんをたたいてしまったようです。
「どうしたの?」と担任の先生が駆け寄りました。「Aくんがたたいた!うわーん」とBくんの泣き声はさらに大きくなります。「だってさ、ぼくが先に使ってたのに…」悔しそうに言うAくんの目からも涙がこぼれます。
どうやら、Aくんが、乗っていた三輪車を置いて玩具を取りに行ったすきに、Bくんが乗って行ってしまったので、取り返そうしてBくんの背中をたたいたようです。双方の言い分を担任の先生がていねいに聞き取り、相手に伝えています。
「ごめんね!」怒ったような声でAくんが言いましたが、Bくんは「やだ!いたかった!」と言って受け入れません。
ひとまず、たたかれたBくんを事務室に連れて行きました。
赤みが残るところを冷やしながら、Bくんの話を聞くことにしました。最初は、何にもしていないのにAくんにたたかれたと言っていましたが、よく聞くと、実はAくんが先に使っていたことを知っていたようです。いつも、先に園庭に出るAくんに取られてしまい、なかなか貸してもらえないと教えてくれました。
保育園では、このような子ども同士のトラブルは日常茶飯事です。
うさぎ組の保護者会でも、ありがちな場面を担任が寸劇で紹介しましたが、子ども達は今、保育園という社会の中で他者との関わり方を学んでいるところです。
私たち保育者は、それぞれの言い分を聞くことを大切にしています。それぞれの気持ちに共感しながら、双方の思いを代弁し、どうしたらいいかを一緒に考えるようにしています。
このようなやり取りを繰り返しながら、子ども達は他者との付き合い方を覚えていきます。
「仲良くしないとだめでしょ」「貸してあげなさい」「ごめんねは?」
私たち大人は、つい、子ども達に社会的に認められるような言動を求めがちですが、急がないようにしたいと思っています。まずは自分の気持ちを素直に出し、自己主張のぶつかり合いをたくさん経験することを大事にしたいと思います。
「ごめんね」を言えることも大切ですが、それ以上に「悪いことしちゃったな…」という気持ちを感じてもらいたいと考えています。自分に気持ちがあるように、相手にも気持ちがあることを知ってほしいのです。
友達との関わりというのは、ぶつかりながら覚えていくものだと思います。大人が先回りしすぎたり、介入しすぎたりすると、せっかくの学びの機会を奪うことになりかねません。
少し時間はかかりますが、日々学んでいる子ども達を、あたたかい目で見守っていきたいと思います。
元気になったBくんが事務室を出ると、心配して様子を見にきた子ども達の中に、Aくんもいました。靴をはくBくんのそばに寄り、小さな声で「たたいちゃってごめんね」と言っています。「いいよ・・・ごめんね」Bくんもあやまっています。そして、何事もなかったように、また遊び始めるのでした。(園長 番場朋子)
令和7年5月1日
4月下旬にぞう組の保護者懇談会を行いました。
近隣の学校の行事が土曜日に多いこともあり、今年度は思い切って平日の午後にしてみました。欠席が多いのではと心配しましたが、予想以上に参加者が多く、園に関心を持っていただいていることを大変うれしく思いました。
ぞう組に進級した子ども達の写真をプロジェクターで大きく映し、遊びや生活について紹介しました。また、ぞう組はあと一年で小学校に上がるため、遊びの中で育まれる力や就学につながる取り組みなども説明しました。
その後、グループに分かれての懇談となりました。ちょうど、栄養士が焼きたてのクッキーを運んできました。会場に甘い香りが漂います。手作りおやつを試食しながらの懇談は、楽しい話題が持ちきりで、あちこちから笑い声があがっていました。
終わりの時間が近づいたころ、「この一年の中で子どもと一緒にやりたいこと」を一人ずつ発表してもらうことにしました。
「筑波山に登りたい」
「お菓子作りをしたい」
「推しのライブにいきたい」
さまざまな声があがり、周りの保護者も関心を持って聞いていました。そのうちに、「一緒に筑波山に行きたいです」、「親たちが真剣に何かをやる姿を子どもたちに見せましょう」などと話が盛り上がり、いい雰囲気の一体感が生まれました。最後は、元野球部の担任が「ぞう組、オー!」と掛け声をかけ、締めとなりました。
ぞう組は、10月と2月に保護者参加の行事を予定しています。子ども達の意見を聞きながら内容を考えていくつもりですが、保護者がお客さんにならず、子どもと保護者が共に主体的に参画できる行事にするにはどうしたら良いだろうと、考えていました。
どの行事も子ども主体であることはもちろんですが、保護者も主体的に園の活動や行事に関わることで、園や他の保護者とのつながりを感じ、子育てがもっと楽しくなると思うのです。後日のアンケートでは、「このような懇談会がもっとあるといい」という意見もありました。平日なら実現できそうです。
「この前のクッキーね、お母さんと一緒に作ったんだよ」
登園したHちゃんが嬉しそうに教えてくれました。懇談会で提供したクッキーのレシピを配布資料に入れておいたのです。ふたりの楽しそうな笑顔が目に浮かびました。
ぞう組の担任からは、「早速、みんなで筑波山に行く計画を立てているそうですよ」と聞きました。
子どもを真ん中に、園と家庭、保護者同士がつながり始めていることを感じます。(園長 番場朋子)
令和7年4月1日
「ママ、早くお迎えにきてね」
保育園では、毎朝、お子さんと手と手を合わせてタッチをしたり、ぎゅーっと抱きしめたりしてから、職場へ向かうお母さんやお父さんの姿がよく見られます。うれしそうな子ども達の顔を見ると、こちらも幸せな気持ちになります。
「朝のタッチはいいですね。子どもに触れることが大切です」
と臨床心理士の先生が教えてくれました。子どもの気持ちをより深く理解するため、時々、来ていただいています。専門の先生から学ぶことは多く、私たち保育者が日頃から大切にしていることに科学的根拠があることを教えてくれます。先日は、子どもとの触れ合いの重要性を教わりました。
乳幼児期は、特に皮膚感覚が重要で、大好きなお父さんやお母さんに優しく触れられる心地よさから、愛情や信頼感、優しさといった感情が生まれ、それが深く身体に根ざした感覚となり、社会や他者とうまくつながれるようになるそうです。
我が家でも、「いってきます」のタッチが習慣でした。息子が小さい時にやっていた習慣をそのまま継続していただけなのですが、高校を卒業するまで続きました。
毎日、ほんのちょっと手を合わせるだけですが、それでも、手の感触で子どもの状態が分かりました。弾むようなタッチの時は、「今日は学校で楽しいことあるのかな」と安心しましたが、元気がないタッチだったり、手が冷えていると、「体調が悪いのかな」、「緊張しているな」等と気になったものです。
子どもの年齢が上がるにつれて、直接触れ合う機会はめっきり減ります。朝の「タッチ」は、親にとっても、子どもとの大切な時間だったと今さらながら感じています。
今日から新年度が始まりました。
園では、進級や入園を楽しみにしていた子ども達が元気に遊ぶ姿がみられます。一方で、新しい環境にちょっぴり不安げな様子もみられます。どうかご家庭では、いつもより多めのスキンシップで、心のエネルギーを満タンにしてあげてくださいね。きっと、保育園で楽しく遊ぶことができるでしょう。(園長 番場朋子)