私が理化学研究所に入所してから、いろいろなことがありました。
2009-2010年の事業仕分け
2011年の東日本大震災と原発事故
事業仕分けでは、いくつもの研究プロジェクトが批判され、予算縮減を通告されました。
しかしその後、日本中のたくさんの方々が、
基礎研究や技術開発に携わる人たちに、あたたかい声援を送ってくれました。
震災の被災地では、テレビの映像からは計り知れない
たくさんの悲しみや絶望、不安や怒りがあるのだと思います。
私も、物理と化学に関わってきた身として、いろいろ考えさせられました。
漠然と信じることにしていた原発の安全性と、原発の脆さ。
情報の後出しが不信を招き、正直に公表したデータが余計な不安をあおるという、説明の問題。
放射性物質に関して、専門外の方々に感じさせてしまっている不安。
(私も不安ですが、放射線や元素の挙動を知っている分、不安が少ないのだと思います。)
そんな中、さまざまな企業や組織、個人の方々が、
今自分にできることは何かと考え、行動に移しておられました。
スポーツ選手たちが、被災地の方々を考えながら自分のプレーでベストを尽くし、
輝かしい成果とともに、たくさんの方々に希望を与えている姿を見ました。
国の予算で研究させていただいている立場として、
何が求められており、何をしなければいけないのかを考えさせられました。
今私は、新しい熱電変換材料の探索に携わっています。
もし安価でとても効率の高い熱電変換材料が発見できたら、
原子力の代わりは無理だとしても、
新しい発電方法として活躍してくれるかもしれません。
このように、直接人の役に立てるかもしれない研究テーマで、
自由に研究させていただけていることは幸運だと思いました。
研究していると、そんなの無理だよと言われたり、諦めたくなってしまうことも多いですが、
諦めなかったことで、不可能を可能にしている人たちもいます。
この探索に自分のベストを尽くすことが、今私にできることだと思います。