物性の研究をやっていると、結晶構造の対称性を表すため、空間群の記号がよく使われています。
化学系だったので、点群なら学部で習ったのですが、空間群までは教えてもらっておらず、
それぞれの文字が対称要素に対応しているんだろうな、というところまでは想像がついても、
どんな結晶構造になるのか全然イメージできなかったので、レビューを作って勉強しました。
空間群は点群の概念を3次元の周期構造に拡張したものであり、結晶構造の描画やRietveld解析、未知物質の構造決定、電子構造計算など、物性物理のさまざまな場面で利用されています。空間群が表す結晶の対称性を利用すると、入力パラメータや計算量を大幅に減らすことができます。また空間群を利用すると、Laue像や電子回折像、粉末XRDパターンなどから未知物質の結晶構造の決定が可能となります。
空間群のほとんどは国際表記 (International notation) で書かれていますが、私は学部ではSchönflies表記で習っていて、国際表記がわからず困っていました。そこで、まず空間群を構成する対称要素とその国際表記の様式を紹介したいと思います。
点群を定義するための対称要素は、対称心、回転軸、鏡映面、回反軸 (回映軸) の4種類です。
たとえばH2O分子の場合、Schönflies表記ではFig. 1のように2回軸C2が主軸となり、主軸を含む2枚の鏡映面sv, sv’があります。 このような対称性は、点群C2hで定義されます。
Fig. 1. H2O (点群C2v)の対称要素
並進対称性と両立する対称要素を、Schönflies表記と国際表記で示したものをTable 1に示しました。
なお、オーバーバーが表示できない環境では、1は-1などと表記されています。
Table 1. 結晶の並進対称性と両立する対称要素 [1]
1(C1)
2(C2)
3(C3)
4(C4)
6(C6)
Fig. 2. 回転操作1~6 (Cn)。軸の周りに360°/nの回転を行う対称操作です。
S1(sh)
S2( i )
S3
S4
S6
Fig. 3. 回映操作Sn 。軸の周りに360°/nの回転を行った後、鏡映を行う対称操作です。
Schönflies表記で使用します。
1
2 (m)
3
4
6
Fig. 4. 回反操作1~6 。 軸の周りに360°/nの回転を行った後、反転を行う対称操作です。
国際表記で使用します。 回映操作の数字とは異なる点に注意してください。
空間群番号
空間群は全部で230あり、それぞれの空間群に、1~230の番号がつけられています。
番号はまず、次の表のように、結晶系ごとに割り振られています。
番号が大きくなるほど対称性の高い結晶系になっていき、最後は立方晶です。
各結晶系は、帰属する点群に基づいて、グループに分かれています。
番号が大きくなるほど、対称性の高い点群となっています。
各グループの筆頭には、帰属する点群と等しい対称性をもつ空間群が書かれています。
2番目以降の空間群は、筆頭の空間群の鏡面(m)が映進面(a, b, c, n, d)に変わったり、
回転軸(2, 3, 4, 6)がらせん軸(21, 31, 42, 63など)に変わったり、
ブラベー格子がPからA,B,C,I,Fなどに変わった空間群です。