私が行っている主な実験技術について書いてみます。
単体のアルカリ金属やアルカリ土類金属など、高い反応性を持ち、融点・沸点が低い元素は、合成が困難です。大気中では酸化されてしまい、石英管に密閉しても石英管と反応してしまい、真空中/ Arガスフロー中の合成では揮発して組成ずれを起こしてしまいます。
そこで、TiやNbなどの金属管にこれらの元素を溶接密閉して閉じ込めた状態にして、他の固体粉末と反応させています。TiやNbは大気中で酸化されるため、金属管ごと石英管に封入して、電気炉で加熱します。
これまでLi, Na, K, Mg, Ca, Sr, Baなどの単体を用いた合成に利用しており、合成温度は600~1100℃、合成には数時間~数日かけています。得られる試料は低密度の多結晶試料が多いです。原料元素の一部を別の方法で事前に反応させておくことにより、より均一な試料が作製できることもあります。低融点金属を過剰に入れると、自己フラックス法による結晶成長もできます。
アークメルト法は、原料の元素をアーク(プラズマ)によって溶解させ、目的化合物を合成する方法です。
かたまり状の原料元素を水冷した銅の台(ハース)に並べ、チャンバー内をArで置換します。そしてタングステン電極と原料の間でアーク放電を行うと、原料に電流が流れ、温度が1000℃~3000℃に上昇します。すると融解して水滴のように丸くなり、真っ白に輝きながらくるくる回転して混ざり合います。アークを止めると数秒で冷却され、その過程で目的化合物が生成します。
合成自体は数分で終了し、直径約1cmのおまんじゅう状の試料が得られます。その後数日のアニールを行うこともあります。密度はほぼ100%ですが、急冷時の熱収縮で「す」が入ることがあります。中にmm単位の結晶が成長していることもあります。
原料元素が導電性を有し、揮発性元素を含まないことが必要ですが、高融点化合物の研究のため、昔から利用されてきた方法です。B, Si, Ge, Sn化合物などの合成に利用しています。
金属やセラミックの粉末をグラファイト製の型に充填して加圧し、低電圧, 大電流(数V, 数百A)のパルス電流を連続的に流すことにより、緻密な多結晶体に焼結する方法です。電流によってグラファイトの型が発熱して温度が上がるのですが、それだけではなく、試料内部に流れる電流によって緻密化が進むようです。
導体、絶縁体問わず焼結できます。出来上がる試料はΦ5-15mmのペレット状で、密度はほぼ100%です。焼結に要する時間は20分程度で、最高2800℃までの高温で焼結できます。ただし、SPSで焼結が起こる温度は、普通の電気炉で焼結が起こる温度よりも低い傾向があります。業者さんのお話では、融点の絶対温度の2/3くらいで焼結が始まるそうです。
この方法は、原理はまだはっきりわからないのに、なぜかものすごく緻密化できるので、工業的には広く利用されているという不思議な方法です。発明当時は試料内にプラズマが発生していると考えられていたため、放電プラズマ焼結 (Spark Plasma Sintering) という名前がつけられたそうなのですが、本当にプラズマが関与しているのかは不明だそうです。自分の中では、パルス電流によって何万回ものスポット溶接が行われ、粒子がプチプチくっついて緻密になっていくというイメージを勝手に抱いています。
シンターランド製 La-Box110を使っております。とても使いやすいです。
[固相反応法] 原料粉末を乳鉢で混合し、ペレット化して電気炉で熱処理を行う、酸化物の合成では一般的な合成方法です。
私の場合は大抵、石英管にペレットを真空封入して行います。
[高圧合成] 岸尾研究室在籍時に、簡易的な高圧合成装置(Max 1GPa)を用いて試料合成を行っていました。
合成した試料にX線を当てて、その回折パターンから結晶構造や不純物の有無を調べる方法です。主に使っているのは、粉砕試料を用いた粉末X線回折法です。大気にさらすと分解してしまう試料は、グローブボックス中で粉砕し、Be窓のついた金属容器に封入して測定しています。
新物質ができたときなどは単結晶X線回折をお願いして、詳細な原子座標を決定しています。単結晶X線回折は、0.1mmくらいの単結晶があれば測定できます。
数nmの薄片試料に、電子線ビームを透過させて原子レベルで観察を行う顕微鏡です。
試料の薄片化は、粉砕法のほか、イオンスライサーという装置を使用しています。
明視野像からは、原子が並んでいるように見えるパターンを撮影できます。また、結晶粒界や析出物、格子欠陥の観察が可能です。
電子線回折パターンからは、おおまかな格子定数や、結晶構造の対称性を知ることができます。数nmの結晶があれば撮影できるので、単結晶X線回折ができないような小さな試料でも測定できるのがメリットですが、誤差が大きく、結晶を回転できる幅も小さいので、単結晶X線回折のような定量的な構造解析はできません。
このほか、エネルギー分散型X線分析装置(EDX / EDS)を用いた元素分析もできます。電子線照射によって試料から出る蛍光X線を利用します。
東大工学部の電子顕微鏡室に装置を無償で貸していただき、JEOL JEM-2010Fをずっと使わせていただいておりました。暗い部屋に1日こもって、いろんなダイヤルやペダルを駆使してひたすら調整して撮影し、ネガフィルムを現像室で現像するという、アナログな作業が楽しかったです。理研に移ってからも時々借りに行っています。
試料の表面に電子線を当て、出てくる二次電子をスキャンして表面を観察する顕微鏡です。EDXによる元素マッピングもできます。
学部生のころから、KEYENCEの小型のSEMを愛用しています。学生時代は、試料をつくったら、意味はなくとも必ず微細組織を見て、自分がどんなものを作ったのか把握するようにしていました。
研究室にあった高温電気抵抗率測定システムを改造させていただき、ゼーベック係数と電気抵抗率を測定する装置を自作しました。装置製作は初めてだったのですが、研究室に装置製作の神様みたいな人達がいたのでいろいろ教えていただき、それなりに満足のいくシステムができました。この製作に1年以上の時を費やしてしまい、まだ新規熱電材料の合成に取りかかれてはいないのですが、それはこれから頑張ることにします。
こだわった点としては
ゼーベック係数と電気抵抗率が同時測定可能
端子付けさえできれば小さな試料でも測定可能
不活性ガス中で測定できるため、大気中で分解する試料でも測定可能
試料への温度勾配を変化させて起電力測定し、その勾配からゼーベック係数を求めているので、ゼーベック係数が正確
温度勾配を変化させても、試料の平均温度が変化しないような温度プログラムにしているため、ゼーベック係数が正確
電気抵抗率は四端子法で測定しているため、正確
試料に直接熱電対を付けて測定しているため、試料温度が正確
測定温度を1℃単位で指定できるため、熱伝導率測定を行った温度と同じ温度で測定でき、正確なZTが算出可能
熱伝導率測定結果を取り込んでから測定すれば、各パラメータとZTがリアルタイムにグラフ表示される
電気炉の昇温と試料の温度勾配制御がすべて自動で行われ、遠隔操作もできるため、付きっきりで測定する必要がない
などが挙げられます。
ただし、バグが残ってたり、端子が取れやすかったりなど問題もあり、まだ人におすすめできる段階にはなっていません。開発途上です。
試料にレーザーパルスを照射し、その伝熱の過程を測定することにより、熱伝導率を測定する装置です。
京都電子工業製のLFA-502を使用しています。試料の前処理が簡単で、使いやすいです。