温泉大好き
英語の Hot Springs は訳せば文字通り「温泉」ですが、残念ながら日本人の考える温泉と別物です。その一番大きな違いはお風呂の入り方にあると思います。アメリカには公衆浴場という考え方がなく、温泉は個室が普通で家族風呂のように入るものです。家族でない人どうしは水着を着て入ることになります。このため浴室はおおむね狭く、裸で入れる露天風呂などもありません。屋外では水着で利用する温泉プールが普通ですので、まったく情緒に欠けます。露天風呂は日本が一番です。
その代わり、アメリカの温泉風呂はほとんどが「掛け流し」です。もともと浴槽が小さく、個室のため利用できる人数も限られているので無理する必要がないのでしょう。現在のアメリカでは温泉に医学的効用は認められておらず、リラックスすることを目的として自然主義者もしくは小規模な宗教団体が経営している傾向があります。そんな中で温泉を利用した泥風呂やマッサージに力を入れているカリフォルニア州のカリストガ温泉は、町おこしに温泉を利用している例外的なケースです。
掛け流し
日本の温泉でレジオネラ菌による死者がでてから、温泉の循環が社会問題になりました。温泉は、自前の源泉を持たない限り温泉組合などから購入しなければなりません。当然限られた量の温泉でよりたくさんの人が入れるように、また下水道代を浮かすためとか掃除の手間を省くために循環が横行しているようです。温泉に健康になるために行って病気をもらってくるようではたまりません。そうかといって、殺菌のために塩素をたっぷり入れたプールのような温泉もいやですね。そこで温泉は「掛け流し」に限るということになります。
一説によると、日本の温泉施設の約2割は「掛け流し」だそうです。またその「掛け流し」も、浴槽の衛生面からは一人あたり 1リットル/分の湧出量が必要と言われています。ですから源泉の温度が高くて流入量を絞っている場合は、その浴槽はあまり清潔ではないかも知れません。筆者もある有名な温泉旅館で水面に髪の毛が浮いているのを見て、大変がっかりしたことがあります。浴槽のふちからどんどんお湯を溢れさせる温泉なら、こんなことはないでしょうね。もっとも手の込んだ循環になると、浴槽から溢れたお湯まで再利用するそうですから考えただけでもゾッとします。
ダイエットと温泉
筆者も中年の域に入り、肥満が健康の最大の敵となりました。ところで温泉はダイエットに良いということをご存知でしたか。体温を少し上回る温度のお風呂は体の代謝を速め交感神経を刺激するので、カロリーを消費し食欲を抑えます。また 1000メートル以上の標高の高いところで生活すると、それだけで消費カロリーが増えるそうですので山間の温泉では一石二鳥となります。
ただしおいしい食事をたくさん出されて、いつもより食べてしまうと逆効果です。ダイエットのための合宿を専門にする温泉宿があるといいですよね。周りに何もない一軒宿で食事も制限されれば、一週間で 1キロぐらい痩せられると思いますよ。
入浴剤
家庭で手軽に温泉気分を味わえるので、著名な温泉地の名前を付けた入浴剤がはやっています。筆者も日系スーパーで、カネボウとかツムラの温泉地シリーズを買って週末のお風呂に利用しています。これら入浴剤の主成分は実は温泉地とはあまり関係がなく、炭酸水素ナトリウム(重曹)、硫酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウムなどです。その割合は温泉地によって多少変化させているようですが、むしろ着色料や香料、濁りの有無などで特色を出しています。ですから、本物の温泉をご存知の方にはこうした入浴剤は物足りないのではないかと思います。ここはやはり温泉気分の素だと割り切れば、自宅で楽しめるので経済的です。筆者も浅い洋式の湯船に入浴剤をいれて自己暗示をかけ、温泉に行った気分になることで自らを癒しています。ツムラの乳頭(田沢の湯)なんかつるつるになっていいかんじ。
これらの入浴剤は、お風呂のお湯をそのあと洗濯に使うことを想定しています。そのため鉄分を含む赤錆色の入浴剤など過激なモノは発売されていませんし、遊離硫黄を含む入浴剤もありません。もちろん硫黄は金属と化合物を作りやすいので風呂釜を傷めるおそれもあります。ご存知の方も多いと思いますが、銀のアクセサリなどすぐ黒くサビますのでやはり不可です。
成分表
日本では法律で温泉の泉質を表示する義務があります。アメリカにはこれに相当する法律はないようで、泉質もしくは成分表を浴室に掲げた温泉は少数派です。
筆者はシリコンバレーに和風温泉施設を作りたいと思っていますが、土地の取得に一億円、ボーリングに一億円、建物に一億円の計三億円の費用がかかると見積もっています。また商業的入浴施設はアメリカではいかがわしい商売とみなされるため、会員制のスポーツクラブの形式をとる必要があると考えています。イーストベイにヘイワード断層から枝分かれして走る小断層が数多くあり、そこにボーリングで穴を空けるのがよさそうです。どなたか投資される温泉好きの方はいらっしゃいませんか。
大和(やまと)温泉は比較的良質な温泉ですが、シリコンバレーからやや遠いのと周囲の自然保護のために本格的な温泉施設を建てられない点が残念です。そこで逆に自然の少ない都市部近郊にボーリングして温泉にしてしまえという発想が生まれます。こうした施設を利用するのはたぶんアジア人と一部のアメリカ人に限られるでしょうから、あまり郊外に行かない方がかえっていいかと思います。まあ、筆者の夢ですね。
ここはやはり消費者である我々が賢くなって、循環はダメだといわなければいけません。「掛け流し」以外の温泉には行かないようにして、まがいものの温泉が淘汰される状況を作る義務があります。温泉宿を選ぶときは、ぜひ「掛け流し」かどうかを電話で確かめてから行きましょう。町の銭湯ですらお湯は毎日取り替えるのですから、一週間に一回しかお湯を入れ替えないような温泉では病気になります。飛沫が飛ぶ気泡風呂(ジャクジー)なども危険です。大規模な温泉ホテルだからといって信用できません。そんな中で温泉地全体として循環を否定している草津は大変立派な温泉地だと思います。
アメリカで温泉というとリラックスしたりマッサージしたりというのが多いのですが、スポーツクラブにしてダイエットを前面に打ち出せばもっと人気がでるのではないかと筆者は思います。アメリカに限らず、温泉を療養という面から見直してうまく活用できなでしょうか。日本でも温泉の適応症にぜひ「肥満」を加えていただきたいものです。
それでも日本の温泉地では「湯の花」と呼ばれる伝統的な入浴剤を売っており、これはおおむね硫黄を主成分とする温泉の沈殿物ですから、おフロにひとつまみいれてかき混ぜれば硫黄泉のような薄黄緑色に濁ったお風呂に浸かることができます。ただし、いわゆる硫黄臭というのは正確には硫化水素の匂いですので、「湯の花」ではこの匂いは再現できません。「湯の花」の匂いは強いて言えば火薬の匂いでしょうか。硫化水素は可燃性かつ致死性のガスですので、こんな物騒なものは入浴剤に含めることはできません。硫化水素はよく「卵の腐った匂い」と表現されますが、この匂いの点でも一般向けの入浴剤には不向きです。(そういえば草津で液体の入浴剤を売ってました。まだ試したことはないのですが、あれは草津の湯のような強いシロモノなのでしょうか。)
本当の温泉に比べると、入浴剤により得られる擬似温泉濃度は十分の一以下と言われています。ここはやはり、あくまでも気分を出すために利用するものであって本物には敵わないと見るべきでしょう。入浴剤の袋にも「本品は温泉の湯を再現したものではありません」とちゃんと断ってあります。それでも物によっては結構本物の温泉に近い感触を得られるものもありますので、筆者は選んで利用しています。
筆者は飲泉して成分を推定する「きき湯」が出来ないので、こうした成分表があると助かります。1PPM は源泉 1kg に対し 1mg になります。