喜多川新平の解説と物語
東京逃亡者調査研究委員会による調査対象人物、喜多川新平についての調査研究報告。
□ 人物「喜多川新平」(きたがわ しんぺい)の誕生
当作品「東京逃亡者」において、「喜多川新平」は疑いの余地も無くメイン級のキャラクターであり、この人物の物語が、この作品の土台と多くの物を支えていると言っても過言ではない。
常にセリフの語尾に「じゃ」が付くなど、典型的な老人言葉を話す。
東京逃亡者調査研究委員会によるゲーム制作陣に対しての取材によると、この人物がこの様な役柄として作品に登場する事になるのは、ゲーム制作開始当初から決まっていた事ではないと言う。
このゲームが単なるミニゲーム状態から、一年の構想と制作期間を得て巨大な作品となって行った中で、プロトタイプ(初期状態)の喜多川新平は単なる明治眠信館のミステリアスな管理人役でしかなかった。
「喜多川新平」と言う名前については、それ程に意味はなく、どこか気品のある様で古風な感じがすると言う事で、この名に命名された。
彼の管理する「明治眠信館」からして、彼は明治時代と関連があるのかと思いきや、本作では時代設定と人物の年齢が明らかにされてない為に詳細は不明である。
ただ明治眠信館が明治時代風の洋風建築である事からも、明治時代から何かしらの要素を持って来てモデリングがされてはいるだろう。
当作品が、プレイヤーが主人公以外の登場人物を回想シーンでの主役として操作するシステムになったのも、一番始めに回想シーンとして制作した喜多川新平編で手ごたえを得たからである。
そしてその結果、謎の作者の妄想と想像によって、彼は作者の行き当たりばったりとも思える、思いつきの物語の中で、良い様に扱き使われながらも、当作品は彼の一生を振り返る壮大なドラマとなった。
彼はある時には水に溺れ、ある時には若返り、そして歳をとり、そして巨大な生物から回避して行くと言う、半ば笑わせながらも恐怖をプレイヤーに訴えかける役を演じる事となる。
彼が生まれてなければ、本作品の完成度は、かなり浅い物となったであろう事は否めない。
この物語を体験した後には、ここに「喜多川新平」と言う、新しくも、ある意味での「新ヒーロー」が体験者の心の中に住み続ける事であろう。
□ 「喜多川新平の物語」
眠りによって、人間の能力を開花させる研究を行う施設「明治眠信館」の管理人。
彼は食肉処理作業員としての臭いを感じた主人公に対して、その技能を開花させ得る才能があると認定し、この施設の特別寝室に入ることを認めた。
特別寝室には、ベッドが置かれていた。そのベッドでの睡眠により、睡眠者の求めている物が手に入れられると言う。
主人公に睡眠の許可を与えた喜多川であったが、彼と彼の側近である護衛は、ある事を隠していた。
実は、そのベッドは魔力を秘めた魔性のベッドであり、過去にこの施設を訪 れて眠った27人の睡眠希望者は、全て眠りから覚める事なく死んでいたの であった。それは睡眠者の能力開花の失敗でもあった。喜多川は彼らの死を悲しみ、罪を感じ、心の中で苦しみながらこの施設を運営していたのであった。
主人公が魔性の眠りからの脱出に成功し、目覚めた事は、喜多川に大きな希望を与えた。
主人公が施設を去ると、喜多川の息子とその嫁、二人の孫が施設に遊びに来ていた。料理を作り彼の誕生日パーティーを開いてくれると言う。
家族との食事を終えると便意を催した喜多川は、戦時下の厳しい中で便所設備を設けられないこの施設の外へ用便を足そうと、いつもの様に警備員から許可を得ようとするが、本日に施設内に喜多川専用の地下便所が作られ、完成していたのを忘れ、警備員からそれを教えられる。
地下便所で用便を足し終えた喜多川は、発見した便所の不備の再工事を指示しようと護衛の所へ向かうが、ここで今までに感じたことの無い、重度の体調不良に襲われる。
もう自分の命も長くないと悟った喜多川は、警備員と護衛の説得にも応じず、最後の力で魔性のベッドがある特別寝室へ向かう。
喜多川には衝撃的な過去があったのだ。
実は数十年前、喜多川は少数窃盗団の一員であり、窃盗と洞窟での鉱物採掘などで生計を立てていた。
ある日、窃盗の相棒、大沼の手伝いで鉱物を採掘した喜多川は、洞窟内の隠れ場に戻った。大沼は椅子に座って眠っていたが、そこで大沼がベッドで寝ていないのを不自然に思い、変わりに喜多川がベッドで寝てみようとした。
その時に、目覚めた大沼は、慌てて喜多川を止めようとするが、喜多川には その理由が全く分らない。喜多川が理由を聞いているその時、そのベッドか ら電気の様な刺激が発生した。
すると喜多川は激怒し、大沼と喧嘩になる。大沼は喜多川の怒りを止めようと応戦する。大沼を追いつめた喜多川は、自ら喧嘩を止め本気でない事を、大沼に伝えた。たが、その時ベッドから何者かの声が聞こえてきた。
ベッドからの声に煽られて、喜多川は誤って大沼を殺害してしまう。
大沼は死に際に、ベッドは自分が入手した物で、普通の物ではなく魔性を秘めた物である事を、事前に喜多川に伝えてなかった事により、この様なトラブルを起こしてしまった事を後悔し、それを喜多川に告げた。
倒れた大沼を後にして、隠れ場から出た時、すでに周りは洞窟内に侵入した警察隊に包囲されていた。
喜多川の名前を呼び、逮捕する事を告げた警察は、無言の喜多川に我慢できず、包囲していた鉄柵を下ろし、喜多川を捕まえようとする。
喜多川は走り、再び隠れ場に逃げ、扉代わりの岩を塞いだ。
隠れ場の外で警察が必死に岩を退けて、中に侵入しよう試みる中、喜多川は中にある椅子に座って考えた。
「このまま大沼さんの遺体が発見されれば、自分は殺人罪に問われてしまう」と。
捕まった後の罪の大きさを出来るだけ軽減をしようと、ふと大沼の身体に近づいて、地底湖に捨て落とし証拠隠滅を計ろうとの案が、一瞬頭によぎったが、それは出来なかった。
その時、まだ僅かながら息のあった大沼が、喜多川の事を思い最後の力を振り絞って、自分を地底湖に落とす様に喜多川に叫んだ。
葛藤の中、叫びながら大沼を地底湖を落とし、水に流れ行く大沼を見守る喜多川だった。
喜多川が再び隠れ場の出口に戻ると、警察は岩を少しづつ退がし、今にもここに侵入しようしているのだった。長きに渡る捜査の果て、ついに大沼と喜多川を捕らえる日が来たと必死になっており、この時を逃せば今までの捜査努力の全ては無駄になると言う気持ちであった。
そして警察は、さらに先程の彼らの叫び声を聞き、喜多川らが窃盗以上の悪質な事をしでかしていると察した。
これらの警察の声を聴いた喜多川は、大沼の想いが無駄になり、逮捕後に殺人罪に問われ死刑になるであろう事を察し、そして自ら仲間をも殺害してしまった罪悪感と絶望感によって、自ら地底湖に身を投げて自殺を試みる。
その時であった。あのベッドが宙を上下に動き出し、喜多川を不思議な力で束縛し叫び声を上げる。「この状況から逃れる事は可能だ。」と。
(制作中。)
東京逃亡者調査研究委員会