見る技術 | 相関顕微鏡法

ハイライト

  • 生命の基本は細胞、すなわちum(10-6 m)以下のスケール
  • どの顕微鏡にも一長一短がある
  • 相関顕微鏡法は2つの顕微鏡のいいとこ取り

顕微鏡法

生物の研究に顕微鏡はなくてはならないものです。顕微鏡で得られた映像の説得力は強烈です。しかし、どのような装置にも一長一短があるように、顕微鏡も種類によって得手不得手があります。島袋研では生命科学によく用いられる光学顕微鏡と電子顕微鏡、この2つの強みを併せ持つ相関顕微鏡の開発と応用に取り組んでいます。

ここではまず、光学顕微鏡と電子顕微鏡の特徴をそれぞれ紹介し、それから相関顕微鏡の利点を解説をしていきます。キーワードは、「動」と「静」の融合です。

1. 光学顕微鏡

光学顕微鏡は、我々に最も身近な顕微鏡です。中学生や高校生にときに、玉ねぎの細胞、池の中の微生物を見るときに使った顕微鏡、あれが光学顕微鏡です。もっとも、研究用の本格的なものは、もっとごつい形をしていますが、基本設計は一緒です。光学顕微鏡の長所は、生きた標本を見ることができることです。もちろん、化学的に固定化した細胞観察にもよく用いられますが、なんといってもその真髄は生きた姿を直接みられることです。光学顕微鏡では、このように生に近い映像を撮ることができ、生命現象を時間を追って観察することができます。つまり、「動」の情報が得られます。また、2000年付近に大発展を遂げた蛍光技術によって、狙った分子だけを見ることも可能になりました。しかし、欠点として分解能に限界があり、生物の細かい構造(< 200 um)は通常の光学顕微鏡では見ることができません。

近年は、超解像度顕微鏡と呼ばれる新しい顕微鏡法の登場により、光学顕微鏡でも数十nmの分解能が得られるようになりました。ただし、特殊な装置が必要となり、まだ分解能の点では電子顕微鏡には及びません。また、超解像度顕微鏡で見えるのは、蛍光標識した生体分子の詳細な局在であり、試料の全体像は把握できません。


2. 電子顕微鏡

電子顕微鏡には馴染みのない人が多いかもしれませんが、これも生物学に革命をもたらした顕微鏡です。発明者は、ルスカです。我々が教科書で習う細胞の構造は、ほとんどが電子顕微鏡で明らかになったものです。通常の光学顕微鏡は、可視光と呼ばれる光で試料を観察しますが、電子顕微鏡は電子線を利用します。電子線は可視光に比べ波長が極めて短く、そのため分解能が飛躍的に向上します。条件が整えば、タンパク質1分子(サイズ、数 nm)の形をも見ることができます。

しかし、一般的に電子顕微鏡は、試料を真空中で見なくてはなりません。これは、試料を見るための電子線が、大気圧では気体分子に邪魔されてしまうからです。真空中で観察することのデメリットは、試料中の水分が蒸発して乾燥してしまうことです。これは生物にとっては非常に困りものです。なぜなら、生物は70%程度が水分で、これが奪われてしまうと、だいぶ見た目が変わってしまいます。感覚的には、もぎたて新鮮な果物とドライフルーツの違いだと考えて下さい。みずみずしい果物が、しわくちゃな乾物になってしまいます。結果、元の姿がおぼろげに想像できるけど、本当の姿は分からなくなります。

そのため、電子顕微鏡では、生物試料をあらかじめ乾燥させます。ただ乾燥させると激しく変形するので、工夫します。それは、化学固定であったり、特別な乾燥だったりします。この操作は、光学顕微鏡の試料作成に比べて手間がかかります。また、いくら工夫をしているとはいえ、やはり電子顕微鏡の処理は生物の本来の姿を完全には保存できません。そのため、電顕画像を解釈するには、熟練の目が必要となります。

繰り返しになりますが、電子顕微鏡の分解能は、光学顕微より格段に優れています。しかし、電子顕微鏡では、固定化した試料を見ているので、そこに「動」の情報はありません。高分解能の「静」だけです。

もっとも、最近はクライオ電子顕微鏡法が流行っていて、これだと生物試料本来の姿と捉えることができます。しかし、そこには「動」の情報はありません。


3. 相関顕微鏡法

それでは、生物の「動」を得ながらも、高分解能の画像も欲しいときはどうすればよいのでしょうか。その答えが、相関顕微鏡法です。相関顕微鏡法では、まず、光学顕微鏡で生物の「動」を観察します。その後、試料を処理し、電子顕微鏡で観察します。こうすることで、試料の「動」と「静」、両方の情報が得られます。

例えば、鞭毛虫の1種、クロロゴニウムの相関顕微鏡像をお見せします。

左が光学顕微鏡像で、右が走査型他電子顕微鏡像になります。