「ロービジョンだけど、ハイテンション」な僕

第18回 オンキョー世界点字作文コンクール(成人の部) 優秀賞


「島袋さん、いつもテンション高いっすね!」。よく言われる。早口で掴みどころのない冗談を繰り出し、たとえスベろうがお構いなしに言葉を垂れ流す僕を見れば、普通、そう思うだろう。もともとそんな気質があったかもしれない。でも、網膜色素変性症という難病のために目が悪くなり、どっぷりとロービジョン(弱視)の仲間入りしてから、僕はハイテンション人間として仕上がりつつある気がする。

僕だけではない。周りにはハイテンションなロービジョン、はたまたノービジョンも結構いる。そんな人が集まれば、そこは「暴走した音声PC」の集まりのようで、ぶっちゃけうるさいし、電源を引っこ抜いて強制終了させたくなる。

目が悪いと口や耳に頼ることになる。だから、自然と多弁になる。でも、理由はそれだけではなさそうだ。その原因とまでは言わないが、訳の一部は社会にもあると僕は密かに思っている。つまり、社会がロービジョンなハイテンション人間を育んでいるということだ。僕がそう感じた出来事を2つだけ書いてみる。


大濠公園のお散歩おじさん

セミの鳴き声が鼓膜を突き破りそうな夏、僕は同じくロービジョン仲間の女の子と大濠公園のカフェで話し込んでいた。話も一段落し、僕らは帰ることにした。近くに地下鉄の駅があるらしい。僕には初めての場所なので、彼女の記憶をたよりに歩き始めた。だが、彼女は僕よりも見えていない。おそらくこの道と選んだもののイマイチ自信がない。不安になってきたので、たまたま通りがかった散歩中のおじさんに確認した。おじさんはとても丁寧に教えてくれた。まっすぐ進み大通りに出て、道なりに右に行けば駅があると。僕らはお礼を述べ、再び駅を目指した。

はたして、助言どおりに駅が見えてきた。ところが、地下に入る階段を前に彼女の足が止まった。ロービジョンあるあるで、階段が苦手らしい。さあ、エレベーターはどこだ?と思った瞬間、背後から声がした。

「エレベーターはこちらですよ」

なんてこったい!先程のお散歩おじさんだった。僕らはまんまと後をつけられていた。まあ、ロービジョンの僕らは隙だらけで見守れたい放題ではある。エレベーターのドアが開くなり、おじさんは僕らを中に手招きし、地下一階のボタンを押して、「気をつけて」と一言残し爽やかに去っていった。こんなタチのいいストーカーは見たことがない。もう、365日24時間付きまとわれてもいい。僕らの心はポッと上気した。


道向いのコンビニ店長

昨年、僕は離婚した。20年近く連れ添った人との別れはあっさりしたものだった。とりあえず住むところを探さないといけない。馴染みの不動産屋で紹介されたのが職場近くのアパートだった。1Kの小さな部屋。まるで学生時代に戻ったようだ。オール電化なのがありがたい。視覚障害者が火を使うのは不安だから。そして、道向かいにはコンビニがあった。これが決め手だった。ロービジョンは大変だ。日々の買い物にも苦労する。都会ならまだしも、車社会の地方で買い出しは死活問題だ。

引っ越したその日から、僕は向かいのコンビニの常連客になった。しかも、店長が超イイ人だった。僕が行けばいつもすっ飛んで来て声をかけてきた。店を出るときには必ず、入り口のドアが開け離れていた。僕に怪我がないようにとさりげない気遣いをしてくれた。本当にやさしい場所だった。

ある日、僕は朝早くコンビニに行った。客が少ない早朝は買い物がしやすい。会計が済むと店長がしんみりと話しかけてきた。珍しい。

「実はうちの店、6月末に閉めるんですよ」

「最近、近くに他のコンビニができて、売上が7割も減って、もう無理だと思いまして」

「お客さんのことがずっと気になっていたんですよ」

と言うなり、紙切れを僕の手に渡してきた。そこには手書きで彼の名前と連絡先が書いてあった。前もって用意して、僕が来るのを何日も待っていたらしい。

「そうだ、お客さん、携帯番号を教えてもらってもいいですか?」、彼は続けた。僕は彼の携帯にワン切りした。

「よかった、連絡先がわかって。ここは閉めるんですが、2キロ先のあのコンビニ、あそこで続けます」

「何かあったら電話してください。何でも届けますんで。雨の日も頼ってください!」

店長の優しい笑顔を背中にコンビニを出た。車の音ひとつしない初夏の朝がこんなにも清々しいことを僕は40年以上も知らなかった。

こんな感じで、僕には人に話したくなるエピソードがたくさんある。人の優しさ、思いやり、気遣いで僕の心はパンパンだ。まるで割れる寸前の風船のように。不器用な僕は、それをどうガス抜きしていいのかわからない。だから、なすがままにハイテンション(張り詰めたまま)になるしかない。おそらく他の多くの視覚障害者もそうなんだろう。


「島袋さん、やっぱりテンション高いですね!」。ほら、今日もまた言われちゃった。そう、それでいいのだ。