椎名誠『銀座のカラス』

読書さとう

ある時、柏の『平井食堂』で、沢野ひとしの漫画の話をしました。それで、沢野ひとしさんというのが、誰と結婚したのかというような話になり、私は小説ではこうだったけれどと『銀座のカラス』の内容を思い出しました。

この中で沢野ひとしにあたる登場人物は、木村晋助にあたる人物の中学か高校の生徒会の同級生の女性と新宿のビヤガーデンで会い、一目惚れして、やがて結婚することになるのですが、KAMOさんの正確な情報だと、本物の沢野さんは同じ職場の女性と結婚するようです。「なんだ、あれも小説の中の出来事なのか」と思ったものでした。

それで次の日の18日(土)に朝早くからこの本を読んでみるみる間に読み終えてしまいました。私は4年くらい前に椎名誠の本は40冊ばかり、ある飲み屋の女性に送ってしまいましたが、この朝日新聞社の本はまた私の兄からもらっていたのです。

これは椎名誠の『哀愁の町に霧が降るのだ』『新橋烏森口青春篇』に続く3部作といっていい作品です。高校生からそのあとのバイト及び仲間で住んだアパート生活から業界紙に勤めて、次第に大人の社会へ出ていく椎名誠の姿が描かれています。

私にとって、椎名誠はちょうど『哀愁の町に霧が降るのだ』の中巻で就職した「温泉新聞社」(これは実際に存在する会社名で、小説の中では別な名前になっている)に、ほんの少しばかりいた、言わば先輩になる方であり、非常に親しみを感じています。小説の中で、あれほど学生時代(椎名さんたちの生活が学生生活とはいえないかもしれない)に飲んでばかりいるのに、また社会に出ると、これまたとてつもなく飲んでばかりいる職場と同僚たちばかりだという姿に、私も「同じだな」とよくよく思ったものです。作品の中では、主人公たちがよく飲んでばかりいるわけですが、またよく働いている姿もよく見えるわけで、まったく同じだよなと思います。

しかし、この3部作のどれをよんでも、なんだか「せつない」です、悲しいです。自分のあの頃が思い出されるからかな。少しも豊かではなく、毎日懸命に働いて、毎日飲んで、ただそれだけで日々が過ぎていった思いです。仕事が終わって恋人と会うのもけっこう大変でした。日曜日に彼女が来てくれたり、休みの前の日に昔の仲間と会えるのがなんだか安らぎでした。

この『銀座のカラス』のあとの物語はどうなるのでしょうか。『岳物語』にまで至るのには、まだまだ時間がありそうだから、ぜひ続きの話を書いてもらいたいものです。いやもう書いているのかな。(1996.05.21)