武侠小説覚え書き
【基本用語】
■武林(ぶりん)
武術界のこと。
■侠客(きょうかく、きょうきゃく)
面子や仁義を重んじる人たち。
■江湖(こうこ)
辞書的な意味だと「世間」「民間」「(官に対しての)民」と訳されるが、武侠ものにおける「江湖」はもう少しアウトロー的なニュアンスがある。
■門派(もんぱ)
武術の流派。
■掌門(しょうもん)
門派のボス。
掌門は自分の後継者を自ら育成することが多く、こうして育てられる弟子は「掌門弟子」「大弟子」「大師兄」などと呼ばれる。
■幇会(ほうかい)
秘密結社。
■鏢局(ひょうきょく)
旅の商人を護衛する用心棒を鏢師という。鏢師たちを束ねる組織が鏢局。
■世家(せいか)
優れた経済力、武力、社会的影響力などを持つ家門。
武侠ものには、四川唐家、諸葛世家、慕容世家、南宮世家、河北彭家、山東岳家、皇甫世家、西門世家などのがよく出てくる。歴史上の有名人・ヒーローがモチーフになっていることが多い。
■正派(せいは)
→白道とほぼ同義
正義を標榜する門派のこと。実際には悪いことをしているケースもあります。
■邪派(じゃは)
→黒道とほぼ同義
目的のためなら悪いことをしてもOK、という価値観で生きている人たち。
■白道(はくどう)
→正派とほぼ同義
倫理を大事にしますよ、という価値観で生きている人たち。
■黒道(こくどう)
→邪派とほぼ同義
倫理なんて何ソレという価値観で生きている人たち。
■魔教(まきょう)
秘教的な要素を持つ宗教組織。世間一般とは違った倫理観で動いていることが多いが、必ずしも悪役というわけでもない。
例としては、『秘曲 笑傲江湖』に出てくる日月神教、『倚天屠龍記』の天鷹教などが挙げられる。
トップの人間は「教主」、後継者候補は「小教主」と呼ばれる。
■武林盟主
その人が一声掛ければ、多くの武人たちが動き始めるほどの声望、実力を持った人のこと。
韓国武侠だと、武林盟と呼ばれる連盟組織が存在することがあり、そのトップが武林盟主と呼ばれる(システム化されている)。
■天下第一人
この世で一番すごいヤツ。
■大侠
尊敬に値する優れた侠客に対する尊称。もっと身近で親しみを感じられるタイプは小侠と呼んだりする。
■公子
名家の跡取り。
■機関
■陣法
【武術用語】
■内功(ないこう)
いわゆる「気(内力)」の流れを操る能力のこと。気そのものを指すこともあるが、原則としては気の運用法のことを内功という。
■外功(がいこう)
体の頑健さのこと。
■軽功(けいこう)
気の力で体を軽くし、高速移動する術。
■点穴(てんけつ)
いわゆる「ツボ」のこと。点穴を針や指で突くことで、対象の運動機能を向上させたり、低下させたりする。
■気脈(きみゃく)
体内の気の流れ。
■秘笈(ひきゅう)
秘伝書のこと。
■絕招(ぜっしょう)
奥義、必殺技のこと。
■套路
武術の「型(かた)」のこと。
【よく出てくる門派】
■基本的な情報
武侠小説に登場する武術門派は、道教の流れをくんでいることが多く、山岳信仰との結びつきが強い。そのため、門派の名称は「華山派」「武当派」のように、山の名前を冠していることが多い。
門派の最高責任者は、基本的に「掌門」と呼ばれる(仏教系や丐幇など例外あり)。後継者候補(掌門弟子)は掌門が直接指導する。
■華山派(かざんは)
華山(陝西省華陰市)を本拠地とする道教系の門派。道教系。
■武当派(ぶとうは)
太極拳の創始者である(とされる)張三丰の流れを組む門派。
武当山を本拠地とする。道教(+仏教)系。
■峨嵋派(がびは)
金庸『神鵰剣俠』に登場する郭襄(『射鵰英雄伝』の主人公・郭靖の娘)が起こした門派。
物語に出てくるときは、基本的には女性のみ(女性中心)の門派だと思って問題ないはず。
■崑崙派(こんろんは)
新疆の崑崙山脈を本拠地とする道教系の門派。武侠小説の端緒と言われる平江不肖生『江湖奇侠伝』にも登場。
金庸の小説では、剣と軽功を得意とする門派ということになっている。
■崆峒派(こうどうは)
崆峒山(甘粛省平凉市)を本拠地とする門派。武侠小説の端緒と言われる平江不肖生『江湖奇侠伝』にも登場。
※同名の門派が現存し、唐代の飛虹子が敦煌で見た仏像にインスピレーションを受けて創始したとされているが、武侠小説に出てくるものとは別物だと思った方が良いかも(よく分からん)。
■嵩山派(すうざんは)
少林寺のこと。仏教系。
■點蒼派(てんそうは)
■全真教(ぜんしんきょう)
実在する道教の宗派。
■泰山派(たいざんは)
■衡山派(こうざんは)
■恒山派(こうざんは)
■雪山派(せつざんは)
■海南派(かいなんは)
■四川唐門(しせんとうもん)
「四川唐家(しせんとうか)」、あるいはただ「唐門」と呼ばれることもある。
毒と暗器(隠し武器)を得意とする一族。
■丐幇(かいほう)
乞食の秘密結社。最高責任者は「幇主」と呼ばれる。
■下午門(かごもん)
諜報や非合法活動など、武林の汚れ仕事を引き受ける集団。
■九派一幇(きゅうはいちほう、きゅうはいっぽう)
九つの大きな門派と丐幇を指す。「九派」の内訳は作品によってバラバラ。
■五大世家(ごだいせいか)
五つの大きな家門。内訳は作品によってバラツキがあるが、四川唐家、諸葛世家、慕容世家、南宮世家、河北彭家、山東岳家、皇甫世家、西門世家あたりがメジャー。歴史上の有名人・ヒーローがモチーフになっていることが多い。
数が増えて八代世家になることもある。
※『魔道祖師』では姑蘇の藍氏、雲夢の江氏、清河の聶氏、岐山の温氏、蘭陵の金氏が五大世家という設定になっている。
【武侠小説簡史】
・武侠小説以前
武侠小説の始祖は、『三侠五義』などに代表される「侠義小説」であるとされる。
・旧派の時代
中華民国期、いわゆる「旧派武侠」が勃興。嚆矢とされるのは1923年の平江不肖生『江湖奇侠伝』。
1930年代になると、天津を中心に「北派五大家」と呼ばれる作家たち(還珠樓主、白羽、王度廬、鄭證因、朱貞木)が活躍。
・新派の時代
1950年以後になると、梁羽生、金庸(香港)、古龍(台湾)らに代表される「新派武俠」が隆盛。日本でよく知られている中国武侠小説は基本的にこの新派武俠の作品。
台湾、韓国にも武侠小説文化が根付き、次世代の作家を生み出していく。
【韓国武侠特有(?)の概念】
■武林盟(ぶりんめい)
韓国武侠では、正派の門派が連盟組織を作っていることがあり、それを「武林盟」と呼ぶ。作品によっては「正道盟」など、別の名前が冠されていることも。
中国武侠でも似たような組織が登場することがあるが、韓国ほどテンプレ化はしていない。
■強さの段階について
韓国武侠では、キャラの修行レベルを現す言葉がときどき登場するが、おおむね以下のようになっている。下に行くほど強い。
絶頂以降は、段階を超えるごとに何かしらの悟りが必要(自分が学んでいる武術の本質を理解するとか、哲学的な問題に答えを出すとか)。
・三流
外功のみを鍛えている状態。
・二流
外功に加えて、内功も鍛えている状態。
・一流
内功によって、気の力を武器や肉体に乗せて戦える状態。武器や体に「剣罡」と呼ばれるオーラをまとわせることができる。
・絶頂
自分の内力だけではなく、自然の気を利用して戦える状態。
このレベルになると、江湖ではかなりの有名人。
・超絶頂
気の外部放出など、完全に超能力者的な立ち回りができる状態。
このクラスまで来ると、江湖ではほぼほぼ知られている超有名人。
・化境
これ以上にもいくつか段階があるが、ここまで来るとだいたい作中最強クラス。