エッセイ
1.【理研が語る】ゲノムの「余白」の謎に魅せられて2016.8.13 産経WEST
以下、未出版原稿など
1.遺伝子間領域の保存領域は何をしているのか?~ゲノム暗黒領域の謎 (2010.6.15) 明示的には書いていませんが、遺伝子の発現抑制が大事、という主張の根本にある考えは、動物ゲノムのほとんどの領域はデフォルトでは発現しないように進化してきた(のでは)ということにあります。発現をさせるためには、デフォルトで眠っている状態にあるクロマチンから活性化領域を積極的に作らなければ発現ができない、また油断すればすぐ発現は消えてしまう、そういう状態を積極的に作るようにゲノムは進化してきていると考えています。古典的な「サイレンサー」「インシュレーター」の概念はゲノムの小さな領域にタンパク質が結合してその能力を発揮するものですが、現実にはもっと大きなスケールで起きているクロマチンの液滴としての集合体の「緩い」性質、さらに化学修飾の変化やそれに伴う因子の集合などが抑制の主役になっているようです。デフォルトで抑制されているからこそ、正確なタイミングで発現に必要なゲノム領域だけをくくりだして独立した活性化領域に変更するメカニズムが生きてくると考えます。活性化領域に参加できるのか排除されるのかが、遺伝子発現の活性化か抑制に留まるかの分かれ目になり、そのきっかけを作るcis-elementには活性化領域との相性を決定する多数の情報が織り込まれているため、結果として進化保存性として見えている可能性があります。エンハンサーとサイレンサーは同一現象の表裏なのかもしれません。関連するレビューを書きました。https://doi.org/10.1111/dgd.12671
2.TADから見える進化の巧妙な仕掛け〜偶然の変異が生物を絶滅させる重荷にならない謎 公開しないまま放置してすでに5年ほど経ってしまいましたが、中身は簡単に言うと哺乳類ゲノムのように非コード領域にあまりに多くの機能が蓄積してしまうと、突然変異に対する耐性が無くなってしまう(遺伝的な負荷が過剰になる)はずなのにそうならないように見えるパラドックス、遺伝的負荷による絶滅がなぜ現実化しないのか、それはゲノムの構造と進化のメカニズムが密接に関わりあっているためだろうということですが、ここでいうゲノムの構造は主にメガベーススケールの長大なゲノム領域全体が関わる「緩い結合でできた巨大複合体」のことで、個別のcis-regulatory elementについては一般に信じられてきたような「一機能が一領域(因子)に対応」としての理解より、大きなスケールの転写制御メカニズムを動かす、冗長性を含む一部分に過ぎない、と理解した方が見通しが良い、という考えを持っています。この点でliquid-liquid phase separationの概念がゲノムの非コード領域の理解に役だちます。(レビュー書きました:https://doi.org/10.1111/dgd.12671 )博士論文の研究の時から疑問を持ち続けてきた、転写因子IDRの存在理由と進化、表現型と必ずしも一致しないシス制御因子の一見「理不尽な」進化モードについて、やっと腑に落ちるモデルを具体的に考えられるようになってきました。非コード領域にはタンパク質の進化と違い、機能エレメントが非常に多い割には、突然変異が有害とならず都合良く影響を無視できたり、「相性が良ければ」取り込むことができるメカニズムがあるようです。
そのほか雑文
1.Tinkering, co-optionについての雑感 co-optionってそんなに簡単じゃ無いはずなんだけど…
日本語総説・論文等
1. 隅山健太、斎藤成也 Hox遺伝子. Molecular Medicine (中山書店) Vol.41 (2004) pp.91-93.
2. 斎藤成也、隅山健太 Hox遺伝子クラスターの進化. 実験医学 Vol.22 No.12 (2004) pp.1677-1683.
3. 隅山健太・斎藤成也 ゲノムから読み解く生命システムー比較ゲノムからのアプローチ連載第3回「脊椎動物の比較ゲノム:遺伝子間領域の比較解析」細胞工学Vol.24 No.10 (2005) pp.1108-1111.
4. 隅山健太・斎藤成也 脊椎動物の比較ゲノム:遺伝子間領域の比較解析 細胞工学別冊:比較ゲノム学から読み解く生命システム 監修 藤山秋佐夫 秀潤社・東京 ISBN978-4-87962-360-7 (2007) pp.50-55.
5. 五條堀孝、嶋田正和、岡田典弘、河田雅圭、佐藤矩行、辻和希、深津武馬,斎藤成也、内田亮子、田村浩一郎、隅山健太.進化学の将来を論じる 遺伝別冊No.20:進化でどこまでわかるか? NTS社・東京 ISBN978-4-86043-165-5 (2007)pp. 198-209.
6. 隅山健太、 川上浩一 Close Up実験法:Tol2トランスポゾンを用いた画期的なトランスジェニックマウス作製法.実験医学 Vol.28 No.16 (2010) pp.2653-2660.
7. 田邉彰、隅山健太 ゲノム編集技術を用いたDlx遺伝子群機能解析. Medical Science Digest Vol. 45 No.9 (2019) pp. 50(572)-51(573).
著書
1.「絵でわかる人類の進化」斎藤成也編 海部陽介、米田穣、隅山健太 著 第2章 26-44頁 (2009) 講談社 ISBN978-4-06-154759-9
2.<series モデル動物利用マニュアル> 生物機能モデルと新しいリソース・リサーチツール 第6節 新しい生殖工学技術 第4項 トランスポゾンを使った新しい高効率トランスジェニックマウス作製法 隅山健太、 川上浩一 著 pp.656-658 (2011) エル・アイ・シー ISBN978-4-900487-48-2
3.進化学辞典 日本進化学会編 17-3 転写と翻訳調節.隅山健太 著 549-551頁 (2012) 共立出版 ISBN 978-4-320-05777-7.
4.遺伝子図鑑 国立遺伝学研究所「遺伝子図鑑」編集委員会編 7-12 遺伝子重複.隅山健太 著 160-161頁 (2013) 悠書館 ISBN 978-4-903487-79-3.
翻訳
1.「免疫グロブリンスーパーファミリーの進化」 Leory Hood, Tim Hunkapiller著 隅山健太・植田信太郎 翻訳 科学(岩波書店) 1992年 62巻 312-322頁
2.「DNAから見た生物進化」Roger Lewin 著 斎藤成也 監訳 第6章分子生態学(隅山健太 翻訳)別冊日経サイエンス 1998年 122巻 70-89頁