写真説明 Ⅱ号自走20mm対空砲 (2 cm Flak 38)1/35スケール
この「対空自走砲」を見て疑問を感じた方、あなたは正しいです。
Ⅱ号戦車の車体と20mm対空砲を合体させた空想上の車輌です。こんな戦闘車輌は実在しませんでした。
これは私が中学生の時に製作したプラモデルですが、当時このようなそれらしい空想で作ってしまうことを「デッチアップ」などと称しておりました。
とはいえ、実際のところ戦争当時は既存のパーツを組み合わせた新兵器(往々にして間に合わせでバランスがおかしいことが多い)がやたらと開発されて実戦投入されていました。中には間に合わせながら高性能で使い勝手の良い戦闘車輌も出現して大成功したりすることもありました。当初想定用途と違うところで成功したことなど、とても興味深いです。
さて、危機的な場面で「ありもの」をとにかくつなぎ合わせて新しい状況への適応を図る、というのは生物進化でも頻繁に起きていたであろうことは、ゲノムを解析するとよくわかります。特に形態形成遺伝子の「使い回し」(co-option, exaptation)は、生物進化を理解するための要と考えられているほどです。
ただし、既存の車体に全く別物の上物を乗せるなど、そんなに簡単なことではありません。よほど規格化された互換パーツならともかく、普通はそのまま適合することなど皆無でしょう。大幅な「つじつま合わせ」が必要になるはずです。上記空想上の車輌も形態的に大変な「不都合」がありますが、わかりますでしょうか?
ゲノム上の遺伝子のリクルートも同様で、そんなに簡単に既存の遺伝子ネットワークに参加して都合良く新奇形態を作り上げることなど不可能な技に思えます。それでも生物進化は起こり、遺伝子が取り込まれているのも歴史上の事実です。一体どうなっているのでしょう。
生物進化(ゲノム進化)の研究は、変異が偶然に起こることを前提にしています。塩基の突然変異、挿入欠失、さらにはトランスポゾンの挿入、染色体の組み換え・転座・重複など、こうしたイベントを偶然に起こして、どのようにして「意味をなす」新しい秩序を作り上げられるのでしょうか?ここが「デザイン」をするエンジニアリングと生物進化との決定的違いです。
ランダムな変異から直接に期待されるのは、既存の機能を傷つけることによって機能損失が生じ、致死あるいは適応度の低下により絶滅へと向かう道です。それを乗り越えるためには、ランダムな変異を壊す方ではなく作り上げる方向へ、うまいことやって取り込むような仕組みがゲノムにないといけないことになります。でも、そんな都合の良いシステムって存在するのでしょうか?
どのような機構がゲノム進化の方向を決めているのか、それを見極めたいと思って、研究をしています。
evolvabilityという言葉には色々な意味がありますが、ゲノムに備わった進化の制約条件がその一つだと考えていて、そんなことを日夜考えています。
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