降りしきる雨の中、船を岸にあげた後、捕れた魚は父親たちに任せ、笛吹きは一目散に駆け出した。それを見たほかの若い衆は大喜びではやし立てた。年のいった者たちも口では文句をつぶやきながら、顔には笑みが浮かんでいる。嫁をもらったばかりの若者の急ぐ姿は誰の目にも好ましく映った。
あの祭りから月日はたち、もう少年とはいえなくなった笛吹きの若者は歌い手の娘を嫁にもらったばかりだった。けれども今向かう先はかわいい妻の元ではなかった。嵐が来るのだ。
若者が社の下にもぐりこんだときには風がすっかり吹き荒れていた。若者は濡れた手を乾いた布で拭い、笛を取り出して柱の礎に腰掛けた。強まる雨風の音を聞きながら丹念に笛の手入れをする。風はうなりを上げて、低い雷の音が響いている。
稲妻が光った。しばらくして落雷の音が響き渡った。
若者はゆったりと笛をかまえ、軽く目を開いて待った。雷の音が先ほどよりも大きくなっている。伸び放題に伸びていた草は大方がなぎ倒され、社の床下は流れ込んでくる水がたまって池のようになっている。
イナズマが三度続けて音も無く光った。若者は深く息を吸い込んだ。