はなぶえ王子のピーピを知っているかな。
寒い寒い、氷の国の王子さま。なのにいつでも半そで半ズボン。おなかも背中も出しっぱなし。だからいつでも鼻水がズルズル。鼻がつまってピーピーいっている。
笑ってもピー。ため息ついてもピー。返事をするのも声をかけるのも、みんな鼻笛でピーピーやるから、はなぶえ王子のピーピって名前なんだ。
王さまもおきさきさまも、ピーピの鼻笛が大好き。おしろで開かれるパーティーの時には、ピーピの鼻笛コンサートを、みんな楽しみにしているんだ。
ある日、遠い南の国から王様の友だちがやって来た。王さまはかんげいのパーティーを開いたよ。ピーピも、もちろん鼻笛で、この旅人をかんげいした。
旅人はとってもよろこんで、お礼にふるさとの海でとれたトゲトゲのまき貝をピーピにくれたんだ。
貝を耳にあてると、かすかに音がしてね。
「波の音だよ。」
って、旅人が教えてくれた。ピーピは波の音なんて聞いたこともなかった。ピーピの国の海は、ガチガチにこおっていたからね。
ピーピはすっかり南の国に行ってみたくなった。そこで、旅人にたのんで、南の国へつれてってもらうことにした。
山をこえ、谷をこえ、空飛ぶ船で雲の峰を渡って、ピーピは南の国にやって来た。まっていたのは旅人の家族。お父さん、お母さん、それに弟。弟はピーピと同じくらいの子だよ。
「こんにちは、ぼく、けんた。君は?」
ピーピはにっこり笑って答えたよ。
「ピー、ピー!」
って鼻笛でね。
二人はすぐに仲良しになってね。夏休みの間、朝から晩まで一緒に遊んだ。
浜辺でどろ遊び。セミとりにクワガタとり。アイスを食べたりスイカを食べたり。ピーピにははじめてのことばかり。海に入るのもはじめてだから、けんたくんに泳ぎ方を教えてもらってね。大きな岩からとび込みをしたり、もぐって貝やワカメをとったり。
二人はいつも一緒。けんたくんが
「ピーピ!」
と呼ぶと、ピーピが
「ピー、ピー!」
って鼻笛を鳴らすんだ。
だけどね、毎日あたたかい海を泳ぐうち、ピーピの鼻水があんまり出なくなってきた。
秋になって、けんたくんの学校がはじまった。緑だった木の葉が茶色くなって、はらりはらりと散りだした。
ピーピの鼻は、全くピーともスーともいわなくなった。けんたくんが学校から帰って来て、
「ピーピ!」
って呼んでも、気のぬけたようすでうなずくだけ。ピーピはみるみる元気がなくなった。
寒い冬がやって来た。
鼻笛をなくしたピーピは、いくらけんたくんにさそわれても、家の中にこもりきり。
ところが、ある日、雪が降った。
雪を見たピーピは外にとび出したよ。雪が降るほど寒ければ、また、鼻水が出てくるかもしれないもの。
ピーピは毎日まった。雪のつもった公園のベンチにじっと座りこんで、鼻水が出て来るのを毎日毎日まったんだ。
けんたくんは、学校の友だちと、公園に来て遊んだ。雪だるまをつくったり、雪合戦をしたりしてね。
ピーピは雪遊びがとくいだったから、みんなに教えたかったけど、鼻水が出るまでは、じっとベンチでがまんすることにした。
けれども、鼻水はなかなか出て来ないんだ。やっぱり南の国の冬は、ピーピの氷の国よりずっとぞっとあたたかいんだもの。
ある日、けんたくんがやって来て、ピーピのとなりに座った。学校の友だちは一緒じゃないみたい。
「今日はピーピのまねっこするんだ。」
けんたくんもじっとベンチに座ってみた。でも、すぐにぶるぶるふるえだしたよ。だって寒いんだもの。
「よく、じっとしていられるねえ。」
そういって、けんたくんはピューッと口笛を吹いたんだ。
ピーピは目をまんまるにしてけんたくんを見た。口笛なんて、はじめて聞いたんだ。
すぐにピーピはけんたくんに口笛を教わることにした。二人は毎日口笛の練習をした。
そうするうちに、雪もだんだんとけてしまい、ピーピの鼻水は出ないまま。でもね、大丈夫。けんたくんもピーピも、うれしい時にはピュー。返事をするのも声をかけるのも口笛でピューッとやるんだから。
すっかり春が来て、いろんな花が咲きはじめた。みんなとってもいいにおい。ピーピは胸いっぱいに花の香りをすいこんだ。すると、黄色い粉がふわんふわんとまいあがって、ピーピの鼻がムズムズムズ。それから鼻水がズルズルズル。そして、ついに鼻笛が鳴った!
「ピー、ピー、ピー!」
お花見の日、ピーピとけんたくんは、笛のコンサートを開いたよ。
けんたくんが口笛でピューピューピュー。
ピーピが鼻笛でピーピーピー。
さくらの花びらがピラピラピラ。
そして、ピーピが氷の国に帰るときが来た。けんたくんがいった。
「今度はぼくが遊びに行くよ。」
ピーピも元気に答えたよ。
「ピー、ピー!」
って、鼻笛でね。
おわり