昔々あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。
家の前にはキャベツ畑がありました。
二人には子供がありませんでしたが、仲良く野良仕事をして暮らしていました。
ある時、一人の旅人が訪ねてきました。
旅人は蝶の群れをひきつれていました。
おじいさんとおばあさんは快く旅人を迎え、暖かい寝床と、パンとスープを与えました。
蝶の群れはキャベツ畑で休ませてやりました。
旅人は大層喜び、
「あなたたちが心から望むものが、実を結びますように」
そう言い残して、再び旅立って行きました。
旅人は去りましたが、幾頭かの蝶は、そのまま畑にとどまりました。光り輝く炎のような蝶です。その蝶のおかげなのでしょうか。キャベツ畑には今まで見たこともないような見事なキャベツの玉が鈴なりに生り始めました。
中でも、ひときわ大きな玉が一つ、実をつけました。
おじいさんとおばあさんは、それが旅人の言っていたものに違いないと思い、一体どんな望みが実を結ぶのか、あれこれ話しました。
「金の卵を産むガチョウじゃないかな」
「美しい布を織り続ける機織り機ではないかしら」
挙げてみれば、あれやこれやと望みは尽きませんでしたが、なんとなく二人同時にこうつぶやきました。
「赤ん坊だ」
二人はそうに違いないと言いあって、特別なキャベツの玉を大切に育てました。
遂に収穫の時が来ました。
二人は期待に胸を膨らませてキャベツの葉をめくりました。
するとどうでしょう。玉のような赤ん坊が、キャベツの中ですやすやと眠っているではありませんか。
二人は喜んで、赤ん坊を抱き上げました。
ところがそのとたん、今まで静かだった赤ん坊が大きな声で泣き出してしまいました。
その声はキャベツ畑を超えてどこまでも響きました。そして、その鳴き声を聞きつけたコウノトリがどこからともなく現れて、あっという間にその赤ん坊を連れ去ってしまったのです。
おじいさんとおばあさんはコウノトリが西の空に消えていくのを茫然と見つめているしかありませんでした。
しばらくして我に返ると、さっき腕に抱いた赤ん坊のぬくもりが蘇ってきて、二人抱き合っておいおい泣きました。
二人が泣き続けていると、赤ん坊が包っていたキャベツの芯がスルスルと伸びて、光り輝く花が開きました。
キャベツの花は眩い光を放って、炎のようにくるくるととめどなく形を変え、おじいさんとおばあさんを照らします。
燃え立つ花弁が火のこのように舞い散ると、その一枚一枚が蝶々の翅になって、キャベツ畑に舞い広がってゆきました。
おじいさんとおばあさんは、息を呑みました。
いつしか涙も止まり、二人手を取り合い、その美しい光景を見守りました。
それからというもの、おじいさんとおばあさんのキャベツ畑では、いくつもの赤ん坊が生まれるようになりました。
赤ん坊は抱き上げると、決まって泣きだし、その声を聞きつけたコウノトリが遠く空へと連れさるのでした。
おじいさんとおばあさんはというと、大切に育てた赤ん坊を空に見送っては、そっと手をつないで、千変万化の花と蝶を眺めるのでした。
いつまでも二人で眺めるのでした。