湖畔の集落にはしのつく雨が降り続けていた。日もすっかり落ち、真っ暗な林の中で主を失った木作りの社がひっそりと立っている。次の娘が生まれるまで人の立ち入ることない社の周りはすっかり草が生い茂り、社の半分を覆い隠している。
社の床下から、生い茂った草むらに目を凝らしている者があった。膝を抱えてじっと動かない。祭りで狼の役を演じた笛吹きの少年である。
狼役を終えてからは普通の笛吹きとして歌い手を助けている。日のあるうちは他の男たちと同様、漁に出たり狩りに行ったりして働き、日が沈むと歌い手たち、舞い手たちと共に歌作りに励む。暇な時には新しい笛を作ったり、年下の笛吹き達に笛を教えたりしてすごす。そして、雨が降ると、こうしてこっそり社の下にもぐりこんでは外の様子をうかがう。
少年には秘密があった。
祭りの後、やぐらは壊され、送るために使われた笛は湖の底に沈める慣わしになっていた。その行事は日を改めてごく簡素に、けれどもしっかりと行われた。しかし、少年は自分の笛と、ひそかに用意しておいたにせものをすりかえておいていた。何事もなかったかのように全て無に帰してしまうという事を、どうしても受け入れられなかったのだ。
気付く者は誰もいなかった。笛のことは誰よりその使い手知っているものだ。本物のほうはこの社の床下に隠していた。そして雨が降るたび、こうしてこっそりと床下に忍び込んでは笛を手にとって見るのだった。
少年は、嵐を待っていた。
その笛を手に取ると、吹いてみたくてたまらなくなる。けれども一息でも吹けばすぐに笛の存在が明るみに出てしまう。嵐のうなりと雷のとどろきにまぎれて吹いてやろうと、少年は決めていた。
雨は一向に強さを増すことが無いようだった。相変わらず静かに降り続けている。少年にも、今日は嵐がこないであろうことはよく分かっていた。それでも、雨が降るとついやって来てしまうのだった。そして、念入りに笛の手入れをして、またもとの場所に戻すのだった。その後は黙って膝をかかえて暗がりに目を凝らす。
雨水を吸って林中の草木がその腕をゆっくりと確実に伸ばしていく。それは人の目には決して認められるものではない。少年は暗がりの中でそれをじっと見つめているのだった。