第69回長崎原爆忌平和祈念俳句大会ご報告

        実行委員会メンバー

倉田明彦実行委員会会長

 馬津川ゆり事務局長

69回長崎原爆忌平和祈念俳句大会会長挨拶

 

 202223日、長崎市原爆資料館学習室におきまして、予定通り第69長崎原爆忌平和祈念俳句大会を開催いたしました。67回、68回大会と2年続けて、新型コロナウイルス感染症蔓延のため本大会を中止して紙上開催のみといたしましたので、一堂に集まっての本格的な大会は3年ぶりでした。

われわれ実行委員会は、67回大会終了後に改組し、横山哲夫より私が会長を引き継いで新しい実行委員会の体制となりました。慣れない大会の運営で、コロナ禍以前の大会と同じように多数の皆様に参加していただけるかどうか懸念しておりましたが、幸いにも多数の皆様に投句をお寄せいただきましたし、大会選者の皆様には、大会の主旨にご賛同いただいて、短期間で難しい選をお引受け頂きました。おかげさまで以下のように表彰句を決定することができましたのでご報告いたします。

また、大会当日は、新型コロナウイルス感染症第7波が勢いを増す中ではございましたが、出来るだけの感染症対策を施す中、34名の皆様にご参加いただきまして大会を行うことができました。長崎県被爆者手帳友の会会長の朝長万左男先生には、世界的な反核運動に取り組まれている最中のお忙しい時期でございましたが、熱い思いのこもったご講演を頂きました。当日句会には31名の方がご参加いただきまして、これも下記のように入選句を決定しましたので、併せてご報告いたします。

私は敗戦から2年後の1947年生まれでいわゆる被爆2世。直接の被爆体験のない世代のひとりでございます。実行委員会のメンバーの多くは私より年少で、私よりさらに被爆体験からは隔てられています。そんな戦争・被爆を体験しなかった世代の者が担うこの「長崎原爆忌平和祈念俳句大会」で、われわれ自身がどのような俳句を詠んでいくのかという点が、今後も問われ続けて行く問題でしょう。少なくとも「原爆の熱線、累々たる死体、水を求める人々」などだけを詠み続けるとすれば、『原爆俳句1954/2020』(長崎原爆忌平和祈念俳句大会実行委員会、20213月刊)に纏められた多くの俳句の類句を生み出し続けるだけになる恐れが大きいと思われます。このことは類句、類想を避けるという俳句の原則に反しますし、新しいものを生み出していくことになりません。戦後生まれのわれわれは、直接の被爆者ではありませんが、必ずしも被爆者から隔てられた者ではなく、被爆者を引き継ぐ者達なのだという立場に立って、それぞれの現実を踏まえて新しい俳句を詠んでいかなければなりません。そして「新しい原爆忌俳句」、さらには「いのちの歌」を生み出していく大会として、この俳句大会を運営できるよう努力していきたいと思います。そのことが、長崎の被爆体験を継承して平和を希求しようとする多くの運動に、微力ながら連帯することになるのではないかと考えます。特にロシアのウクライナ侵攻で第3の戦争被爆都市が生まれる懸念の強い今、その思いを強くしています。

みなさまの引き続いてのご参加、今後のご協力をお願いいたします。

 

2022

  長崎原爆忌平和祈念俳句大会実行委員会会長        

                倉田明彦

      第69回大会一般部門表彰句


大会大賞 

  故郷に悲しき季語や長崎忌        小谷 一夫(長崎)

 

長崎県知事賞 

  爆死者が座る木の椅子水の椅子      中村 重義(福岡)

 

長崎県議会議長賞 

  牡丹見る被爆図を見た同じ目で      倉迫 順子(福岡)

 

長崎県教育長賞 

  戦争のニュースを消せば春のある     團 俊晴(長崎)

 

長崎新聞社賞

  ヒロシマナガサキゲルニカマリウポリ   塩﨑 みちえ(長崎)

 

現代俳句協会賞 

  首なき使徒に黄蝶白蝶きて睡る      中尾 よしこ(長崎)

 

新俳句人連盟会賞

  八月のページの余白まで焦げる      渡辺 をさむ(鳥取)

 

西九州現代俳句協会賞 

  八月やかくれる場なきかくれんぼ     野田 修子(長崎)

 

 口語俳句振興会賞

  長崎忌寂しい時は鍋磨く         倉迫 順子(福岡)

 

長崎平和推進協会賞 

  おろおろと人間である原爆忌       高木 一惠(千葉)

 

優秀賞 

  白日傘まっすぐに行く原爆碑       宮崎 包子(長崎)

 

優秀賞 

  原爆を生き延びてさへなほ地獄      髙橋 菜穂子(東京) 

 

優良賞 

  素裸のマネキン積まれ原爆忌       前川 弘明(長崎)

 

      第69回大会ジュニアの部門表彰句

大会大賞

  鐘の音の揺らぎを辿る夏の蝶   竹本 芽依(愛媛県立松山東高等学校二年)

 

長崎市長賞

  秒針の響く教室原爆忌      石川 胡桃(慶応義塾湘南藤沢高等学校三年)

 

長崎市議会議長賞

  妹の正座美し原爆忌       谷口 春菜(愛媛県立松山東高等学校二年)

 

長崎市教育長賞

  黙祷の誰もが背負う晩夏光    渡邉 美愛(愛知県立旭丘高等学校三年)

 

長崎新聞社賞

  数多在る墓石の文字八月九日   藤原 正裕(精道三川台高等学校一年)

 

長崎県文芸協会長賞

  弟は八月九日まだ知らない    村岡 諒省(精道三川台高等学校二年)

 

長崎の証言の会賞

  月涼し手紙に滲むキリル文字   田邊 広大(愛媛県立松山東高等学校二年)

 

長崎如己の会賞

  風鈴の静かな音色に平和あり   中村 應文(精道三川台中学校三年) 


長崎県被爆者手帳友の会賞

長崎キワニスクラブ賞

  ひまわりに平和を願うウクライナ   杉山瑠侑人(精道三川台中学校一年)

 

優秀賞

  洗顔やふと八月の浮かび来る    渡邉 美愛(愛知県立旭丘高等学校三年)

 

優良賞

  天井の染みなぞりたる原爆忌    竹本 芽依(愛媛県立松山東高等学校二年)

 

優良賞

  おはようと言える幸せ夏の今日   西山  冴(精道三川台高等学校一年)


                      

 *キワニスクラブ賞は授賞者のご意向により、最年少入賞者に授与されます。

      第69回当日句会の部

 

大会大賞

  途中下車爆心地まで徒歩で行く       宮崎 包子(長崎)

                      

大会準大賞

  ふるさとの大地は柩長崎忌         小谷 一夫(長崎)

 

優良賞

  憲法の黄色い冊子ひらく夏         原田 成子(長崎)

 

優良賞

  レンズを絞り夏空の奥の奥         團 俊晴(長崎)

 

実行委員会賞

  防空壕在りし草むら泉噴く         前川 弘明(長崎)

 

実行委員会賞

  原爆忌鬼籍に母と姉待たす         藤野 律子(長崎)

 

実行委員会賞

  白服と決めてあつゆき句碑の前       坂田 みどり(長崎)

 

実行委員会賞

  平和とは肩を貸すこと長崎忌        小川 裕子(長崎)

 

実行委員会賞

  爆心地より夏蝶が浮いてきた        入口 弘徳(長崎)

 

実行委員会賞

  語らざる父の丸き背敗戦日         野田 修子(長崎)


佳作賞

  核青し人類八十億の晩夏          倉田 明彦(長崎)

 

佳作賞

  靴飛ばし占う平和大夕焼          馬津川 ゆり(長崎)

 

佳作賞

  原爆句碑裏撫でボトルの水掛ける      横山 慶子(長崎)

 

佳作賞

  核兵器の非人道性確立し核なき世界近づく  朝長 万左男(長崎)


講師 朝長万左男氏

長崎県被爆者手帳友の会会長

来賓 藤野律子氏

「咲の会」代表

来賓 田雑孝史氏

長崎キワニスクラブ

平坂桂太実行委員

江良 修実行委員

中尾よしこ実行委員

大会記 


 第69回長崎原爆忌平和祈念俳句大会は令和4年7月23日、長崎原爆資料館平和学習室において開催された。

 新型コロナウイルス感染症の流行のため、一堂に集まっての大会開催は三年振りであったが、収拾の目途が見えないウクライナ情勢、安倍元首相銃撃事件、さらには再びの新型コロナウイルス感染急拡大という世情不穏の中、間際まで通常の開催が危ぶまれた。大会当日は夏休みに入った最初の土曜日であり、夏季合宿や部活動の都合で学生の出席は叶わなかったが、総勢三十余名の参会を得ることができた。

午後一時に開会。原爆被害者及び関係する物故者の冥福を祈る黙祷で始まり、馬津川ゆり大会事務局長の司会で会が進行した。横山哲夫前会長の後を引き継いだ倉田明彦会長の開会の挨拶に続き、来賓の「咲の会」代表藤野律子氏、長崎キワニスクラブ田雑孝史氏の紹介がなされた。

 当日の講師、長崎被爆者手帳友の会長朝長万左男先生による『被爆77年を振り返り、100年目の核なき世界を展望する』と題した講演は、映像やグラフを使って被爆の実相を詳細にわかりやすく説き、「核」の過去から現在、そしてあるべき未来への示唆に富むものであった。

 続いて、西九州現代俳句協会会長前川弘明氏の司会による応募句(一般の部)入賞作品の合評、さらには江良修実行委員の司会による応募句(ジュニアの部)入賞作品の合評が行われた。

 参会者による当日句会も催され、上位入選句の発表と合評が実行委員の塩﨑みちえ、中尾よしこ両名の司会で進められて、活発な議論が交わされた。

最後に倉田明彦会長より受賞者への表彰盾と記念品が贈呈され、各受賞者一人一人の簡単なスピーチがなされた。ジュニアの部で長崎市長賞を受賞した石川胡桃さん(横浜市在住)の祖父母(佐世保市在住)が代理で出席され、喜びのスピーチをされるなど和気藹々とした表彰式となった。大会は予定通り定刻に終了した。

ご多用中にもかかわらず作品をお寄せ下さった皆様、選句に当たられた全国の諸氏に深く感謝致します。世界に平安が訪れ、今大会が第70回大会へと平和裡に引き継がれることを祈ります。

                                                                            実行委員 平坂桂太

小谷一夫氏

宮崎包子氏

倉迫順子氏

野田修子氏

塩﨑みちえ氏

前川弘明氏

横山哲夫・慶子氏

受付風景

原爆俳句 1954/2020

 発行者 横山哲夫

発行所 長崎原爆忌平和祈念俳句大会実行委員会

発 売 株式会社 えぬ編集室(095-825-8242)

 第1回大会より第68回大会までの入賞句、入選句を網羅。

 また、付録のCDには全投句、選者選評などの膨大な資料を収録しています。

 定価7,000円+税

 ご希望の方はえぬ編集室まで。