工学系ニュース1997 Collegue

投稿日: 2013/08/21 2:59:21

ここ5年ほど、ISOの規格を訳してJISにするという作業に関わっている。それまでは何気なく読んでいたJISも、いざ書くとなると大変である。誤訳などは論外であるが、日本語の書き方が非常に難しい。「JISは公文書で法令と同じ」 であり、法令と同様のルールで書かなければならないのだ。では、ここでクイズを一つ。次の文章にはいくつ誤りがあるだろうか?

「このスキーマは製品情報の汎用の枠組みと構造のみを定めるものである。」

答えは、

    • 誤1:「スキーマは」: 主語の後の「は」には、コンマ ,を付ける。

    • 誤2:「汎用」:汎は常用漢字ではないので使えない。「はん用」とする。

    • 誤3:「枠組みと構造」:「と」は「AとBと」のときだけ使う。この場合は「及び」。

    • 誤4:「構造のみ」:「のみ」は使ってはいけない。「構造だけ」とする。

    • 誤5:「である。」は「とする。」

最もびっくりしたのは、最後の点である。JISでは、「である」をつかってはいけないのだ。つまり、JISは仕様書であるから、説明するのではなく、「~ とする」と語尾を締めくくって、何かを決めなければならないのだ。その意味では、 簡潔に「規定する」としたほうがよい。

よって、上の文章は、正しくは、

「このスキーマは,製品情報のはん用の枠組み及び構造だけを規定する。」

このような書き方のルールは、"JIS規格票の様式"という、これ又JISで事細かに決まっている。ある程度の一般的な規則もあるのだが、例外が多く、最初の内は、そのJISと首っ引きになる。時々改正もされるので、ベテランといえども気を許せ ない。

このようにして膨大な時間をかけていくつかの翻訳JISを作って来た。しかし、最近変化が起きている。それは、特に情報関係のISO規格が急増し、またそのページ数が膨大になり、翻訳することが現実的に不可能になってきたのである。 また、利用者もJISがあればそれを参照するが、細部に対してはISOを読む人が多く、その意味でも翻訳JISの存在意義が問われ出した。通算省は国際整合化とかいう方針を打ち出し、翻訳するのではなく、要約をする規格(要約JIS)で JIS作成の効率を上げようとしている。要約JISでは、日本語は若干の訳と解説だけで、規格の本体はISOそのものとなる。

翻訳・要約JISに関しては言いたいことは他にも山ほどある。大変な作業ではあるが、おかげで日本文は少し上手になったような気がする。 (精密機械工学専攻 鈴木宏正,1997 )