「心的外傷と回復」ジュディス・L・ハーマン著 中井久夫訳 みすず書房
これは決してA・Cブームを容認している本ではない。「PTSD」についての専門的な本である。また繰り返し虐待を受けてきたような慢性トラウマの長期症状の診断基準についてはまだまだ不備であるとしているし、治療者の予断さえ戒めている。軽い本ではないのである。
実際、臨床上のスケッチ・患者の言葉がそのまま引用されていて、専門用語も多く専門家には「ああ、あのことか」とわかる場面も多いのだろうと思う。しかし素人でも「女性」として生きてきた者には、「ふーむ。そうか」と発見させられることが多い歩ンだ。精神医学でも裁判所でも、女性への理不尽な扱いの歴史は根深い。作者が強調しているのはこの点であり、この理不尽な扱いを容認してきた社会の中で男性のみならず、実は女性自身も身の処し方を学習してきたのだと気づかせてくれる。つい自分の学習過程を振り返ってしまった。
また、この本の中のたくさんの性暴力の証言が、かなり昔に読んだ沖縄の女性達の言葉をふと思い出させた。「あれから、人間じゃあなくなったんですよ・・」確か、そんな言葉だったと思う。はじめて聞いた言葉だった。この本ではそんな体験がはっきり語られている。臨床家としての作者の示すものは、支配しつくそうとする加害者との関係で無力化され孤立化された女性への理解であり、回復への援助の模索である。
この歩ンは、あらゆる性暴力被害の問題について、専門的に、しかも人間の精神にフェミニズムの視点で分け入った本として、一度は手にとってみてみる価値はあると思った。(醍醐中央図書館にありました。)
(1998年3月 あどば〜に通信 創刊号)