サラ・パレッキー 『バースデイ・ブルー』早川ミステリ
みなさん、おなじみのV・I・ウォーショースキーが活躍する探偵小説。たいていのミステリは古本に出してしまう私も、このシリーズだけは残しています。彼女に出会ったのは、10年以上前でしょうか?「女だというだけで必要以上にちやほやされたり、不当に差別を受けるのは間違っている」と考える彼女は、女の子らしいイメージの「ヴィッキー」という愛称を拒み、むしろ固いイメージの「ヴィク」、「VI」を名乗ります。こうして颯爽と登場したヴィクは、たくさんの女性たちを励ましてきたようです。当時まだ発行されていた『朝日ジャーナル』の中で小倉知加子さんがこのシリーズに登場する店や場所を巡るシカゴツアーを報告していたし、女性のいない職場で頑張っていた小宮悦子さんも、これを読んで元気をもらっていたらしい。実際、私も家庭や仕事で落ち込んでいた友人にこれを奨めたら、大感謝されたことがあります。
ところが現実の女性のおかれている場所は、彼女の想いとは別のところにあるものだから、いつもいつも突っかかってばかり・・。このあたり、「でるくい」の誰かさんにも似ている気がする。(?)小宮悦子さんも、前作の解説で、ちょっと最近ヴィクは不必要なナイフを持っている気がする、と心配している程。性的虐待、家庭内暴力のような問題いやいつまでも「女の子」扱いされる女性の問題に深い関心のあるヴィクが、カッカすればするほど、自分も他人も傷つけてしまうのが、この小説のしんどさ、のようです。
でもそれが本当に現実にある問題だからこそ、私たち女性はおおいに感情移入ができるのかもしれません。『バースデイ・ブルー』には、こんな台詞があります。「・・の二人に自分がどんなに腹を立てているかに気づいて、われながら驚いた。二人はわたしに卑劣で醜悪な侮辱を加えたのだ。私は女の子と呼ばれるのも、こらしめのために痛い目にあわせてやると脅されるのも、好きではない。・・の悪意に満ちた口調が擦り傷以上にわたしに痛みを与えていた。」う〜ん、ほんとうによくわかる!手を下されたわけではないのに、もの凄い侮辱なんですよね、そういう女性への態度って!そして、専業主婦とキャリアウーマンの溝。この本の中で、ある専業主婦は「あなたたちキャリアウーマンは専業主婦を人間の屑みたいに思っているんでしょう。」と叫ぶけど、裕福な夫の描く理想の家庭像を支える彼女の鬱屈は、男性中心の時代によって多くの女性にもたらされたものだという気もします。またキャリアウーマンも決して華々しくなんか書かれていません。この本で隣人がいないアパートの孤独には、我慢ならないと告白しているヴィクは、決して一人では生きていけない弱くて寂しがりやの人間。おまけに掃除も洗い物も片付けも苦手。お金もないし・・。どう考えてもどの女性もこんなに「しんどい」現実を生きているんだ、ってよくわかるのが、またいいんです。
一本気の彼女に、いけ好かない男性陣をどんどんやっつけてもらって、憂さ晴らしをしては、元気になった気がするのだから、この小説は、現代の女性の問題整理と不満処理と勇気製造機のようなものかもしれませんね。
でるくい6号 2001年