上野千鶴子「近代家族の成立と終焉」 岩波書店
94年に書かれたこの本は、86年以降の上野氏の仕事を一冊にしたものである。上野氏はこの本のあとがきで、こうしてみるとずっと〈近代〉と〈家族〉にこだわり続けてきたのだ、と述懐している。そしてまた、本書はこれまでになく歴史的になってきている、とも述べている。いつも時代の与える応用問題を解いてきた彼女の仕事は、出会いや批判や仮設を足がかりにして、常に次ぎのステップへと展開されてきた。しかし彼女の得意分野は、やはり現代社会のダイナミックで小気味のいい分析と、今ひとつは評論だと思う。曖昧な概念は暴かれ整理されていく。彼女のこの能力にみあうだけの歴史学の資料や家族社会学の理論を今の日本のアカデミックな方たちは果たして提供できるだろうか?斬新で緻密な歴史学者や家族社会学者の割拠がこれからの上野氏の仕事を擁護するのかもしれない。
あどば〜に4号 1998年9月