第10回例会(2015.4.26)

Data pubblicazione: 1-apr-2015 9.52.44

 片山 浩史  

ジョヴァンニ・フランチェスコ・ビオンディの小説に含まれる歴史的寓意について

場所:京都外国語大学2号館234教室

参加者:片山、霜田、菊池、土肥、山室、星野、Gallo、國司

先週に続いて、片山氏に17世紀イタリア小説に関する発表をしていただきました。今回は、小説家ジョヴァンニ・フランチェスコ・ビオンディの代表作L'EromenaLa donzella desterradaの分析を中心に議論が進められました。

これら二本の小説は、前者は筋に一貫性があるのに対して後者はまとまりに欠ける、もしくは前者が想像上の物語であるのに対して後者がよりリアリスティックな描写をしている、など様々な点において異なっています。ですが、その両者の間にはストーリーの連続性があり、後者はある意味で前者の続編ともいえます。片山氏が注目するのは、二つの小説に含まれる歴史的寓意です。L'Eromenaのヒロイン、サルデーニャ王女Eromenaは、一般にジェイムス一世の娘エリザベスとみなすことができるとされています。また、L'Eromenaの主人公の一人、マウリタニア王子PolimeroはEromenaと結婚することになる人物ですが、この人物のうちにはプファルツ選帝侯フリードリヒ5世を読み取ることができると言われています。

いきなりイギリス王家が登場して面食らった方もいるかもしれませんが、実は、ビオンディはヴェネツィア共和国と英国のジェイムス一世と間を行き来していた外交官でもありました。上掲二本の小説を執筆していた時期も、ビオンディはジェイムス一世の庇護下にありましたので、イギリス王家の関係者たちが彼の小説に姿を変えて登場しても何ら不自然なことはないのです。このように、ビオンディの小説には歴史的寓意を読み取ることができるのですが、先行研究がこの種の分析を行ってきたのはほぼL'Eromenaについてのみです。それに対して片山氏は、La donzella desterradaにおける歴史的寓意に検討を加えます。

片山氏がとりわけ注目するのは、La donzella desterradaに織り込まれた様々なエピソードの一つGaula Belgicaです。<Gaula Belgica王は、娘DoricreneをUlmigaria王に嫁がせようとする。勢力拡大を狙うScandinavia王Teutoneは、娘CeleneとGaula Belgica王の息子Elimanteの政略結婚を企画する。DoricreneとUlmigaria王が結婚する。Doricreneに恋心を寄せていたSarmati王Durislaoは、二人の結婚をよく思わずUlmigariaに攻め入る。ElimanteとCeleneの結婚は結局破談となる> 先行研究のうち例外的にこのエピソードに言及したPiantoniは、Scandinavia王Teutoneのうちに、スウェーデン王グスタフ・アドルフの姿を見出しているのですが、片山氏はこれに反論します。氏は、ここにも再びエリザベスとフリードリヒ5世の結婚物語を読み込むべきだと考えます。<Doricrene→エリザベス、Ulmigaria王→フリードリヒ5世、Teutone→フェリペ3世、Durislao→バイエルン選帝侯マクシミリアン1世、Elimante→チャールズ1世>(レジュメにより詳しい解説があるので、そちらを参照ください)。

さて、私が興味を抱いたのは、この説が成立した場合に、一人の歴史上の人物が、同一の小説の中の二人以上の登場人物のうちに描かれていることになるという点です。こうした手法は、当時の小説にあって一般的なことだったのでしょうか。片山氏が研究を進めて、私の疑問に答えていただければ、、、期待しています(笑)。

参加者の皆さん、それぞれ好き勝手(?)なことをいいまくってなかなか盛り上がりを見せた会となりました。(國司記)

レジュメ