【コラムニスト:星野光】2020.6.1
皆さんは、バイオミメティクス(生物模倣)という言葉を知っているでしょうか。バイオミメティクスとは、「生物の構造や機能、生産プロセスを観察、分析し、そこから着想を得て新しい技術の開発や物造りに活かす科学技術」のことです。難しくて、普段の生活とかけ離れて見えるかもしれません。
しかし、長い年月を経て、進化の過程で洗練された優れた機能は意外に身近なところに活用され商品として存在し、快適な暮らしの一部に溶け込んでいるのです。その具体例をいくつか紹介してみたいと思います。
歴史的に見て最も古いものは、マジックテープとされています。欧米ではhook-and-loop fastener(面ファスナー)と呼ばれていて、スイスのジョルジュ・デ・メストラルが自分の服や愛犬に貼り付いた野生ゴボウの実にヒントを得て、1948年に研究を開始し数年後に発明したとされています。皆さんも公園に行ったときに、ひっつき虫が衣服についた経験があると思います。しかし、なんでつくのかを考えた人は少ないでしょう。
また、多くの人が利用したことがあろう新幹線もある動物の構造を模倣し開発されています。その動物は「カワセミ」です。カワセミは高速で水中に飛び込んで魚を取りますが、そのときの水しぶきが非常に小さいことに注目し、研究が進められました。そこから、カワセミのくちばしは空気抵抗の最も小さい形をしていることが発見されました。新幹線の問題点であったトンネル突入時の騒音を少なくすることに成功。それに加えて、より速く走ることを可能にし、時間短縮にも成功しました。
そのほかにも、「蜂の巣のハニカム構造を模倣した飛行機の壁」「ネコの舌の構造を模倣した掃除機のスクリューの表面構造」「蚊の針を模倣した注射器」「カタツムリの殻の表面構造を模倣したタイル」など多くの商品が存在しています。
自然界に存在する形・仕組みには多くの可能性が秘められています。形や仕組み以外にも身近にヒントとなることは転がっているかもしれません。さまざまな視点から物事を考えるときに、周りを見渡してみることで何かに気づけるかもしれません。自分の周りのなんとなくある日常を見つめてみるのもいいのではないでしょうか。