共知塾・第十六回(2023/10/25・水)
三田キャンパス / オンライン
2023年10月25日(水)第16回共知塾を開催いたしました。
ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。
概要
知能を理解しようとするとき、「ヒト知能の源泉となっているヒトの遺伝子は何か」を理解しようとすることが必要と思われます。
今回は、遺伝と環境が、認知能力、性格、学業成績などに及ぼす影響について研究を続けている行動遺伝学者の安藤寿康先生をお招きして、ご講演いただきます。
「心理学における「自然知能」とその遺伝的基盤について 」
心理学におけるヒトの知能(自然知能)の伝統的な研究を振り返ると、知能検査あるいはそれに準ずるさまざまな認知能力の測定法によって構築された標準的な理論、すなわち一般知能理論(general intelligence theory / Cattel-Horn-Carrol[CHC]理論に代表される)が最も頑健である。これはワーキングメモリあるいは実行機能や自己制御機能を担い論理推論を行う前頭頭頂ネットワークfrontoparietal networkを中心に据えた理論である。これはいわば中央演算装置に相当し、脳のさまざまな部位にさまざまな様式で蓄えられた知識(データベースやアプリに相当する)の情報を処理して、外界についての予測モデルを構築していると考えられる。
脳の構造的遺伝率 (脳の表面積や体積、皮質の厚さなどの構造的変数の双生児遺伝率)は、前頭葉や頭頂葉では90%に達し、機能的遺伝率 (resting stateで出された機能的ネットワークの部位間の関連の程度の双生児遺伝率)も50%以上であり、遺伝率は極めて高い。
現在(2022年)、全ゲノム関連研究(Genome-Wide Association Study [GWAS])で見出された3900あまりの候補SNPから個人レベルで算出できるpolygenic scoreは、個人差の15%を説明できる時代になった。さらに脳活動には身体感覚ネットワークや自己にかかわるデフォルト・モード・ネットワークなどさまざまな標準的な機能的ネットワークが同定されており、これらを総合的に射程に入れて自然知能を理解する必要がある。
安藤 寿康氏 慶應義塾大学 名誉教授・元文学部教授
略歴
1958年東京都生まれ、神奈川県育ち。慶應義塾大学文学部卒業。1986年慶應義塾大学大学院社会学研究科博士課程満期退学。2001年慶應義塾大学文学部教授。1997年博士(教育学)取得。専門は行動遺伝学、教育心理学、進化教育学。認知能力やパーソナリティなど心理学的形質の発達に及ぼす遺伝と環境(主に教育環境)の影響に関して、双生児法による縦断研究に20年以上携わるとともに、教育の進化的・脳神経学的基盤に関する論考を行なっている。主著に、
『心はどのように遺伝するか 双生児が語る新しい遺伝観』講談社ブルーバックス、2000年
『遺伝と環境の心理学―人間行動遺伝学入門』培風館、2014年
『なぜヒトは学ぶのか 教育を生物学的に考える』 講談社現代新書、2018年
『生まれが9割の世界をどう生きるか-遺伝と環境による不平等な現実を生き抜く処方箋』SB新書、 2022年
『教育の起源を探る-進化と文化の視点から』(編著)ちとせプレス、2023年
吉村 公雄氏 慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室・専任講師
略歴
平成4年慶應義塾大学医学部卒業.慶應義塾大学病院研修医(精神・神経科)、財団法人井之頭病院精神科医師、国立がん研究センター研究所がん情報研究部研究員、同研究所腫瘍ゲノム解析・情報研究部主任研究官を経て、平成18年より現職.博士(医学).精神保健指定医、日本精神神経学会精神科専門医.専門は、産業精神保健、疫学、医療・病院管理学.
2023年度 年間スケジュール
開催日程 (16時-18時)※最長19時
4月27日 三田・東館6階G-Lab(三宅 陽一郎氏, 栗原 聡氏)
5月26日 三田・東館4階オープンラボ(髙屋 英知氏, 中西 泰人氏)
6月21日 三田キャンパス(稲見 昌彦氏, 和泉 潔氏)
7月20日 三田キャンパス(須賀 聖氏, 山本 仁志氏)
9月22日 三田キャンパス(SFVプロジェクト最新研究発表)
10月25日 三田キャンパス(安藤 寿康氏, 吉村 公雄氏)
11月17日 三田キャンパス(大屋 雄裕氏, 稲葉 通将氏)
12月21日 三田キャンパス(秋山 英三氏, 王 亜楠氏)
1月24日 三田キャンパス(人工知能学会・倫理委員会メンバー討論会)