2022年7月22日(金)に、第3回共知塾を開催いたしました!
三田キャンパスの会場とオンラインから、多くの方にご参加いただきました。
第3回は、中澤仁氏、山川宏氏による講演が行われました。
前半 中澤 仁氏(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科)
タイトル
「街をスマートにする情報とその力」
概要
国の主導でSociety 5.0の実現が叫ばれる中、日常業務では神エクセルから脱却しきれないなど、理想と現実が大きく乖離している。私たちの住む街から網羅的に情報を獲得し、処理し、円滑に還元するループを多分野で構築してSocietyの次世代化を進めるためには、日常業務にスマートな仕掛けを重畳して情報の生産と流通を工業化する必要がある。本講演では、本研究者がこれまで進めてきた街のスマート化に関する研究を紹介する。公用車を活用した空間網羅性の高いセンシング技術や、AIを用いた実空間画像分析、センサデータの流通基盤等の紹介を通じて、未来社会への過程を示す。
後半 山川 宏氏 (東京大学/全脳アーキテクチャ・イニシアティブ/理研AIP)
タイトル
「生命を存続させるための知能」
概要
生命は、結果として生存してきたものであるが故に、その究極目標は「情報の生存」とみなすことは自然であろう。そして生命は、物理世界が無秩序化する傾向に抗して未来に情報を伝えるために、多様な自律した個体が分散して繁殖するシステムとして生命圏を構成している。地球生命が見出した繁殖戦略は基本的に指数関数的複製を基盤とするセントラルドグマである。この繁殖戦略を維持するために、2つの局所的な副目標が設定されている。1つ目の副目標は、有機体として継続的な活動を維持するための個体の生存である。2つ目の副目標は、繁殖のために類似した個体からなる種族の維持である。
かつて世界は、主体(個体やその集団)が及ぼす影響力に比して十分に広く、各主体が生存を追求することが、情報を生存させるという大局的な目標に良く近似していた。ところが人類という生命体が世界をモデル化する知能を獲得し、それを利用して急速かつ不可逆的な技術爆発を引き起こした。こうして主体間の相互作用が増大した状況においては、各主体が局所的な目標を追求することが情報の生存という究極目標か乖離するという構造的な問題を生じたのである。つまり人類は狭くなった世界において、核兵器、高度AI、名の技術、生命技術等の誤用・悪用などによって全面的な破壊に至るExistential Riskに直面している。
そこで本講演では、急速に進展しつつある人工知能技術を利用することで、構造的な問題を乗り越えて生命圏を存続させる策について検討する。1つ目は、具体的には知能によって宇宙開発を促進することで、生命の生存圏を拡大する策である(以下では、生存圏拡大策と呼ぶ)。2つ目は、主体間の相互作用が大きな状況であってもExistential Riskを大幅に抑制できるように生命体の有り様を大きく変容させる策である(以下では、生命革新策と呼ぶ)。生存圏拡大策は、未だ宇宙がフロンティアである人類にとって有望な選択肢である。しかしながら宇宙進出後は、さらに大規模な争いや破壊が生じる可能性が高い。しかも長期的な技術爆発の末、現状で考えられているように宇宙が有限であれば、この策はいずれ限界に達するであろう。
生命革新策は、セントラルドグマの枠組みを超えて繁殖方法を中心とした生命のあり方を変革するものであり、具体的案として次のような計画がありうる。まず環境変化に対応するために生命の究極目標に整合する必要な副目標を推論する。さらに、それら副目標を達成する能力を備えた子孫を設計して生産(もしくは再起動)して、それら副目標を達成するという仕組みである。
上記の仕組みを人類が今の有り様で実現することは難しく、だからこそ地上での戦いの主役が人類同士によるものとなってからも平和な時代は短いと思われる。よって、上記の仕組みを担う生命体の有力候補は以下の2つであるが、現在の科学技術状況から見て課題もある。1つ目は、生命科学や神経科学を利用してアップデートされた人類であるが、有機体による生命では計算能力の増強や、休眠保存することは容易でない。2つ目は、進展著しい人工知能技術を基盤として自律・分散・繁殖の能力を備えたデジタル生命体であるが、繁殖に必要な原料精製や半導体チップの作成が大規模化するという課題がある。
これらを踏まえると、アップデートした人類による社会が、デジタル生命体で構成される社会が連携することで、平和共存を実現するという3つ目の選択肢も有力となるだろう。その場合における人類のアップデートとは、単に知的能力を向上させるだけでなく、変化に適応した副目標としてのモラルや価値観の変容も含むであろう。
要するに、知能は技術爆発によって危機的状況を作り出したが、そこから人類を含む生命を救い出すことができるのもまた知能なのである。したがって、生命の究極の目的である情報の生存を実現するために、知性と科学技術を最大限に活用する道筋を模索すべきであろう。
【中澤 仁氏】
2003年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程修了。博士(政策・メディア)。2019年より慶應義塾大学環境情報学部教授。街に埋もれて見えない無限の情報を採集するのがライフワークの一つ。ユビキタス・モバイルコンピューティング、センシングシステム、ディペンダブルシステム、スマートシティ等の研究に従事。ACM IMWUT Associate Editor、日本ソフトウェア科学会編集委員、情報処理学会ユビキタスコンピューティングシステム研究会主査、電子情報通信学センサネットワークとモバイルインテリジェンス研究会専門委員、JSTさきがけ「IoTが拓く未来」領域アドバイザー、他。
【山川 宏氏】
1992年東京大学大学院工学系研究科電子工学専攻博士課程修了。工学博士。同年(株)富士通研究所入社。1994年から2000年まで通産省RWCプロジェクトに従事。2014年から2019年3月まで(株)ドワンゴ ドワンゴ人工知能研究所所長。現在、特定非営利活動法人全脳アーキテクチャ・イニシアティブ代表、東京大学大学院工学系研究科特任研究員。人工知能学会(元編集委員長、汎用人工知能研究会主幹事)、電子情報通信学会(NC研究会副専門委員長)、日本認知科学会、日本神経回路学会などの各学会員。専門は人工知能、特に、汎用人工知能、全脳アーキテクチャ、概念獲得、意見集約技術など。電気通信大学大学院連携教授、近畿大学情報学研究所知能システム部門長(客員教授)、理化学研究所生命システムセンター主管客員研究員および革新知能統合研究センター客員研究員。
2023年度 年間スケジュール
開催日程 (16時-18時)※最長19時
4月27日 三田・東館6階G-Lab(三宅 陽一郎氏, 栗原 聡氏)
5月26日 三田・東館4階オープンラボ(髙屋 英知氏, 中西 泰人氏)
6月21日 三田キャンパス(稲見 昌彦氏, 和泉 潔氏)
7月20日 三田キャンパス(須賀 聖氏, 山本 仁志氏)
9月22日 三田キャンパス(SFVプロジェクト最新研究発表)
10月25日 三田キャンパス(安藤 寿康氏, 吉村 公雄氏)
11月17日 三田キャンパス(大屋 雄裕氏, 稲葉 通将氏)
12月21日 三田キャンパス(秋山 英三氏, 王 亜楠氏)
1月24日 三田キャンパス(人工知能学会・倫理委員会メンバー討論会)