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ベテランバイヤーの言葉の真意
新人さんからの質問です。
1)ベテランバイヤーから「売上は大事だけど、点数も見るように」とか「客数も見るように」と言われます。
2)一方売上、点数、客数共に低くても「この商品を入れとかなきゃ駄目」とか「この商品をカットしちゃ駄目」と言われるケースがあります。
ID-POSデータを使えば、これらは数値で裏付けできるものなのでしょうか?それともやはり勘や経験が身につかないと駄目でしょうか?
※.商品の客数データが取れているのであれば、少なくともジャーナルレベルのPOS分析が可能な企業であると推察されます。
商品を図のチューハイ売上ベスト12に絞って、ベテランバイヤーの言葉の真意をデータで追ってみたいと思います。
1.「点数、客数も見るように」の真意
点数も見るように
売上 = 点単価 ✕ 点数
ですから、単純に言って「点単価=1で見るように」という事になります。
図を見てみると点数順では、点単価が平均以上の商品が軒並み売上順から順位を落とす事が分かります。
日別店別商品別のPOSサマリーからは、ここまでしか読み取る事ができない為、ベテランバイヤーの真意にこれ以上迫る事はできません。
客数も見るように
POSジャーナル明細があればもう一段階掘り下げる事ができます。
点数 = 客点数 ✕ 客数
ですから、点単価=1で見るだけで無く更に「客点数=1で見るように」という事になります。
図を見てみると客数順では、客点数が平均以上の商品が軒並み点数順から順位を落としている事が分かります。
点数、客数双方の言葉を併せて額面通りに捉えてみれば、この図の場合「まとめ買いされるような商品は割り引いて見るように」と言っているように思われます。
逆に言えば「頻度買いされる商品を重視するように」となりますが、ベテランバイヤーの真意は本当にそんな所にあるのでしょうか?
情緒を切り捨てロジックだけで考えてみると、点数はPOSサマリ、客数はPOSジャーナルという各々のデータ粒度において、全ての平均値を1とした時に表れる、売上方程式の最小単位量(マス)です。
売上 = 点単価 ✕ 点数
点数 = 客点数 ✕ 客数
売上 = 点単価 ✕ 客点数 ✕ 客数
一方で粒度的限界から、算出される平均値(点単価、客点数)は、まとめ買いに関するものに偏っています。
まとめ買いも、頻度買いも顧客の好みであり、顧客の勝手ですから、バイヤーの言葉の真意が、まとめ買い、頻度買い、どちらも共に1と見た際の売上の核心量(マス)に迫るものだったとしたらどうでしょうか?
まとめ買いだけで無く、頻度買いも割り引いてみる
ID-POSデータでは
客数 = ID数 ✕ ID回数(頻度)
ですから、ID回数=1と見る事で、まとめ買いだけで無く、頻度買いも割り引いて見る事ができます。
まとめ買いも、頻度買いも割り引いた最後に残る量が、商品の利用ID数です。
売上 = 点単価 ✕ 点数
点数 = 客点数 ✕ 客数
客数 = ID回数 ✕ ID数
売上 = 点単価 ✕ 客点数 ✕ ID回数 ✕ ID数
チェーンストアの仕事はマス・マーケティングですから、平均値より量すなわちマス(上式青フォント)を重視します※。
ID数は全ての量の源泉ですので、ベテランバイヤーの言う「点数、客数も見るように」をデータとして究極的に捉えれば「ID数も見るように」と言う事になります。
改めて情緒的に言い直せば「お客さん毎の利用の仕方は置いといて、より多くの人(マス)に喜ばれる政策にしてね」というのがベテランバイヤーの言葉の真意なのかもしれません。
※.対して客点数、ID回数といった平均値は、取扱店舗が少ない程/利用ID数が少ない程大きくなる場合があります。実際に順位を振ってみれば分かりますが、平均値を重視する事は政策的に「安牌」ではありません。
ID-POS分析ではID数を殊更に重視する
ID-POS分析がID数を殊更に重視するのは、ID数という指標が顧客そのものだからです。
顧客とは併買をする存在ですから、ID数は単に商品の成績を表す指標に留まらず、商品と併せて店舗全体を利用している顧客そのものの存在を示唆しています。
図のように商品利用と店舗利用を結ぶ唯一の架け橋、共通接点がID数です。
図からは商品の利用金額で最下位の12位の商品をカットしてしまうと、店舗の利用金額で3位の顧客群を切捨ててしまい兼ねない事、ID数で1位の商品を伸ばせば、最も店舗売上に貢献できるであろう事が分かります※。
商品利用金額1位の7,293,049円に較べ、店舗利用金額1位の438,171,564円は文字通り桁違いの金額です。
ID-POSデータは無くとも、ベテランバイヤーの売場観、現場観は、売上に内在されているID数的なものの重要性を看過しているのだと思われます。
※.ID数と店舗利用金額の順位はおおよそ一致しますが、一致しない場合においても原則ID数を重視します(それこそコンビニエンスニーズの顧客を排除する事に繋がりかねない為)。但し、納得感の為にも次期Tapirでは、店舗利用金額も採用基準に選べるようにはしておこうと思います。
2.売上、客数共に低くても「採用しなきゃ/カットしちゃ駄目」の真意
売上にせよ客数にせよID数にせよ、ここまでは大なり小なり私たちに利のありそうな量の多さだけで順位を決して来ました。
ところがベテランバイヤーは、量が少なくても採用すべき/カットNGと言う訳です。
ここまでややこじつけの感もありましたが、私はこの言葉をもってベテランバイヤーの売場観、現場観が間違いなくID数的なもの、すなわち顧客を認識しているのだと確信しています。
売場の利用動機/来店動機かどうかは非併買顧客の多さに表れる
前述しましたが、図(再掲)の商品利用金額で最下位の12位の商品をカットすると、本当に店舗利用金額で3位の顧客群は離反してしまうでしょうか?
「それが無いならもう売場/店舗を利用しない」といった商品ならそうなるでしょうが、もしかしたら「何となく買った/試しに買ってみた」程度の商品なのかもしれません。
さて、図の商品利用金額の明細計はマーケット計に一致しますが、ID数の明細計はマーケット計に一致しません。
ID数に紐付いた数値である店舗利用金額についても同様です。
これは顧客が併買をするからです。
POS分析において部門客数の計が、店舗客数と一致しないのも、同じ理屈です。
一方で私たち自身もそうですが、人によっては「これが欲しい」「これしか買わない」商品があります。
これは他の商品の非併買という利用態度に表れます。
非併買という利用態度を示している顧客が多い商品程、「それが無いならもう売場/店舗を利用しない」リスクの高い商品と考えられます。
そこで、商品を併買/非併買の多さからグルーピングしたものが次の図です。
(正直数値によらずとも、ベテランバイヤーには売場、現場が大なり小なりこのように見えてしまっているのでは無いか?と考えています。)
図のseg_fはグループ間相互で併買が少ない=非併買が多いグループですので、各グループに必ず1商品は無いと、売場の未利用化/離反のリスクが高まります。
そこでグループ毎に最も利用ID数の多い商品を抜き出して来て、ID数順で採用順1〜4位迄を振っています。
図のseg_nはグループ内の商品同士の併買がマーケット平均以上に起こっている=非併買が少ないグループですから、seg_n内で最も利用ID数の多い商品が1商品あれば、他のグループの商品よりは代替してもらえる可能性が高い事を意味しています。
そこで各seg_n内で、最も利用ID数の多い商品を抜き出して来て、seg_fの段階で順位が振られなかった商品に採用順5位が振られています。
要は量と、マーケット構造=形から順位が振られている訳です。
量は私たちの都合、利ですが、形は顧客の都合、利を表します。
このような順位の振り方によって、採用順では主に選択肢数が多いseg_nに属する商品が、ID数順から順位を落としている事が分かります。
図で言えば、採用順2位、3位の「角ハイボール350ml」「氷結レモン350ml」は、売上順は低くても「いれとかなきゃ駄目」「カットしちゃ駄目」の代表格です。
その為、商品利用金額で最下位の「氷結レモン350ml」のカットは、店舗利用金額で3位の顧客群の離反に繋がるリスクが極めて高いと考えられます。
さて、これでベテランバイヤーの言葉を数値で裏付けできたでしょうか?
コンビニエンス性の高いドラッグストア業態のデータを、かなり絞り込んで使用した為、6本パックが尽く1本で代替可能なような採用順となりましたが、これが実データや、食品スーパーやホームセンターといった他業態のデータになると、また違った結果になる筈です。