熊本県

熊本地裁の“当たり前だけど画期的判断” ~九州から勝利の風を吹かせていく~

            優生保護法被害者とともに歩むくまもとの会

                    平野みどり

 

●提訴から4年半、熊本地裁で勝訴判決

2023年1月23日の熊本地裁101号法廷は、傍聴者で埋め尽くされていました。

14時、中辻裁判長は主文を読み上げる前に、「手話通訳者を介して判決を理解する方もおられますから、ゆっくりとわかりやすく主文の骨子から読み上げます」と説明。裁判長は一区切りを終えると、それを手話通訳者が手話で伝え終えるのを確認しながら、次の発言を始めていました。

判決は、①優生保護法は個人の尊厳を規定した憲法13条、法の下の平等を定めた憲法14条に違反している、②誤った法律を作り優生思想を広めた国の帰責性は免れない、③除斥期間については被害の甚大性、被害者による権利行使の困難性などにより、著しく正義・公平の理念に反するため除斥期間は適用されないと判断しました。

これを聞いて、傍聴席からは、すすり泣く声が聞こえてきました。

原告の渡邊數美さんが提訴したのは、2018年6月28日です。渡邊さんは、関節炎で治療を受けていた10歳の時に、母親が医師から説得され、両睾丸を摘出されました。この後、成長に伴い、心身共に筆舌に尽くしがたい痛みと差別に苦しむ人生を送られます。

もう一人の女性原告(川中ユキさん=仮名)の提訴は2019年1月29日。川中さんの第一子に障害があった(と思われる)ため、第二子も障害があるだろうと医師から中絶を勧められ、障害を持つ子どもを持つ自分が悪いのだと思い、子宮摘出にも同意させられたそうです。その後、火災で第一子も失い、今は一人で苦しみと後悔の中で生きておられます。

渡邊さんと女性原告では、手術を受けた時期が子ども時代と成人してからという違いなどもあり、賠償額には差異がありましたが、判決後お二人はそれぞれ判決に満足しておられました。(川中さんは体調不良により法廷に来られず、判決後、文書で感想を寄せられました)

 ところが、全国の原告の切実な願いを踏みにじるかのごとく、国は2023年2月3日に熊本地裁判決を不服として、福岡高裁に控訴しました。

 

●優生保護法問題は私たちの社会全体を問うている

私は、「DPI日本会議」の議長ですが、関連団体である「DPI女性障害者ネットワーク」にも所属しています。障害者運動の中で、特に障害女性は、旧優生保護法による強制不妊手術の被害者の存在を早くから認識していました。「優生手術に対する謝罪を求める会」と共に、そして直接、被害者の声を聞く機会もありました。しかし、この問題の根深さは、本人の周辺に、この手術を受ける判断をした関係者がいるということです。親や親族、福祉施設関係者、教育関係者等々。それ故、本人はなかなか口外できない現状があったのです。

熊本地裁の原告の渡邊數美さんも、仙台地裁の報道を知って自分も被害者だと確信し、なおかつ、お母さんが既に他界されているため、実名での提訴となったようです。

健康な子どもを産んで育てるのは女性の責任だという考え方は、この社会に深くあります。子どもを産まない女性や子どもが障害をもった女性は、この社会では低く評価されてしまうようです。そこに障害への不安が重なると、「障害のない子を選んで産みなさいという圧力」になって、子どもを持ちたい人、とくに女性を苦しめます。

優生保護法問題は、障害のある人全体の問題ですが、私たち社会全体の問題とも言えるのではないでしょうか。「子どもに障害があったらどうしようというようなプレッシャー」を女性が受け続け、「障害のある子は、本人も家族も大変なんじゃないか」という不安にたくさんの人を陥れてしまうようです。

国が上告しても、私たち熊本の有志は原告お二人を支えながら、福岡地裁や大分地裁の原告や支援者の皆さんと連携して、九州から勝利の風を吹かせていきます。