【ポケモン】

色違いに出会う確率で出てくる63.2%の数学的背景

作成者は本ページで紹介するゲームに関して、公式とは全く関係がありません。下記のガイドラインに基づいて活動をしていきます。

ネットワークサービスにおける任天堂の著作物の利用に関するガイドライン

あたりクジは何回引けば当たる?

 色違いを探す身としては、どれくらいのポケモンに出会えば色違いに出会えるか、というのは大きな関心ごとだ。色違いの基本的な出現確率は1/4096、いうなれば1/4096で「あたり」を引くことができるクジだと言える。ここで引いたクジは元に戻すとする。つまり、「はずれ」を引いてもクジは減らず、あたりの確率は1/4096のままだ。このとき、4096回クジを引いたとき、あたりを引ける確率はどれくらいだろうか? あたりの確率は1/4096なのだから、4096回引けば1回くらいあたりが出るだろう、と考えるかもしれない。しかし、これはある意味正解で、ある意味不正解なのだ。1/4096では実験が難しいので、もっと確率が高い1/6であたりを引けるクジを作って試してみるとよい(例えば、サイコロとか)。1/6であたりを引けるとして、6回引いたらあたりを引けるだろうか? 試せばわかるが、6回引いてもあたりを引けないことがある。そこであたりを引くまでにクジを引いた回数を記録しておくとしよう。つまり、サイコロで言えば下図のような状況だ。

このとき試行数nをたくさん行えば行うほど、(1が出るまで投げた回数)/試行数は6に近づいていく。いうなれば、平均すれば6回投げれば1が出る、ということだ。その点で言えば上記で言う『1/4096のあたりクジは4096回引けば引ける』理論は正しい。しかし、各試行においては6回以内で1が出ることもあれば、出ないこともある。6回投げるまでで1が出る確率はどれほどのものだろうか。この計算は、6回投げたサイコロがすべて1以外の出目となる確率を全事象から引けば計算できるので、1 - (1 - 1/6)^6 ≒ 0.67となる(細かい考え方は以前の記事参照)。すなわち、ある試行においては6回投げても約33%の確率で1が出ない、ということだ。その点で言えば上記で言『1/4096のあたりクジは4096回引けば引ける』理論は正しくない。では、一般的に確率Pであたりを引けるときに1/P回以内であたりを引ける確率を知りたくなってくる。これを理解することで、あたりを引くまでにどれくらいクジを引く必要があるか見積もれるからだ。実は、この確率はPが十分小さければ、約63.2%になることがわかる。先ほどのサイコロでの例ではP = 1/6であったが、この時の6回までに1を引ける確率が67%であり、63.2%に近い値であるのは偶然ではない。Pが小さくなるほど63.2%に近づいていくのだ。


不思議な確率63.2%

 本当に63.2%に近づいていくのか、以下の図を見て確認しよう。横軸はPのままだとわかりにくい図になるので、逆数の1/Pを使っている。1/Pは上記の議論から、確率P = 1/xとあらわされるときの分母xのこととする。

図1 Pの分母(1/P)回までに「あたり」を引く確率

横軸はPの逆数(確率Pの分母)であることに注意。赤線は0.632を示し、青点はP = 1/6の時の確率。1/Pが大きくなる、すなわちPが小さくなるほど、確率が0.632に近づいていることがわかる。

確かにPが小さいほど(1/Pが大きいほど)、1/P回までにあたりを引く確率は63.2%に近づいている。P = 1/100以下(1/P = 100以上)であれば、ほとんど63.2%と考えてもよさそうだ。ではこの63.2%の実態とは何なのだろうか? 高校数学の(たぶん)数Ⅲの極限の知識があれば、さんざん教えられるおなじみの数値に帰着して考えることができる。数Ⅲを習っていない人は、以下のように計算できるんだー、くらいの気持ちで眺めてほしい。Pが非常に小さくなるときの極限を以下のように考える。

いわゆる1の∞乗型の不定形が登場する。極限の計算においてこの不定形の厄介さは、高校生なら身に染みてわかっているだろう。簡単な極限の計算であれば、limの下の文字の矢印の先が0となっていれば、指定された文字に0を代入すれば解けるし、∞になっていれば指定された文字の逆数をとって極限の先が0になるよう帰着すればよい。しかし、不定形と呼ばれる極限は0/0や∞/∞、0×∞など、一見すれば収束値が存在しないようにみえる。1の∞乗も不定形の一つなのだ。「1を何乗もしても1だろ」と思ってしまうが、実は上記のような「1からわずかな数を引いた値の∞乗」や「1からわずかに数を足した値の∞乗」は1以外の収束値を持つことがある。例えば、(1 + 1/n)^nに関して、n = 1、2、3、4、5……と代入していって確かめてみるとよい。nが大きくなるにつれてカッコ内は1に近づく代わりに乗数が増えるという状況だ。n = 1から始めると、1に近づくどころかむしろ数が大きくなっていくことが確認できる。この(1 + 1/n)^nについてnが∞となるときにある値に収束することが知られている。受験数学ではおなじみの、ネイピア数と呼ばれる値、e = 2.71828……だ。この値がわかっていれば上記の確率は以下のように計算できる。

そう、1/P回までに色違いに出会える確率63.2%は、1からネイピア数の逆数を引いた値なのだ。ゆえに、この値を覚えてしまっていると、計算するまでもなく1/P回までに色違いに出会える確率は63.2%と復唱できてしまう。


「ほぼ確実に」色違いに出会うにはどれくらい出会う必要がある?

 さて、色違い確率が1/4096だとすれば、4096回ポケモンに出会っても36.8%で色違いに出会えないわけだから、少々心もとない。じゃあ、どれくらい会えば「ほぼ確実に」色違いに出会えるのだろうか? 例えば、1/P回出会うところをその2倍、3倍と出会う回数を増やしたら、どれくらいの確率で出会えるようになるのだろうか? そこで、1 - (1 - P)^(1/P)の式に細工をして、1/Pのy倍のポケモンに出会うという式に書き換えよう。これは単純に1/Pの部分をy/Pに置き換えてやればよく、上記の計算手順と同じようにすれば、下記の式になる。さらにグラフも載せる。

図2 1/Pのy回倍までに「あたり」を引く確率

赤点縦軸が0.8、0.9および0.99の時を示それぞれのyの値は約1.6、2.3および4.6である。

グラフから、1/Pの約1.6倍、2.3倍、4.6倍以内に色違いに出会える確率は、それぞれ80%、90%、99%である。出会う回数で言えば、6554回、9421回、18842回だ。そして実際問題としては、ここに出会うごとにかかる時間を加味するわけなので途方もない時間がかかる可能性がある。たくさんの色違いに出会いたいのであれば、1/4096の確率で色違いを探し続けるのは少々分が悪いだろう。最近の作品なら、色違いに出会いやすくなるアイテムやシステムを駆使して、約1/512まで確率を上げることができる。これくらいの確率なら2355回以内に99%の確率で色違いに出会える計算になり、全然マシである。


おわりに

 ネットの記事などを見ていると、上記のような条件で色違いに出会える確率「63.2%」というものを見ることがある。今回はその背景について掘り下げてみた。計算してみると高校数学でもおなじみの数値が出てくることもあり、「こんなところで関わっているんだ」と実感を持っていただけると幸いである。もし、何か不正確なことなどあれば、ご連絡いただけると幸いである。以下は、ちょっと突っ込んだ話となる。興味があれば引き続き、読み進めていただきたい。


補足:「99%で出会える」確率の解釈―ちょっと突っ込んだ話―

 「Y%の確率でX回以内で色違いに出会える」という言葉について補足をしておく。この言葉は誤解を生みやすいのだ。例えば、P = 1/4096ならば、99%の確率で18842回以内で色違いに出会える」というのは、「色違いに出会うためには18842回出会う必要があると言っているのではない18842回出会う頃にはそれよりもずっと少ない回数で色違いには出会っている可能性が高い。場合によっては、3~4匹、あるいはそれ以上の数の色違いに出会っている可能性すらある。何匹も色違いが欲しい場合を除いて、1回色違いに出会えたらそこで作業は終了なので、18842回も時間をかけることはない。18842回出会っても、色違いに全く出会えない世界線が100回中1回くらいある、ということなのだ。ただし、この1回の世界線に入ってしまうことはあるし、それの予測はできない。そこはreal luck次第だ。

 もう一点は、P = 1/4096だとして「18842回出会って色違いが出なければ、あと数回で色違いに出会えるだろう」という予測は全く立たない、ということだ。18843回目に出会える可能性もあるし、まだまだかかる可能性もある。色違い厳選を初めて1回目だろうが、18842回目だろうが、次に色違いに出会える確率は1/4096に変わりはない。ただし、18842回目まで全く色違いに出会えなかったという事実は、運が悪かったのは間違いない。

 18842回出会えば色違いに出会える確率は99%、だけど多くの場合は18842回出会う必要もないし、18842回出会って色違いに出会えなかったとしても次に高確率で出会えるというわけでもない。なんとなく矛盾するようで、もやっとしたものはなんなのだろうか。これは「自分のいる世界線から見るのか」「ほかの世界線も併せてみるのか」で見えるものが変わってしまうためだ。

このように一見矛盾してるかのような解釈も、見ている世界が違うと考えれば矛盾がない。この議論からわかるように、確率というのは単純な概念に見えるが、ときに私たちの想像しがたい概念となることもある。しかし、この想像しがたい概念を理解できるようになるからこそ、Pで色違いが出現する全く予想がたたない世界から、1/Pの4.6倍くらい試行すれば99%の確率で出会えるだろうという予測の立つ世界へと昇華するのだ。この昇華へモチベーションこそが、確率統計への第一歩を踏み出すきっかけとなってくれるのである。