兵庫県立大学 理学部 物質科学科

Univ. of Hyogo, School of Science

電磁物性学講座

Condensed Matter NMR Group

講座紹介スライド(2019年10月公開)

研究室見学を歓迎します。卒研配属、研究室体験で当研究室に興味のある方は、研究棟103室までお越し下さい。

News

2024.3 [論文出版] 擬一次元カイラル構造をもつLa3FeGaS7についてNMR測定から調べた論文が、Interactions誌においてProceedingsとして出版が決定しました。本研究は、本学の電子物性学講座との共同研究です。

2024.1 [論文出版] トポロジカル近藤絶縁体SmB6についてNMR測定から調べた論文が、InteractionsにおいてProceedingsとして掲載されました(当研究室の西川が第一著者)。本研究は、茨城大学の伊賀先生との共同研究です。

2024.1 [受賞] 藤井拓斗助教の論文が米国物理学会誌Physical Review BのEditors suggestionに選ばれました。Max Planck固体化学物理研究所で行った研究で 、核四重極共鳴法と密度汎関数理論を組み合わせた手法によって、トポロジカル物質TaSb2における電子状態が局所的に異なることを明らかにしました。関連URLはこちらをご覧ください。

2024.1 [論文出版] スズニクタイド層状超伝導体NaSn2Pn2 (Pn = P, As)についてNMR/NQR測定から調べた論文が、J. Phys. Soc. Jpn.誌へ掲載されました(当研究室の中西君が第一著者)。

2023.12. [受賞] 理学部物質科学科の3年生が参加した「研究室体験」の発表会で、当研究室を体験した菊田裕介君が優秀発表者に選ばれました。おめでとうございます!
2023.12 [論文出版] 硫化サマリウムSmSの特異な半導体状態について33S-NMR測定から調べた論文が、J. Phys. Soc. Jpn.へ掲載されました(当研究室の吉田君が第一著者)。

2023.11 [論文出版] NMRスペクトル測定で得られるデータをベイズ推定を用い解析する方法を提案した論文がJournal of Magnetic Resonance誌に掲載されました。本成果は、東京大の岡田研究室、熊本大の水牧先生との共同研究です(第一著者が岡田研の上田さん)。

2023.11 [学会発表] International Conference on Hyperfine Interactions and their Applications (HYPERFINE2023)2件の発表を行いました。

2023.9 [学会発表] 日本物理学会 2023年春季大会で4件の発表を行いました。

2023.7 [学会発表]  International Conference on Strongly Correlated Electron Systems 2023 (SCES 2023)3件の発表を行いました。

2023.6 [学会発表] The 10th International Workshop on the Dual Nature of f-ElectronsでD3の吉田君が招待講演を行いました。

2023.4 [論文出版] NMR測定によって得られる物理量であるT1ベイズ推定を用いて解析した論文がJ. Phys. Soc. Jpn.誌に掲載されました。本成果は、東京大の岡田研究室、熊本大の水牧先生との共同研究です(第一著者が岡田研の上田さん)。

2023.4 藤井拓斗 助教が着任しました。

2023.3  J. Phys. Soc. Jpn.誌に先日掲載されたCeB6の論文に対して、瀧川先生(東京大学 物性研究所 名誉教授)によるNews and Commentsが発表されました。

2023.3 [学会発表] 日本物理学会 2023季大会で4件の発表を行いました。

2023.2 [受賞] J. Phys. Soc. Jpn.誌に掲載されたCeB6の論文が、JPSJ誌の編集委員会によって注目論文(JPSJ Papers of Editor’s Choice)として選ばれました。

2023.2 [論文出版] CeB6の反強四重極秩序相におけるゼロ磁場状態を局所電荷分布の変化に敏感な11B-核四重極共鳴(NQR)測定によって調べた論文がJ. Phys. Soc. Jpn.誌に掲載されました。

2023.2 [論文出版] 圧力下の黒リンにおいてディラック電子相が存在する証拠となるゼロモードランダウ準位の検出に成功した論文Phys. Rev. Lett.誌に掲載されました。

2023.1 スプリット型超伝導マグネットの立ち上げに成功し、稼働を開始しました

2023.1. [受賞] 理学部物質科学科の3年生が参加した「研究室体験」の発表会で、当研究室を体験した畠山喜三朗君が優秀発表者に選ばれました。おめでとうございます!

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最近の論文 / Recent topics

 質量がゼロの「ディラックフェルミオン」と呼ばれる物質の研究は、相対論の影響を考慮に入れることで、新しい電子の性質を見出す可能性があります。ディラックフェルミオンは、グラフェンという物質中で初めて見つかりました。最近では、黒リンがディラックフェルミオン物質の有力な候補として注目されています。黒リンは、グラフェンのような二次元の層が折りたたまれた構造を持ち、通常は半導体ですが、一定の圧力がかかると、金属に転移してディラックフェルミオンが現れると期待されています。しかし、圧力下の実験の困難さからディラックフェルミオンの存在を決定づける実験結果はまだ得られていませんでした。

 本研究では、高圧下で測定可能な核磁気共鳴(NMR)測定を用いて、ディラックフェルミオンに関する情報を得ようと試みました。特に、ディラックフェルミオンの特性を反映する1/T1 T(T1は核スピン格子緩和時間)の磁場依存性を測定しました。測定の結果、低磁場下での値の20倍を超える極めて大きな磁場による1/T1Tの増強が見出されました。このような増強は他の物質では見られないもので、黒リンが3次元ディラックフェルミオン系であることを示す重要な結果です。詳細は、こちら

 電子は、スピン・価数・軌道の自由度を有していますが、軌道の揺らぎや秩序の観測は一般的に他の自由度に比べて難しいです。CeB6は、軌道自由度に起因した電気四極子秩序と呼ばれる相を示す代表的物質です。この電気四極子秩序相は、Oxy型の反強的な構造であるとほぼ確定されています。秩序温度TQ=3.3K以下では、元々等価であったBサイトが、BI、BII、BIIIに分裂するはずですが、この結晶変位は放射光設備を用いた高精度X線回折測定でも観測できていません。

 私たちは、CeB6の対称性変化を11B核の核四重極共鳴(NQR)測定で検出することを目指しました。NQRは、4f電子の電荷分布が変化すると、CeB6の四極子秩序相ではBI~BIIIに対応する3つの11B-NQR信号が観測されると期待されます。しかしこの共鳴周波数は通常のNQR測定より1桁以上低く、非常に難しい測定です。私たちは、7年の歳月をかけてその観測に成功し、NQRスペクトルがTQ以下で明瞭なシフトを示すも、全く分裂の兆しを示さないことを明らかにしました。この結果は、CeB6の四極子相が、ゼロ磁場下では異なる可能性を示唆しています。詳細は、こちら

 「金属の大きさを小さくしていくと、いずれは金属性を失う」という予言が1960年代から言われています。金属には自由に動ける電子があり、粒子サイズが小さくなると離散的なエネルギー準位が現れます。これが「量子サイズ効果」と呼ばれ、ナノサイズ領域で見られることが期待されています。量子サイズ効果について様々な研究がされてきましたが、意外にも量子サイズ効果の明確な観測と詳しい機構は解明されていません。その原因は、均質なナノ粒子を作ることが難しいことと、その金属らしさを調べるための観測技術が十分ではなかったことだと思われます。

 近年、化学技術の進歩により、金属ナノ粒子を均一かつ安定に生成することができるようになりました。また、非接触的なNMR(核磁気共鳴)測定により、半導体や非金属、信号が弱い試料の測定も可能になりました。本研究では、3種類の異なるサイズの白金(Pt)ナノ粒子についてNMR測定を行うことで、金属と非金属の転移が初めて観測されました。詳細は、こちら。

 硫化サマリウムSmSは、「中間価数(価数揺動)状態」を取る珍しい物質として、半世紀にわたって研究者たちを魅了しています。SmSは常圧で半導体ですが、圧力をかけると2 GPa以上で金属へ変化したのち磁気秩序を示す(磁石の一種になる)ことが2000年代に報告されましたが、どんな種類の磁気秩序であるかは分かっていませんでした。他にも、SmSで見られる半導体-金属転移と非磁性—磁性転移のメカニズムや、「中間価数状態」とこれらの転移との関係は、謎に包まれたままです。

 そこで、私たちは核磁気共鳴(NMR)が可能な同位体である33Sを約98%に置換した試料を用いることで、初めてSmSの33S-NMR測定に成功しました。その結果、非磁性-磁性転移が一次転移的であるものの、圧力印加とともにその一次転移性が弱まること、および未解明であった磁気秩序構造を初めて明らかにしました。詳細は、こちら

 黒リンは、P原子からなるハニカム格子ハチの巣構造をひだ状に折り畳んだ単原子層が積み重なった構造を持つ半導体です。そのバンドギャップは圧力を印加することで減少し、約1.2 GPa(~1.2 万気圧)で半金属へと相転移が起こります。最近、この半金属相の黒リンが「質量ゼロの粒子として振る舞うディラック電子」であると報告され、トポロジカル物質としての新たな観点からも注目を集めています

 私たちは、半導体から半金属への相転移をともなう電子状態の圧力変化を明らかにすることを目的として、黒リンに対して初めて系統的な核磁気共鳴(NMR)測定を行いました。 半導体相の測定は骨の折れる測定でしたが、本論文の筆頭著者である藤井君の根気強いがんばりにより電子状態の圧力変化の全貌が明らかになりつつあります。詳細は、こちら

 価数揺動物質であるYbPdは、立方晶CsCl型の単純で高い対称性の結晶構造にもかかわらず Tm = 1.9 Kにおける磁気秩序の他、Ta = 105 K、Tb = 125 Kで相次いで相転移を示します。現在、Ta、Tbで立方晶から正方晶への構造相転移とYbイオンの価数の秩序化が起こることが提唱されていますが、これらの相転移の詳細な機構は分かっていません。

 これらの相転移のメカニズムを明らかにするために、私たちはPd-NMRを用いて核スピンー格子緩和率 (1/T1)の温度依存性測定を行いました。その結果、Ta以下でフェルミ準位の状態密度が約70 %も減少することと、Taへ向かってYbイオンの価数が高速で揺らいで (変動して)いる状態からだんだんゆっくりとした揺らぎになり、 Taで価数が秩序する (止まる)「価数秩序」の過程を観測しました。 詳細は、こちら


典型的な中間価数化合物であり、近藤半導体として知られるSmB6に対して、SPring-8においてX線吸収分光測定からSm価数を調べました。Sm価数が2つの対照的な成分から構成されており、一方は近藤的な低エネルギー電子相関と関連し、もう一方は高エネルギー領域での価数ゆらぎと関連していることを明らかにしました。 

本研究はJASRI、広島大学、Slovak Academy of Sciences、大阪大学、茨城大学との共同研究です。この結果は、Physical Review B誌のRapid Communicationsとして掲載されています。 Preprintはこちら。 

固体物理学における長年の未解決問題のひとつに、異方的超伝導を示す重い電子系超伝導体であるウラン化合物URu2Si2の「隠れた秩序」状態 が知られています。 

本研究では29Si-NMR 測定を行い、URu2Si2が温度が下がるにつれて高温での局在的な振る舞いから遍歴的な状態へクロスオーバーし、このクロスオーバ領域で「隠れた秩序」が生じることを明らかにしました。 

本研究は島根大学との共同研究で、Physical Review B誌に掲載されています。