YbPdにおける構造相転移と

価数秩序下での潜在的な低エネルギー価数揺らぎの発達

 (2019年2月)

YbPdにおける構造相転移と価数秩序下での潜在的な低エネルギー価数揺らぎの発達 (2019年2月)

 価数揺動物質であるYbPdは、立方晶CsCl型の単純で高い対称性の結晶構造にもかかわらず Tm = 1.9 Kでの磁気秩序のほかに、Ta = 105 K、Tb = 125 Kで相次いで相転移を示します[1]。現在、Ta、Tbで立方晶から正方晶への構造相転移とYbイオンの価数の秩序化が起こることが提唱されていますが、これらの相転移の詳細な機構は分かっていません[2, 3]。

 そこで、私たちはPd-NMRを用いて核スピンー格子緩和率 (1/T1)の温度依存性測定を行いました(図)。その結果、2つの重要な振る舞いを明らかにしました。一つは、1/T1Tが高温側 (160 〜 260 K)と低温側 (Ta以下)で一定値をとることです。これは、Ta以下でフェルミ準位の状態密度が約70 %も減少することを意味しており、例えばバンド・ヤーン-テラー効果による系のエネルギーを下げようとする働きによってよく説明できます。もう一つは、Taへ向かう1/T1Tの発散です。この発散は、Ybイオンの価数が高速で揺らいで (変動して)いる状態からだんだんゆっくりとした揺らぎになり、 Taで価数が秩序する (止まる)、「価数秩序」の過程を観測したと考えられます。このようなYbイオンの価数の揺らぎを、磁気揺らぎを通じて観測したのは、私たちの知る限り本研究が初めての観測例です。 私たちは以上の結果から、上記の2つの効果が協力的に働くことで、価数秩序をともなった構造相転移がTaで起こることを提唱しました。

  本研究は、九州大学と東北大学 金属材料研究所との共同研究です。 


[1] R. Pott et al., Phys. Rev. Lett. 54, 481 (1985).[2] A. Mitsuda et al., J. Phys. Soc. Jpn. 82, 084712 (2013).[3] R. Takahashi et al., Phys. Rev. B 88, 054109 (2013).

文献情報

R. Nakanishi, T. Fujii, Y. Nakai, K. Ueda, M. Hirata, K. Oyama, A. Mitsuda, H. Wada, T. Mito

Evidence for gradual evolution of low-energy fluctuations underlying the first-order structural and valence order in YbPd

arXiv:1902.06367