白金ナノ粒子金属-非金属転移の観測

 (20222月)

図1:ナノ粒子化とエネルギー準位

図2:白金ナノ粒子における1/T1Tの温度依存性

 「金属の大きさを小さくしていくと、いずれは金属性を失う」という予言は1960年代よりなされてきました[1]。金属に対する自由電子モデルによると、フェルミエネルギーEFでの状態密度D(EF )は、電子の総数をNとして、D(EF ) = 3N/2EFで与えられます。このとき、電子のエネルギー準位の平均間隔δは1/{D(EF )}で見積もられますから、δ= 2EF/3Nとなります。従って、粒子サイズを小さくすると、電子密度で決まるEFはさほど変化しないのに対し、Nの変化は膨大ですから、離散的なエネルギー準位が顕在化します(図1)。この「量子サイズ効果」は、ナノサイズ領域で観測されると期待され、文献[1]の報告以来、様々な研究がなされてきましたが、意外にも量子サイズ効果の明瞭な観測と機構の詳細は明らかになっていません。その原因は、均質なナノ粒子を作製することの難しさと、その金属性を調べる観測技術が十分ではなかったことによると思われます。 

 近年、化学法によるナノ粒子生成技術が進歩し、特に金属ナノ粒子表面を保護剤分子でコーティング制御する手法により、均質で安定した試料を比較的多く生成することが可能になりました。また、非接触的手法によってD(EF )に直接関係する測定量が得られるNMR測定は、近年では長時間測定も可能になり、これまでは難しかった測定領域(具体的には、半導体・非金属や信号強度が微弱な試料)をカバーできるようになってきました。

 本研究では、チオールを保護剤とした3種類の白金(Pt)ナノ粒子(平均粒径: 2.1、2.5、2.8 nm)について195Pt-NMR測定を行い、NMR測定では初めて明確な金属-非金属転移が観測されました。図2は、3種類の平均粒径を持つPtナノ粒子について測定した1/T1T1/T1は核スピン-格子緩和率)の温度依存性である。1/T1T{D(EF )}^2に比例する量として知られ、金属-非金属転移を調べるには打ってつけの測定量です。バルクPt(黒点線)のように温度に対してほぼ一定値を示すのが金属特有の振舞いであり、2.8 nm試料ではD(EF )がバルクの約50%程度に減少しますが、金属的な振る舞いは維持されます。しかし、2.1 nm試料は粒径が2.8 nmの3/4になっただけで、100 K以下のD(EF )が3桁近く減少し、劇的な非金属化が観測されたことは驚きです。また、1/T1Tは150 K以上で急激な上昇を示すことが分かり、これは単一のエネルギーギャップモデルで再現されることから(図2実線)、エネルギー準位の離散化が顕在化したと考えられます。ナノ粒子の性質は、少なからず保護剤の影響を受けると考えられますので、今後は、チオール以外で保護剤制御されたPtナノ粒子との比較が有効だと考えています。

本研究は、八尾浩史氏(現三重大学工学研究科教授、元本学機能性物質学I所属)、細胞構造学の宮澤教授、西野助教との共同研究です。

[1] Kubo, J. Phys. Soc. Jpn. 17, 975 (1962). 

文献情報

Takuto Fujii, Kaita Iwamoto, Yusuke Nakai, Taisuke Shiratsu, Hiroshi Yao, Koichi Ueda, and Takeshi Mito 

"NMR evidence for energy gap opening in thiol-capped platinum nanoparticles"

Phys. Rev. B 105, L121401 (2022)