CeB6における新たな電子状態

 (20232月)

図1:CeB6のT > T_Q、T < T_Qでの構造と11B-NQRスペクトルの温度依存性

 多くの固体物性を担う電子がどのような相を形成するかは、電子の持つ自由度に依存します。電子は、スピン・価数・軌道の自由度を持ちますが、そのうち軌道の揺らぎや秩序の観測は一般的に他に比べて困難です。Ceが4f1電子配置を有するCeB6は、この軌道の自由度に起因した電気四極子秩序と呼ばれる相を示す代表的な物質であり、その秩序構造は、主として磁場中での実験結果[1, 2]をもとに理論的な考察[3]がなされ、Oxy型の反強的な構造(図3参照)であるとほぼ確定されています。これによると、秩序温度TQ= 3.3 K以上では結晶学的には全て等価だったBサイトが、TQ以下では非等価なBI、BII、BIIIに分裂するはずです。しかし、この結晶変位は放射光設備を用いた高精度X線回折測定でも観測できていませんでした。

 私達が目指したのは、この対称性変化を11B核のNQR測定で検出することです。NQRは、観測核の電荷とその周囲の電荷とのクーロン相互作用に基づく共鳴現象であり、4f電子の電荷分布が変化すれば、周囲に配する原子の核との相互作用(正確には核四重極相互作用)に変化が生じて、CeB6の四極子秩序相ではBI~BIIIに対応する3つの11B-NQR信号が観測されると期待されます。ただ、この共鳴周波数は通常のNQR測定より1桁以上低く、おそらくこの難しい測定に挑戦した研究グループは私達以外にはいないのではないと思われます。私達は、7年の歳月をかけてその観測に成功し、NQRスペクトルがTQ以下で明瞭なシフトを示すも、全く分裂の兆しを示さないことを明らかにしました。この結果は、長年に渡る研究の末にOxy型の反強四極子構造と信じられてきたCeB6の四極子相が、ゼロ磁場下では異なる可能性を示唆しています。本論文では、実験結果を説明する2つの新たな秩序状態の可能性について議論しています。今後は、多角的な視野を持つ研究が必要であり、まずゼロ磁場近傍での極低磁場下におけるNMR測定を行っていく計画です。

 本研究は、茨木大学の伊賀先生、神戸大学播磨先生との共同研究です。 

[1] Effantin et al., J. Magn. Magn. Mater. 47–48, 145 (1985).

[2] Takigawa et al., J. Phys. Soc. Jpn. 52, 728 (1983).

[3] Shiina et al., J. Phys. Soc. Jpn. 67, 941 (1998).

文献情報

Takeshi Mito, Hiroki Mori, Keisuke Miyamoto, Taichi Tanaka, Yusuke Nakai, Koichi Ueda, Fumitoshi Iga, and Hisatomo Harima

"Symmetry Analysis of Zero-Field Antiferroquadrupole Order in CeB6: Extremely Low-Frequency 11B-NQR Study "

J. Phys. Soc. Jpn. 92, 034702 (2023