お気軽にご連絡ください
2023年4月に競泳競技規則が改定されました。その内容をいくつかご紹介しながら、興味深く感じたところを書き綴ります。変更点を網羅しておりませんし、解説でもありません。審判や競技に出場の際には、最新の公式情報を確認してください。今回記載の項目は、日本水泳連盟と日本マスターズ水泳協会で共通の文言です。
ダイジェスト
国際水泳連盟(FINA)が世界水泳連盟(WORLD AQUATICS)に改称
背泳ぎのゴール時に水没してもよい、平泳ぎ「左右対称」を削除、個人メドレーの自由形はうつぶせ状態まではキック不可
ウェアラブル(自動データ収集装置)の着用を条件付きで解禁
感想
国際水泳連盟 (FINA: Federation International de Natation)の名称が、世界水泳連盟(WORLD AQUATICS)に変わりました。そして、日本版の競泳競技規則のもとになっているのは、世界水泳連盟競技会規程(WORLD AQUATICS COMPETITION REGULATION)のⅠならびにⅡだそうです。
Ⅰ Rules Applicable to all Aquatics Disciplines(全水泳競技共通規則)/ Ⅱ Swimming Rules(競泳競技規則)
ウィキペディアによると、WORLD AQUATICSの略称は”WA(世界水連)”とのことですが出典は不明です。2023福岡の世界水泳が、新ブランドとして初の選手権になるそうです。エンブレムにも ”WORLD AQUATICS” とあります。大会正式名称と共に変更されました。詳しくは https://www.fina-fukuoka2022.org/ こちらのURLは"fina"で”2022”すね。
ゴール直前、頭の一部が5mのマークを過ぎれば、ゴールタッチ時に身体が完全に水没してもよい。
フィニッシュ時にリカバリーから入水で手を強く振り込み、その勢いを利用して潜り、ワンキック入れてタッチする、といったイメージが浮かびます。
ところで、残り5mって、トップスイマーにとっては「ゴール直前」かもしれませんが、そうでもないスイマーにとっては、それなりに泳ぎがいのある距離です。「ゴール直前」と「頭の一部が5mのマークを過ぎれば」は同じ意味合いとして、並列に記載しているのでしょうか?それとも、6-7mすら「ゴール直前」と見えるような超ビッグな選手を想定して「それでも5mマークは過ぎなければダメ」という、より厳しい条件を付加しているのでしょうか?
それによって次の「ゴールタッチ時に」の解釈が変わる気がします。「頭が5mを過ぎた、つまりゴール直前の、次の動作は、もうゴールタッチ時だよね」なら、5mを過ぎれば水没してドルフィン3回か4回(もしくは5回か6回)打っても良さそうです。ですが「『5m』は前提であって、ゴールタッチ動作の、正にその時にだけ水没オッケー」なら、ドルフィンの蹴り上げ1回くらいしか許されなさそうです。
世界水連の規程は、”…once some part of the head of the swimmer has passed the 5 metres mark immediately prior to reaching for the finish, the swimmer may be completely submerged. ”でした。水没(submerged)しても良いのは、頭が5mマークを過ぎていること(has passed the 5 metres mark)のところに、問題の表現”immediately prior to reaching for the finish”がありました。ちょっと不自然ですが直訳すると「フィニッシュに到達するすぐ前」といった意味です。
「すぐ前」は何処にかかっているのでしょう?「フィニッシュ直前に、水没して良いよ」ではなく、「フィニッシュすぐ前の5mマークを過ぎたら水没して良いよ」のようにも読めます。なんでわざわざ5mマークを特定する文言が入っているのかというのは、5mマークが2つあるからじゃないでしょうか。ひとつはもちろん泳者にとって残り5mの位置、もうひとつは泳者にとって残り45mの位置です。
両腕の動作は、同時に(左右対称に)行わなければならず、交互に動かしてはならない。
平泳ぎは左右対称でなくても良くなったそうです。そもそもが、世界の規程の”on the horizontal plane(同水平面上に)”の誤訳だったともいわれています。この変更で、例えば「スキーで肩を痛めて右肩の可動域が戻らず、左手の様な大きなストロークができない…」というような状態でも平泳ぎにエントリーできますね。左右対称に泳げる選手にとってこの改定がメリットになるシーンを考えると、タッチ直前にターンに入りやすいように左右非対称の動作をすることで流れるようなターンに入るとかでしょうか。
自由形の際に壁から足が離れたときはあおむけの状態であってもよいが、うつぶせの状態になるまでは、バタフライの蹴りも含めていかなる足の蹴りも行ってはならない。
最初に「個人メドレーでは、競技者は次の順序によって泳がなければならない。(1)バタフライ(2)背泳ぎ(3)平泳ぎ(4)自由形」とありますので、4泳法目の自由形についての規則です。続けて「それぞれの種目を、定められた距離の4分の1ずつ泳がなければならない。」とあります。
ターン後のあおむけキックが、だれが判断しても「背泳ぎ」ならば、今までの文言だけで違反になりそうですが、実際のレースでは判定が統一されていなかったので、改めて「ターン後のあおむけキックはダメ」が明文化されたようですね。「バタフライの蹴りも含めて」はあらためて言う必要はないように思えますが、この改定のきっかけになった選手の泳ぎを意識しているのでしょうか。
データを収集する目的でのみ、機材や自動データ収集装置を着用することが認められる。自動データ収集装置を泳者にデータや音または信号を送る目的で使用してはならないし、泳者の速力を向上させる目的に使用してはならない。
着用できる自動データ収集装置、いわゆるウェアラブルが解禁されました。ただ、着用して泳いでいる選手に情報を送ったり、速く泳げるように助けたりする目的で使ってはダメです。ん?では「そんな目的じゃなかった」と言い張れば何でもあり?「ストロークのピッチで音が鳴ってしまって、結果的にすごく早く泳げたけど、目的はデータ収集でした」と言えば…。
国際大会でもそうなのか、世界水連の規程も見てみました。The use of technology and automated data collection devices is permissible for the sole purpose of collecting data. こちらもデータをコレクションするパーパス(目的)なら使っても良いそうです。ただ、Automated devices shall not be utilised to transmit data, sounds, or signals to the swimmer and may not be used to aid their speed.とありますように、目的が何であれ情報を送ったりスピードを補助したりしてはいけないようです。厳格に解釈すればディスプレイに時計が表示できたらダメですから、国際大会では市販のスマートウォッチすら使えなさそうですね。
ルールの改定によってレースの公平性が確保されるのは素晴らしいことですね。大会によって、もしくは審判によって、失格になったりならなかったり、そんなことが無くなると安心です。ただ新規則に、失格かどうかの境界線がよく分からない表現があったことは少し残念です。もとを確認しようと世界水泳連盟の規程を読めば、今度は境界線どころの問題ではなく、内容が違うようにとらえられる箇所も…。
ルールは、いたずらに失格者をつくりだすために定めるものではないと思います。ましてや、審判が知識をひけらかすために「厳格」を超えた判定をするのはもってのほかです。選手も、審判も、観客も、誰もが理解できて納得できるルールで、公正な試合ができれば、とっても良いですね。