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はじめて自分の泳ぎを映像で見たとき「これは自分じゃない」なんて思いませんでしたか?自身の感覚と実際のフォームがかけ離れているというのは、水泳あるあるのひとつかもしれませんね。
ただ最近では、スマホなどで簡単に動画を撮影できるようになりましたので、普段コーチが見ている泳ぎを、選手自身も、同じ目線で確認でき、フォームの課題を共有することが容易になってきました。
画像データを利用する以前から、泳ぎを客観的にとらえるために、様々な情報がデータ化されてきました。「ストップウォッチでタイムを計る」のは最も基礎的なデータ化ですし、計測された「ベストタイム」は競泳選手やコーチにとって最も重要なデータかと思います。
競技結果の他にも、水泳には色々な情報が登場します。練習タイム、ストローク数、脈拍などなど。それらの情報は、水泳指導の現場で、所属スイマーの泳ぎを理解し、改善するのに役立っています。
大学などの研究機関では、さらに高度な計測機器でデータを取り、水泳の研究をしているそうです。スイマーの周りの水の流れを立体的に見ることができるという驚きの技術もあるみたいです。今まで、[こう泳いでいる]→[速い]だったものが、[こう泳いでいる]→そうしたら[水はこう流れる]→だから[速い]になれば、「じゃあもっとこうすれば…」を導く手助けになるかもしれません。
驚きといえば「クロールはキックを打たない方が速い」と、テレビなど幅広いメディアで話題になったことがありました。これは、スイマーに働く抵抗に関する研究で「クロールのキック動作が抵抗になる可能性がある」というポイントが曲解され報道されてしまったようです。研究室から出される論文は、ちゃんと用語の定義や前提条件を読まなきゃいけませんね。
ところで、コーチや選手自身による泳ぎの分析と研究者による泳ぎの研究は、どのあたりが違うのでしょう?そもそも「研究」って何でしょう?
研究にも、小学生の自由研究からの研究機関の研究まで様々あります。広い意味での「研究」を、私はこんな風に考えています。
研究とは、「きっとこうじゃないかな?」と思うことを、よく見て、考えて、実験したりして「やっぱりこうだ!」そして「なんどやってもこうなる!」にしていく過程だと思います。
実際のスイマーの泳ぎは、筋肉や、その日の気分や、食べた物など、色々な要素が影響して速かったり上手だったりします。泳ぎをただそのまま眺めていてもよく分からないので、ひとつだけ分析するところを決めて、そこに法則を見つけて、そういった研究を積み重ねて「水泳理論」ができるのだと思います。
では、理論とはちょっと言い切れない、科学的な解析の手法でない、「試合の体験談」や「フォーム論争」、「指導の経験則」は何と呼べば良いでしょう?理屈が通っていて納得できるお話もいっぱいあります。
ここでは「水泳理論」と混同しないように、「水泳論」としておきましょう。
動画共有サービスの登場など、情報の発信も手軽になったこともあり、多くの水泳に関する情報を入手できるようになりました。そこには客観的な水泳理論も主観的な水泳論も混在しています。
なにが正解か、どれが役立つ情報かを拙速に判断するのではなく、まず、その情報がどのような性質のものかを見極め、活用することが求められているのではないでしょうか。
【参考リンク】
キック泳で推進するカギは足裏の渦にあった ~スイマーの周りの水の流れの立体的可視化に初めて成功~
https://www.tsukuba.ac.jp/journal/images/pdf/190709takagi-1.pdf
クロール泳中のスイマーに働く抵抗に関する新たな知見 ―独自開発した抵抗測定方法により、速く泳ぐための鍵にせまる―
https://www.tsukuba.ac.jp/journal/images/pdf/180629takagi-1.pdf