従来、新卒採用や転職においては、求人メディアへの掲載で採用実績を上げることができました。しかし、近年、若年層の人口減少、競合他社の活性化、採用メディアの多様化により、採用戦略はますます複雑化しています。そんな中、オウンドメディアの価値はどのように変化しているのかを考えます。
従来のオウンドメディアは、商品やサービス、企業情報を伝える場所としての役割が主でした。企業がパートナーと連携する際、信用や実績があるかどうか、企業の商品やサービスにどんな特徴や強みがあるか、といった情報が中心です。採用サイトや専用ページが作られる際は後付けになることが多く、募集要項に記載されるのは、職種、仕事内容、勤務地、給与、福利厚生など最低限の情報のみで、他の詳細情報が不足している傾向があります。さらに、他の求人メディアに採用ページを作り、そちらへ誘導するケースもよく見られます。
従来のオウンドメディアは、企業向けの情報発信が主な役割であったため、採用マーケティングに活かすのは難しいです。その理由として、就活生や転職活動者がオウンドメディアに訪れても、対企業向けのページを閲覧・回遊するため、情報が混ざってしまうことが挙げられます。また、仮に採用ページがあったとしても、そのページのみでは分析に必要な情報が少なすぎますし、他の求人メディアへ誘導すればデータが蓄積できません。結果として、求人メディアに依存せざるを得ない状態が続き、採用マーケティングに十分に活かしきれない環境での運用が行われています。
従来のオウンドメディアの役割を対企業向けだけでなく、就活生や中途採用者向けにも拡大させることが、中長期的には有効です。これまでのように、採用サイトを後付けで作成し、情報が少なく、他の求人メディアへ誘導するスタイルはやめましょう。そして、就活生や中途採用者向けの専用ページをオウンドメディア内に設け、そこに充実したコンテンツを掲載します。
さらに、インターンシップや新規求人掲載などのイベントが発生した際には、他の媒体で露出を図りつつ、最終的にはオウンドメディアを利用するように導線設計を行います。また、利用状況を把握するために、GoogleアナリティクスやマイクロソフトClarityなどの分析ツールを導入し、コンテンツを分析しながら改善を図りましょう。最初は少ないデータでも、蓄積していくことで採用マーケティングに活かせる分析が可能になります。これを数年続けることで、効果的な採用マーケティングの基盤を構築できるでしょう。
オウンドメディアにリソースを割くことで、求人メディアに割くリソースは減少しますが、完全に利用をやめるわけではありません。採用したい人材に応じて、求人メディアを選ぶという戦略に変化します。例えば、総合職の募集ならA社、新卒採用ならB社、中途採用ならC社、といった具合です。これまでと同じように見えますが、実際には求人メディアでリーチを獲得し、オウンドメディアで情報収集を終え、最終的にオウンドメディアからエントリーを頂くように誘導します。このアプローチを取る理由は、オウンドメディア経由でエントリーを得ることでデータを蓄積を狙っています。
SNS採用においては、オウンドメディアに掲載されている情報を元に、SNS向けに加工したコンテンツを投稿するイメージです。一次情報はすべてオウンドメディアに集約し、Instagram、X(旧Twitter)、TikTokにはその情報を加工して掲載していきます。一次情報が豊富にあれば、投稿のネタ切れが起こりにくくなります。また、SNS採用が一定の効果を示す場合には、注力するのも良いでしょう。
従来のオウンドメディアは主に対企業向けの情報発信が中心でしたが、今後は採用マーケティングのコアな部分を担う役割を果たすように進化させる必要があります。就活生や転職者のための専用ページを設け、オウンドメディアをハブや最終到達地点とする導線設計を考えましょう。就活生や転職者の行動データを蓄積できるようになれば、それを基にコンテンツを改善し、採用マーケティングに活かすことが可能です。短期的には求人メディアへのリソースが減るかもしれませんが、長期的にはオウンドメディアで応募を集めることで、求人メディアへの広告費を抑えられるようになるでしょう。
プロフィール
フリーのウェブマーケティングディレクター
愛知県一宮市に在住。ウエブ広告やSNSの運用代行・アクセス解析で企業の成長を支援。
中小企業様の成長をサポートしたい!そんな想いで活動中。元大手求人サイトで培った経験と実績を活かし、伴走型で企業支援します。